平成29年に発生した「東名高速夫婦死亡事故」をきっかけに、悪質な「あおり運転」に厳罰を求める声が高まりました。
警察庁はあらゆる法令を駆使して検挙・撲滅を目指しましたが、その後もあおり運転による事故やトラブルは絶えません。その背景には、あおり運転を直接取り締まることができる法令・規定が存在していなかった点が大きく関係していました。
このような状況のなか、令和2年6月には道路交通法の一部を改正する法律によって「妨害運転罪」が新設されました。妨害運転罪によって厳しい刑罰が科せられるだけでなく、運転免許の取り消しの行政処分を受けることもあります。
このコラムでは、新設された「妨害運転罪」の概要や罰則、行政処分の内容などについて解説します。
1、あおり運転を規制する法律
あおり運転については、これまで、すでに禁止されている個々の道路交通法違反や刑法の暴行罪を適用することで規制されてきました。
令和2年6月に新設された「妨害運転罪」は、これまでは存在しなかった「あおり運転を直接取り締まることができる法律」としてその効果が期待されています。
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(1)妨害運転罪が新設された背景
あおり運転を原因とした事件が頻発するなかで、従来の道路交通法では、個々の道路交通法違反や刑法の暴行罪を適用するという方向で取り締まりが進められてきました。ところが、従来の道路交通法違反では罰則が非常に軽微であり、また、暴行罪の適用も容易ではないというハードルがありました。
さらに、ドライバーが死傷してしまう重大な事故については「危険運転致死傷罪」を適用するという方法もありましたが、こちらも危険運転が適用されるためのハードルが高く、あおり運転の取り締まりに大きな効果があったとはいえません。
そこで、令和2年6月の道路交通法の一部改正によって、新たにあおり運転を取り締まりの対象とする「妨害運転罪」が新設されたのです。 -
(2)妨害運転罪によって罰せられる行為
妨害運転罪は、次の要件に合致する10類型の違反に適用されます。
- ほかの車両などの通行を妨害する目的がある
- ほかの車両などに道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法である
【10類型の違反】
- 通行区分違反
- 急ブレーキ禁止違反
- 車間距離不保持
- 進路変更禁止違反
- 追い越し違反
- 減光等義務違反
- 警音器使用制限違反
- 安全運転義務違反
- 高速道路における最低速度違反
- 高速道路における駐停車違反
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(3)妨害運転罪の罰則
妨害運転罪が適用された場合は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。また、刑事罰のほかにも、運転免許の違反点数が25点加算されるので、まったく違反がない状態からでも一発で免許取り消しとなるうえに、2年間の欠格期間が設けられています。
加えて、高速道路などにおいて妨害運転を犯し、さらにほかの車両を停止させて道路上で著しい交通の危険を生じさせた場合は、5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。違反点数は35点、免許取り消しのうえで3年間の欠格期間が設けられています。
高速道路上での停止や著しい低速走行は、自動車運転処罰法の改正を受けて「危険運転」となり、ほかのドライバーを負傷させれば15年以下の懲役、死亡させれば1年以上の有期懲役が科せられることになった点にも注意が必要でしょう。
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2、あおり運転の定義は?どんな行為があおり運転とされる?
新たに妨害運転罪の対象となったあおり運転行為について、具体的にどのような運転が処罰の対象となるのかをみていきましょう。
ここで挙げるのはあおり運転の典型例です。これらの危険な妨害運転をすれば、事故に発展しなかったケースでも「交通の危険を生じさせるおそれのある方法」として逮捕され、懲役・罰金といった刑罰に加えて、免許取り消しなどの行政処分を受ける可能性があります。
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(1)車間距離を詰める
前方の車両を威嚇する目的で車間距離を詰める行為は、あおり運転の典型例です。10類型のうち「車間距離不保持」にあたるため、妨害運転罪が適用されます。
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(2)幅寄せをする
隣の車線から接触寸前まで幅寄せをするといった行為も、従来みられるあおり運転の典型例でしょう。幅寄せについては、初心運転者標識や高齢運転者標識などへの故意による幅寄せが禁止されていましたが、妨害運転罪では「安全運転義務違反」にあたります。
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(3)ハイビームやクラクションの乱用
あおり運転では、威嚇のためにハイビームやクラクションを乱用するケースも目立ちますが、従来の道路交通法でもこれらの乱用は禁止されていました。妨害運転罪では、執拗(しつよう)なハイビームの継続が「減光等義務違反」に、不必要なクラクションの反復が「警音器使用制限違反」にあたります。
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(4)蛇行運転
ほかの車両を妨害する目的で左右の車線を移動する蛇行運転は、妨害運転罪の「進路変更禁止違反」にあたります。また、前方車両の左側から追い越しをかけた場合や無理な追い越しは「追い越し違反」にも該当します。
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(5)つきまとい運転
「追い越されたことに腹を立てた」などの理由で相手の車両の前後左右をつきまとう運転は、複数の違反行為にあたる可能性があります。車間距離不保持・進路変更禁止・追い越し禁止などのほか、相手車両の前方で急な加減速を繰り返すような運転は安全運転義務違反にも該当するでしょう。
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3、「あおられ運転」とは?あおり運転以外に注意すべき行為
あおり運転による危険が注目される一方で「あおられ運転」と呼ばれる行為にも注目が集まっています。あおり運転が前方や周囲の車両を「あおる」行為であることに対し、著しい低速走行や急ブレーキなどによって進路を妨害する行為は「あおられ運転」や「逆あおり運転」という俗称で呼ばれています。
道路交通法第27条は、ほかの車両に追いつかれた車両の義務として次のように定めています。
- 後続の車両に追いつかれた車両は、後続の車両が追い越しを終わるまで加速してはならない
- 車両通行帯のない道路で後続の車両に追いつかれた車両は、できる限り左側に寄って進路を譲らなければならない
つまり、後続車に追いつかれた車両は危険のない方法で進路を譲らなければなりません。高速道路で追い越し車線を走行し続ける行為や、一般道路でも後続車両を妨害する目的で急ブレーキをかけたり、3車線以上ある一般道路で追い越し車線に居座ったりすれば、妨害運転罪が適用される可能性があります。
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4、あおり運転で捕まったらすぐに弁護士に相談すべき理由
妨害運転罪の容疑で警察に逮捕されてしまった場合は、直ちに弁護士に相談しましょう。
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(1)不起訴処分や刑の減軽を目指すため
あおり運転には厳しい刑罰だけでなく免許取り消しという重い行政処分が待ち構えています。無用に重たい刑罰・処分が下されてしまう事態を避けるためには、十分に反省していることを示す必要があります。とはいえ、警察官・検察官による取り調べにおいて「反省している」と主張するだけでは認めてもらえません。
弁護士のサポートを受ければ、危険を生じさせるおそれがあったことは認めて反省しつつも、故意のあおり運転ではなかったことを主張して、不起訴処分や刑の減軽を目指す等の対応が考えられます。 -
(2)被害者との示談交渉を進めるため
妨害運転罪の立証には、あおり運転を受けた被害者が語る被害状況が重要な証拠となります。弁護士に依頼して被害者との示談交渉が成立すれば、被害者からは厳罰を求めないという宥恕(ゆうじょ)を得られる可能性もあります。
被害者との間に示談が成立していることで、検察官が起訴に踏み切る事態の回避や、厳しい刑罰・処分を避けられることもあります。
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5、まとめ
危険な「あおり運転」を取り締まるために「妨害運転罪」が新設されたことによって、ささいな交通トラブルから刑事事件へと発展してしまうおそれが高まりました。道路運転における犯罪であるため、特に悪意がなくてもハンドルを握る限り誰もが妨害運転罪の被疑者となってしまう可能性があります。
妨害運転罪には厳しい罰則と重い処分が科せられます。あおり運転が妨害運転罪とみなされて警察に通報されてしまった場合は、直ちにベリーベスト法律事務所へご相談ください。交通事件の弁護実績を豊富にもつ弁護士が、不起訴処分や執行猶予、刑の減軽を目指して全力でサポートします。
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