- その他
- 私文書偽造罪
私文書偽造罪とは? 罪の重さや該当する行為をわかりやすく解説
他人を装って契約書や請求書などの文書を偽造すると「私文書偽造罪」に問われます。
令和3年12月には、親戚の女性になりすまして請求書を偽造し、保険会社から養老保険のすえ置き金をだまし取った夫婦が逮捕されました。
本コラムでは、私文書偽造罪が成立するための構成要件や、類似する罪、私文書偽造の例などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、私文書偽造罪とは?
私文書偽造罪とはどのような犯罪なのでしょうか?
-
(1)「私文書」とは?
「私文書」とは、公的な立場にない一般の私人が作成した書類で、権利、義務または事実証明に関する文書または図画をいいます。民間人はもちろん、人格が与えられているので法人が作成する文書も私文書に含まれます。履歴書・契約書・証明書などは、すべて私文書です。
-
(2)私文書偽造罪の法的根拠と罰則
私文書偽造罪は、刑法第159条に定められた犯罪です。同条1項は「有印」の場合、3項は「無印」の場合を罰するため、それぞれ「有印私文書偽造罪」と「無印私文書偽造罪」と呼びます。
有印私文書偽造罪は、行使の目的をもって、他人の印章もしくは署名を使用し、権利や義務、事実の証明に関する文書・図画を偽造した者や、偽造した他人の印章や署名を使い、これらの文書・図画を偽造した者を罰する犯罪です。法定刑は3か月以上5年以下の懲役で、罰金などの規定はありません。
無印私文書偽造罪は、他人の印章・署名を使用せず、これらの文書・図画を偽造した者を罰します。法定刑は1年以下の懲役または10万円以下の罰金です。 -
(3)私文書変造罪との違い
同条2項・3項には「私文書変造罪」が規定されています。
権限のない者が文書において重要ではない部分に変更を加える行為を罰する犯罪です。重要部分でなければ「変造」にとどまり、重要部分に手を加えれば「偽造」になります。こちらも有印・無印の区別がありますが、法定刑は偽造と同じです。変造であれば偽造よりも罪が軽いというわけではありません。
2、文書偽造罪には「有印」と「無印」がある
私文書変造罪には「有印」と「無印」の区別があります。文書の作成名義人の印章・署名があるものを「有印」、ないものは「無印」です。
印章とは、はんこを押すことによって映された印鑑・印影を指します。実印に限らず、認め印や社判なども印章に含まれます。
署名とは、本来は自署のみを指す言葉ですが、印刷された記名も含むと解釈するのが通説です。署名欄・記名欄への記入にとらわれず、氏名・社名などの呼称を表記する行為が広く署名ととらえられます。
有印と無印が区別されているのは、文書中の印章・署名の有無が文書の信用性に影響を与えるからです。印章・署名がある有印のほうが信用性の高い文書として評価されるため、法定刑も有印私文書偽造罪のほうが重く定められています。
3、私文書偽造罪の構成要件
私文書偽造罪が成立する4つの構成要件を確認しましょう。
-
(1)行使の目的があること
他人に対して偽造した文書を「本物だ」と誤信させる目的があれば「行使の目的がある」と判断されます。実際に行使されたかどうかは問いません。
-
(2)他人の印章・署名を使用していること
ここでいう印章とは「人格の同一性をあらわす印」を指し、署名とは「氏名などを表記する行為」をいいます。これらは、文書の作成名義人でなければ使用できないものですが、作成名義人ではない者が無断で印章・署名を使用すると偽造になります。
-
(3)権利・義務・事実証明に関する文書や図画であること
「私文書」にあたるのは、権利・義務・事実証明に関する文書や図画です。
個人間や個人・法人の間で交わす契約書のように、特定の権利や義務の発生・変更・消滅を生じさせるものは「権利・義務に関する文書」にあたります。「事実証明に関する文書」とは、社会生活に交渉を有する事項を証明するに足りる文書をいいます。典型的なものとしては、郵便局に提出する転居届や私立大学の入試答案、履歴書などが挙げられます。
「図画」は「ずが」ではなく「とが」と読みます。一般的にイメージする絵画や写真などに限らず、意思・観念が象形的符号により表示されたものを指す法律用語です。つまり「文字を使わなければ文書偽造が成立しない」というわけではありません。イラストなどを用いた場合でも、権利・義務・事実証明に影響するものは私文書として保護されます。 -
(4)偽造行為があること
ここでいう「偽造」とは、真正な名義人とその文書の作成者の「人格の同一性を偽ること」を意味します。契約書に無断で他人のサインを書いた、勝手に判を押したといった行為があれば、相手はこれがまさか別人によるものだとは疑わないため、人格の同一性を偽ったことになります。
弁護士との電話相談が無料でできる
刑事事件緊急相談ダイヤル
- お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- 警察が未介入の事件のご相談は来所が必要です。
- 被害者からのご相談は有料となる場合があります。
4、私文書偽造罪にあたる行為
私文書偽造罪にあたる行為について、典型的な想定事例を挙げていきます。
-
(1)履歴書に偽名を使った
履歴書は、作成者本人の情報を他人に示す際に作成されるものです。すると、偽名を用いるなど架空の人物の履歴書の場合、履歴書に表示された名義人は作成者とは別人格であることは明らかなので、名義人と作成者との人格の同一性に齟齬(そご)を生じさせたといえ、私文書偽造罪が成立します。
-
(2)卒業証明書・資格取得証明書を偽造した
就職などの機会に優れた人材であることを示す目的で私立大学の卒業証明書や民間団体などが発行する資格取得証明書を偽造する行為も私文書偽造罪に問われます。これらは大学や団体など第三者が発行するものなので、無断で印章・署名を使用すると私文書偽造罪が成立するのは当然です。
-
(3)入学試験での替え玉受験
私文書偽造罪は真正な名義人に無断で印章・署名を使用すると成立する犯罪なので、原則として名義人の承諾があれば成立しません。ただし、入学試験の答案用紙は、その文書の性質上、「本人以外の者が作成することは許されない」ものなので、たとえ名義人からの依頼を受けた替え玉受験であっても偽造となります。私立大学の入学試験や民間団体などによる資格試験の替え玉受験は私文書偽造罪にあたる行為です。
-
(4)同姓同名の弁護士の肩書を利用して文書を作成した
偶然にも同姓同名の弁護士が存在したことから「◯◯弁護士会所属 弁護士△△△△」といった肩書部分だけを偽って文書を作成した場合、氏名部分には偽造がないようにみえます。しかし、文書に表示された名義人は実在する弁護士であり、弁護士資格を有しない作成者とは別人格のものであることは明らかなので、名義人と作成者との人格の同一性に齟齬(そご)を生じさせたといえ、私文書偽造罪が成立します。
-
(5)同一の領収書を多重発行した
取引先の経費水増しに協力して領収書を多重発行すると、私文書偽造罪が成立することがあります。領収書は税務上の信ぴょう書類にあたる信頼性の高いものであり、私文書であることは明らかです。
さらに、たとえ領収書を発行できる権限があったとしても、内容が事実とは異なる文書を作成すれば偽造となります。領収書が証明するのはある一度の支払いであり、同一の領収書が多重に発行されれば内容虚偽になるという理屈です。
5、公文書偽造罪との違いは?
私文書偽造罪と紛らわしいのが公文書偽造罪です。公文書偽造罪は刑法第155条に定められた犯罪で、行使の目的をもって、公務所もしくは公務員の印章・署名を使用し、これら権限のある者が作成すべき文書・図画を偽造した場合に成立します。国や都道府県・市区町村といった地方公共団体などの機関、あるいはこれに属する公務員が作成する文書が保護の対象です。
公文書の具体例としては、免許証、保険証、パスポート、住民票、戸籍謄本、印鑑証明書などがあります。
また、財産の被相続人が作った遺言書は、自筆であれば私文書ですが公証役場で作成してもらった場合は公文書になり、それを偽造すれば公文書偽造罪となります。ただし、公正証書遺言の原本は公証役場において厳格に保管されるため、偽造が加えられるおそれは低いでしょう。
公文書偽造罪も「有印」と「無印」に区別され、刑罰が異なります。有印公文書偽造であれば1年以上10年以下の懲役、無印公文書偽造は3年以下の懲役または20万円以下の罰金です。
6、類似する罪
私文書偽造罪に類似する罪を挙げていきましょう。
-
(1)詔書偽造罪
行使の目的で天皇文書を偽造すると、刑法第154条1項の詔書偽造罪が成立します。法定刑は無期または3年以上の懲役です。
文書偽造に関する罪のうちもっとも重い刑罰が規定されていますが、内閣総理大臣や最高裁判所長官の任命、憲法や法律の改正・交付、国会の召集や衆議院の解散などの権限に関する文書が対象となるため、個人が罪を問われることはまずないでしょう。 -
(2)虚偽公文書作成罪
たとえ公務員であっても、その職務に関し、行使の目的で虚偽の文書・図画を作成すれば刑法第156条の虚偽公文書作成罪に問われます。法定刑は、1年以上10年以下の懲役です。
-
(3)公正証書原本不実記載等罪(免状不実記載罪)
公務員に対して虚偽の申し立てをして、登記簿や戸籍簿などの権利もしくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせた場合は、刑法第157条1項の公正証書原本不実記載等罪に問われます。法定刑は5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
また、免状・鑑札・旅券に不実の記載をさせた場合は同条2項の免状不実記載罪となり、1年以下の懲役または20万円以下の罰金が科せられます。 -
(4)虚偽診断書作成罪
医師が公務所に提出すべき診断書・検案書・死亡証書に虚偽の記載をすると、刑法第160条の虚偽診断書作成罪となり、3年以下の禁錮または30万円以下の罰金が科せられます。
-
(5)有価証券偽造罪
行使の目的で公債証書・官庁の証券・会社の株券・そのほかの有価証券を偽造すると、刑法第162条の有価証券偽造罪が成立します。法定刑は3か月以上10年以下の懲役です。
7、私文書偽造罪を犯してしまったら弁護士へ相談を
私文書偽造罪を犯してしまった場合は、直ちに弁護士に相談してサポートを受けましょう。
警察による逮捕直後の72時間は家族との面会も認められません。このタイミングで取り調べに向けたアドバイスを提供できるのは弁護士だけです。弁護士は取り調べの際の黙秘権や話すべきことなどをアドバイスし、取り調べへの心構えと準備ができるようサポートすることができます。もちろん、その後に接見禁止がついた場合でも、弁護士は回数や時間の制限なく自由な面会が認められています。
また、犯罪の疑いをかけられた方にとって有利となる証拠を集めて捜査機関や裁判官にはたらきかければ、検察官が不起訴処分とする可能性を高めることも可能です。不起訴処分となった場合は、即日で釈放されます。素早い弁護活動によって早期釈放が実現すれば、社会生活への不利益は最小限に抑えられるでしょう。
たとえ検察官が起訴に踏み切った場合でも、弁護士は不当に重い罪に問われないよう活動できます。起訴が避けられない状況であっても、弁護士のサポートは必須です。弁護士による適切な弁護活動を行うことができれば、刑罰の軽減や執行猶予の獲得などにつながる可能性も高まります。
また、私文書の偽造において、特定の被害者がいる場合には被害者との示談交渉も不起訴処分の獲得や刑罰の軽減に向けて重要です。とはいえ示談交渉を被疑者やその家族が行うことは難しいため、弁護士に相談のうえ進めるようにしましょう。
私文書偽造罪を犯してしまい、警察から連絡を受けている、家族が逮捕された、といった状況の場合には弁護士に相談しましょう。早急かつ適切に対応することが、早期の身柄解放や不起訴獲得に向けて大切となります。
8、まとめ
「私文書」にあたる書類は多岐にわたるため、思いがけず私文書偽造罪を犯してしまうケースは少なくありません。しかし厳しい刑罰が定められているだけでなく逮捕の危険もあるので、早期の解決が必要です。
私文書偽造罪の疑いをかけられてお困りなら、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
当事務所では、元検事を中心とした刑事専門チームを組成しております。財産事件、性犯罪事件、暴力事件、少年事件など、刑事事件でお困りの場合はぜひご相談ください。
※本コラムは公開日当時の内容です。
刑事事件問題でお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所へお気軽にお問い合わせください。