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親族間の窃盗は親告罪? 前科を免れるために重要なこと
家族が親戚から金品を盗みトラブルになった際、どこかで聞いた「親族間の犯罪は告訴がなければ起訴されない」との情報が頭をよぎるかもしれません。
確かに法律では窃盗罪について、一定の関係性にある親族は告訴がなければ起訴されないと定め、親族間の窃盗について、いわゆる「親告罪」としています。
しかし、どこまでの範囲が親告罪となる親族にあたるのか、告訴されると必ず逮捕されてしまうのか、さまざまな疑問があるでしょう。今回は身内間で起きた窃盗事件を想定し、窃盗罪と親告罪の関係について解説します。
1、親告罪とは
親告罪とは、告訴がなければ公訴を提起(起訴)することができない罪をいいます。告訴がなければ起訴されず、刑事罰を受けることもありません。当然前科もつきません。
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(1)告訴と被害届の違い
「告訴(こくそ)」とは、被害者や法定代理人などの告訴権者が、捜査機関に対し、犯罪事実を申告し、加害者の処罰を求めることです。告訴状が受理されると、捜査機関は捜査を開始する義務があります。
他方、「被害届(ひがいとどけ)」とは、被害に遭った事実を捜査機関に申告する書面です。告訴との違いは、必ずしも加害者の処罰を求める意思を含むものではないことと、被害届が受理されても捜査機関に捜査を開始する義務までは生じない点にあります。 -
(2)親告罪はなぜあるのか
親族間の窃盗について親告罪が存在する理由としては、以下のように言われています。
- 当事者間で解決すれば国家の介入は不要
- 家族の問題は家庭内で解決するべき
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2、窃盗罪は親告罪ではないが、身内間の窃盗は親告罪
窃盗罪は本来、非親告罪です。しかし、被害者と加害者との間に一定の関係性がある場合に限り、親告罪となります。これを相対的親告罪と言います。
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(1)身内間の窃盗が親告罪である法的根拠
親族間の犯罪に関する特例を定めた刑法第244条では、次のように明文化しています。
- ① 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪またはこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
- ② 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
ここで示す「第235条の罪」とは、まさに窃盗罪のことを指しています。
①から分かることは、窃盗の相手が「配偶者、直系血族、同居の親族」であれば罰を受けないということです。同居の親族とは、一緒に暮らしている親族が該当します。ただし、一時的に寝泊まりしている場合は当てはまりません。
①に親告罪の規定はありませんが、親告罪であるか否かはそもそも問題になりません。裁判になっても刑事罰を科すことができないので、通常、検察官は起訴しません。起訴されないと分かっているので警察も逮捕しないということになります。
②からは、窃盗の相手が「配偶者、直系血族、同居の親族以外の親族」であれば親告罪となることが分かります。②の場合、告訴を条件として、起訴される可能性があるでしょう。 -
(2)親族の範囲
ここで気になるのが②における「規定する親族以外の親族」は誰なのかという点です。
親族の範囲は、民法第725条に従い「6親等内の血族」「配偶者」「3親等内の姻族」となります。この中で、「配偶者、直系血族、同居の親族」は①の適用となる家族となるため、除外されます。
つまり「規定する親族以外の親族」とは、たとえば、加害者からみて次のような関係性にあり、かつ同居していない人を指します。
- 叔父叔母や甥姪(3親等の血族)
- 従兄弟姉妹(4親等の血族)
- 配偶者の父母(1親等の姻族)
兄弟姉妹は親子同様に近い間柄ですが、直系ではありません。したがって、同居していなければ上記に該当します。前述のとおり、これらの人に対して行った窃盗は、国家権力の介入を適当としないために親告罪となっています。
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3、親告罪は、告訴されたあとでも告訴が取り消されれば起訴されない
刑事訴訟法第237条では「告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる」とあります。親告罪が適用される間柄で窃盗罪を犯し、さらに告訴された場合、告訴の取り消しを目指すことが大切です。
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(1)親告罪における告訴取り消しの重要性
窃盗罪で有罪になると「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されることになります。有罪になれば前科がつくことを意味しますので、今後の日常生活に影響をおよぼすおそれもあります。
しかし、親族に対する窃盗の容疑で告訴されたとしても、被害者側が「告訴の取り消し」を行えば捜査が打ち切られます。その後、同一の事件について、再び逮捕や起訴がされることもありませんし、前科もつきません。
他方、非親告罪であれば、告訴が取り消されたあとも起訴され有罪となる可能性がありますので、ここは大きく異なります。なお、告訴がいったん取り消されると、被害者があとになって「もう一度告訴したい」と考えたとしても告訴はできなくなります。 -
(2)告訴を取り消してもらう方法
告訴の取り消しは、原則として告訴した本人が行います。
被害者が未成年でも本人が告訴していれば同様に、本人に取り下げてもらいます。ただし、未成年の場合は両親が本人とは別に告訴しているケースがあります。その場合は、被害者本人と両親ともに取り消してもらわなければなりません。
取り消しの方法は、被害者に「告訴取消届け」を作成してもらうか、被害者が警察に告訴を取り消す旨を伝え、その内容の調書を作成してもらうことでなされます。
とはいえ、「告訴を取り下げてほしい」と懇願したところで、決めるのは被害者です。告訴は被害者に処罰感情があることの表れといえます。したがって、告訴を取り消してもらう前提として、処罰感情を和らげなくてはなりません。
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4、身内間の窃盗も示談が重要
示談と聞くと、赤の他人同士で締結するものであり、身内の窃盗には不要だと考える方がいるかもしれません。しかし、身内間でも告訴されると逮捕、起訴のおそれがありますので、示談が重要です。
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(1)いつまでに示談をすればよいのか
告訴の取り消しは起訴されるまでしかできない点に注意が必要です。たとえ起訴されたあとに被害者が「告訴を取り消します」と言ってくれたとしても、起訴が撤回されることはありません。
逮捕された場合には、最長で逮捕された日を含めて23日間、身柄を拘束される可能性があり、不起訴処分や処分保留とならない限り、身柄拘束の満期に起訴されることが通常です。
そうなれば日常生活への影響が出る可能性は否定できません。起訴される前に告訴取り消しを目指すことが大切です。なお、万が一示談が成立しなかった場合でも、示談成立に向けて謝罪や交渉の努力をしたことは無駄にはならないでしょう。裁判で量刑が決まる際に考慮されることがあるからです。
罰金刑や、懲役刑でも執行猶予つき判決となれば、刑務所に入らず日常生活を送ることができます。
逮捕されなかった場合には、いつまでに起訴されるかは必ずしも明らかではありませんが、検察官が一通り捜査を終え、起訴するに足りる証拠を収集したと判断するまでに示談をする必要があります。 -
(2)示談を成立させるために必要なこと
身内だからといって窃盗を簡単に許してもらうことはできません。むしろ、身内だからこそ許せないと思う方もいるでしょう。場合によっては、不当に高い示談金を要求され、示談が難航して起訴までに間に合わないおそれもあります。
そこで、当事者間では交渉が難航すると予想される場合には、示談交渉は弁護士へ依頼するのもひとつの方法でしょう。
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5、まとめ
今回は、窃盗罪と親告罪の関係について解説しました。窃盗の相手が身内の場合、一定の間柄であれば親告罪となり、告訴されなければ事件化しません。しかし裏を返せば、身内であっても窃盗を犯すと告訴があれば刑事罰を受けて前科がつくおそれがあるわけです。
告訴された場合に起訴を避けるためには速やかに示談を成立させ、告訴を取り消してもらわなければならないでしょう。当事者同士による解決が難しい状態に陥っていると考えられます。その場合は特に弁護士のサポートが不可欠です。
万が一の際、速やかに弁護士を依頼しましょう。ベリーベスト法律事務所でも相談をお受けしています。まずはご連絡ください。
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