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現行犯以外でも逮捕される? 万引きで問われる罪や後日逮捕の可能性
「万引き」は数ある犯罪の中でも特に現行犯逮捕されやすい犯罪です。多くのケースが、店員や巡回中の警備員などに万引きをしたそのとき、その場で身柄を確保され、罪を問われる事態へと発展しています。
たとえば、令和5年10月には高齢男性がスーパーで食品などを盗んだところを店員が目撃して身柄を確保し、警察に通報したといった事件が報じられました。
このような事情があるため、一部では「万引きは現行犯以外では逮捕できない」と考えている人もいるようですが、実際に現行犯でなければ逮捕されないのでしょうか? ほかの犯罪のように、後日、警察官に逮捕されるケースはないのか、気がかりになっている人も多いでしょう。
本コラムでは、万引きで問われる罪や刑罰、現行犯以外でも逮捕される可能性はあるのか、逮捕されるとその後はどうなるのかなどをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
この記事で分かること
- 万引きをして現行犯以外で逮捕される可能性とは?
- 逮捕されるとどのような罪・刑罰になるか
- 万引きで逮捕されたあとの刑事手続きの流れ
1、「万引き」とは? 問われる罪や刑罰
万引きとはどのような犯罪で、どういった罪に問われるのでしょうか?
法律の定めから確認していきます。
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(1)万引きは「窃盗罪」の手口のひとつ
実は、どの法律をみても「万引き」という名称の罪は定められていません。
万引きは、刑法第235条の「窃盗罪」にあたる犯罪です。
窃盗罪は、対象となった財物の種類や盗む際の方法などによって「手口」で分類されます。
たとえば、自動車を対象として盗む「自動車盗」、留守宅を狙って侵入し金品などを盗む「空き巣」、通行人の背後からバッグなどを強引に奪う「ひったくり」など、さまざまな手口が定められていますが、適用されるのはすべて窃盗罪です。
万引きとは、スーパーやコンビニ、量販店、書店、ドラッグストアなどの小売店において、陳列されている商品の代金を支払わずに自分の物にしてしまう手口を指します。
「陳列されている商品を盗む行為」が該当するので、たとえば小売店の倉庫などに侵入して在庫品を盗んだり、掲載されている非売品の販促ポスターを盗んだり、店員の隙をついてレジから現金を盗んだりする行為は万引きにはあたりません。もっとも、これらは別の手口に分類されるというだけで、窃盗罪として処罰の対象になる点は同じです。
また、代金を支払わないという点では、レストランなどにおける無銭飲食やタクシーの無賃乗車なども近い存在に感じるかもしれませんが、無銭飲食や無賃乗車には刑法第246条の詐欺罪が適用されます。 -
(2)窃盗罪の成立要件と万引きの関係
窃盗罪は、「他人の財物を窃取した」場合に成立する犯罪です。
窃盗罪の対象となるのは「他人の財物」です。他人が支配管理する財物なので、当然、自分の財物は通常対象に含まれませんが、自分の財物でも他人が占有している状態だと窃盗罪の対象となります。
「窃取」とは、ひそかに盗むという意味です。ただし、実際には被害者や目撃者の眼前で堂々と盗んだ場合も窃取となるので「盗む」という行為を指すのだと解釈しておけばよいでしょう。
さらに、窃取には「不法領得の意思」が必要とされています。
不法領得の意思とは、権利者を排除し、他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い、利用処分する意思という意味の法律用語です。簡単にいえば、他人の物を勝手に自分の物にしてしまうつもりがある状態だと考えておけばよいでしょう。
これらの要件を万引きという行為に照らしてみます。
たとえばスーパーやコンビニといった小売店で陳列されている商品は、店舗の所有物にあたるため「他人の財物」であることに間違いはありません。小売店では、商品を手に取りレジで代金を支払わなければ自由に使ったり持ち帰ったりすることは許されません。
そこで、代金を支払わずに自分の物にすれば「不法領得の意思」を伴う「窃取」となり、万引きが成立します。 -
(3)万引きに科せられる刑罰
窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
従来、窃盗は貧困などを理由に実行する犯罪だという認識が強かったため、罰金の規定は存在しませんでした。ところが、近年では代金支払いに十分なだけのお金を持っているのにスリルを求めて万引きをしたり、万引きという行為に依存してしまう「クレプトマニア」が存在したりといったケースが増加したため、平成18年の改正において罰金の選択が可能となったという背景があります。
2、万引きをして現行犯以外で逮捕される可能性はあるのか?
実際の事件をみると、万引きの多くが現行犯で身柄を確保されています。
やはり、万引きをした場合、現行犯でなければ逮捕されないのでしょうか?
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(1)現行犯でしか逮捕できない犯罪は存在しない
逮捕に関する規定は、刑事手続きのルールを定める刑事訴訟法に明記されています。
現行犯逮捕については、同法第212条から217条に規定されていますが「〇〇罪は現行犯でなければ逮捕できない」といった記載はどこにもありません。
つまり「万引きは現行犯でなければ逮捕できない」という考え方は誤りです。 -
(2)万引きが現行犯逮捕されやすい理由
刑事訴訟法第212条1項は「現に罪をおこない、または罪をおこない終わった者」を現行犯人とし、同法第213条は現行犯人について「何人(なんぴと=どんな人)でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」と明記されています。
万引きをしているまさにそのときや、万引きをして店舗から立ち去ろうとしているときは、刑事訴訟法が定める「現行犯人」にあたる状態です。現行犯人がいるのに警察に通報して到着を待っていては、万引き犯を取り逃がしてしまうかもしれません。
そこで、店員や警備員でも逮捕状の発付を得ずに「私人逮捕」します。あるいは、現行犯人に「ちょっと事務所まで来てもらえますか?」と声をかけて、同意を得たうえで警察官の到着を待つというのが一般的な流れです。
こういった事情があるため、万引きは現行犯逮捕されやすいという特徴があります。 -
(3)万引きで後日逮捕される可能性はあるのか?
いわゆる「後日逮捕」とは、警察が捜査して裁判官に逮捕状の発付を請求し、逮捕状にもとづいて執行される「通常逮捕」を指します。通常逮捕は日本国憲法が定める令状主義に従った原則的な逮捕であり、逮捕の基本形です。
当然、窃盗罪は通常逮捕の対象に含まれます。
たとえば、万引き犯を見つけても店員はあえて声かけをせず、警察にすべての対応を任せる意向で、防犯カメラの映像や会員カードの情報などを添えて被害届を提出するかもしれません。このようなケースでは、被害者から提出された情報をもとに警察が捜査を進めて、逃亡や証拠隠滅を図るおそれがあると判断された場合には逮捕状が請求され、通常逮捕される可能性があります。
逮捕には、事前に「あなたに対する逮捕状を請求する」「あなたの逮捕状が発付された」などと通知する制度はありません。事前に通知すれば、逮捕を避けるために逃亡したり、犯罪の立証を妨害しようと企てて証拠隠滅を図ったりするおそれがあるからです。
万引きは「現行犯でしか逮捕できない」のではなく、単に現行犯逮捕されるケースが多いだけで、後日逮捕の可能性もあるのだと覚えておいてください。「バレずに済んだ」「うまく逃げ切れた」などと油断していると、後日逮捕されるかもしれません。
3、万引きの疑いで逮捕されるとどうなるのか? 刑事手続きの流れ
万引きの疑いをかけられて逮捕されると、その後はどうなるのでしょうか?
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(1)店員や警備員などに私人逮捕された場合
相手が私人であっても、身柄を拘束された時点で現行犯逮捕は有効です。
現行犯人を逮捕した私人は直ちに警察・検察官に引き渡さなければならないので、店舗からの通報を受けて警察官が駆け付けて、身柄を引き渡されることになるでしょう。
なお、法律が私人に許しているのは現行犯逮捕だけです。
「逮捕した」という理由で警察に通報せず事務所などで長時間にわたってとどめおいたり、取り調べや捜索差押まがいの行為をしたりまで法律が許しているわけではないことは覚えておきましょう。 -
(2)警察官に逮捕された場合
万引きが発覚し、店員などに「事務所に来てもらえますか?」と誘導され、自ら事務所などに同行したといったケースでは、まだ現行犯逮捕には至っていないと考えられます。
この場合は、通報を受けて駆け付けた警察官によって現行犯逮捕される流れになるでしょう。
また、万引きをしたそのとき、その場で逮捕されなくても、後日になって警察官が自宅などを訪ねてきて、逮捕状を示されたうえで逮捕される可能性もあります。
警察官に逮捕されると、直ちに警察署へと連行されて逮捕被疑の認否や弁解を聴く「弁解録取」がおこなわれたのち、警察署内の留置場に収容されます。
自由な行動は許されないので、自宅に帰ることも、会社や学校へ行くこともできません。
あらゆる行動を監視され、取り調べなどの用件で警察署内を移動する際にも手錠や腰縄といった戒具が使用されるため、精神的にも大きな苦痛を感じることになるでしょう。 -
(3)逮捕後の刑事手続き
逮捕後、警察での捜査時間は48時間以内です。
逮捕から48時間が経過するまでに、警察は捜査を終えて検察官へと引き継がなくてはなりません。
警察から検察官へと身柄が引き継がれることを「送致」といいますが、ニュースや新聞などでは「送検」と呼ばれています。送致を受理した検察官も取り調べをおこなったうえで、24時間以内に釈放するか、勾留を請求します。
検察官からの請求で勾留が決定すると、初回で10日間、延長請求があればさらに10日以内の身柄拘束を受けます。勾留期間中の身柄は警察へと戻され、検察官から指揮を受けながら警察が捜査を進めます。
勾留が満期を迎える日までに検察官が「起訴」すると刑事裁判へと移行し、裁判官が有罪判決を下せば刑罰が科せられます。 - お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- 警察が未介入の事件のご相談は来所が必要です。
- 被害者からのご相談は有料となる場合があります。
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4、万引きをしてしまい逮捕に不安を感じるなら弁護士に相談を
万引きをしたそのとき、その場で現行犯逮捕されなくても、被害者が警察に被害届を提出すれば捜査のうえで逮捕状が請求され、後日逮捕される可能性があります。「現行犯逮捕されなかったから安心だ」などと考えてはいけません。
万引きをしてしまい逮捕に不安を感じているなら、弁護士に相談して穏便な解決を目指しましょう。
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(1)万引き事件を穏便に解決するには被害者との示談成立が重要
窃盗罪は、金銭などの財物を対象とした「財産犯」に分類されます。
財産犯に分類される犯罪は、盗んだり、だまし取ったりした財物の額に相当する金銭を弁済することで実質的な損害をゼロにすることが可能です。もちろん、弁済を尽くしたとしても罪を犯した事実が消えることはありませんが、被害者との示談交渉を通じて弁済したという姿勢は高く評価されます。
示談が成立して被害者が正式な届け出を見送ったり、すでに提出済みの被害届を取り下げたりすれば、捜査機関が捜査を取りやめ、刑事裁判に発展しないまま事件が終結する可能性が高いでしょう。
ただし、万引きの被害に遭った店舗の中には、企業の方針として事件化の方針を覆さないところもあります。示談の申し入れを拒否する被害者との交渉を、万引きをした本人がおこなうことは困難なので、第三者である弁護士に対応を任せたほうが安全です。 -
(2)早期釈放や処分の軽減を目指した弁護活動が期待できる
万引きの疑いで逮捕されると、逮捕の段階で最大72時間、勾留の段階で最大20日間、合計で最大23日間にわたって社会から隔離されてしまいます。
さらに、窃盗罪は刑務所に収容される懲役刑が選択される可能性もある犯罪なので、裁判官が実刑判決を言い渡せばさらに長期にわたって一般社会から隔離された生活を強いられます。そうなると、これまでどおりに仕事をすることも、学校に籍を残すこともできなくなるので、社会復帰はさらに困難になる事態は避けられません。
弁護士に依頼すれば、逮捕・勾留による身柄拘束からの早期釈放や厳しい刑罰の回避に向けた弁護活動が期待できます。被害者との示談交渉をはじめ、勾留決定に対する異議申し立て、具体的な再犯防止対策の提示などが重要になるので、窃盗事件の解決実績を豊富にもつ弁護士のサポートは必須です。
特に、大手企業などが示談に応じないケースでは、再犯防止のために犯行の原因になった生活上の事情に対する徹底的な改善措置などをとることで、示談なしに不起訴になれるケースもありますので、あきらめないでください。
5、まとめ
「万引き」は現行犯以外でも逮捕される可能性があります。たとえ万引きをしたそのとき、その場で逮捕されなくても、被害者からの届け出によって警察が捜査を進めれば後日になって逮捕されてしまうかもしれません。
万引きの疑いによる逮捕に不安を感じているなら、被害者との示談交渉を進めるなど解決を目指した積極的なアクションを起こすことが肝心です。万引き事件の穏便な解決を目指すなら、数多くの窃盗事件を解決してきた実績をもつベリーベスト法律事務所にお任せください。
ベリーベスト法律事務所の刑事事件チームマネージャーを務めております。
刑事事件チームには無罪判決を獲得した弁護士や、検察官出身の弁護士が複数在籍しております。チーム内では日々何が最善の弁護活動であるかを議論し、追及しています。
刑事事件でお困りの際は、ぜひベリーベスト法律事務所にご相談ください。
※本コラムは公開日当時の内容です。
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