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強要罪は親告罪なのか? 強要罪と脅迫罪・恐喝罪との違い
インターネット上ではたびたび「土下座強要」の画像や動画が公開されて問題になっています。
令和元年7月には、路線バスに乗車中の男が、自身が居眠りをして寝過ごしたのは起こさなかった運転手が悪いとして土下座をさせた事件が発生し、男は強要の罪で逮捕されました。
土下座の強要などは、刑法に定められた強要罪によって処罰されるおそれがあります。本コラムでは、強要罪の定義や成立要件に加えて、強要罪と親告罪の関係について、弁護士が解説します。
1、強要罪(刑法223条)の定義
「土下座強要」のようなトラブルは、以前は犯罪になるという意識が社会全体に希薄だったため公になることはほとんどありませんでした。ところが、個人がSNSなどで画像・動画や情報を発信しやすくなり、土下座強要のような粗暴な行為が公になる機会が増えたため、強要罪によって処罰の対象になるという認識も広まりつつあります。
強要罪とは、刑法第223条に規定されている犯罪です。
「生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、または暴行を用いて、人に義務のないことをおこなわせ、または権利の行使を妨害した者」が処罰の対象になります。
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(1)強要罪の法定刑
法律によって定められた強要罪の刑罰は「3年以下の懲役」です。
罰金刑の規定がないため有罪判決を受ければ刑務所に収監されてしまうことになります。 -
(2)強要罪は未遂であっても犯罪が成立
刑法第223条では、第3項において「前2項の罪の未遂は、罰する」と規定しています。第1項は被害者本人に対する暴行・脅迫を、第2項では被害者の親族に対する暴行・脅迫を規定していますが、これらの未遂はすべて処罰の対象です。
加害者から義務のない行為を求められて、被害者がこれを拒んだため未遂に終わった場合でも、加害者は処罰を受けることになります。
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2、強要罪が成立する要件
強要罪が成立する要件は次の3点です。
- 害悪を告知する
- 脅迫または暴行を用いる
- 人に義務のないことをおこなわせる、または権利の行使を妨害する
まず「害悪の告知」とは、被害者本人またはその親族に対する生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を加える旨を告知することをいいます。一般的に人を畏怖させる程度であれば成立し、どのように加害するのかなどの詳しい説明は必要ありません。もっとも、告知された内容からどのような事態が起きるか想像し、告知者(加害者)が意図する加害内容を理解し得る程度には具体的である必要があります。
具体的な生命・身体への危険のほか、根も葉もないクレームで「訴えるぞ」と告げることも害悪の告知にあたります。
「脅迫または暴行」は、具体的な脅迫文言や暴力行為はもちろん、周囲を取り囲む、暴言を吐き続けて執拗に責めるなどの状況があれば成立することがあります。
「人に義務のないことをおこなわせる」「権利の行使を妨害する」という点が、強要罪の特徴的な部分です。
強要罪は被害者の意思決定や行動の自由を侵害する犯罪です。土下座強要を例に挙げれば、土下座をする義務もない相手に対して、害悪の告知と脅迫・暴行によって「土下座を強いた」行為として強要罪が成立します。また、退職を強いるなどの行為は権利行使の妨害として同じく罰せられます。
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(1)強要罪の成立する具体的なケース
過去の判例から、強要罪が成立する具体例を挙げてみましょう。
- 商品を購入してくれるまで退去しない、いわゆる「押し売り」行為
- 契約を拒んでいるのに無理やり腕をつかみ押印させる行為
- 大勢で周囲を取り囲んで謝罪文を書かせる行為
- 店員の対応や商品の品質などにクレームをつけて土下座を求める行為
- 「解雇か自主退職かを選べ」と迫り退職願を書かせる行為
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3、脅迫罪・恐喝罪と強要罪の違い
「脅迫罪」と「恐喝罪」は、トラブルの経緯・流れとしては強要罪とほぼ同一ですが、最終的にどのような行為にいたったのかによって適用される罪名がかわります。
どのような違いがあるのかについても確認しておきましょう。
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(1)脅迫罪(刑法222条)
脅迫罪は、簡単にいえば「他人を脅す行為」を処罰するものです。
強要罪でいう「害悪の告知」さえあれば成立するため、強要罪とは異なり、具体的に義務のない行為の要求や権利行使の妨害がない場合でも、脅迫罪が成立してしまう余地が残ります。
法定刑は2年以下の懲役または30年以下の罰金で、義務のない行為の要求や権利行使の妨害がないため強要罪よりも軽い刑罰が規定されています。 -
(2)恐喝罪(刑法249条)
恐喝罪は、暴行または脅迫を用いて財物を交付させたり財産上の利益を得たりする犯罪です。
害悪の告知による脅迫や暴行によるところまでは強要罪と同じですが、財物の交付や財産上の利益を求めるという点で強要罪とは異なります。
慰謝料や賠償金などの名目で金銭の支払いを求める、借金を減免させる、商品代金を無料にさせるなどの行為があれば恐喝罪となります。
また、たとえ被害者がこれを拒んだとしても強要罪ではなく恐喝未遂として処罰されるという点は注意が必要でしょう。
恐喝罪の法定刑は10年以下の懲役で、罰金刑の規定はありません。具体的な財物・利益を喝取する行為が加わっているため、強要罪よりもさらに重たい刑罰が科せられます。
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4、強要罪は親告罪?
強要罪が「親告罪」にあたる犯罪なのか、それとも「非親告罪」にあたるのかは、加害者にとっても重要です。
強要罪と親告罪の関係についてみていきましょう。
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(1)そもそも親告罪とは
親告罪とは、犯罪の被害に遭った事実が公になることで、被害者の名誉やプライバシーが侵害されるおそれのある犯罪や、比較的軽微な犯罪で当事者間において解決を図ることが望ましい事件など、被害者の告訴がない限り、訴訟つまり刑事裁判を提起できない犯罪のことを指します。
たとえば、名誉毀損罪は、事件が公になることで不名誉な内容がさらに広く世間に知れ渡ってしまうリスクをはらんでいます。刑事裁判を通じて、不名誉な内容を何度も想起してしまい、被害者の精神的な負担も重くなるでしょう。
このような事情をふまえて、親告罪と規定されている犯罪は「被害者の告訴」が訴訟条件とされています。そのため、検察官が起訴するためには告訴が必須となります。
また、親告罪では告訴の期間が限定されます。
親告罪の事件では、被害者が「犯人を知った日から6か月」を告訴期間とされています。具体的には、犯罪が終了した日の翌日から6か月を計算し、告訴期間を過ぎてしまうと告訴できなくなります。 -
(2)強要罪は親告罪ではない
親告罪であれば6か月の告訴期間を過ぎれば起訴されませんが、強要罪は親告罪とは規定されていません。
公訴時効の3年を経過しない間であれば被害者が自由に被害届の提出・告訴が可能であり、また、被害者が告訴しなかった場合でも逮捕・起訴のリスクは残ることになります。
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5、まとめ
インターネット上で話題になることも多い土下座強要などの行為は、刑法の「強要罪」に該当し処罰を受けるおそれがあります。強要罪の疑いで逮捕・起訴され、有罪判決を受けてしまえば懲役刑がくだされることになり、執行猶予がつかない限り刑務所への収監は免れません。
強要罪は被害者の告訴を要しない非親告罪なので、告訴がない場合でも逮捕・起訴される可能性があります。長期間の身柄拘束や起訴を回避するには、弁護士に依頼して早急に被害者との示談交渉をすすめることが重要です。
強要容疑をかけられてしまい逮捕や起訴に不安を感じている方は、ベリーベスト法律事務所にご一報ください。強要事件をはじめとした刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、トラブル解決に向けて全力でサポートします。
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