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DVには警察が介入する? 逮捕される場合や成立する罪について解説
警察庁が公開しているデータによると、令和2年中に全国の警察に寄せられた配偶者からの暴力事案の相談件数は8万2643件でした。平成15年以降、相談件数は右肩あがりで増加しており、令和2年中には8702件が犯罪として検挙されています。
警察は「民事不介入の原則」がはたらく機関であり、民事的な問題には積極的に介入しないというのも一般的に広く知られているところです。DV問題はまさに家庭内・夫婦間の問題であるため、警察が積極的に介入してくるのかと疑問に感じる方も多いでしょう。
本コラムでは、DVには警察が介入してくるのかを、DVに適用される罪や逮捕の危険性とあわせて解説します。
1、DVには警察が介入するのか
DVをしてしまった人であれば「警察が介入してくるのか?」という点が気になるはずです。果たして警察はDVにも積極的に介入してくるのでしょうか?
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(1)「DV」とは
「DV」とは、一般的には「配偶者暴力」という意味で解釈されています。配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(通称:DV防止法)第1条によると、配偶者からの暴力とは「配偶者からの身体に対する暴力またはこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」と定義されています。
配偶者とは、実際に婚姻関係にある男女はもちろん、婚姻の届け出をしていない事実婚関係を含みます。また、離婚後も引き続き元配偶者から暴力などを受けている状態もDVとみなされます。 -
(2)DVには警察が介入するのか
旧来、夫が妻に対して暴力を振るうことは「家庭内の問題」として見過ごされてきました。警察は民事不介入の原則がはたらくため、家庭内の問題について強制力をもたないと考えられていたのです。
しかし、DV・ストーカーといった弱者を狙う犯罪を看過したり、管轄違いなどを理由に対応を拒んだりしたことで、被害者やその家族などが殺害される痛ましい結果をまねいた事件も存在します。
警察庁が全国の各都道府県に発した通達には、DV・ストーカー事案について、被害届のはたらきかけと説得をおこない、たとえ被害届を拒んだ場合でも必要性と客観的証拠および逮捕の理由がある場合は強制捜査を積極的に検討するよう明記されています。
現在の警察組織の体制を考えると、民事不介入を理由にDVへの対応を拒むことはありません。むしろ、被害者からの届け出がない場合でもDVを認知すれば積極的に事件化されると考えておくべきです。
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2、DVで逮捕されるケース
DV容疑で警察に逮捕されるのはどのような状況なのでしょうか?逮捕の種類別に想定してみましょう。
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(1)通常逮捕されるケース
通常逮捕とは、裁判官が発付した逮捕状にもとづいて執行される原則的な逮捕です。
たとえば、被害者が警察署を訪ねてDV被害を相談し、配偶者の検挙を望んで被害届や診断書などの証拠を提出したことで捜査が進んで、後日、通常逮捕されるといったケースが考えられます。 -
(2)現行犯逮捕されるケース
現行犯逮捕とは、犯行のそのとき、その場で身柄を取り押さえる逮捕です。犯行を現認(現実に犯行の事実を認識すること)しており犯人を取り違える危険が極めて低いうえに、まさにいま発生している急迫の被害を防ぐ必要があるため、裁判官の逮捕状発付を必要としません。
被害者や近隣住民からの通報を受けて駆けつけた警察官に身柄を取り押さえられるといったシーンが想定されます。
なお、現行犯逮捕は逮捕状を必要としないだけでなく、通常は「逮捕権をもたない一般市民でも逮捕が可能」という特徴があります。たとえば、大きな物音や叫び声を聞いて駆けつけた近隣住民によって取り押さえられたといったケースでは、その時点で「現行犯逮捕された」と判断されることもあるので注意が必要です。
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3、DVで成立する罪
DVが犯罪行為であることは間違いありません。ただし、法律には「DV罪」といった犯罪の規定は存在せず、状況に応じた各種の犯罪・法令違反として処罰されます。
DV行為で成立する罪を確認しておきましょう。
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(1)暴行罪
DV行為に対して適用される罪のうち、もっとも件数が多いのが刑法第208条の「暴行罪」です。警察庁の調べでは、令和2年中にDV事案で検挙された8702件のうち、5183件が暴行罪でした。
暴行罪は、殴る・蹴るなどの暴力を加えた者が相手を負傷させるにいたらなかった場合に成立します。打撲にいたらない程度の殴打や平手打ちのほか、髪の毛をつかんで引っ張る、突き飛ばす、押し倒すなどの行為でも処罰されるおそれがあると考えておくべきです。
暴行罪の法定刑は2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。比較的に軽微な犯罪ですが、有罪になれば前科がついてしまいます。 -
(2)傷害罪
暴行によって被害者を負傷させると、刑法第204条の「傷害罪」が成立します。令和2年中に検挙されたDV事件のうち、2626件が傷害罪によるものです。
傷害罪は「人の身体を傷害した者」を罰する犯罪であり、典型的には打撲傷や切り傷、擦り傷、骨折などを負わせたケースが想定されます。また、外傷を伴うものに限られず、たとえば常に威圧的・脅迫的な態度や言葉を浴びせ続けたことで心的外傷を負わせたといったケースでも傷害罪に問われる可能性があります。
傷害罪の法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。 -
(3)傷害致死罪
傷害の結果、相手を死亡させた場合は、刑法第205条の「傷害致死罪」が成立します。たとえば、執拗(しつよう)に暴力をふるった結果、思いがけず致命傷を与えてしまったといったケースが想定されます。法定刑は3年以上の有期懲役です。
有期懲役の最長は20年であり、最低でも3年の懲役が科せられるという点に注目すれば非常に厳しい刑罰が設けられている犯罪だといえます。 -
(4)殺人罪
殺意をもって相手を殺した場合は、刑法第199条の「殺人罪」に問われます。「人の死亡」という結果が生じている点では傷害致死罪と同じですが、「殺す」という意志をもって故意に相手を殺害している点で傷害致死罪と区別されます。
法定刑は死刑または無期もしくは5年以上の懲役です。最低でも5年の懲役となるため、執行猶予がつきません。有罪となれば減軽されない限り確実に実刑判決を受けて刑務所に収監される重罪です。 -
(5)暴力行為等処罰法違反
暴行罪・傷害罪に次いで3番目に摘発数が多いのが「暴力行為等処罰法違反」です。大正15年に制定された古い法律で、正確には「暴力行為等処罰ニ関スル法律」と表記します。
DV事件でこの法律の適用が想定されるのは「凶器を示した場合」です。凶器を示して暴行罪・脅迫罪などにあたる行為をはたらくと本罪が成立するため、たとえば包丁を手にして切っ先を相手に向けたうえで「殺すぞ」などと危害をほのめかす行為が想定されます。
法定刑は1年以上15年以下の懲役です。暴行罪・脅迫罪よりも厳しい刑罰が科せられます。 -
(6)DV防止法の保護命令違反
DV防止法は配偶者暴力の防止と被害者の保護を目的とした法律であり、個別の行為を罰するための法律ではありません。ただし、DV防止法にもとづく接近禁止命令や退去命令などを受けているのにこれに違反すると「保護命令違反」が成立し、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
保護命令が発出されているのに「ヨリを戻したい」「もう一度よく話し合いたい」といった理由で自宅・勤務先・実家などを訪ねたりすると、通報を受けた警察官によって現行犯逮捕されてしまうでしょう。
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4、DVで逮捕された後の流れ
DV容疑で逮捕された場合の刑事手続きの流れを確認していきます。
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(1)逮捕による身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、その時点で直ちに身柄が拘束されて自由な行動が制限されます。自宅へ帰ることも、会社や学校に行くことも、電話やメールによる連絡も許されません。警察署の留置場に身柄を置かれ、厳しい取り調べを受けることになるでしょう。
警察による身柄拘束の限界は48時間以内です。48時間以内に検察官へと送致するか、または釈放しなければなりません。 -
(2)最長20日間の勾留を受ける
検察官へと送致されると、24時間を限界とした身柄拘束を受けたうえで検察官による取り調べがおこなわれます。取り調べを終えた検察官は、送致を受理した時点から24時間以内に勾留を請求するか、それとも釈放するかの選択を迫られます。
検察官が勾留を請求し、裁判官がこれを認めた場合は、原則10日間、延長によってさらに10日間、合計20日間の勾留による身柄拘束を受けます。 -
(3)起訴されると刑事裁判に移行する
勾留が満期を迎える日までに、検察官は起訴・不起訴を判断します。検察官が起訴に踏み切った場合は被告人としてさらに勾留され、刑事裁判で審理される立場になります。
一方で、検察官が不起訴とした場合は、刑事裁判が開かれません。刑罰が科せられることもなければ前科がつくこともなく、直ちに釈放されます。 -
(4)判決が言い渡される
刑事裁判の最終回となる判決期日には、有罪・無罪のいずれかの判決が言い渡されます。有罪の場合は、さらに法定刑の範囲内で量刑が言い渡されることになり、実刑判決を受ければ刑務所へと収監されます。ただし、執行猶予つき判決を受ければ一定期間は刑の執行が猶予されるうえに、ほかに罪を犯すことなく期間を満了すれば刑の効力が消滅します。
また、DVに適用される犯罪には罰金が設けられているものも多いので、罰金の納付で済まされる可能性もあります。
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5、DVで逮捕された場合の対応
DV容疑をかけられてしまい、警察に逮捕された場合は、直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。
逮捕直後の72時間は、一般には外部との面会が一切認められません。身柄拘束の長期化を防ぐには検察官による勾留請求を阻止することが重要ですが、面会が許されないため何のアドバイスも得られないという問題があります。弁護士は逮捕直後に限らずいつでも制限なく被疑者との接見が可能なので、このタイミングで弁護士のアドバイスを得られることは極めて重要です。
また、被害者となった配偶者への謝罪を含めた示談交渉や再びDV行為をはたらかないためのカウンセリング・更生プログラムに取り組むといった対策も欠かせません。特に配偶者との示談交渉は強い怒りや警戒心を向けられているため交渉のテーブルについてもらうことすらできないおそれもあります。
早期の釈放と不起訴や執行猶予つき判決といった有利な処分を望むなら、弁護士のサポートが不可欠です。
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6、まとめ
たとえ家庭内・夫婦間の問題とはいえ、全国の警察はDV事件に対して積極的に介入する姿勢をみせています。状況次第では逮捕されて身柄を拘束されたうえで厳しい刑罰が科せられる危険もあるため、容疑をかけられた段階で直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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