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弁護士コラム

2022年06月07日
  • 暴力事件
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マスクを着ける、着けないでけんかに。暴行罪や脅迫罪になり得るケースとは?

マスクを着ける、着けないでけんかに。暴行罪や脅迫罪になり得るケースとは?
マスクを着ける、着けないでけんかに。暴行罪や脅迫罪になり得るケースとは?

新型コロナウイルス感染症の影響が続く中、マスク着用の必要性については多種多様な意見が混在しています。

「マスク警察」という言葉がはやったように、他人のマスク未着用を厳しく指摘する人々も一部存在します。一方で、着用にストレスを感じ、マスクを拒否する方も増えてきています。そうした流れから、他の人からマスクを着けるよう指摘を受け、言い争いから暴力事件などを起こすケースも報道されています。

マスク未着用を指摘されて他人に暴力を振るった場合、暴行容疑・傷害容疑で逮捕されてしまう可能性があるので注意が必要です。今回は、マスクの着用を巡って発生する暴行・傷害事件に関する法的な問題点について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

1、マスク未着用を指摘されて起きた傷害事件の例

コロナ対策としてのマスク着用に関する考え方の違いから、言い争いや誹謗中傷などのトラブルに発展するケースがしばしば見受けられます。また、トラブルがエスカレートした結果、暴行・傷害事件に発展してしまった例も報道されました。

たとえば神戸市では、マスクを着けるように言われたことに腹を立てた20代の男性が、60代の男性に対して暴行を加え、両手・両足に麻痺(まひ)が残る大けがを負わせた事案が発生しました。

神戸地裁は令和4年5月17日、加害者である20代の男性に対して、懲役3年・執行猶予5年の有罪判決を言い渡しました。

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2、マスクを着用する義務はあるのか?

海外では、コロナ対策としてのマスクの着用を、法律で義務付ける国も多数登場しました。最近ではマスクの着用義務を撤廃する国々も増えてきていますが、感染が拡大すれば法律による義務化を含めた強力な手段を取るのが、諸外国の傾向と言えるでしょう。

これに対して日本では、マスクの着用は法律上義務付けられているわけではありません。ただし、職場や店舗・施設内など、実質的にマスクの着用が必須となる状況もある点に注意が必要です。

  1. (1)マスク着用は法律上の義務ではない

    日本では、マスクの着用を義務付ける法律は存在しません。
    したがって、屋内・屋外を問わず、マスクを着用しなかったとしても罰則を受けることはありません。

    法律による強力な規制を行うよりも、国民の自発的な協力・感染症対策を促すことが、日本の基本的な方針と言えるでしょう。

  2. (2)職場でのマスク未着用は就業規則違反の可能性あり

    会社から職場でマスクを着用するべき旨の業務命令がなされている場合、無視してマスクを着用しないと就業規則違反に当たる可能性があります。

    マスク拒否が就業規則違反に当たる場合、会社から懲戒処分を受けるおそれがあるので注意しましょう

    いきなり重い懲戒処分を受ける可能性は低いと考えられますが、改善が見られない場合には減給以上の懲戒処分を受けることもあり得るでしょう。

  3. (3)店舗・施設内でマスクを着用しないと、退去を求められる可能性あり

    店舗・施設内でマスクを着用せずにいると、管理者から退去を求められる可能性があります。誰を入店・滞在させるかは、基本的に店舗・施設の管理者が自由に判断できる事項だからです。

    マスクを着用しないことにより、他の利用客や従業員などに迷惑がかかると管理者が判断した場合には、退去を勧告される可能性が高いでしょう。

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3、他人にマスク着用を要求するのは犯罪?

マスク着用を求められたことに怒って暴行に至った場合、着用の要求が違法・不当であることを理由に、正当防衛を主張できないのでしょうか。

結論から言えば、他人にマスク着用を要求する行為は、よほど特殊な事情がない限り、犯罪などの違法行為に当たる可能性は低いと考えられます。

マスク着用を強制した場合の罪の可能性について、罪種ごとに見ていきましょう。

  1. (1)脅迫罪・強要罪の成立要件・法定刑

    マスク未着用を理由に他人を脅し、またはマスクの着用を強制するような言動については、「脅迫罪」(刑法第222条)や「強要罪」(刑法第223条)が問題になり得ます。

    脅迫罪・強要罪の成立要件および法定刑は、以下のとおりです。

    <脅迫罪の成立要件>
    本人または親族の生命・身体・名誉・財産に対して、一般に他人を畏怖させるに足りる害悪を告知した(脅迫した)場合に成立します。
    脅迫は被害者に到達して認識されたことが必要ですが、実際に被害者が畏怖することまでは必要ありません(大審院明治43年11月15日判決)。

    <強要罪の成立要件>
    以下の2つの要件を満たす場合に成立します。
    • ① 本人または親族の生命・身体・名誉・財産に対して、一般に他人を畏怖させるに足りる害悪を告知した(脅迫した)こと、または暴行を用いたこと
    • ② ①により、被害者に義務のない行為をさせ、または権利の行使を妨害したこと
    なお、②を満たさない場合でも強要未遂罪として処罰されます。


    <脅迫罪の法定刑>
    2年以下の懲役または30万円以下の罰金

    <強要罪の法定刑>
    3年以下の懲役
  2. (2)マスク着用の要求が脅迫罪・強要罪に当たる例

    マスク着用の要求が脅迫罪または強要罪に当たるのは、「本人または親族の生命・身体・名誉・財産に対して、一般に他人を畏怖させるに足りる害悪を告知した(脅迫した)」と評価できる場合に限られます。

    たとえば、以下の場合には脅迫罪・強要罪が成立し得ると考えられます。

    <脅迫罪が成立するケース>
    「マスクを着けていなかったことをSNSで晒(さら)してやる」と脅迫した。

    <強要罪が成立するケース>
    「マスクを着けなければぶん殴るぞ」と言って、マスクの着用を強要した。


    これに対して、単に「マスクを着けなさい」と指摘する行為については、脅迫罪・強要罪のどちらも成立しません

    なお、マスクの着用状況(未着用・顎マスク・鼻マスクなど)は、脅迫罪・強要罪の成否に影響しないと考えられます。

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4、マスク未着用を指摘されて暴力を振るうのは犯罪に当たる

マスク未着用を指摘した他人に対して暴力を振るった場合、「暴行罪」(刑法第208条)や「傷害罪」(刑法第204条)の責任を問われます。

暴行罪・傷害罪の成立要件および法定刑は、以下のとおりです。

<暴行罪の成立要件>
他人に対して暴行し、被害者がケガをしなかった場合に成立します。

<傷害罪の成立要件>
他人に対して暴行した結果、被害者がケガをした場合に成立します。
ケガをさせるつもりがなくても、結果的にケガをすれば傷害罪となります(結果的加重犯)。


<暴行罪の法定刑>
2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料

<傷害罪の法定刑>
15年以下の懲役または50万円以下の罰金


特に頚椎(けいつい)損傷や半身不随・麻痺など、被害者のケガの程度が重い場合には、傷害罪により実刑判決が言い渡される可能性が高くなります。

なお、仮にマスク未着用の指摘が脅迫罪または強要罪に当たるとしても、それに対して暴力を振るう行為に正当防衛(刑法第36条)は成立しないと考えられます。

言葉による指摘に対して暴力を持って対抗することは、「自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為」とは評価できないからです。

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5、暴行・傷害事件を起こしたら弁護士にご相談を

マスクの着用を巡って他人とトラブルになってしまった場合、速やかに弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士は以下のサポートを通じて、重い刑事処分を回避できるように尽力します。

  1. (1)被害者との迅速な示談交渉

    被害者との示談が成立すれば、被害弁償と被害感情の低下が重視され、検察官が不起訴処分を行う可能性が高まります。

    弁護士は、被害者に対して真摯(しんし)な謝罪と説得を尽くし、早期に示談を成立させられるようサポートします。

    特に、被疑者本人が逮捕されてしまったケースでは、ご家族などを通じて、弁護士に示談交渉を依頼するのが賢明です。

  2. (2)早期の身柄解放に向けた活動

    暴行・傷害の被疑者が逮捕・勾留されてしまった場合、身柄拘束が長引くと、肉体的にも精神的にも大きな負担がかかります。

    弁護士は、示談交渉や謝罪文の作成などを通じて検察官を説得し、また状況によっては勾留処分に対する準抗告(刑事訴訟法第429条第1項第2号)を行い、早期の身柄解放を目指して弁護活動を行います。

  3. (3)重い刑罰を回避するための弁護活動

    検察官によって起訴された場合、公判手続き(刑事裁判)に向けた準備が必要になります。

    弁護士は、不当に重い刑罰を回避するため、さまざまな角度から被告人にとって有利な事情を収集・検討します。裁判官に対して、被告人側の主張を説得的に伝えるためには、弁護士によるサポートが非常に効果的です。

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6、まとめ

マスク着用を求められたことに怒って、相手に暴行を加えることは犯罪行為です。もし暴行・傷害の疑いで逮捕されたり、取り調べを受けたりした場合には、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所では、刑事弁護に関するご相談を随時受け付けております。ご自身やご家族が、マスク着用に関連した事件・事故の当事者となった場合には、お早めにベリーベスト法律事務所へご連絡ください。

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本コラムを監修した弁護士
萩原 達也
ベリーベスト法律事務所
代表弁護士
弁護士会:
第一東京弁護士会

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※本コラムは公開日当時の内容です。
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