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恐喝事件の冤罪(えんざい)で逮捕されてしまったら! 無罪を証明するには
人から金銭などを脅し取ると恐喝罪に問われます。
令和4年2月には、仕事のミスが直らないことを理由に部下に消費者金融から現金60万円を借りさせて現金を脅し取ったとして、男が恐喝罪の容疑で逮捕される事件がありました。男は「返すつもりだった」と容疑を一部否認したようですが、脅し取った事実があれば、たとえ後で返そうと思っていても恐喝罪の成立は免れません。
一方で、脅したり現金を得たりした事実が全くないのなら冤罪にあたります。しかし、過度な行動によって経済的な利益を得た事実があれば冤罪の主張は通らないでしょう。本コラムでは恐喝罪が成立する要件や逮捕後の流れなどを確認しながら、冤罪の場合に疑いを晴らす方法についても解説します。
1、恐喝罪とは
恐喝罪は刑法第37章「詐欺及び恐喝の罪」に規定された犯罪です。他人の財産権を侵害する犯罪として、詐欺罪や窃盗罪と同じ「財産犯」の一種に分類されます。
刑法第249条第1項によると、恐喝罪は「人を恐喝して財物を交付させた」場合に成立します(1項恐喝)。恐喝とは暴行や脅迫によって相手を畏怖させることです。「痛い目に遭いたくなければ金を出せ」と脅して怖がらせたうえで金銭を巻き上げるカツアゲ行為が典型でしょう。
また同条第2項では、恐喝により財産上の不法の利益を得たり、他人に得させたりした者も恐喝罪として処罰する旨が規定されています(2項恐喝)。たとえば借金の返済を免除させる、サービスの利用料を踏み倒すといった行為がこれにあたります。
恐喝罪は人を怖がらせて財産的被害を生じさせる重大犯罪なので、非常に重い罰則が適用されます。事件を起こせば逮捕・勾留されるおそれが大きいのも特徴です。
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2、恐喝罪の構成要件
犯罪が成立するための原則的な要件を構成要件といいます。恐喝罪は、①恐喝行為、②畏怖に基づく交付行為、③財産または財産上の利益の移転の3つを満たすと成立します。
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(1)恐喝行為
恐喝行為とは、被害者に財物を交付させる手段として行う暴行または脅迫であって、被害者の反抗を抑圧するに至らない程度のものをいいます。殴る、蹴る、胸ぐらをつかむなどの暴力行為、相手の弱みにつけ込んで脅す行為、相手の親族に危害を加えると伝えて脅す行為などが該当します。
暴行や脅迫が被害者の反抗を抑圧する程度だった場合は、恐喝罪ではなく強盗罪の成否が問題となります。たとえばカツアゲは一般に恐喝罪にあたると考えられますが、被害者が抵抗できないほどの暴行や脅迫によって金銭を巻き上げれば、もはや相手の意思によって交付させたとはいえないため、強盗罪にあたる場合があります。
恐喝行為の方法は特に問われません。暴力や直接脅す行為に限らず、電話やメール、手紙、LINEなどのメッセージアプリを利用して脅す行為も恐喝行為にあたります。 -
(2)畏怖に基づく交付行為
畏怖に基づく交付行為(財産的処分行為)とは、恐喝行為によって被害者が畏怖し、自らの意思で財物を差し出すことです。その意思は加害者の行為による畏怖にもとづくものなので、「瑕疵(かし)ある意思」といいます。
被害者が積極的に財物を差し出すことまでは要求されません。たとえば、被害者が怖がって黙認している間に財物を持ち去る行為も交付行為にあたるとした判例があります。【最高裁判所 昭和24年1月11日 昭和23(れ)1369】 -
(3)財産または財産上の利益の移転
交付行為によって、財物または財産上の利益が移転した時点で恐喝罪が成立します。したがって、以下のようなケースは財産や利益の移転がないため、未遂罪が成立するにとどまります。
- 恐喝行為をしたが相手が財物を交付しなかった
- 恐喝行為をして相手が財物を交付しようとしたが、巡回中の警察官に声をかけられたので財物を取得せず逃亡した
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3、脅迫罪や強要罪との違い
恐喝罪と紛らわしい犯罪に「脅迫罪」と「強要罪」があります。恐喝罪とはどのような違いがあるのでしょうか?
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(1)脅迫罪との違い
脅迫罪は相手またはその親族の生命、身体、自由、名誉、財産に対して害を加える旨を告知して脅迫する犯罪です(刑法第222条)。
恐喝罪も構成要件に「脅迫」が含まれているため、その部分では脅迫罪と共通していますが、恐喝罪と脅迫罪とでは「脅迫」の考え方に違いがあります。脅迫罪における脅迫は、「相手またはその親族」の「生命、身体、自由、名誉、財産」のいずれかに向けられている必要があります。
たとえば相手の恋人は対象外なので、「お前の恋人を誘拐してやる」と脅しても脅迫罪にはあたりません。一方、恐喝罪における脅迫は脅迫罪のような対象の限定がないため、「金を出さないとお前の恋人を誘拐してやる」と脅す行為は恐喝罪にあたります。
また、恐喝罪における暴行または脅迫は相手方に財物を交付させるための手段としての行為です。そのため暴行や脅迫をした時点では恐喝未遂罪が成立するにとどまり、実際に財物が交付された時点で既遂に達します。一方、脅迫罪は相手方に害悪を告知した時点で既遂となります。 -
(2)強要罪との違い
強要罪は相手またはその親族の生命、身体、自由、名誉、財産に対して害を加える旨を告知して脅迫し、または暴行を用いて相手に義務のないことをさせ、または権利の行使を妨害する犯罪です(刑法第223条)。
恐喝罪における暴行または脅迫は、財物や財産上の利益を得ることを目的としています。一方、強要罪における暴行または脅迫は、義務のないことをさせ、または権利の行使を妨害することを目的としています。
たとえば飲食店の店長にクレームをつけて「SNSで拡散させられたくなければ代金をタダにしろ」と脅せば恐喝罪にあたりますが、これが代金の免除ではなく土下座の要求であれば強要罪にあたります。
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4、恐喝罪の罰則
恐喝罪は非常に重い罰則が設けられている犯罪です。有罪になるとどのくらいの刑を言い渡されるのでしょうか?
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(1)恐喝罪の場合
恐喝罪の罰則は「10年以下の懲役」です。実際に言い渡される量刑はこの範囲内で、犯行様態や被害結果の大小、被害弁済の有無などを総合的に判断して裁判官が決定します。
令和2年版犯罪白書・通常第一審における有期刑の科刑状況によると、令和元年に恐喝罪で有罪になった人員総数329人のうち、言い渡された刑期でもっとも多いのが2年以上3年以下の162人、次いで1年以上2年未満の146人でした(執行猶予含む)。全体の93.6%が懲役1年以上3年以下を言い渡されています。 -
(2)恐喝未遂罪の場合
恐喝未遂も同じ「10年以下の懲役」が適用されます。ただし、未遂の場合は裁判官の裁量で刑が減軽される場合があります(刑法第43条)。また自らの意思で犯罪を中止した場合は刑が必ず減軽または免除されます(同条ただし書き)。
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5、恐喝罪で逮捕された場合の流れ
恐喝罪の疑いをかけられて逮捕されると、どのような流れで刑事手続きが進められるのでしょうか?通常逮捕のケースと現行犯逮捕のケースに分けて解説します。
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(1)通常逮捕されたケース
恐喝事件は一般に、人通りの少ない場所や外部から認識できない状態で行われるため、事件の現場で現行犯逮捕されるケースはそれほど多くありません。恐喝事件の後日に、逮捕状にもとづき通常逮捕されるケースが多いでしょう。
通常逮捕の要件は、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があることと、逃亡または証拠隠滅のおそれがあることです。したがって、恐喝の証拠があっても逃亡や証拠隠滅のおそれがなければ逮捕はされず、在宅のまま捜査が進められます。もっとも、令和2年版犯罪白書によれば恐喝罪の身柄率は76.5%とかなり高く、逮捕されやすい犯罪であることがうかがえます。
通常逮捕された後は次の流れで手続きが進められます。● 警察官による取り調べ・送致
逮捕から48時間を上限に、警察官による取り調べを受けます。警察官は取り調べた被疑者の身柄と捜査書類を検察官へ引き継ぎます。この手続きが「送致」です。
● 検察官による取り調べ
送致後は検察官による取り調べを受けます。検察官は送致から24時間以内に、被疑者を釈放するか、裁判官に勾留を請求するかを判断します。
● 勾留請求・勾留決定
検察官が勾留を請求し、裁判官が認めると被疑者は勾留されます。勾留期間は原則10日間、延長でさらに10日間です。
令和2年版犯罪白書によると恐喝事件で逮捕後に勾留を請求された率は98.3%、そのうち勾留が認められた率は99.1%です。つまり、恐喝事件の被疑者は大半が勾留されます。
● 起訴・不起訴
勾留期間が満期を迎えるまでに、検察官は被疑者を起訴するか不起訴にするのかを決定します。不起訴になれば釈放されますが、起訴されると保釈されない限り引き続き身柄を拘束され、約2カ月後に開かれる刑事裁判を待つ身となります。なお、起訴には書類のみの審理で罰金・科料の言い渡しを求める略式起訴と、公開の裁判を求める正式起訴があります。恐喝罪は懲役刑のみが規定された犯罪なので必ず公開の裁判によって審理されます。 -
(2)現行犯逮捕されたケース
恐喝事件は通常逮捕が多い犯罪ですが、現行犯逮捕されないわけではありません。たとえば不良集団が道ばたで恐喝行為をしていたところを通行人が目撃して通報し、駆けつけた警察官に現行犯逮捕されるケースなどが考えられます。
通常逮捕は裁判所が発付した逮捕状が必要なのに対し、現行犯逮捕は犯人を取り違えるおそれが低いため逮捕状が不要です。また警察官や検察官ではない私人でも逮捕できます。
ただし私人が逮捕した場合は、直ちに警察官などに引き渡す義務があります(刑事訴訟法第214条)。警察官に引き渡された後は、通常逮捕と同じ流れで刑事手続きが進められます。
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6、恐喝事件における冤罪と誤認逮捕
恐喝事件の容疑で捜査機関から取り調べを受ける事態になったとき、「冤罪や誤認逮捕ではないのか?」と感じる場合があるかもしれません。
冤罪と誤認逮捕の意味を確認しながら、自身のケースで該当するのかを見ていきましょう。
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(1)冤罪と誤認逮捕の意味
冤罪とは、身に覚えがないのに犯罪をしたと疑われたり、無実なのに裁判で有罪判決を言い渡されたりすることを広く指す言葉です。めったに起こるものではないものの、捜査機関による自白の強要や証拠の捏造(ねつぞう)などによる冤罪事件は過去に起きています。
一方、犯人ではないのに犯人だと間違えられて逮捕されることを誤認逮捕といいます。「逮捕」なので、任意同行を求められるケースと異なり強制的に警察署へと連行されてしまいます。恐喝事件では目撃者が犯人を見間違えた、自分の仲間が恐喝をしたため自身も関与を疑われて逮捕されたなどの状況が考えられるでしょう。
いずれも、やってもいない事実によって不利益を受けるという点で共通しており、あってはならないことです。当然ながら、本当にやっていないのなら一貫して否認し、無実を主張する必要があります。少しでも犯行を認めるような言動は避けなければなりません。 -
(2)客観的に見ると恐喝罪に該当する場合がある
自分では冤罪や誤認逮捕だと思っていても、客観的には自分のした行為が恐喝罪を構成するケースがあるという点には注意が必要です。
怖がらせるつもりがなくても、発言や態度を客観的に見て脅迫行為があれば恐喝罪にあたります。実際に金銭を手に入れていなければ恐喝をした感覚がないかもしれませんが、暴行や脅迫の事実があれば恐喝未遂罪が成立します。
また、自己の正当な権利行使のためであっても、その方法が度を超していれば恐喝罪にあたる場合があります。- 知人に金を貸したがなかなか返さないため「はやく返さないと痛めつけるぞ」などと脅した
- 交通事故の被害に遭ったため、相手に「支払えないなら被害届を出しても構わない」などと言いながら法外な示談金を要求した
上記のようなケースでは「元々は相手が悪いのだから犯罪にあたらない」と思いがちですが、そのような言い訳は通用せず、恐喝罪に問われる可能性があります。
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7、恐喝の冤罪を晴らすにはどうすればいいのか?
冤罪を晴らすには、うその供述をしないことが重要です。黙秘権を行使するなどして、うその供述はしないようにしましょう。曖昧なまま供述すると、捜査機関にとって都合のよい内容で供述調書に記載され、いつのまにか犯人として扱われてしまいます。
とはいえ、百戦錬磨の取調官を相手に取り調べを乗り切るのは難しいでしょう。取り調べに対抗するためには、弁護士への相談が大切です。弁護士のサポートを得れば、有利な証拠の収集や被害者・目撃者の証言の矛盾点を突くなどして、冤罪である旨を証明できる可能性が生じます。
また、もし自分のした行為が客観的に見れば恐喝罪にあたる場合は、早期に罪を認めて被害者との示談交渉などを進めることで、結果的に起訴猶予による不起訴処分や執行猶予付き判決など有利な処分を得られる可能性が高まります。
いずれにしても、自身の行為が本当に恐喝罪にあたるのか、どの弁護方針が適切なのかは、一般の方が判断できる問題ではありません。弁護士へ相談して事件の状況に応じたサポートを受けることが肝要です。
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8、恐喝罪で逮捕されてしまったら弁護士に相談を
恐喝罪で逮捕されそう、あるいは身近な方が逮捕されてしまったら早急に弁護士へ相談しましょう。弁護士は以下の活動を通じて被疑者本人やご家族をサポートできます。
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(1)取り調べへの適切なアドバイスを与える
逮捕されると厳しい取り調べにひとりで対応しなければならず、精神的に追い込まれて不利な供述をしてしまうおそれが高まります。供述した内容は供述調書として記録されて重要な証拠として扱われるため、後で覆すのは困難です。
そのため早急に本人と面会して取り調べ対応のアドバイスを与える必要がありますが、逮捕後72時間はご家族であっても面会は許されません。恐喝事件では勾留段階に入った後も、共犯者との口裏合わせによる証拠隠滅を防ぐために接見禁止が付される場合もあります。
しかし、弁護士だけは逮捕後の72時間以内や接見禁止が付いた場合でも面会し、法的な観点から適切なアドバイスを与えられます。 -
(2)勾留回避に向けて活動する
逮捕・勾留されると起訴されるまでの間でも最長で23日間も社会から隔離され、場合によっては解雇や退学といった厳しい処分を受ける危険があります。たとえ後に不起訴処分で済まされたとしても、勾留による影響は無視できないものとなるでしょう。
恐喝罪は勾留されるおそれが非常に大きい犯罪ですが、弁護士が検察官や裁判官に対して意見書を提出する、面会するなどして、客観的な証拠を示しながら身柄拘束の必要性がない旨を主張することで勾留を回避できる可能性があります。 -
(3)執行猶予付き判決に向けて活動する
執行猶予を得るためには被害者と示談を成立させることが重要です。示談を通じて被害者への謝罪と賠償を尽くし、宥恕意思(ゆうじょいし:許すという意思)を得ると、量刑判断に際して有利に働くでしょう。
ただし恐喝事件では被害者の恐怖心や怒りの感情が強く、示談交渉は簡単ではないため、示談交渉は弁護士に一任するべきです。逮捕された本人が交渉を進めるのは物理的に困難なのはもちろん、仮に在宅事件であっても直接の交渉は被害者の恐怖心を増幅させ、さらなる脅迫と捉えられて事態が悪化する危険があります。ご家族による示談交渉も、冷静さを欠いてしまい衝突してしまうおそれが大きいため避けましょう。
公正中立な第三者の立場で、かつ示談交渉の経験豊富な弁護士であれば、被害者の感情に配慮しながら慎重に話し合いを進められます。
示談以外にも、具体的な再犯防止策を検討・実行して裁判官に示すことで、社会の中での更正に期待できると判断されやすくなります。たとえば交友関係の整理やご家族による監督、定職に就いて経済基盤を整えるといった方法が挙げられます。この点も弁護士が本人やご家族に対して再犯防止策のアドバイスを行い、裁判官に的確に主張して寛大な判決を求めます。
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9、まとめ
恐喝罪は相手を怖がらせて財産を差し出させる犯罪です。相手の反抗を抑圧するに至らない程度の暴行や脅迫を手段とするため、自分では恐喝したつもりがなくても犯罪が成立する場合があります。
自分のした行為が恐喝罪にあたるのか知りたい、無実の罪で逮捕されそうといった状況でお困りであれば、早急に弁護士へ相談してアドバイスやサポートを受けましょう。刑事弁護の経験豊富なベリーベスト法律事務所が力を尽くします。逮捕された後は時間との勝負になりますので、できるだけ早くご連絡ください。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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