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高校生のけんかで慰謝料請求される? 請求された場合の対応とは
けんかをして相手にケガをさせてしまうと、犯罪が成立して刑事責任を追及されるだけでなく、相手から慰謝料を請求される場合があります。
では、加害者が高校生である場合は、どうなるのでしょうか? 成人と異なり収入がないケースが多いため、慰謝料を請求されることはないのでしょうか? 請求されたとしても支払い能力がないとして拒否することは可能なのでしょうか?
本コラムでは、慰謝料や示談の意味を確認しながら、高校生のけんかで問われる罪や高校生の損害賠償責任、慰謝料を請求された場合の対応について解説します。
1、けんかで請求される慰謝料とは
けんかをして相手にケガをさせると、相手から「慰謝料」を請求される場合があります。慰謝料の意味や損害賠償金との違いについて解説します。
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(1)慰謝料とは
慰謝料とは、被害者が受けた精神的苦痛に対する損害賠償金のことです。けんかの相手にケガや後遺症を生じさせた場合、相手はケガなどの痛みに耐えなければならないうえに、入院や通院を余儀なくされたり、身体を自由に動かせなかったりしてつらい思いをするでしょう。こうした精神的苦痛を金銭で賠償するのが慰謝料です。
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(2)損害賠償金との違い
損害賠償金とは、故意または過失によって相手に損害を与えてしまったときに、損害を補償するために支払う金銭の総称です。けんかでは相手を殴る、蹴るなどした行為が「不法行為」にあたるので、ケガをさせた本人は相手に与えた損害を賠償する義務があります(民法第709条、710条)。
慰謝料は損害賠償金の一部なので、慰謝料の額と損害賠償金の額は必ずしも一致しません。慰謝料とその他の損害賠償金をあわせた金額を支払わなければならない場合があります。 -
(3)財産的損害と精神的損害
損害賠償金は、財産的損害と精神的損害の2種類で構成されています。
けんかの財産的損害には、ケガの治療費や入通院費、それにともなう交通費、保護者の付き添い看護費、壊された物や破かれた衣服の買い換え費用などがあります。けんかの相手も高校生など学生であり、ケガによる入院などで学校に行けずに塾や補習に要した費用があれば、学習費として認められます。
けんかの相手が働いて収入を得ていた場合は休業損害、相手に後遺障害が残った場合は将来働いて得られたはずの利益の減少分(逸失利益)も財産的損害に含まれます。
一方、精神的損害とはけんかでケガをするなどしたために受けた精神的な損害のことをいいます。この精神的な損害を塡補(てんぽ)するのが慰謝料です。けんか(傷害・暴行事件)の慰謝料は一般に、入通院に対する慰謝料と後遺障害に対する慰謝料が挙げられます。
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2、けんかで問われる罪とは?
高校生のけんかでも、警察から犯罪の加害者と判断されれば、成人と同じように逮捕されることがあります。けんかの現場で現行犯逮捕される場合や、けんかの相手がケガをして被害届を出したために後になって通常逮捕される場合のどちらも考えられるでしょう。
逮捕されると警察署に連行され、留置場に身柄を置かれます。同時に警察から捜査や取り調べを受け、勾留や勾留に代わる観護措置によってさらに身柄を拘束される場合があります。
けんかによって成立するおそれのある犯罪は以下のものがあります。
相手に暴行を加え、身体を傷害するに至らなかった場合に成立する犯罪です。
● 傷害罪(同第204条)
暴行の結果、相手の身体を傷害した場合に成立します。
● 器物損壊罪(同261条)
けんかに際してわざと相手の衣服を破く、持ち物を壊すなどした場合に成立します。
● 公務執行妨害罪(同第95条1項)
けんかの通報を受けて駆けつけた警察官を突き飛ばす、暴れてパトカーを蹴るなどしたときに成立します。
● 決闘罪(決闘罪ニ関スル件)
あらかじめ日時・場所・方法などを定めて、双方が合意のうえで暴行行為を始めた場合に成立します。いわゆる「果たし合い」に適用される罪です。
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3、高校生のけんかでも慰謝料請求されることはある?
けんかをして相手にケガなどをさせれば慰謝料を請求される場合がありますが、加害者が高校生だったらどうなるのでしょうか? 高校生自身の「責任能力」という観点から見ていきましょう。
法律上の責任能力には、刑法上の責任能力と民法上の責任能力の2種類があります。
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(1)刑法上の責任能力
刑法上の責任能力とは、物事の是非・善悪を区別し、かつそれに従って行動する能力のことをいいます。その能力がないことを責任無能力といい、心神喪失者(刑法第39条1項)と、14歳未満の者(同第41条)がこれにあたります。
けんかのケースで問題になるのは主に加害者が14歳未満かどうかですが、高校生の場合は1年生でも15歳以上なので責任無能力者ではありません。未成年者は少年法の規定により、原則として家庭裁判所の審判による保護処分を受けますが、適用される犯罪によっては検察官に送致(いわゆる逆送)されて刑罰を受ける場合があります。
ただし、慰謝料を請求されるかどうかは民事上の問題なので、刑法上の責任能力ではなく、民法上の責任能力の有無で判断します。 -
(2)民法上の責任能力
民法上の責任能力とは、他人に損害を与えた場合の、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能のことをいいます(民法第712条)。
民法上の責任能力は刑法のように具体的な年齢が定められていませんが、一般に小学校卒業程度を越える年齢が目安とされています。実際には個別に子どもの発達程度を確認したうえで判断されるものの、高校生の年齢であれば自分がした行為の責任を理解できるでしょう。そのため多くのケースでは高校生自身に損害賠償責任、つまり慰謝料などの損害賠償金を支払う義務が生じます。
ただし、学業が本分の高校生が果たして高額の賠償金を支払えるのかという問題があります。資力がなくて賠償金を支払えないと、被害者が受けた損害が補償されません。そのため実際には、高校生の親などが代わりに支払うことになるでしょう。
なお、未成年者本人に責任能力があると民法第714条の親権者の監督責任は否定されますが、子どもによる犯罪の場合は親権者自身にも損害賠償責任が生じるおそれがあります。
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4、けんか・暴行の示談とは
けんかによる慰謝料を請求されたとして、どのように支払えばよいのでしょうか? 多くのケースでは、ケガをさせた相手と「示談」を成立させ、示談金に含めて支払うことになります。
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(1)示談と示談金の意味
示談とは、一般的に、紛争の当事者が、裁判によらず合意によって解決を図る民事上の手続きをいいます。示談金とは、慰謝料やその他の損害賠償金、いわゆる迷惑料などを含む解決金のことです。
刑事事件の示談交渉の流れとしては、加害者が被害者に謝罪して示談金を支払い、許してもらう代わりに被害届を取り下げてもらうなどの約束事を決めるのが一般的です。
とはいえ、けんかではどちらが加害者・被害者なのかを決めるのが難しい場合があります。どちらかが一方的に殴った暴行事件であれば被害者、加害者の区別は容易ですが、けんかとなると双方が加害者であり被害者でもあるでしょう。
この場合、警察が双方から話を聞きつつ、ケガの状態やけんかに至った経緯などの客観的事情をもとに事実確認を行います。双方に同程度の原因やケガがあると刑事事件化されない場合もありますが、一方的に相手に暴行を加えてケガをさせたのなら加害者として扱われます。 -
(2)示談で得られること
成人のけんかで相手と示談が成立すると、刑事事件で不起訴処分となる可能性が高まります。検察官は起訴・不起訴の判断にあたり被害者感情を考慮するため、示談が成立している以上は起訴して刑罰を科す必要性が低いとの判断に傾くからです。不起訴処分になると前科はつきません。
一方、高校生の場合は少年の更生改善を目的とした少年法の適用を受けるため、示談をしても必ずしも少年院送致などの重い処分を免れるわけではありません。しかし示談交渉の過程で反省を深め、少年の更生に期待できると判断されると、社会の中での更生に努める保護観察や不処分となる可能性が生じるため、やはり示談を成立させることは重要です。 -
(3)高校生で前科がつくことはある?
前科とは刑事裁判で有罪判決を受けた履歴のことです。高校生は原則として家庭裁判所の審判による保護処分を受けるため、前科がつくケースは多くありません。ただし、高校生でも検察官送致(逆送)された場合は刑事裁判で審理されるため、そのときは刑罰を科される可能性が高まります。つまり高校生でも前科がつく場合があります。
たとえば、けんかで殴った相手を死なせてしまった場合は傷害致死罪(刑法第205条)が適用されますが、本罪は16歳以上の少年が犯した場合に原則逆送されるため、高校生でも刑罰を科されて前科がつくおそれが大きいといえます。
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5、高校生のけんかで慰謝料を請求された場合にできること
高校生がけんかの相手から慰謝料を請求された場合の対応について解説します。
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(1)被害者との示談を行う
慰謝料を請求されたら、ケガをさせたことについて真摯(しんし)に謝罪したうえで、被害者との示談を成立させることが大切です。未成年者の法律行為は法定代理人の同意が必要なので(民法第5条)、実際には加害者の親が示談交渉の中心になるでしょう。
示談交渉の中で慰謝料その他の損害賠償金に関して合意し、被害回復を図った事実と被害者からの宥恕(ゆうじょ)意思を家庭裁判所や検察官に示すことで、重い処分を回避できる可能性が生じます。
また一般に示談書には「清算条項」を設け、示談をもってお互いに債権・債務が存在しないことを確認するため、相手方から今後新たに損害賠償金の請求やその他の要求を受けるおそれがなくなります。
一方、示談をしないまま相手方からの要求に応じて慰謝料を支払うと、刑事処分への影響を小さくすることや、民事上の損害賠償問題を解決することができない場合があります。 -
(2)慰謝料を請求されたら弁護士へ相談
けんかの相手はケガをさせられたことで強い処罰感情を抱いているケースが多いため、加害者側からの直接の働きかけは拒否されたり、法外な示談金を請求されたりするおそれがあります。
そのため慰謝料を請求されたら、まずは弁護士へ相談しましょう。弁護士であれば被害者感情に配慮しながら慎重に交渉を進められるため、被害者が交渉に応じてくれる可能性が高まります。
また、けんかでは双方に非があるケースも多いので、示談金の額は当事者間で話し合ったうえで、お互いにどの程度の非があったのかに応じて変わる可能性があります(過失相殺)。この点も、当事者同士が冷静に話し合うのは難しいため、弁護士に任せることで客観的事実をもとに適正な額での示談金で決着できる可能性を高められます。
なお、高校生自身が弁護士へ相談することもできますが、委任契約の際には法定代理人の同意が必要となるため、保護者の方をともなって相談するのがよいでしょう。
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6、まとめ
高校生のけんかでも相手にケガを負わせて精神的損害を与えれば、原則として高校生自身に慰謝料を支払う義務が生じます。また相手に暴力をふるえば暴行罪に、ケガをさせれば傷害罪に該当するため、未成年とはいえ逮捕される場合もあります。
「高校生のけんかだから」と軽視できない問題なので、自分や自分の子どもが刑事事件の加害者になってしまったらベリーベスト法律事務所の弁護士までご相談ください。少年事件の解決実績が豊富な弁護士が全力でサポートしますので、ご家族だけで悩まずにまずはご相談ください。
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