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転職時の経歴詐称は犯罪になる? 初犯でも罪に問われてしまうの?
転職や就職活動では、「応募先に好印象を与えたい」「何とか採用されたい」といった理由から経歴を詐称してしまうケースがあります。平成28年には、経歴を詐称して大阪市の公募校長に応募した男性が書類送検される事件も起きました。
経歴詐称をしたうえで採用された場合、本人が気になるのは「経歴詐称は犯罪にあたるのか?」「犯罪だとしたら初犯でも逮捕されるのか?」「発覚してしまうと解雇されるのか?」といった点でしょう。
本コラムでは経歴詐称をテーマに、これらの疑問についてベリーベスト法律事務所の弁護士がお答えします。
1、経歴を詐称したら犯罪になるのか
経歴詐称とは、社会や企業に対して事実と異なる経歴を表明することです。経歴詐称の種類としては、学歴詐称、職歴詐称、犯歴詐称があります。
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(1)学歴詐称
転職・就職活動では、採用の判断基準として学歴が考慮される場合があるため、学歴を詐称するケースがあります。
学歴詐称とは、次のような行為のことです。
- 高卒を大卒と偽る、大卒を高卒と偽る
- 学校名や学部名を偽る
- 中退だったが「卒業した」と偽る
- 入学・卒業年度を偽る
- 「首席で卒業した」のように成績を偽る
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(2)職歴詐称
即戦力の期待がある中途採用者は職歴が重視されるため、職歴詐称をするケースがあります。
職歴詐称は次のような行為のことです。
- 勤務していない企業での勤務歴があると偽る
- 役職の経験や職位を偽る
- アルバイトだったが「正社員だった」のように雇用形態を偽る
- 実際には所属していない部署や担当職務を挙げる
- 未保有の資格を挙げる
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(3)犯歴詐称
犯罪歴の有無は、対外的な信用や社内での適応力など、職業人としての前提となるものなので、犯歴詐称をするケースがあります。
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(4)経歴詐称は基本的には犯罪行為ではない
経歴詐称は基本的に犯罪行為ではないため、経歴の詐称をしたら、ただちに警察に通報される、逮捕されるといったことはありません。
ただし、一定の要件下でおこなわれた経歴詐称は罪に問われる場合があります。
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2、経歴詐称で問われる可能性のある罪
経歴詐称をすると、詐称の内容によって次の罪にあたる可能性があります。
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(1)文書偽造の罪
転職・就職に際して提出を求められた書類を偽ると、私文書偽造や公文書偽造の罪に問われる可能性があります。
●私文書偽造
私文書偽造は、行使の目的で、文書の作成権限のない者が、他人の名義を使用して私文書を偽造・変造した場合に成立する犯罪です(刑法第159条)。
履歴書や職務経歴書は私文書にあたりますが、これに虚偽の内容を記載しても、作成名義人を偽ったわけではありません。そのため私文書偽造罪は成立しないと考えられます。
ただし、他人の卒業証明書や資格の取得証明書を自分の名前に書き換えた場合のように、第三者が名義人となる書類を偽造・変造したケースは、私文書偽造の罪に問われる可能性があります。
●公文書偽造
公文書偽造は、行使の目的で、公的機関や公務員が作成する文書を偽造・変造した場合に成立する犯罪です(刑法第155条)。
履歴書や職務経歴書は公文書ではないため、それらを偽っても公文書偽造には該当しません。一方で、本人確認や各種手続の際に求められた健康保険証や運転免許証、住民票などの公的な文書を偽造・変造した場合は公文書偽造にあたります。 -
(2)詐欺罪
詐欺罪は人を欺いて財物を差し出させる犯罪です(刑法第246条)。転職・就職の機会にした経歴詐称が詐欺罪にあたり得るのは、次の2つをいずれも満たした場合です。
- 経歴を詐称して相手企業をだました
- 上記により財産的価値のあるものの交付を受けた、または財産上の不法の利益を得た
入社後に支払われた金銭が労働の対価としての賃金である限り、詐欺罪が成立するケースは少ないと考えられます。
しかし医師や弁護士のように高度な資格が契約の条件となる職種において、資格手当や契約料など、その資格に対して金銭が支払われた場合には詐欺罪が成立する可能性があります。 -
(3)軽犯罪法違反
軽犯罪法とは日常生活上の秩序違反を規制する法律です。
軽犯罪法第1条15号は、「官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称」する行為を処罰すると規定しています。
例えば、公務員だったと偽る、海外でMBAを取得したと偽るなどのケースで抵触する可能性があります。
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3、初犯の場合はどのような処分を受けるのか
経歴詐称が初犯だった場合の処分内容について解説します。
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(1)文書偽造の場合
私文書偽造の法定刑は3か月以上5年以下の懲役、公文書偽造の法定刑は1年以上10年以下の懲役と、いずれも懲役刑しか定められていません。つまり有罪になれば刑務所へ収監されます。
ただし初犯の場合で、同時にほかの犯罪が成立するなどの事情もなければ、執行猶予付き判決となる可能性があります。
執行猶予となっても前科が付きますが、社会生活を送りながら更生を目指せる点で、懲役の実刑判決とは大きな違いがあります。 -
(2)詐欺罪の場合
詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役と非常に重いものです。
判決が3年以下であれば執行猶予が付く可能性はありますが、だます方法が悪質だった場合や被害額が大きい場合には初犯でも実刑判決となる可能性があります。 -
(3)軽犯罪法違反の場合
軽犯罪法違反の法定刑は拘留または科料です。
- 拘留:1日以上30日未満の期間で刑事施設に拘置される刑罰
- 科料:1000円以上1万円未満の金銭を徴収される刑罰
いずれも刑罰の中では軽いものですが前科が付きます。
軽犯罪法違反の場合、住所不定、任意の出頭に応じないなどの事情がない限り逮捕・勾留されませんので、在宅捜査となるケースが多いでしょう(刑事訴訟法第199条、60条3項)。加えて初犯であれば不起訴となる可能性も十分にあります。
一方で、事件が複雑ではなく、刑罰自体も軽いことから、検察官が早期に起訴の判断を下す可能性もあります。起訴後の有罪率は極めて高いため、前科が付く事態も考えられるでしょう。 -
(4)民事責任に問われる可能性
経歴詐称では犯罪にあたるケースが限定的であり、刑事責任を問われる可能性はそれほど高くないといえます。それよりも問題となりやすいのが民事責任です。
経歴詐称における民事責任とは、損害賠償を請求される、解雇処分を受けるケースを指します。
- 損害賠償されるケース……業務と直接関係のある資格があると嘘をついて採用され、それによって企業に損害を与えた場合など
- 懲戒解雇されるケース……募集にあたり学歴要件が明示されていたのに虚偽の学歴を伝え、採否の判断に重要な影響をおよぼした場合など
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4、経歴詐称でトラブルになりそうな場合は弁護士に相談を
経歴詐称をしてしまった場合は、すみやかに弁護士へ相談しましょう。
経歴詐称が犯罪にあたる場合は相手方から被害届や告訴状を提出され、逮捕・勾留される可能性があります。そうなれば最長で23日間もの身柄拘束が続くため、日常生活への影響が必至です。
これを防ぐには早急に相手方へ謝罪をして許してもらい、被害届や告訴状の提出を回避することが重要ですが、経歴詐称をした本人の謝罪が受け入れられるとは考えにくいでしょう。弁護士に代理人となってもらうなどして丁寧な謝罪の意を伝えるのが賢明です。
万が一逮捕された場合には、弁護士が取調べ対応のアドバイスをする、検察官・裁判官に対して早期に身柄を解放してほしいと主張するなどのサポートを実施します。
民事責任についても、穏便な解決を求めて相手方へ働きかけます。
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5、まとめ
経歴詐称はただちに犯罪にあたるわけではありませんが、状況によっては犯罪の成立要件を満たす場合があります。また懲戒解雇や損害賠償請求の対象となる可能性もあり、軽く考えることはできません。
経歴詐称をしてしまいトラブルになりそうな場合には弁護士のアドバイスを仰ぎ、適切に対応しましょう。ベリーベスト法律事務所が力になりますので、まずはご相談ください。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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