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保釈が認められるには? 保釈保証金の金額はなにを基準に決まるのか?
令和2年12月、知人に対して公開前の株の購入をすすめた罪で逮捕されていた、全国展開する大手ディスカウントストアの前社長が保釈されました。報道によると1000万円もの保釈金を支払ったうえでの保釈だったようです。
「保釈」と聞くと、まずニュース報道などで目を引くのは保釈金の額でしょう。著名人・芸能人などが逮捕され、保釈を受ける際には、数百万~数千万円の保釈金を支払ったと報じられますが、一般人でもやはり驚くような高額の保釈金の支払いを求められるのでしょうか。
保釈には権利保釈・裁量保釈・義務的保釈の3種類がありますが、どのような条件でどの種類の保釈が認められるのかも気になるところです。
このコラムでは「保釈」が認められる条件や保釈の際に支払う「保証金」の金額が決まる基準について弁護士が解説します。
1、権利保釈が認められる場合
刑事裁判によって審理される身となった被告人は、裁判を維持するために「勾留」による身柄拘束を受ける場合があります。この身柄拘束を、一定条件のもと一時的に解放する制度が保釈です。保釈の請求は被告人がもつ権利です。
保釈の3つの種類について、以下より詳しく解説してきましょう。
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(1)権利保釈とは
刑事訴訟法第89条は、一定の除外事由にあたる場合を除いて、被告人やその弁護人などからの保釈請求を受けた場合、裁判所はこれを認めなければならないと規定しています。これを「権利保釈」といいます。
保釈の請求は、刑事裁判の被告人にとって「当然の権利」なのです。 -
(2)6つの除外事由
刑事訴訟法第89条には、権利保釈に関する6つの「除外事由」が明示されています。ここで挙げる除外事由に該当している場合は、権利保釈が認められません。
●重大な罪を犯した
死刑または無期もしくは短期1年以上の懲役もしくは禁錮にあたる重大な罪を犯した事件であるときは、権利保釈の対象外です。短期1年以上とは、法定刑の下限が1年以上であることを指します。
●過去に重大犯罪で有罪判決を受けた経歴がある
過去に死刑・無期・長期10年を超える懲役もしくは禁錮にあたる罪で有罪判決を受けた経歴があれば、権利保釈は認められません。実際に下された刑罰は関係がなく、法定刑がこの条件に合致していれば除外事由となります。長期10年とは、法定刑の上限が10年という意味です。
●常習として長期3年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯した
法定刑が短期1年以上、長期10年を超える重罪ではない場合でも、常習として長期3年以上の懲役・禁錮にあたる罪を犯した場合は権利保釈の対象外となります。
以前に有罪判決を受けた経歴だけでなく、過去に不起訴処分が下された事件やまだ判決が確定していない別の事件、起訴されていない余罪なども「常習」を判断する材料になるので注意が必要です。
●証拠隠滅を疑う相当な理由がある
重要な証拠を隠滅する、関係者との口裏合わせを画策するなどの疑いがあれば、権利保釈は認められません。
●証人などに危害を加えるおそれがある
被害者や目撃者・参考人などに対して危害を加えるおそれがある場合も、除外事由にあたるため権利保釈の対象外となります。
●氏名または住居が不明
氏名・住居がわからない場合は、権利保釈が認められません。「住居不明」とは、住民票上の住所がないことを意味するのではなく、定まった住居地がないことを意味します。
たとえば、知人の家を転々としていた、ホテルなどを仮住まいとしていたといったケースでは、居所がわからなくなるので権利保釈を認めるわけにはいかないのです。
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2、裁量保釈が認められる場合
権利保釈を請求しても除外事由にあたるため認められない場合は、裁判官の職権による「裁量保釈」が検討されることになります。
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(1)裁量保釈とは
刑事訴訟法第90条には、裁判官の職権による保釈が規定されています。これを「裁量保釈」と呼び、別名として「職権保釈」とも呼ばれています。
権利保釈は、6つの除外事由にあたらない場合は必ず認められるものである一方で、ひとつでも除外事由にあたる場合は必ず却下されるものです。しかし、実際の刑事事件に目を向けると、6つの除外事由のうちいずれかに抵触してしまうケースが多いため、権利保釈が認められない状況もめずらしくありません。
そこで、権利保釈の除外事由にあたる場合でも「特別の事情」が認められるケースにおいては、裁判官の裁量による保釈が認められているのです。 -
(2)裁量保釈における「特別の事情」
裁量保釈が認められる特別の事情とは、次のような状況が考えられます。
●身柄拘束によって健康上の不利益を受けるおそれがある
重い持病を患っており、身柄拘束を受けることで病状の悪化や生命の危険があるといった状況では、裁量保釈が認められやすくなります。薬物・アルコールなどの依存症治療を受けることも、健康上の不利益を解消する目的として認められる可能性があるでしょう。
●身柄拘束が続くことで経済上・社会生活上の不利益を受けるおそれがある
身柄拘束が続くことによって、会社からの解雇や学校からの退学処分を受けるおそれがあるなどのケースが考えられるでしょう。被告人が会社経営者などの場合は、事業の継続を理由にして裁量保釈が認められることも考えられます。
また、母子・父子家庭の親が事件を起こしたケースでは、子どもの養育が必要であるため特別の事情があると判断されやすくなるでしょう。
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3、義務的保釈が認められる場合
権利保釈・裁量保釈に加えて、さらに別の条件下において認められるのが「義務的保釈」です。
刑事訴訟法第91条1項は、勾留による身体の拘束(拘禁)が不当に長くなった場合を対象に、裁判官の職権による保釈を認めています。勾留が取り消され、必ず保釈が認められるため、義務的保釈と呼ばれています。
ただし、義務的保釈が認められるケースはごくまれです。刑事訴訟法が想定する「勾留による拘禁が不当に長くなった」という状況は、たとえばある事件を捜査するために別の容疑で逮捕・勾留して取り調べる「別件逮捕」が考えられるでしょう。余罪が複数の事件では、別件逮捕を繰り返せば不当に長い勾留を受ける状況があるかもしれません。
とはいえ、いくら検察官が勾留を請求しても、勾留の可否を審査する裁判官がこれを認めない限り、勾留が決定することはありません。
つまり、勾留が決定する段階ですでに裁判官による審査を受けているため、不当に長い勾留を受ける事態はほとんどなく、したがって義務的保釈が認められるケースも少ないと考えるべきでしょう。
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4、保釈保証金の金額を決める基準とは
保釈が認められるには「保釈保証金」を支払う必要があります。
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(1)保釈保証金とは
保釈保証金とは、裁判所が保釈を認める際に被告人に納付を課す担保の一種です。ニュースの報道などでは「保釈金」と呼ばれています。
保釈保証金は、条件を守って刑事裁判を受ければ、結審したあとに裁判所から全額返還されます。なぜ返還されるかというと、保釈保証金の目的が、保釈された被告人に条件を遵守させるためだからです。
これは、判決の内容が有罪でも無罪でも関係ありません。「有罪になると返還されない」というイメージがあるかもしれませんが、それは間違いです。
ただし、指定された期日に出頭しない、無断で引っ越しをする、居所をくらませるといった条件違反があれば、保釈が取り消されたうえで保釈保証金も没取されます。 -
(2)金額の基準
保釈保証金の金額は、主に被告人の経済能力と想定される刑罰の重さによって決定します。
たとえば、一般企業に勤めているサラリーマンと、年俸数億円のスポーツ選手とで、同じ金額の保釈保証金を設定しては担保としての効力が異なります。この不公平を是正するために、一般には、経済能力が低ければ保釈保証金も安くなり、資産が豊富であれば保釈保証金も高額になっています。
また、重大事件を起こして重い刑罰が科せられる見込みであれば、逃亡や証拠隠滅を図る危険も増すため、保釈保証金が高額になりやすい傾向があります(刑事訴訟法93条2項)。
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5、保釈保証金は立て替えができる
保釈保証金の金額が100万円を下回ることはほとんどありません。経済能力が高くない場合でも、100万円以上の金額が設定されるケースが多いので、すぐに保釈保証金を用意できないといった状況もあるでしょう。
とはいえ、保釈保証金を支払わない限り、保釈は認められません。社会復帰を早めるためにも、保釈保証金の工面に時間がかかってしまう事態は避けるべきです。
保釈保証金が用意できない場合は、一般社団法人日本保釈支援協会の「保釈保証金立替システム」の利用を検討しましょう。
銀行などの金融機関では保釈保証金の支払いを目的とした融資が認められない傾向があり、高利の消費者金融などに頼っていると社会復帰後の重い足かせになってしまいます。日本保釈支援協会の立替システムを利用すれば、わずかな手数料で500万円を限度に保釈保証金を立て替えてくれます。
条件を守って保釈保証金が返還されたあとに返済すれば金銭的な負担は大幅に軽減できるので、積極的に活用しましょう。
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6、保釈の実現に向けて弁護士が行う活動とは
刑事事件の被告人として起訴されてしまったとしても、保釈が認められれば一時的にとはいえ身柄が解放されます。会社や学校への復帰、家族へのケアなどを考えれば、保釈はぜひ有効に活用するべきです。
ただし、3つの種類のうちどの保釈を目指すべきなのか、保釈が認められるためにはどのように主張してどのような証拠を集めればよいのかといった問題にも悩むことになるでしょう。
弁護士に相談してサポートを受ければ、事件の内容を詳しく精査したうえで、どの保釈を主張すれば認められやすいのか、保釈を実現するにはどのような主張が有効なのかのアドバイスが得られます。
保釈申請の手続きを手伝うだけでなく、裁判官が保釈を認めるうえで有効な証拠の収集・提示も可能です。被告人自身や家族だけで対応するよりも保釈が認められる可能性が高まるでしょう。
保釈後は刑事裁判で有利な判決を獲得するための準備を進めることになります。執行猶予や刑の減軽を獲得するには、刑事事件の弁護実績が豊富な弁護士のサポートが欠かせません。
保釈の実現に加えて、保釈後の刑事弁護も安心して一任できる弁護士への相談をおすすめします。
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7、まとめ
保釈が認められれば、身柄拘束が解かれた状態で刑事裁判を受けることが可能です。会社や学校、家族との関係維持を考えれば、保釈保証金を用立ててでも保釈を受けるほうが賢明でしょう。保釈保証金の用意ができない場合は、日本保釈支援協会の立替システムを利用するといった解決法もあります。
「保釈が認められるかどうかわからない」「保釈金を用意できない」といったお悩みがあれば、刑事事件の弁護実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。保釈の実現に向けて全力でサポートします。
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ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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