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弁護士コラム

2021年03月15日
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心神喪失が判決に与える影響は? 精神状態と責任能力についての判断

心神喪失が判決に与える影響は? 精神状態と責任能力についての判断
心神喪失が判決に与える影響は? 精神状態と責任能力についての判断

令和2年12月、スーパーで万引きをしたとして平成27年に窃盗罪の有罪判決(執行猶予つき)が確定した男性が、事件当時には心神喪失状態にあり責任能力がなかったとして再審を請求しました。
この判決の約2か月後に起こした別の万引き事件で認知症による心神喪失状態を理由に無罪判決が確定したことを受け、有罪判決が確定した事件の当時にも責任能力がなかったことを主張しています。

刑事事件ではこのケースのように心神喪失が問題となる場合がありますが、何らかの精神疾患を抱えている場合には必ず心神喪失が認められて無罪になるのでしょうか? 本コラムでは心神喪失と責任能力の関係について、実際の裁判例を挙げながら解説します。

1、心神喪失と責任能力の関係とは

刑事事件の被告人が「心神喪失の状態にある」と認められると、責任能力がないとして裁判で無罪判決を言い渡されます。心神喪失とは何か、心神喪失と責任能力はどのような関係にあるのかを解説します。

  1. (1)犯罪が成立するための3つの要件

    心神喪失とは何かを知るために、そもそも犯罪がどのように成立するのかを確認しましょう。犯罪は、次の3つをすべて満たした場合に成立します。

    ●行為が構成要件に該当すること
    構成要件とは、法律の条文で定義された、犯罪が成立するための原則的な要件をいいます。たとえば窃盗罪の場合は刑法第235条で「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪として……」と記載されていますが、「他人の財物を窃取した」というのが構成要件です。

    ●違法性阻却事由がないこと
    構成要件に該当する行為は、一応は違法性が推定されますが、例外的にその推定を破る事由があります。これを違法性阻却事由といい、たとえば正当防衛が成立する場合は違法性がなくなるため犯罪が成立しません

    ●責任能力があること
    責任能力とは、物事の善し悪しを判断し、その判断に従って行動できる能力のことをいいます。責任能力がない者がした行為は法的に非難できず、刑罰を科すことができません。具体的には14歳未満の者が挙げられますが、14歳以上でも責任能力がないとされる場合があります。それが「心神喪失」です。

  2. (2)心神喪失とは

    心神喪失とは、精神の障害により、善悪を区別し、自分の行動をコントロールする能力がまったくない状態をいいます。

    刑法第39条1項で「心神喪失者の行為は、罰しない」としているとおり、心神喪失者のした行為は犯罪が成立せず、処罰されません。

  3. (3)心神耗弱とは

    心神耗弱とは、精神の障害により、善悪を区別し、自分の行動をコントロールする能力が非常に低い状態をいいます。

    心神耗弱者は、心神喪失者のように責任能力がまったくないわけではないため犯罪が成立します。しかし、責任能力が著しく欠如しているため完全な責任能力者と同等に処罰するわけにはいきません。そこで刑法第39条2項では「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と、必ず刑を減軽するよう定めています。

  4. (4)どの時点の責任能力が問題になるのか

    責任能力は犯罪行為をした時点で存在する必要があります。たとえば犯罪行為のときには完全に責任能力があったが、その後に認知症になり責任能力を欠いたとしても、犯罪が成立するかどうかに影響はありません

    冒頭の事例では、窃盗をした当時にはすでに認知症が発症していたのだから刑事責任を問えないと主張しているわけです。

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2、精神鑑定の役割と、責任能力に関係する疾患や障害について

責任能力の有無や事件への影響を判断するにあたり、精神鑑定が実施される場合があります。精神鑑定の役割や対象となる可能性のある疾患・障害を見ていきましょう。

  1. (1)精神鑑定とは

    被疑者・被告人に責任能力があったのか、また事件にどのように影響したのかを判断するのは検察官や裁判官です。しかし検察官や裁判官は医学の専門家ではないため、精神医学などの専門家である精神科医の意見を聴いたうえで検討する必要があります。そこで実施されるのが「精神鑑定」です。

    精神鑑定では、鑑定人(精神科医)が被疑者・被告人に対して面談や心理テスト、脳の検査などを実施し、どのくらい犯行に関与したのかを明らかにしたうえで、検察官・裁判官へ意見を伝えます

  2. (2)精神鑑定の対象になることがある疾患や障害

    どのような疾患や障害があれば精神鑑定が実施されるのかに一律的な決まりはありませんが、たとえば次の疾患・障害が対象となる場合があります。

    ●統合失調症
    幻覚や妄想を特徴とする統合失調症は、責任能力の判断で特に問題になりやすい精神疾患です。少し古いデータですが、平成16年に心神喪失または心神耗弱として認められた649人のうち、統合失調症は402人と最多でした(平成17年版犯罪白書より)。

    ●知的障害
    精神遅滞などの知的障害が重度のときは、心神喪失が認められるケースがあります。中度のときは稀に心神耗弱が認められるケースがありますが、軽度のときは完全に責任能力があると判断されやすい傾向があります。

    ●発達障害
    自閉症やアスペルガー症候群などの発達障害は完全に責任能力があると判断されるケースが多いでしょう。稀に心神耗弱が認められるケースもあります。

    ●躁うつ病
    躁状態とうつ状態を繰り返す躁うつ病では、心神喪失・耗弱が認められるケースは非常に稀ですが、重度であれば認められるケースがあります。

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3、責任能力の判断が判決に影響を与えた裁判例を紹介

ここで、責任能力の有無や程度が判決に影響を与えた裁判例を見ていきましょう。

  1. (1)住居侵入・窃盗未遂事件

    マンションの502号室に住む被告人が、窃盗の目的で、同じマンションの302号室に侵入して本棚を物色したが、住人がいることに気づいたために逃走したとして、住居侵入および窃盗未遂罪に問われた事件です。弁護人は、被告人には住居侵入および窃盗の故意が認められず、責任能力も欠いた状態であったことを理由に、無罪を主張していました。

    裁判では被告人の責任能力について、買い物に出かけるためにひとりでエレベーターに乗って外出するなどし、警察官の職務質問にも対応できていたことから、責任能力が著しく減退していたとまでは認められず、責任能力を有していたことは明らかであるとされました。

    一方で、主治医の供述からは被告人が器質性精神病に罹患しており、判断能力や知能などが低下した状態にあったことが認められました。また事件の直後に、自らが502号室に住んでいる旨を警察官に告げながら、間違えて402号室に入ろうとした事実があったことから、緊張したり慌てたりした場合には混乱した精神状態に陥ることが推認できるとされました。

    判決では、被告人が混乱した精神状態の下、502号室と間違えて302号室に立ち入った可能性を否定できないため、住居窃盗および窃盗の故意が認められないとして、無罪が言い渡されました(平成30(わ)2034 住居侵入、窃盗未遂被告事件)。

  2. (2)殺人未遂事件

    自宅の台所において、同居の長女に対して殺意をもって背後から腰背部を出刃包丁で1回突き刺したが、同女に取り押さえられて未遂に終わったとする殺人未遂事件です。

    争点になったのは被告人の責任能力でした。第一審は被告人に完全責任能力があるとし、殺人未遂罪の成立を認めています。しかし弁護人は、被告人は統合失調症の精神症状である作為体験(奇異な妄想)により自己の意思とは関係なく体が動いたために長女を刺したのであって殺意はなく、心神喪失状態であったため責任能力はなかったと主張し、控訴していました。

    精神鑑定では被告人の責任能力について、事件の当時被告人は統合失調症に罹患しており、その陽性症状である作為体験が出現し、守護霊によって体を動かされていたとして、自らの意思によらないで行為におよんだ可能性が否定できないとしました。

    さらに作為体験が出現することは統合失調症として重症であり、その作為体験に抵抗して行動することは困難であったといえることから、被告人は心神喪失の状態にあったとの合理的な疑いがあるとしました。

    判決では、被告人が長女を刺した行為は、統合失調症の陽性症状である作為体験の影響によるものであった可能性が否定できないとして、第一審の判決を破棄し、無罪判決を言い渡しました(令和2(う)32 殺人未遂被告事件)。

  3. (3)死体損壊・死体遺棄・殺人事件

    被害者を殺害したうえで遺体を切断し、一部を焼却ゴミとして処分、さらに河川敷内に投棄したとして、殺人および死体損壊・遺棄罪に問われた事件です。

    争点となったのは、①被告人が被害者を殺害したかと、②被告人の責任能力の有無および程度です。

    ①について、被告人は被害者が自殺したとして殺人罪の無罪を主張していましたが、裁判官は解剖所見や被害者の状況、事件前後の被告人の行動、動機などに照らし、被告人が殺害した事実に疑いの余地はないとしました。

    ②について、弁護人は、被告人が精神障害によって心神喪失または心神耗弱に陥っていた可能性があるとして、死体損壊・遺棄罪で執行猶予つきの判決を求めていました。

    精神鑑定によると、被告人は事件当時、自閉症スペクトラム障害およびパーソナリティの偏りを有していたものの、重篤な判断能力の障害を伴う精神障害への罹患がなく、意識障害をきたしていた可能性もないとしました。

    また犯行前後の被告人の行動に照らし、事件当時、善悪の判断や行動をコントロールする能力が低下していたことをうかがわせる事情は見当たらないため、完全責任能力があったとしました。

    判決では、鑑定の信用性は高いとし、懲役15年が言い渡されました。裁判官は量刑の理由として、被害者の尊厳を著しく毀損(きそん)する残忍な犯行であったとする一方で、長年にわたり被害者から行き過ぎた干渉を受けてきたことから犯行に至る経緯には同情の余地があるなどと述べました。

    なお、被告側は控訴したため判決は確定していませんが、被告人は一転して殺人を認めているようです(平成30(わ)293 死体損壊、死体遺棄、殺人被告事件)。

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4、簡単に心神喪失が認められ無罪になるわけではない

紹介した事例のように心神喪失が認められて無罪判決となるケースや、裁判になる前に不起訴処分となるケースは存在します。しかし心神喪失・耗弱の判断は極めて厳しく、簡単に認められるものではありません

そもそも統合失調症や躁うつ病などの精神障害の存在を立証する必要があります。さらにはそれによって善悪の判断や行動のコントロールができなかったことまで立証しなければならないのです。

また刑法第39条にいう心神喪失・耗弱に該当するかどうかは法律の問題なので、最終的には検察官や裁判官が判断します。精神科医の鑑定能力や公正さに問題があるなどの事情がなければ重要な意見として参考にされますが、仮に精神鑑定の結果が心神喪失だとされても、必ずしも不起訴処分や無罪、減軽となるわけではないのです。

精神疾患を抱えている被疑者・被告人が不起訴処分や刑の減軽を獲得するには、責任能力の有無を争うだけが方法ではありません。

たとえば窃盗症(クレプトマニア)である場合は、本人が精神的な問題であることを受け入れ、医療機関を受診する、カウンセリングを受けるなどの行動を起こすことで、再犯のおそれが低く、社会の中での更生が可能であるとして不起訴処分や執行猶予となる可能性があります。

責任能力がないため犯罪が成立しないと主張するべきか、罪は認めたうえで再犯防止策の徹底や深い反省などによる情状酌量を求めるべきなのかは、事件によって異なります。難しい判断を要する問題なので弁護士に相談するべきでしょう

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5、まとめ

心神喪失とは、精神の障害により善悪を区別して行動をコントロール能力がない状態を、心神耗弱とは、その能力が非常に低い状態をいいます。心神喪失・耗弱が認められると不起訴処分になる場合や、裁判で無罪判決が言い渡される場合があります。しかし、その判断は非常に厳しく、決して簡単に認められるものではありません。

重すぎる刑罰を回避するという目的であれば、被害者との示談交渉や情状の主張などさまざまな方法があります。まずは刑事事件の弁護実績が豊富なベリーベスト法律事務所へご相談ください。全力でサポートします。

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監修者
萩原 達也
弁護士会:
第一東京弁護士会
登録番号:
29985

ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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