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前科と前歴の違いとは? 前科がつくことで生じる不利益や影響
「前科がつく」「前科者になる」などの表現がありますが、具体的に前科とはどのような状態を指す言葉なのかを、法的な観点から知っている方は多くないでしょう。前科がつくことの影響についてインターネット上では不確かな情報も存在するので注意が必要です。
本コラムでは、前科の定義や前歴との違いを説明したうえで、前科がつくことの影響や前科が消えるケースについて解説します。
また、交通違反で反則金を支払ったような場合でも前科がつき、不利益を被ることがあるのか、など知っておきたい身近な知識もご紹介します。あわせて、前科をつけないための弁護活動についても知っておきましょう。
1、前科と前歴の違い
最初に「前科」とは何か、前科と似た言葉である「前歴」との違いを含めて解説します。
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(1)前科とは
前科とは裁判で有罪判決を受け、刑が確定した経歴を指す言葉です。有罪判決と聞くと刑務所へ収監されるイメージがあるかもしれませんが、ここでいう有罪判決は懲役や禁錮などに限らず、罰金も含みます。
一方で、逮捕された、勾留された、起訴されて裁判になったなどの段階は、裁判で有罪判決を受けたわけではないので、前科がついたとはいえません。 -
(2)前歴とは
前歴とは、警察や検察などの捜査機関から犯罪捜査を受けた事実を指す、前科よりも幅広い概念です。
次のようなケースでは「前歴がある」といえます。- ● 逮捕・勾留されたが不起訴処分になった
- ● 逮捕されずに在宅捜査を受けていたが不起訴処分になった
- ● 逮捕・起訴され裁判になったが無罪判決が言い渡された
単なる参考人として警察に事情を聴かれた場合や、ごく軽微な秩序違反だったために警察からの厳重注意で済んだ場合には、前科はもちろん前歴としても扱われていない可能性が高いでしょう。
なお、未成年のときに刑事事件を起こし、家庭裁判所の審判により処分を言い渡された場合は、刑の言い渡しではないため前科ではなく前歴にあたります。ただし、一定の重罪を犯した未成年は検察官に送致されて刑事裁判を受けるため、有罪判決を受ければ前科となります。
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2、前科はどこに記録されるのか?
前科は具体的にどこに記録されるのか、また一般の人が前科を確認する手段はあるのかについて解説します。
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(1)犯罪人名簿に記録される前科
前科が戸籍や住民票に記載されることはありません。前科は、有罪判決が確定した人の本籍地のある自治体が保管する「犯罪人名簿」に記録されます。
犯罪人名簿とは、一定の職業に関する資格や選挙権・被選挙権の有無を確認するために、罰金以上の前科が記録された名簿のことです(ただし、道路交通関係の罰金前科は記載されない)。有罪判決が確定した人の氏名や罪名、量刑などが記載されています。前歴は記載されていません。
たとえば選挙権について、公職にある間に収賄罪を犯した場合や、選挙に関する犯罪で禁錮以上の刑となり執行猶予期間中の場合などには選挙権を失います(公職選挙法第11条)。このような欠格事由の確認などに使われるのが犯罪人名簿であり、目的外の使用は許されていません。
したがって、一般の人はもちろん、弁護士や公務員という理由だけで見ることや、本人が見ることはできません。極めてプライバシー性の高い記録として厳格に管理されています。 -
(2)検察庁のデータベースに残る前科
自治体に保管される犯罪人名簿とは別に、検察庁の「電子計算機または犯歴票への前科の登録」によっても前科が記録されます。これも非常に厳格に管理される情報ですが、犯罪人名簿とは異なり、刑事事件の手続きに必要な範囲において使用されます。また明治以前の出生者や法人・団体、道路交通関係違反などを除く、全事件の前科が記録されています(犯罪事務規定第2条)。
検察庁の記録を照会できるのは、検察官または検察事務官が職務上の必要にもとづいて照会する場合だけです。捜査関係者でもない一般の人が検察庁に尋ねても、誰かの前科に関する情報を教えてくれることはありません。
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3、前科の定義と具体的ケース
前科がつくのは、刑事事件を起こし、裁判で刑罰が言い渡された場合だけです。「逮捕=前科」と誤解する方もいますが、逮捕されただけで前科がつくわけではありません。では具体的にどんな刑罰を受けると「前科がついた」といえるのでしょうか。刑罰の種類と前科がつくケースを見ていきましょう。
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(1)裁判で言い渡される刑罰の種類
日本に存在する刑罰は刑法第9条に規定されており、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料の6種類です。裁判でいずれかの刑が言い渡されれば前科がつきます。
以下、刑の内容を簡単に説明します。- ● 死刑:生命を奪う刑
- ● 懲役:無期または1か月以上20年以下の間、刑務所に収監し、刑務作業を科す刑
- ● 禁錮:無期または1か月以上20年以下の間、刑務所に収監する刑
- ● 罰金:1万円以上の金銭を徴収する刑
- ● 拘留:1日以上30日未満の間、刑務所に収監する刑
- ● 科料:1000円以上1万円未満の金銭を徴収する刑
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(2)略式裁判や執行猶予でも前科がつく
刑罰の中で罰金・科料は略式裁判と呼ばれる書面のみの簡略化した手続きで言い渡されるケースが多い刑ですが、有罪判決が確定した事実に変わりはないため前科になります。
また3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金の判決には、一定期間、刑の執行が猶予される「執行猶予」がつく場合がありますが、これも有罪判決に変わりがないため、前科となります。
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4、前科によって生じる不利益とは?
前科があると、日常生活を送るうえでどのような不利益を受けるのかについて解説します。
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(1)一定の職業における制限
医師や弁護士、公認会計士などの国家資格者や、公務員、警備員、貸金業など一定の職業に制限がかかります。制限の具体的な内容は各職業に関する法令で定めるところによりますが、たとえば医師の場合、罰金以上の前科があると「戒告」「3年以内の医業の停止」「免許の取り消し」のいずれかの処分を受ける場合があります(医師法第4条、第7条2項)。
ほかの職業でも、業務の停止や免許の取り消し、登録の取り消しなどの制限を受ける場合があります。 -
(2)就職活動をする際の影響
応募時に提出する履歴書に賞罰欄がある場合や、採用手続における確認の必要性を十分に説明されたうえで前科の有無を質問された場合には、前科を隠していると経歴詐称にあたります。これが採用の可否を左右するような重大な詐称と判断された場合には、解雇事由になり得るでしょう。
賞罰欄のない履歴書を提出する場合や応募先の企業から特に質問がなかった場合には、前科の有無を積極的に申告する必要はありません。
ただし、事件が実名報道されたケースでは、インターネットや新聞記事データベースの検索によって、応募先に知られる可能性があります。前科が採用の可否に必ずしも影響するとは限りませんが、企業の考え方によっては影響する可能性が否定できないでしょう。 -
(3)海外渡航の制限
禁錮以上の刑が確定して執行猶予期間が経過していない場合などは、パスポートの発給が制限される可能性があります(旅券法第13条)。また一部の国ではビザの申請や永住権の申請などで「犯罪経歴証明書」を求められる場合があるため、渡航先によっては前科があることで申請が通らない可能性もあります。
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(4)刑事手続上の影響
再び罪を犯したときの刑事手続に影響する可能性があります。たとえば前科があることで執行猶予がつかない場合がある、再犯とされた場合に刑が加重されるといったものです(刑法第25条、第56条、第57条)。
また、前科の有無は量刑を判断する際に考慮されるひとつの要素なので、量刑が重くなる可能性もあるでしょう。
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5、交通事故の反則金は前科になる?
一時停止をしなかった、駐車違反をしたなどの交通違反では違反点数が加算されたうえで「反則金」と呼ばれる金銭の納付を求められます。この場合にも前科・前歴はつくのでしょうか。
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(1)交通違反の反則金とは
交通違反の反則金とは、交通反則通告制度にもとづき金銭を納付することによって、刑事手続を免れる制度をいいます。
交通社会の発展にともない日々多くの交通事件が発生する中で、軽微な交通違反に対しては簡略化した手続きで済ませることにより、警察や裁判所、ドライバーの負担を減らすために設けられている制度です。
この制度が適用される交通違反をすると、警察官から告知書(いわゆる青切符)と納付書を渡されるので、速やかに指定された額の反則金を納付する必要があります。 -
(2)反則金を納付しても前科にならない
反則金は刑事罰としての罰金や科料と「金銭を納付する」という点は共通していますが、あくまでも行政罰なので前科はつきません。
ただし、通告に従わず反則金を納付しない場合は、道路交通法違反事件として刑事手続に移行するため、検察官に起訴され裁判で有罪になれば前科がついてしまいます。 -
(3)交通違反における前歴とは
交通違反の前歴とは、過去3年の間に免許停止や免許取り消しなどの行政処分を受けたことをいいます。青切符などの交通違反で処理されただけでは前歴は残りません。
一般的な刑事事件における前歴とは異なり、3年間行政処分を受けなければ交通違反の前歴は0回になります。また最後の交通違反から1年間無事故・無違反で過ごせば、それ以前の前歴は消滅します。 -
(4)交通違反における前科とは
交通違反の中でも、無免許運転や酒酔い運転などの悪質性が高い違反については反則金の適用がなく、罰金や懲役といった刑罰が適用されます。いわゆる赤切符の対象となる違反です。
この場合はほかの刑事事件と同じように裁判となり、有罪判決を受けた場合は前科がつきます。
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6、刑の消滅によって前科は消えるのか?
前科があるといっても、すでに刑を受けて罪を償った人に対して、職業制限や渡航制限などの不利益を生涯にわたってもたらせば、更生の妨げになります。そうなれば、本人やその家族が苦労するのはもちろん、社会全体から見ても不利益が大きいでしょう。そこで設けられているのが「刑の消滅」という規定です(刑法第34条の2)。
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(1)「刑の消滅」の条件とは
禁錮・懲役の刑期を終えた者が、罰金以上の刑に処せられないで10年を経過したときには刑が消滅します。また、罰金・科料の刑を言い渡されて定められた金額を納付した者が、罰金以上の刑に処せられないで5年を経過したときには、同じく刑が消滅します。
なお、いわゆる実刑ではなく、判決に執行猶予がついた場合は、執行猶予期間の経過によって刑が消滅します(刑法第27条)。 -
(2)犯罪人名簿から抹消される
刑が消滅しても罪を犯した事実は消えないため、前科そのものがなくなるわけではありません。しかし犯罪人名簿から抹消されることで前科による不利益がなくなり、社会で活躍しやすくなります。
具体的には、職業制限がなくなるため、要件を満たしたうえで新たにその職業に就くことや、業務が停止されていた場合は業務を開始することができます。
警察庁が発行する犯罪経歴証明書に記載される前科でなくなるため、海外渡航にも制限がなくなります。また履歴書の賞罰欄に記載しなくても経歴詐称にはあたらないため、就職活動で気にする必要もありません。 -
(3)検察庁のデータベースには残る
刑の消滅によって犯罪人名簿から抹消されても、検察庁で保管される前科の記録は残ります。検察庁の記録が抹消されるのは、該当者が死亡した場合のみです。したがって、再び罪を犯した場合に量刑の判断に影響をおよぼす可能性は依然として残り続けます。
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7、前科をつけないための弁護活動
前科を回避するためには弁護士のサポートが不可欠です。弁護士に相談し、前科をつけないための活動をしてもらいましょう。
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(1)前科をつけないためには
起訴されて裁判になった場合でも、最終的に無罪判決が言い渡されれば前科はつきません。しかし日本の司法では起訴された場合の有罪率が90%以上と極めて高いため、無罪判決の獲得は難しいのが実情です。
そのため、起訴されない活動、つまり不起訴処分を目指した弁護活動が有効です。不起訴処分になればそもそも裁判が開かれないため、前科もつきません。 -
(2)不起訴処分を目指す弁護活動とは
検察官が起訴・不起訴の判断をする際には、事件の内容や被疑者の年齢、性格、境遇などのほかに、被害者の処罰感情や本人の反省、再犯の可能性などを考慮します。
そのため、不起訴処分の獲得を目指すには、被害者の処罰感情が緩和されたこと、本人が深く反省していること、再犯の可能性が低いことなどを示す活動が重要です。
たとえば、被害者がいる犯罪では、被害者との示談が有効です。示談とは被害者に対して謝罪や被害弁償を行って許しを得ることをいい、被害者の処罰感情が緩和された証しとなります。示談ができない場合や被害者がいない犯罪では、贖罪(しょくざい)寄付をするのもひとつの方法です。贖罪寄付とは自らの行動を悔い改める気持ちを表すために、公的な団体に寄付することをいいます。
また、家族の監督体制を整える、専門機関の治療を受けるなどの具体的な再犯防止策を提示し、再犯の可能性が低いと主張する活動も考えられるでしょう。
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8、まとめ
前科とは刑事裁判で有罪判決を受けた履歴のことをいい、単に捜査対象となった場合を含む前歴とは区別されています。前科がつくと就業や海外渡航が制限されるなどの不利益が生じるため、刑事事件を起こしてしまった場合は弁護士に相談し、前科がつかないための活動をサポートしてもらうことが大切です。
前科がつくことに不安を感じているのであれば、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。刑事事件の経験豊富な弁護士が事件の解決に向けて力を尽くします。
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