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軽犯罪法違反で逮捕されることはある? 実際に問われる罰則や事例とは
日常生活における身近な道徳律に違反する軽い犯罪行為の類型と、それに対する刑罰を規定した法律が「軽犯罪法」です。
その名のとおり、取締りの対象としているのは刑法などの処罰法令が罰するものよりも軽微な行為ばかりですが、決して軽視してはいけません。
一定の条件を満たせば逮捕・勾留される可能性があり、裁判に発展するケースもあります。軽犯罪法も処罰法令のひとつなので、当然ながら刑罰が規定されており、有罪になれば前科がついてしまいます。
このコラムでは「軽犯罪法」について弁護士が分かりやすく解説します。どのような行為が処罰の対象となっており、どの程度の刑罰が下されるのか、逮捕の可能性はどのくらいあるのかなどを確認していきましょう。
1、軽犯罪法とは
「軽犯罪法」とはどのような法律で、どんな行為を処罰の対象にしているのでしょうか?
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(1)軽犯罪法の意義と目的
軽犯罪法は、昭和23年に制定された比較的古い法律です。日常における身近な道徳律に違反する軽い犯罪の類型と、それに対する刑罰を定めた法律として制定されました。処罰の対象としている行為も刑法などで罰するものよりも軽微なものばかりです。
軽犯罪法の主な目的は、刑法犯ほど重大ではなくても、誰もが迷惑であり、道徳に反する行為を処罰することにより、国民生活の秩序を維持すること、より重い犯罪に発展する恐れのある軽微な行為を処罰することにより、重大犯罪を未然に防止することにあります。
このように、軽犯罪法は、刑法と、処罰されない道徳との中間に位置する軽微な犯罪を規定するものですから、たとえ処罰の対象とする行為があったとしても、適用にあたっては国民の権利を不当に侵害しないように留意することが定められています。
また、警察などの捜査機関が、軽犯罪法がもつ本来の目的を逸脱してほかの目的のために乱用することがないよう規定されているため、いわゆる「別件逮捕」などのための適用は認められません。 -
(2)軽犯罪法が処罰の対象とする行為
軽犯罪法では、第1条において「33の行為」が処罰対象に掲げられています。制定当時は34でしたが、動物愛護法の制定に伴い「動物虐待」の行為が削除されたため、現在のかたちにおさまったという経緯があります。
軽犯罪法第1条が処罰の対象としている33の行為のうち、いくつかを挙げてみましょう。- ● 廃屋など、人が住んでいない建物などに無断で入り、隠れる行為(1号)
- ● 正当な理由なく刃物・鉄棒など、人の身体に危害を加えることができるような器具を隠して携帯する行為(2号)
- ● 正当な理由なく合鍵・のみ・ガラス切りなどの侵入器具を隠して携帯する行為(3号)
- ● 働く能力があるのに仕事をせず、一定の住居もなくうろつく行為(4号)
- ● 劇場や飲食店などの公共の場や、電車や飛行機などの公共交通機関で、周囲の人に対して著しく粗野または乱暴な言動をする行為(5号)
- ● 風水害や地震、交通事故などの現場で、警察官・消防士・自衛官などの指示に従わなかったり、協力要請を無視する行為(8号)
- ● 周囲に燃え移らないように相当の注意をすることなく、建物や森林などの付近でたき火をする行為(9号)
- ● 公務員の制止をきかずに拡声器や楽器などで異常に大きな音を出して近隣に迷惑をかける行為(14号)
- ● 現実には存在しない犯罪や災害を公務員に申告する行為(16号)
- ● 正当な理由なく人の住居・浴場・更衣場・便所など、人が衣服をつけないでいるような場所をのぞき見する行為(23号)
- ● 街路や公園などでたん・つばを吐く、大小便をするなどの行為(26号)
いずれもひとつひとつの行為は凶悪であったり、著しく反社会的とまではいえないものばかりですが、凶器の携帯や住居への侵入、火災、わいせつ犯罪といった重大犯罪に結びつく行為も対象に含まれています。
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2、軽犯罪法違反で逮捕される可能性は?
軽犯罪法の処罰対象となっている個々の行為は、将来、重大事件に発展するおそれのあるものも多く、そうしたものは積極的な取り締まりを受けるかのようなイメージがあります。
凶器や侵入用具の所持、のぞきなどが発覚すれば逮捕されるのではないかとも思われがちですが、実は軽犯罪法に違反しても逮捕される可能性は高くありません。
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(1)「軽微犯罪」にあたるため逮捕の危険は低い
軽犯罪法に違反する行為に対する刑罰は、「拘留または科料」です(1条柱書)。
従って、軽犯罪法違反の罪は、刑事訴訟法が定める「軽微犯罪」にあたります。軽微犯罪とは、法定刑が30万円以下の罰金・拘留・科料にあたる犯罪です。
軽微犯罪については、刑事訴訟法において次のように定められています。● 第199条1項
通常逮捕は、被疑者が定まった住居を有しない、または正当な理由がなく出頭の求めに応じない場合に限る。
● 第217条
現行犯逮捕は、犯人の住居もしくは氏名が明らかではない、または犯人が逃亡するおそれがある場合に限る。
つまり、任意の取り調べに応じる姿勢を見せており、警察官に対して素直に住居や氏名を明かしてその場から逃げようとする気配を見せなければ、逮捕されることはありません。
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(2)一定の条件を満たすと逮捕される可能性がある
軽犯罪法違反は軽微犯罪にあたるため、逮捕には一定の制限が設けられています。
ただし、何度も出頭要請を受けているが応じない、そもそも手紙や電話などで出頭を要請しようにも住居や連絡先もない、住居・氏名を黙秘する、その場から逃げようとするといった状況があれば、逮捕される可能性があるので注意が必要です。
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3、軽犯罪法違反の罰則
軽犯罪法第1条に規定されている各号の違反行為をはたらくと「拘留または科料」が科せられます。
● 拘留
1日以上30日未満の期間において、刑事施設に拘置する刑罰です。身柄拘束を伴う、ごく短期の自由刑だと考えればよいでしょう。
逮捕後の身柄拘束である「勾留」と混同されやすいため、拘留を「て(手)こうりゅう」、勾留を「かぎ(鈎)こうりゅう」とも呼びます。
● 科料
1000円以上1万円未満の金銭徴収の刑罰です。少額の罰金と同じだと考えればよいでしょう。やはり似たものに「過料」がありますが、これは金銭を徴収される行政罰です。
両者の混同を防ぐために、科料を「とが(科)りょう」、過料を「あやまち(過)りょう」とも呼びます。
わが国の法律における刑罰は、刑法第9条の規定によって「死刑・懲役・禁錮・罰金・拘留および科料」を主刑とすると定められています。拘留・科料は、刑罰のなかでもっとも軽いものという位置づけですが、有罪判決を言い渡されれば前科になるため、決して軽んじてはいけません。
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4、軽犯罪法違反の事例
軽犯罪法は、国民生活の秩序維持を目的とした法律ですが、法律の条文だけに注目すると「大した犯罪ではない」というイメージを持ってしまうでしょう。しかし、比較的軽微な犯罪といっても裁判で審理されるケースもあるため軽視することはできません。
ここでは、実際に軽犯罪法が適用されて刑事裁判で罪を問われた事例を紹介します。
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(1)催涙スプレーを隠匿していた事例
【判例】平成20(あ)1518 最高裁 軽犯罪法違反被告事件
会社の経理担当で日ごろから多額の現金や有価証券を運ぶ機会が多かった被告人が、業務中の護身用として購入した催涙スプレーを、健康維持のために続けていたサイクリングの機会に所持していたため、軽犯罪法違反(凶器携帯の罪・1条2号)の容疑をかけられた事案です。
催涙スプレーは「人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」にあたり、所持する正当な理由もないと判断され、第一審・第二審ともに科料9000円の判決を下していました。
最高裁は、催涙スプレーが「人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」にあたるとしつつも、業務上の必要性から催涙スプレーを購入し、健康維持のために行う深夜のサイクリングに際して護身用として携帯していた事実から、催涙スプレーの携帯には「正当な理由がある」と判示し、被告人に無罪を言い渡しました。
ただし、この件は被告人の職業や日常生活と当該器具の関係、携帯の日時場所、携帯の目的などを総合的に勘案して「正当な理由」が認められたものです。現行法では自力救済が禁止され、正当防衛の成立範囲が厳格に法定されていますから、単に「護身用」と主張するだけでは「正当な理由」が認められない可能性が高いといえます。 -
(2)ヌンチャクを隠し持っていた事例
【裁判例】平成28(う)72 広島高裁 軽犯罪法違反
車の後部座席に置かれた布団の下にヌンチャクを隠していた被告人が軽犯罪法違反に問われた事案です。
この事例では、まず「隠し持っていた」といえるのかが争点となりました。ここでいう「隠し持つ」とは、単に周囲の人から見えない状態であると認識するだけでは足りず、積極的に「隠す」という意思が必要だと判断され、被告人が「隠し持っていた」とはいえないと結論づけています。
また、ヌンチャクを携帯することに「正当な理由」があったのかも争われました。裁判所は、単に攻撃的な使用が可能であるだけでは足りず、一般的な用途としても客観面・主観面の諸事情を総合する必要があるとしています。
ヌンチャクは攻撃的使用が可能であるものの、武道や趣味に使用される機会も多いことから、総合的に判断すれば「正当な理由がないとはいえない」と判示しました。
これらの判断から、被告人には無罪判決が言い渡されています。
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5、少年事件における軽犯罪法違反
軽犯罪法は、ナイフなどの隠匿携帯や廃屋・廃虚への立ち入り、火遊び、公衆の場所における「たむろ」など、未成年の少年が犯しやすい行為についても処罰対象としています。少年が軽犯罪法に違反した場合でも、やはり処分を受けるのでしょうか?
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(1)少年でも逮捕されるおそれがある
14歳以上の少年が軽犯罪法に違反する行為をはたらいた場合は、成人と同様に事件化されます。警察からの出頭要請に応じない、住居・氏名を明かさないといった状況があれば、成人と同じように逮捕され、勾留による身柄拘束を受けるおそれがあります。
ただし、少年が起こした事件では、成人のように刑罰は科せられません。少年院送致や保護観察など、更生を目指した保護処分を受けることになります。 -
(2)被害者がいる場合は示談交渉が重要
軽犯罪法違反となる33の行為のなかには、のぞきやつきまとい行為、儀式妨害や業務妨害といった被害者が存在するものもあります。
被害者が存在する内容の事件であれば、被害者に謝罪したうえで慰謝料・賠償金を支払い、示談成立を目指すのが最善策でしょう。
少年事件では「全件送致主義」が採用されているため、すでに事件化されているのであれば示談成立をもって事件が終了するわけでもありませんが、真摯(しんし)に反省していることは家庭裁判所にも伝わるはずです。 -
(3)少年事件における弁護活動のスタンス
少年が軽犯罪法違反を犯した場合の弁護活動は「まだ被害届が提出されていない段階」と「すでに被害届が提出された段階」とで大きくわかれます。
被害届が提出されていない段階であれば、弁護士が被害者と少年の間に立って誠実な謝罪と更生に向けたアクションを主張し、事件化を見送るよう交渉を進めることになります。
すでに被害届が提出されている段階であれば、少年にとって有利な証拠や事情をそろえたうえで付添人として家庭裁判所に主張し、不処分や保護観察処分といった軽い処分で済まされるように努めます。
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6、まとめ
軽犯罪法は、日常生活における身近な道徳律に違反する軽い犯罪を扱う法律であり、刑法と、処罰されない道徳との中間に位置する法律です。軽犯罪法に違反しても法定刑はごく軽く、軽微犯罪であるため逮捕される可能性も高くありませんが、有罪となれば前科がついてしまうため、軽視してはいけません。
軽犯罪法が処罰の対象としている33の行為のなかには、いたずらが発展した場合でも成立してしまうものがあるので、誰もが罪に問われてしまう危険があります。軽犯罪法違反の疑いをかけられてしまいお困りであれば、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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