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侮辱罪と名誉毀損の違いとは? 侮辱罪はどんなケースで成立する?
令和2年5月、人気バラエティ番組に出演していた女性タレントにSNS上での誹謗中傷が集まり、自殺してしまう事件が起きました。遺族からの告訴を受けて加害者の特定が進み、誹謗中傷のコメントを投稿した加害者が検挙される事態となっています。
同年12月には加害者のうち20歳代の男が「侮辱罪」で書類送検されたという報道が流れましたが、捜査がはじまった当初、警察は「名誉毀損罪」での立件を目指していたそうです。なぜ侮辱罪で書類送検され、名誉毀損罪での立件が見送られたのかに疑問を感じてしまう方も多いでしょう。
このコラムでは、侮辱罪がどのような場合に成立する犯罪なのかを中心に、名誉毀損罪との違いを弁護士が解説します。
1、侮辱罪とは
まずは「侮辱罪」がどのような犯罪なのかを確認していきましょう。
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(1)侮辱罪とは
侮辱罪は刑法第231条に定められています。
同条には「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する」と定められているので、侮辱行為を罰する犯罪であることは容易に想像できるでしょう。ただし、侮辱罪が保護しているのはあくまでも被害者の外部的な名誉であって、被害者の名誉感情を保護しているわけではありません。
侮辱行為を受けて傷ついたという感情よりも、いかに社会的な名誉や評価が害されたのかが重視される犯罪です。 -
(2)侮辱罪が成立する要件
侮辱罪が成立するのは「公然と人を侮辱した場合」です。「公然と」とは不特定または多数の人に知られる、あるいは知られてしまう可能性のある状況を指しています。多数の人前である場合はもちろん、不特定の人に向けて発信する行為は公然性を満たしていると考えるべきでしょう。
「侮辱」とは、言葉や行動の別を問わず、他人の人格を蔑視するような行為を指します。
条文に「事実を摘示しなくても」と明示されているので、たとえば「バカ」「ブス」「デブ」といった客観的な評価基準のない抽象的な暴言も侮辱となり、処罰の対象です。 -
(3)侮辱罪の時効と告訴期間の関係
刑事訴訟法第250条には、犯罪の法定刑に応じた「公訴時効」が規定されています。公訴時効が経過してしまうと、検察官が公訴を提起できません。検察官による公訴の提起とは「起訴」を意味するため、公訴時効が経過することによって刑事裁判が開かれなくなり、加害者は処罰を受けなくなります。
侮辱罪の法定刑は「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。刑事訴訟法第250条2項の定めによると、公訴時効は3年となっているため、侮辱行為から3年が経過するまでに検察官が起訴しない場合は処罰されません。
ここで注目すべきは、侮辱罪が「親告罪」であるという点です。親告罪とは、検察官が起訴する際には被害者からの「告訴」を要する犯罪をいい、告訴がないと加害者の処罰を求めることができません。
さらに、親告罪にあたる犯罪については、刑事訴訟法第235条の規定によって「犯人を知った日から6か月を経過したとき」には告訴できないという規定があります。つまり、公訴時効が成立するまでの3年以内であっても、犯人として特定されて6か月を経過すると告訴が受理されず、処罰を受けないのです。
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2、侮辱罪が成立する具体的なケース
侮辱罪はどのような状況で成立するのでしょうか?具体的なケースを挙げながら、侮辱罪が成立するのかを検討していきます。
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(1)周囲に人がいる状況で罵った場合
オフィス内で大勢の同僚がいる状況で部下を「クズ」と罵った、多数の人が行き交う街頭で拡声器を使って「生きる価値がない」などと名指しで罵ったなどのケースでは、公然性・侮辱行為の両方の要件を満たすため、侮辱罪が成立する可能性が高いでしょう。
ここで問題となるのは、侮辱行為があった状況で周囲にどのくらいの人がいたのかという点です。
加害者としては「周囲の人数は少なかったので、多数には知られていない」と反論したくなるかもしれません。しかし、侮辱罪は抽象的危険犯にあたるため、実際に侮辱行為によって相手の社会的評価が傷ついたかどうかにかかわらず、その危険を生じさせただけでも成立します。
実際に侮辱行為を見聞きした人数ではなく、多数に広まってしまう危険性の有無が問題になると考えるべきです。 -
(2)インターネット上で誹謗中傷した場合
冒頭で挙げた事例のように、インターネット上での誹謗中傷は侮辱罪が成立する可能性が高いでしょう。インターネットは不特定・多数のユーザーが自由に閲覧できる場であり、かつ、情報が伝播しやすいという特徴があります。
SNSやインターネット掲示板のように拡散性の高い場で特定人物を罵った場合は、侮辱罪が成立するものと考えておくべきです。 -
(3)一対一の状況では成立しにくい
侮辱罪は、個人の名誉心ではなく、社会的名誉や評価を保護する犯罪です。しかも、成立の要件として公然性が存在するため、たとえば一対一の状況で「バカ」などと罵って相手が深く傷ついたとしても、基本的に侮辱罪は成立しません。
インターネットを利用した場合でも、個人宛てのメールや個人間のみでやり取りをしているチャットなどで侮辱行為があった場合は、やはり同じように侮辱罪は成立しないでしょう。
ただし、部屋のドアや窓が開いていて周囲に侮辱行為が知られてしまう、メールやチャットの内容を他のユーザーにも公開するといった行為があれば侮辱罪が成立する可能性があります。
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3、侮辱罪と名誉毀損罪の違い
侮辱罪と非常に近い位置づけにあるのが「名誉毀損罪」です。名誉毀損罪はどのような場合に成立する犯罪で、侮辱罪とはどのような違いがあるのでしょうか?
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(1)名誉毀損罪とは
名誉毀損罪は刑法第230条に規定されています。「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者」を罰する犯罪で、法定刑は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。
他人を中傷するビラをまいた、インターネット上でデマ情報を流したなどの行為は、名誉毀損罪が適用される可能性が高いでしょう。 -
(2)名誉毀損罪が成立する要件
名誉毀損罪が成立するのは、次の3つの要件を満たす場合です。
- ● 公然性がある
- ● 事実を摘示している
- ● 人の名誉を毀損している
公然性とは、侮辱罪と同じく不特定・多数の人に知れ渡った、あるいは知られてしまう可能性がある状況を指します。
「事実の摘示」とは、具体的な事実を周囲に伝える行為です。摘示の方法は問わないので、口頭・文書・インターネットなど、どのような方法でも対象となります。ここでいう「事実」とは、その内容の真偽を問いません。内容が真実であっても、根も葉もない虚偽であっても構いません。
「人の名誉を毀損」という部分も、侮辱罪と考え方は同じです。名誉毀損罪が保護しているのは被害者の名誉心ではなく社会的評価・名誉なので、周囲からの評価が失墜した、あるいは失墜するおそれがある行為は名誉毀損にあたります。 -
(3)侮辱罪と名誉毀損罪の違い
侮辱罪と名誉毀損罪は非常に近い存在の犯罪ですが、いくつかの相違点があります。
●「事実の摘示」の要否
侮辱罪と名誉毀損罪のどちらが成立するのかを区別するのが「事実の摘示」です。名誉毀損罪は事実の摘示によって成立しますが、侮辱罪では事実の摘示を要しません。
たとえば「◯◯さんは会社のお金を横領している」「◯◯さんは刑務所に入っていたことがある」といった誹謗中傷は、具体的な事実の摘示が存在し、名誉毀損罪が成立します。
一方で、侮辱罪は「バカ」「ブス」といったあくまで人に対する評価であり、抽象的な暴言であっても処罰の対象としています。
● 法定刑・時効の違い
侮辱罪の刑罰は「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」ですが、名誉毀損罪は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」です。侮辱罪は厳罰化の流れにありますが、名誉毀損罪のほうが重い刑罰が規定されています。
なお、公訴時効は侮辱罪も名誉毀損罪3年です。
● 特例の適用
名誉毀損罪は刑法第230条の2による「公共の利害に関する場合の特例」を受けるため、たとえ成立要件を満たしていても次の3点をすべて満たす場合は罰せられません。- 公共の利害に関する事実である
- 公益を図る目的がある
- 真実であることの証明がある
たとえば、政治家の不祥事や企業の不正といった情報はこれらの要件を満たすため、名誉毀損罪には該当しません。
一方で、侮辱罪にはこのような除外規定がないため、たとえ公益目的があったとしても処罰を受けます。もっとも、侮辱罪は事実の摘示を伴わないので、公益目的を主張できる状況はほぼないといえるでしょう。
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4、関連する犯罪
侮辱罪の成立が疑われる状況がある場合でも、内容によってはほかの犯罪が成立することがあります。侮辱罪と関連する犯罪を挙げていきましょう。
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(1)脅迫罪
脅迫罪は刑法第222条に規定されている犯罪です。
生命・身体・自由・名誉・財産に対して害悪を加える旨を告知する行為を「脅迫」とし、相手を脅迫した場合は2年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
脅迫の方法に制限はないので、面前・口頭で告げた場合でも、手紙・メールなどを利用した場合でも、インターネット掲示板などに投稿した場合でも、方法を問わず処罰されます。
単に「バカ」と罵ったのであれば侮辱罪が成立するにとどまりますが、さらに「お前のバカな行為をネットに晒してやる」などと脅せば脅迫罪が成立するおそれがあるでしょう。侮辱的な暴言でも、害悪を加える内容が伴えば脅迫罪となり、より重い刑罰が科せられてしまいます。
なお、脅迫罪が保護しているのは脅迫行為が向けられた本人・親族のみです。侮辱的な言動に加えて本人や親族に害悪を加える旨を告げれば脅迫罪が成立しますが、害悪の対象が本人の恋人や友人・知人などであれば脅迫罪は成立しません。 -
(2)強要罪
強要罪は刑法第223条に規定されている犯罪です。
生命・身体・自由・名誉・財産に対して害悪を加える旨を告知して脅迫し、または暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、あるいは権利の行使を妨害した場合に成立します。法定刑は3年以下の懲役です。
強要罪は、脅迫に加えて「義務のないことを行わせる」または「権利行使を妨害する」ことで成立します。たとえば「バカで仕事ができないことを世間に知らされたくなければ土下座をしろ」などという暴言に加えて義務のないことを強いれば、強要罪が成立する可能性が高いでしょう。
強要罪は罰金の規定がない犯罪なので、有罪判決が下された場合は確実に懲役が科せられます。執行猶予がつかない限り刑務所に収監されてしまう犯罪であり、ごく短期の刑事施設への収容となる拘留、1万円未満の金銭徴収である科料にとどまる侮辱罪よりも格段に重い刑罰が科せられることになるでしょう。
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5、刑事と民事からみる侮辱罪
侮辱罪に問われる行為があった場合、刑事上の責任と民事上の責任の両方を負うことになります。
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(1)侮辱罪が負う刑事上の責任
刑法などの刑罰法令に規定されている行為があると、刑事裁判によって有罪・無罪が審理されたうえで、有罪であれば刑罰が科せられます。これが「刑事責任」の部分です。
侮辱罪の法定刑は「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」なので、刑事裁判で有罪判決が下されれば懲役・禁錮・罰金・拘留・科料のいずれかが言い渡されます。
「懲役」とは、刑事施設で刑務作業を行う刑罰です。有期と無期があります。
「禁錮」とは、懲役と同じく刑事施設で生活する刑罰ですが、懲役とは異なり刑務作業が義務付けられていません。期間は有期と無期があります。
「拘留」とは、1日以上30日未満の期間、刑事施設に収容される刑罰です。
懲役・禁錮の短期版とイメージすればわかりやすいでしょう。ただし、拘留では懲役のように刑務作業に従事する義務がありません。
刑務作業に従事する義務がないという点では禁錮と同じなので、刑事施設に収容される刑罰のうち、短期のものが拘留、長期のものが禁錮だといえます。
「科料」とは1000円以上1万円未満の金銭徴収を受ける刑罰です。
法律の定めに従えば科料の上限は9999円ですが、端数を伴う刑罰が科せられることはないので、実際には1000円~9000円の範囲で判決が下されることになるでしょう。 -
(2)侮辱罪が負う民事上の責任
侮辱罪に限らず、罪を犯して刑事責任を負わされ、その責任を果たしたとしても「民事上の責任」が解消されるわけではありません。
民法第709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。この規定を「不法行為責任」といい、犯罪の加害者は被害者に対して不法行為によって生じた損害を賠償する責任を負います。
侮辱罪では、侮辱行為によって生じた精神的苦痛に対する慰謝料や、侮辱行為が原因で社会的な評価が失墜して失った経済的利益の賠償金の請求が考えられるでしょう。
民事上の責任は、刑事責任とは別で考える必要があります。刑事責任を果たしたからといって慰謝料などの賠償が免除されるわけではなく、民事上の責任を果たしたからといって罪が消えるわけでもありません。
ただし、これらは個別の責任でありながら、密接に関係しています。すでに慰謝料などの賠償金を支払っている場合は「一定の責任を果たしている」と評価されて処分が軽くなる可能性があることも心得ておくべきでしょう。
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6、侮辱罪で訴えられてしまった場合の対応
侮辱罪で訴えられてしまった場合はどのように対応するべきなのでしょうか?
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(1)罪を認める場合は示談成立を目指す
侮辱行為をはたらいたことに間違いがなく、罪を認めるのであれば、被害者に謝罪のうえで民事上の責任を果たし、刑事責任を問われないで済むように交渉するのが最善策です。
犯罪の加害者と被害者が話し合いの場を設けて、裁判外で解決を目指すことを「示談」といいます。示談交渉の場では、慰謝料や損害賠償を含めた示談金を提示し、被害者は示談金を受け取ることで被害届・告訴を取り下げるのが一般的です。特に侮辱罪は親告罪であるため、被害者が告訴を取り下げれば検察官が起訴に踏み切ることができません。
被害者がいまだ告訴に至っていない段階であれば、告訴状の提出を控えてもらうことで刑事事件として立件されることもありません。もし告訴され検察官が起訴に踏み切った場合でも、刑事裁判が進むなかで示談が成立すれば、裁判官が量刑を判断するうえで有利な事情として評価され、重い処分が避けられやすくなるでしょう。 -
(2)容疑を否認する場合は弁護士に依頼する
侮辱行為をはたらいたつもりがなければ、警察・検察官による取り調べにも容疑を否認することになるでしょう。捜査機関が「侮辱罪にあたる」と考えて捜査を進めたとしても、詳しくみれば侮辱罪が成立しない可能性もあるので、弁護士に相談して侮辱罪の成立要件を満たすのかを法的な角度から判断してもらわなくてはなりません。
もし、捜査機関が逮捕に踏み切って身柄拘束を受けているのであれば、弁護士によるサポートは必須です。早期に身柄拘束を解かないと、会社や学校へと通えない時間が長くなり、解雇や退学といった不利益処分を受けてしまうおそれがあります。
検察官が起訴に踏み切ってしまうと、日本の刑事司法制度では99%以上が有罪となっているため、刑罰はほぼ避けられません。弁護士によるサポートを受けて不起訴処分の獲得を目指しましょう。
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7、まとめ
侮辱罪と名誉毀損罪は近い存在の犯罪ですが、同じような行為であっても「事実の摘示」の有無によって区別されます。侮辱罪の法定刑は「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。近年、インターネット上で人の名誉を傷つける行為が社会問題化しており、国民の処罰感情も高まっていると言えます。
侮辱罪の容疑をかけられてしまい逮捕や刑罰に不安を抱えている、ちょっとしたいたずら心や知人間のいさかいから侮辱罪・名誉毀損罪の容疑をかけられて逮捕されそうなどのお悩みがある方は、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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