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事情聴取(取り調べ)は拒否できる? 拒否や黙秘をするとどうなるのか
捜査機関から呼び出しを受け、刑事事件に関する事情を聴かれることを、一般に「事情聴取」といいます。事情聴取という言葉から「罪を犯した人」といったイメージを連想するかもしれませんが、事情聴取の対象となるのは犯罪の疑いがある人に限りません。どのような立場で呼び出されているのかによって、事情聴取を拒否できるかどうか、拒否した場合にどうなるのかなどが変わってきます。
また、突然捜査機関から事情聴取の呼び出しを受けた場合、どのようなことを聴かれるのか、黙秘をしてもよいのか、必ず応じなければならないのかなど、不安になる方も多いでしょう。
本コラムでは、事情聴取の概要や対象となる人について触れながら、捜査機関から事情聴取を求められた場合に拒否できるケース・できないケースを解説します。事情聴取を受ける場合の注意点や黙秘権の行使についても確認しましょう。
1、事情聴取(取り調べ)とは
事情聴取とは何か、取り調べとはどう違うのかについて解説します。
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(1)事情聴取とは
事情聴取とは、警察官や検察官が、被疑者や参考人に対して刑事事件に関する供述を求めることをいいます。身柄拘束を受けずに任意で行われる事情聴取と、逮捕・勾留された段階で強制的に行われる事情聴取があります。
任意の事情聴取を受ける場合は、警察から電話がかかってきて呼び出されます。日時は指定されますが、希望があれば調整も可能です。期日に出頭し、自分が知っている事実や専門家としての見解などを伝えます。
強制の事情聴取を受ける場合は、内偵調査などで自宅にいる時間帯を把握されているので、ある日突然警察が自宅にやってきて、警察署に連行されたうえで事情を聴かれるでしょう。この場合、まずは警察で48時間を制限とした事情聴取を受けます。取調官から犯罪に対する認識や動機などを質問されるので、状況に応じて罪を認める、あるいは反論、弁解することになるでしょう。事情聴取の内容をもとに、警察が事件を検察官に送致するか否かを決定し、送致された場合は検察官からも事情聴取を受けます。 -
(2)事情聴取と取り調べに違いはある?
事情聴取と同じような場面で使われる言葉に「取り調べ」があります。ふたつの言葉に違いはなく、同じ意味だと考えればよいでしょう。
ただ、刑事訴訟法に事情聴取という言葉はないため、被疑者から事情を聴く場合は一般に「取り調べ」が用いられます(条文では「取調べ」と表記)。参考人から事情を聴く場合は「事情聴取」が使われることもあります。
2、事情聴取の具体的な内容
犯罪の被疑者として事情聴取を受ける場合に、どこで、どのくらいの時間、どのような質問を受けるのかについて解説します。
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(1)事情聴取の内容
事情聴取では、生い立ちや現在の仕事、家族といった身上に関する質問と、事件に関する質問を受けます。ただ質問に答えていく場合と、防犯カメラの映像など事件に関する資料を見せられながら質問に答える場合があります。
事情聴取の内容は、警察官と検察官がそれぞれ供述調書にまとめ、被疑者や参考人が内容を確認したうえで署名押印します。供述調書は後の裁判などで証拠として扱われるため、何を供述するのかは極めて重要です。
いったん署名押印すると後になって覆すのは困難なので、内容をよく確認し、納得できるかどうかを慎重に判断しましょう。自分の認識と異なる内容の調書が作成されていた場合には訂正を求めることもできます。 -
(2)取調室で行われる
事情聴取は取調室と呼ばれる、数人が入れる程度の狭い部屋で行われます。通常は聴取を受ける本人と警察官1~2名が入ります。
なお、世界的に見れば弁護士の立ち会いを認める国が多数ですが、日本では弁護士の同席は認められていません。立ち会いを求めることはできますが、断られるケースが多いでしょう。 -
(3)逮捕・勾留されている場合の所要時間
事情聴取の所要時間は事件の内容によって異なりますが、1回あたり1~2時間程度で行われます。長時間の取り調べは人権侵害にあたる可能性があるため、2時間以上かかる場合は休憩をはさみ、1日2回程度に分けて実施されるケースも多くあります。
1日あたり8時間を超える、または午後10時から午前5時までの間は原則として事情聴取できません。やむを得ない理由があっておこなう場合でも、警察本部長または警察署長の承認が必要です(犯罪捜査規範第168条3項)。
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3、被疑者または参考人が事情聴取の対象になる
事情聴取を受けるのは犯罪の被疑者に限りません。参考人と呼ばれる立場の人も事情聴取の対象となります。それぞれがどのような立場なのかを確認しましょう。
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(1)被疑者とは
罪を犯した疑いをかけられ、捜査の対象となっている人のことです。マスコミでは「被害者」との聞き間違いを防ぐために容疑者と呼ぶ場合がありますが、正確には被疑者といいます。
被疑者には、逮捕・勾留によって身柄を拘束されている場合と、身柄は拘束されずに在宅のまま捜査を受けている場合があります。いずれも捜査が進めば検察官に起訴される可能性があります。
なお、起訴された後の人は被疑者ではなく被告人といいます。 -
(2)参考人とは
事件の目撃者や被害者、事件に関する知識をもつ専門家などを指す言葉です。刑事訴訟法第223条1項では、犯罪の捜査で必要なときには、被疑者以外の人の出頭を求めて取り調べできる旨が定められています。
捜査機関から呼び出されれば「犯人だと疑われているのか?」と不安になるものですが、他人が起こした事件について事情を聴かれている場合もあるため、必ずしも疑いをかけられているわけではありません。
ただし、被疑者とまではいえないが、犯罪の疑いがある人を参考人と呼ぶ場合もあります。被疑者として扱われているのか、あるいは参考人なのかは警察に確認できますが、すでに逮捕状が出ているときなどには正直に答えてもらえない可能性があります。
また、当初は参考人だったのが、捜査が進むにつれて犯罪の疑いが濃厚になり、被疑者として扱われる場合もあります。 -
(3)重要参考人とは
重要参考人は法律用語ではないため明確な定義はありませんが、警察では罪を犯した疑いが濃い人、要するに被疑者候補のことを指して使われるケースが多くあります。また、単に事件に関する重要な情報をもつ人を指す場合もあります。
4、事情聴取に対して黙秘してもよいか
事情聴取に対して何をどう答えるべきかの判断がつかない場合、黙秘するという選択肢はあるのでしょうか?
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(1)黙秘は可能
事情聴取を受ける人には「黙秘権」があります。黙秘権とは、自分に不利益となる供述を拒むことができる権利です(憲法第38条1項)。被疑者として事情聴取を受ける際には、取調官から黙秘権がある旨が告げられます(刑事訴訟法第198条2項)。参考人については、捜査機関が黙秘権の存在を告げる義務はありませんが、被疑者と同じく黙秘権が保障されています。
黙秘権は供述の全部または一部について行使できるため、すべてを話さないことも、話したくないことだけ話さないことも可能です。ただし氏名など手続きを進めるうえで必要な情報は、それ自体が犯罪成立を左右する場合を除いて黙秘権の対象外となります。 -
(2)黙秘がマイナスに働くことがある
黙秘権の行使をもって犯罪が確定する、刑罰を科せられるといった不利益はありません。ただし、やみくもに黙秘するとマイナスに働く場合があります。
たとえば、供述が得られないため身体拘束期間が長くなる、裁判で有罪が確定した場合に反省の度合いが低いと判断されて量刑が重くなるといったケースが想定されます。
事実を争うつもりがないのであれば、黙秘せず捜査に協力したほうがよい場合が多いでしょう。身に覚えがない場合も、やっていないとはっきりと主張するべきです。一方で、余罪がある場合や争う部分がある場合など、黙秘権を行使したほうがよいケースもあります。
5、事情聴取は拒否できるのか?
事情聴取を拒否できるかどうかは、現在の立場によって異なります。拒否する場合の注意点を含めて確認しましょう。
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(1)任意同行や任意出頭の場合
任意で事情聴取を求められた場合、同行や出頭は強制ではないため、拒否できます。拒否したからといって強制的に警察署に連行されたり、何かしらの罰を受けたりすることはありません。
逮捕状がなく、現行犯逮捕でもないのに、強制的に警察署へ連れていかれた場合は違法です。事情聴取に応じた場合も、いつでも取調室を出て、帰宅することができます。任意同行・出頭の拒否や退去は刑事訴訟法第198条1項で認められています。
もっとも、任意の事情聴取を拒否した場合、警察官は何度も同行・出頭を求めてくるでしょう。捜査に協力する義務まではないものの、度重なる拒否は警察官の心証を悪くする行為なので、理由もなく拒否するのは望ましいとはいえません。
また、事情聴取の求めにいら立ち、警察官の身体に接触するなどすれば、公務執行妨害罪などで現行犯逮捕されるおそれがあります。拒否する場合でも冷静に対応しましょう。 -
(2)参考人としての同行・出頭要請の場合
参考人としての同行・出頭要請は任意なので拒否できます。応じる場合でも、自宅に来てもらいたい、土日にしてほしいといった希望を伝えることも可能です。必ずしも希望が通るわけではないですが、相談すること自体は問題ありません。病気・けがで移動が難しい場合や重要な商談がある場合などに聞いてみてもよいでしょう。
なお、一応は参考人として扱われている場合でも、捜査員からは被疑者の可能性があると思われているかもしれません。拒否する場合はしっかり事情を伝えるなど丁寧に対応するのが賢明です。 -
(3)被疑者としての同行・出頭要請の場合
被疑者としての同行・出頭要請も、任意である限りは拒否することができます。ただし被疑者の立場で同行・出頭を求められた場合は、すでに証拠が確保されている可能性があります。拒否すれば逃亡や証拠隠滅を図るおそれがあるとして逮捕状を請求される可能性があるでしょう。捜査員が逮捕状をもっており、同行を拒否したためにその場で逮捕されるケースも考えられます。
したがって、事情聴取の求めには素直に応じることをおすすめします。不安がある場合は先に弁護士へ相談してから対応するとよいでしょう。 -
(4)逮捕・勾留されている場合
逮捕・勾留されている場合、事情聴取を受けるのは義務なので拒否できません。また、任意の事情聴取のように日時を調整することもかないません。ただし供述や供述調書への署名押印は強制ではないため、黙秘権を行使したり供述調書への署名押印を拒否したりすることはできます。
6、事情聴取に対する弁護活動
事情聴取を受ける際には弁護士のサポートを受けることが大切です。弁護士は被疑者や参考人の人権を守るために以下の活動を行います。
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(1)事情聴取のアドバイス
弁護士は取調室に一緒に入ることはできませんが、事情聴取の前や合間のアドバイスが可能です。事情聴取の前には、弁護士が何を供述し、供述調書にサインする際には何に気をつければよいのかなど、適切な対応を伝えます。黙秘権についても、行使すべき場合とそうでない場合があります。上述の通り、やみくもに黙秘することはマイナスにはたらくこともあり得ます。そのため、黙秘すべきか、主張や反論をすべきかなどは弁護士と相談したうえで慎重に対応を決めるのがよいでしょう。
事情聴取の合間にも弁護士が随時アドバイスします。任意の事情聴取であればいつでも退室可能なので、弁護士が取調室の外の廊下などで待機し、退室した際にアドバイスすることができます。
逮捕・勾留されている場合は自由な退室はできませんが、弁護士が接見の機会を利用してアドバイスすることが可能です。逮捕直後は家族との面会も許されませんが、弁護士なら逮捕直後から制限なく被疑者と面会できます。 -
(2)違法な取り調べへの抗議
違法な取り調べがあった場合には弁護士が直ちに抗議し、違法な取り調べをやめさせ、今後もないように捜査機関に申し入れます。違法な取り調べとは、被疑者や参考人に暴力をふるう、「罪を認めれば釈放してやる」と誘導する、机をたたいて威圧するなどの行為を指します。
違法な取り調べで得た供述は証拠として採用できないため、このような行為によって事実と異なる供述をしてしまった場合も弁護士に相談してください。
7、まとめ
事情聴取は被疑者として求められる場合と、参考人として求められる場合があります。任意であれば拒否できますが、逮捕されるリスクが上がるため、可能な限り応じたほうがよいでしょう。ただし、供述内容は後に重要な証拠として扱われるため、何を話すべきか、何を黙秘すべきかについては慎重な判断を要します。安易な判断は禁物なので、事前に弁護士からアドバイスを得たうえで対応するのがよいでしょう。
逮捕された場合も、弁護士なら逮捕直後から被疑者と面会できるため、事情聴取に対するアドバイスだけでなく精神的な支えにもなるでしょう。弁護士に相談することで今自分が置かれている状況を理解し、準備をした状態で臨むことができます。
また弁護士への相談はできるだけ早めにするとよいでしょう。早めに相談することで、被疑者として身柄を拘束されている場合には早期解放や不起訴処分の獲得に向けた弁護活動も可能となります。事情聴取を求められて不安に感じている場合は、おひとりで悩まずにベリーベスト法律事務所へご相談ください。状況を見極めたうえで適切にサポートします。
ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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