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刑事告訴とは? 告発や被害届との違いや親告罪との関係を理解しよう
ニュースや新聞などで「被害者は刑事告訴する方針だ」などと報道されることがあります。令和3年3月には、大阪府内の自治体で勤務する非常勤職員が不正な事務処理によって公金約1億5000万円をだまし取った事件について、自治体が詐欺罪で府警に刑事告訴する方針だと報じられました。
刑事告訴と聞けば「訴える」という行為だというイメージくらいは湧くかもしれません。しかし、どのような手続きを指す用語なのかを正確に理解している方は少ないでしょう。
このコラムでは「刑事告訴」について、手続きの内容や意味、混同されやすい「刑事告発」や「被害届」との違い、理解しておくべき「親告罪」との関係について弁護士が解説します。
1、刑事告訴とは
まずは「刑事告訴」とはどのような手続きなのかを確認しましょう。
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(1)「刑事告訴」がもつ意味
「刑事告訴」とは、犯罪の被害者などの告訴権者が捜査機関に犯罪事実を伝え、加害者の処罰を求める意思表示を行うものと定義されています。
ニュースや新聞などでは「刑事告訴」と呼ぶため、広くその名称が定着していますが、刑事訴訟法などの法律上では「告訴」とされているため、本来は「告訴」と呼ぶのが正確です。
その証拠に、民事における告訴は存在せず「民事告訴」といった用語が使われることもありません。
告訴は、捜査機関が捜査を始める端緒(たんちょ=「きっかけ」という意味)として扱われます。「訴える」という漢字が使われているので、裁判所での手続きと勘違いしている方も少なくありませんが、警察をはじめとした捜査機関へと申告する手続きです。 -
(2)刑事告訴できる人
刑事告訴できる人のことを「告訴権者」といいます。
告訴権者は刑事訴訟法第230条から233条に規定されています。- 犯罪の被害者
- 被害者の法定代理人
- 被害者が死亡した場合、その配偶者・直系親族・兄弟姉妹
- 被害者の法定代理人が被疑者・被疑者の配偶者・被疑者の4親等内の血族もしくは3親等内姻族のときは、被害者の親族
- 死者の名誉を毀損した罪については、死者の親族・子孫
ほとんどの事件では被害者によって告訴がなされるのが一般的な流れですが、被害者が未成年者である場合は父母などの保護者が法定代理人として、被害者が死亡している場合は遺族が独立して告訴することになります。
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2、告発や被害届との違いは?
刑事告訴と混同しやすいのが「告発」や「被害届」でしょう。それぞれの意味や刑事告訴との違いを確認します。
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(1)刑事告発とは
刑事告発とは、告訴権者にあたらない人が、捜査機関に犯罪事実を伝え、犯人の処罰を求める手続きです。
刑事告訴の定義と非常によく似ていますが、刑事告発は「告訴権者にあたらない人」による手続きであるという点で大きく異なります。つまり、被害者と近い関係にありながらも告訴権者にあたらない人や、事件に関係のない一般の目撃者でも、犯人の処罰を求めることが可能です。
なお、刑事告訴と同様に、法律上は刑事告発ではなく「告発」と呼ぶのが正確です。もっとも、会社内での不正を糾弾する「内部告発」などと明確に区別するため、刑事告発と呼ぶこともめずらしくありません。 -
(2)被害届とは
被害届とは、犯罪の被害者や法定代理人などが、捜査機関に対して被害が発生した事実を申告するものであり、「処罰を求める意思」がいらないという点で刑事告訴と異なります。
刑事告訴のように届け出ができる人を法律によって厳格に規定しているわけではないため、被害者や法定代理人のほか、会社が受けた被害であれば、代表者ではなく従業員などによる届け出も可能です。
また、告訴・告発では、刑事訴訟法第242条の規定に基づき、すみやかに捜査を遂げて検察へと書類・証拠物を送付する義務が発生しますが、被害届には送付の義務がありません。
つまり、被害届を端緒とした事件では、警察の判断によって事件を送付しないこともあり得るということです。
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3、親告罪は告訴がなければ起訴できない
刑事告訴について考える場合に理解しておく必要があるのが「親告罪」です。
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(1)親告罪とは
親告罪とは、被害者などによる告訴がないと検察官が公訴を提起できない犯罪を指します。
「公訴を提起する」とは裁判所に刑事裁判を開いて被告人を罰してほしいと求める手続きであり、つまり検察官による「起訴」を意味します。
親告罪においては告訴を訴訟要件と定めており、告訴を欠いた場合は判決において公訴棄却とされます。 -
(2)親告罪が規定されている理由
犯罪のなかには、捜査や裁判の過程で被害者に不利益が生じてしまうおそれのあるものがあります。取り調べや証人出廷によって被害を思い出してしまうことで、精神的な二次被害を及ぼしたり、公開されたくない情報が公になってしまったりすれば、被害者にとって大きな不利益となるでしょう。
このような犯罪では、加害者に対する強い処罰意思があることを確認するために、告訴を訴訟要件としています。
また、故意による犯罪ではなく悪質性が低く当事者間での解決が望まれる、親族間で起きた問題であるため司法の介入が望ましくない、といった一部の犯罪も親告罪とされています。 -
(3)親告罪にあたる罪
親告罪には「相対的親告罪」と「絶対的親告罪」があります。被害者と犯人との間に親族関係があるなどの場合を相対的親告罪とし、それ以外は絶対的親告罪です。
相対的親告罪には、親族間で起きた次の犯罪などが該当します。- 窃盗罪(刑法第235条)
- 不動産侵奪罪(第235条の2)
- 詐欺罪(第246条)
- 恐喝罪(第249条)
- 横領罪(第252条)
一方の絶対的親告罪となるのは次のような犯罪です。
- 信書開封罪(第133条)
- 秘密漏示罪(第134条)
- 過失傷害罪(第209条1項)
- 未成年者略取・誘拐罪(第224条)
- 名誉毀損(きそん)罪(第230条)
- 侮辱罪(第231条)
- 器物損壊罪(第261条)
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4、告訴された場合の流れ
もし何らかの罪を犯してしまい、被害者などの告訴権者から刑事告訴されてしまうとどうなるのでしょうか?告訴事件の流れを確認します。
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(1)警察が捜査を開始する
刑事告訴を受理した警察には、すみやかに捜査を遂げて書類・証拠物を検察官に送付する義務が課せられています。これは、たとえ捜査の過程で無罪や犯罪の不成立が判明した場合でも変わりません。捜査の結果を問わず、必ず検察へと事件が引き継がれます。
ほかの事件が並行している場合でも、刑事告訴をきっかけとした事件は最優先で捜査が進められます。 -
(2)必要に応じて逮捕される
警察が検察官へと事件を送付するには、被疑者の取り調べが欠かせません。告訴事実の裏付けや所要の基礎捜査が終わると、警察による取り調べが実施されます。
ここで裁判官が「逃亡・証拠隠滅を図るおそれがある」と判断すれば、逮捕状による通常逮捕を受けてしまう可能性があります。
もし警察からの呼び出しを受けたら、正当な理由なく出頭を拒むと逮捕される可能性が高まるため、必ず連絡には対応し、出頭可能な日時を調整しましょう。逃亡・証拠隠滅のおそれがないことを示せば、逮捕されず在宅のまま任意での取り調べが行われることになります。 -
(3)検察官が起訴・不起訴を判断する
警察による取り調べを含めた捜査が終了すると、検察官へと送致されて事件が引き継がれます。送致を受けた検察官は、被疑者の罪を刑事裁判で問う必要があるかを判断し、刑事裁判を開く場合は起訴、その必要がなければ不起訴とします。
なお、刑事告訴にかかる事件の処分結果は、刑事訴訟法第260条の規定に基づき、検察官が告訴人に通知しなければなりません。起訴された、裁判で有罪判決が下されたといった結果や、告訴人からの要望があれば不起訴の理由も説明することになっています。
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5、告訴の取り下げをしてもらうことは可能?
刑事告訴を端緒とした事件は最優先で捜査が進められるうえに、被害者などの強い処罰意思を背景にしているため、厳しい処分が下されてしまうおそれが高まります。
加害者としては、告訴を取り下げてもらうなど解決を図りたいと考えるのは当然ですが、刑事告訴の取り下げは可能なのでしょうか?
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(1)告訴の取り下げは可能
刑事告訴は取り下げが可能です。ただし、取り下げが可能なのは検察官が起訴するまでの間に限られています。刑事告訴をきっかけとした事件は、一般事件よりもすばやく処理されるため、タイムリミットは短いと考えておくべきでしょう。
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(2)告訴を取り下げられる人
刑事告訴の取り下げが可能なのは、告訴した本人とその代理人だけです。告訴は個人の独立した権利なので、告訴権者であっても、告訴人の意思に反して、告訴を取り消すことはできません。
もちろん、刑事告訴を受けた被告訴人が取り消しを求めても、捜査機関がこれを聞き届けることもありません。たとえ告訴人の了承を得ていても、被告訴人では取り消しができないと心得ておきましょう。 -
(3)告訴取り下げによる効果
刑事告訴が取り下げられると、親告罪では公訴を提起する要件を欠いてしまうため、捜査が終結します。逮捕されることも、刑事裁判によって刑罰が科せられることもありません。
また、親告罪にあたらない事件でも、告訴人の処罰意思が失われたと評価されるため、強制捜査に踏み切られてしまう可能性を大きく下げられるでしょう。
ただし、被告訴人から「刑事告訴を取り下げてほしい」と交渉しても、強い処罰意思をもつ告訴人がこれを聞き届けてくれる可能性は高くありません。
刑事告訴の取り消しを含めた交渉は弁護士に一任したほうが賢明でしょう。
弁護士に依頼し被害者との示談が成立すれば、告訴人が告訴取り下げに応諾したことを示す「告訴取消書」を作成して被害者に署名押印してもらい、これを警察署長や検察官に提出し、取り消しの手続きを進めることも可能です。
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6、刑事告訴に対する弁護活動
刑事告訴を受けた場合は、すぐに弁護士に相談してサポートを受けましょう。
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(1)被害者との示談交渉を進める
弁護士に依頼すれば、加害者の代理人として被害者などの告訴人との示談交渉を進めることが可能です。
強い処罰意思をもつ告訴人の多くは、加害者からの示談交渉を快く感じません。加害者が直接交渉をもちかけても、連絡さえ拒まれてしまうおそれがあります。被害者の警戒心を解いて示談交渉のテーブルについてもらうには、弁護士を代理人とするのが最善策でしょう。
親告罪では、告訴の取り下げを含めて示談が成立すると確実に不起訴となるため、示談交渉が極めて重要です。
非親告罪でも、示談が成立すれば不起訴や刑の減軽を得られる可能性が高まるでしょう。 -
(2)早期の身柄釈放を実現する
逮捕・勾留による身柄拘束を受けている場合でも、弁護士が逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを主張すれば、早期釈放につながる可能性があります。また、被害者との示談交渉が成立すれば、警察・検察官の捜査も終結するため身柄拘束の必要性がなくなり、やはり釈放につながる可能性が高いでしょう。
身柄拘束が長引いてしまうと、家族・会社・学校との関係が悪化してしまうおそれがあります。逮捕・勾留による身柄拘束の期間は最長23日間なので、会社や学校における不利益処分を受けてしまう事態も否定できません。できる限りの早期釈放を目指して手を尽くすことをおすすめします。 -
(3)取り調べに対するアドバイスを提供する
刑事告訴にかかる事件では、利害関係を背景とした事件も少なくありません。真実と反する告訴事実によって、容疑をかけられてしまうケースも存在します。
弁護士に相談すれば、警察・検察官による取り調べに対する、正しい対策についてアドバイスが得られます。どのような供述をすればよいのか、不利な内容の供述調書を作成されないためにはどのように対応するべきなのか、助言を受けたうえで取り調べに臨みましょう。
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7、まとめ
刑事告訴は、犯罪の被害者などが加害者の処罰を求める法的な手続きです。被害届をきっかけにした事件とは異なり、刑事告訴がきっかけとなった事件は、警察が優先的に捜査を進めてすみやかに検察へと送付されてしまうので、すばやいアクションが必要となります。
犯罪の容疑をかけられて刑事告訴されてしまった場合は、直ちに弁護士に相談して告訴取り下げを含めたサポートを受けましょう。
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