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準抗告とは? 勾留されたときに釈放にむけて弁護士ができることとは
刑事事件の被疑者として逮捕されると、逮捕による最長72時間以内の身柄拘束を受けたのち、検察官からの請求を受けた裁判官の許可で勾留による身柄拘束を受けるのが一般的な流れです。勾留を受けてしまうと、原則10日間、延長請求によってさらに10日間の合計20日間にわたる身柄拘束が続くため、社会的な不利益を回避するには勾留決定への対抗が欠かせません。
裁判官が下した勾留許可の決定を覆すには「準抗告」が有効です。準抗告が認められると、勾留の効果が否定できるため、釈放されて在宅捜査へと切り替えられます。
本コラムでは「準抗告」に注目しながら、準抗告と勾留・保釈との関係や、弁護士に依頼した場合の勾留への対抗策について解説します。
1、準抗告とは
まずは「準抗告」とはどのような手続きなのかを確認しましょう。
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(1)準抗告とは
準抗告とは、裁判官が下した決定に対しておこなう不服申し立ての手続きです。
「準」がついているのでわかるとおり、ほかに「抗告」という手続きも存在します。抗告とは、裁判所が下した決定に対する不服申し立ての手続きです。裁判所の決定に対して、さらに上級の裁判所に不服を申し立てて審理を求めます。
一方の準抗告は、裁判官が下した決定に対して裁判所に不服を申し立てるものですが、実質的には上訴と同じ機能であるため、抗告に準じるものとして用意されています。
抗告は裁判所の決定に対する不服申し立て、準抗告は裁判官が単独で下した決定について裁判所に不服を申し立てるものだと理解してください。 -
(2)特別抗告とは
準抗告・抗告に似た用語として「特別抗告」も存在します。
特別抗告は準抗告に連動した手続きです。準抗告が認められず棄却された場合に、憲法違反を理由として最高裁判所に対して異議を申し立てることで、裁判官の決定に対して対抗できます。
準抗告には回数の制限があり、刑事事件における勾留に対する準抗告は1勾留に対して1回のみです。
勾留は初回・延長請求の2回で、準抗告が可能となるのも2回に限られます。そのため準抗告が認められなかった場合は、特別抗告によって対抗することになります。ただし、特別抗告の理由となるのは憲法違反でありハードルが極めて高いため、特別抗告が認められるケースは多くないのが現実です。
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2、準抗告の対象となる裁判官の処分
準抗告の対象となる裁判官の処分は、刑事訴訟法第429条に規定されています。
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(1)勾留に関する裁判
刑事事件の被疑者として逮捕され、検察官からの請求によって裁判官が勾留を決定した場合は、勾留が不当であることを主張して準抗告が可能です。ほかにも準抗告を申し立てる機会はありますが、刑事事件における準抗告は主に勾留に関する裁判への準抗告を指すものと考えればよいでしょう。
勾留決定に対する準抗告が認められると勾留の効果が失われるため、被疑者の身柄は釈放されます。釈放後は身柄拘束を受けないまま在宅捜査へと切り替えられるので、必要に応じて警察署や検察庁へと出頭して取調べを受けることになります。 -
(2)保釈に関する裁判
刑事事件の被疑者として検察官に起訴されると、刑事裁判が進行している期間の一時的な身柄解放として「保釈」の請求が可能です。保釈は被告人本人や家族などの請求によって許可されますが、裁判官が保釈請求を却下した場合も準抗告による対抗が可能です。
保釈却下に対する準抗告が認められると保釈が許可されるため、在宅のまま刑事裁判を受けることになります。刑事裁判の多くは起訴から結審、判決までに数か月の時間がかかるため、準抗告による保釈の許可で素早い社会復帰や実刑判決を受けて刑務所に収監されるまでの身辺整理が可能になります。
保釈決定は、検察官による準抗告で取り消されるケースもありますが、この場合は特別抗告による対抗を考えることになるでしょう。
特別抗告は原則として憲法違反を理由におこなわれるものです。ただし、身柄引受人による監督や公判期日への出頭の誓約、前科前歴の有無、事件に対する反省や再犯防止への取り組み、公訴事実の認否などから総合的に判断して、準抗告による決定が覆されて保釈が許可された例もあります。
【参考:第三小法廷決定 平成24年10月26日】 -
(3)鑑定留置を命じる裁判
精神障害などを理由に刑事責任能力が問題となっている被疑者や被告人について、一定期間、病院や拘置所に収容して医師による精神鑑定を受けさせることを「鑑定留置」といいます。鑑定留置は捜査機関からの要請によっておこなわれ、初公判よりも前の段階であれば裁判官が決定するため、準抗告の対象です。
鑑定留置が決定されると、勾留とは別に2~3か月にわたって身柄を留置されてしまうため、身柄拘束が長期化してしまいます。たとえば、精神疾患による入通院歴があっただけで鑑定留置が許可されてしまうと、被疑者・被告人にとって大きな不利益になる危険があるでしょう。
鑑定留置は被疑者・被告人の身柄を長期にわたって拘束する手続きなので、慎重な判断が求められます。本鑑定よりも前に簡易鑑定を経ていない、必ずしも精神障害の影響があったとは疑えない事情がある場合は、準抗告によって鑑定留置の決定が取り消される可能性があります。
【参考:岐阜地方裁判所 平成27年10月21日】 -
(4)押収に関する裁判
刑事事件における証拠品の押収や還付に関する決定に対しても準抗告が可能です。たとえば、押収された証拠品について、すでに留置の必要がないにもかかわらず還付を却下された場合でも、準抗告が認められれば証拠品が還付されます。
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(5)忌避の申し立ての却下に関する裁判
「忌避の申し立て」とは、担当の裁判官について公平な裁判が期待できない事情がある場合にその裁判官を担当から除外するように求める手続きです。裁判官が事件の被疑者・被害者と一定の関係にある場合に取られる手続きですが、忌避の申し立てが却下された場合も準抗告の対象となります。
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(6)過料または費用の賠償を命じる裁判
指定期日に出頭しなかった証人や身体検査を拒んだ者に対して、裁判官の決定によって10万円以下の過料または費用の賠償が命じられることがあります。これらも裁判官による決定なので準抗告の対象です。
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3、保釈請求に対する検察官による準抗告
準抗告は裁判官の決定に対する不服申し立ての手続きなので、被疑者・被告人側だけでなく、検察官も対抗手段として用いることがあります。検察官が準抗告を申し立てるケースとして考えられるのが、保釈請求に関して裁判官が下した決定に対する準抗告です。
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(1)保釈請求に対する検察官の準抗告とは
保釈は被告人の権利として保護されており、保釈請求を被告人が申し立てた場合、一定の除外要件に合致しない限りは原則として許可されるものです。しかし、刑事裁判の被告人を起訴した検察官の立場では、公判を維持するためにも「保釈するべきではない」と考えることになります。
保釈の審理においては、担当検察官の意見も参考となりますが、検察官が保釈を許すべきではないと考えているのに裁判官が保釈を許可した場合は、検察官が裁判官の決定に対して準抗告することもあります。
準抗告では、保釈の決定を下した裁判官を除く3人の裁判官によって慎重な審理がおこなわれ、保釈決定が合法・適切なものであったのかが判断されます。 -
(2)準抗告が保釈に与える影響
検察官からの準抗告を受けると、裁判官の合議体はその申し立てに理由があるのかを審理します。裁判官が「準抗告に理由がある」と判断すれば、当初の保釈決定が取り消されてしまうため、被告人の身柄は釈放されず、すでに保釈金を納付していても全額返還されます。
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4、勾留に対して弁護士ができること
刑事事件の被疑者・被告人として勾留を受ける段階になったときは、弁護士にサポートを求めましょう。
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(1)勾留請求前のはたらきかけ
逮捕された被疑者が検察庁に送致されると、検察官は勾留請求を検討します。検察官が勾留請求をするよりも前の段階で弁護士に依頼すれば、弁護士が検察官に対して勾留の必要性がないことや相当性を欠くことを主張して、勾留請求を見送るようにはたらきかけられます。
勾留請求が見送られれば身柄拘束の期間は最長でもわずか72時間で済むため、社会生活への悪影響は最低限に抑えられるはずです。 -
(2)勾留請求後のはたらきかけ
検察官が勾留を請求したあとでも、弁護士が裁判官に対して意見書を提出したり、裁判官との面接を通じて勾留を許可しないように求めたりすることで、勾留請求が却下される可能性があります。
勾留の必要性や相当性を欠いているといった主張を展開する必要があるため、刑事事件の解決実績が豊富な弁護士のサポートは必須です。 -
(3)勾留決定に対する準抗告
裁判官が勾留許可を決定した場合は、弁護士が準抗告を申し立てて勾留の取消しを求めます。
勾留決定に対しての準抗告では、次の3点がポイントになります。- 犯罪の嫌疑がないこと
- 住居不定ではないこと
- 逃亡や証拠隠滅のおそれがないこと
犯罪の容疑をかけられている以上は「嫌疑がない」と主張しても準抗告を認めてもらうのは難しいでしょう。しかし、定まった住居を有しており、逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを具体的に主張すれば、勾留が取り消される可能性があります。
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(4)保釈請求が却下された場合の準抗告
裁判官が保釈請求を却下した場合も、弁護士による準抗告が有効です。
保釈には3つの種類があります。- 一定の除外要件に該当しない限り必ず認められる「権利保釈」
- 権利保釈にあたらない場合に裁判官の裁量で認められる「裁量保釈」
- 勾留による拘束が不当に長くなった場合の「義務的保釈」
権利保釈が却下される典型的な理由は逃亡・証拠隠滅のおそれですが、弁護士がこれらを否定する具体的な証拠を示したうえで、公判への出頭を誓約すれば、準抗告によって保釈が許可される可能性があります。
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5、まとめ
裁判官が勾留や保釈の却下を決定した場合でも、準抗告を申し立てることによって決定が覆される可能性があります。ただし、勾留・保釈の要件や準抗告が認められるべき理由などの知識と経験が必要となるため、準抗告には弁護士のサポートが欠かせません。
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