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警察の捜索・差押えは拒否できるのか? 拒否権や返還の有無について
刑事事件における捜索・差押えとは、捜査員が令状をもとに自宅・勤務先・自家用車などの中を探し回る、所有物を押収するといった捜査活動のことを指します。捜査機関が捜索・差押えをするのは、被疑者の起訴・不起訴や有罪・無罪を判断するための証拠を探し出すためです。そのため罪を犯した心当たりのある方は捜索・差押えを受ける可能性があります。
捜索・差押えはいつ、どのようなものを対象に行われるのでしょうか?捜索・差押えを拒否することは可能なのでしょうか?
本コラムでは刑事事件の捜索・差押えをテーマに、差押えの対象になるものや実施のタイミング、拒否権や押収品の返却の有無などについて解説します。
1、捜査機関による捜索・差押えとは?
刑事事件が発生すると、警察や検察などの捜査機関は捜査の一環として、被疑者や参考人の取り調べや目撃者への事情聴取に加え、証拠物の捜索・差押えなどの強制処分を行います。捜索・差押えは裁判所がすることもできますが、主に捜査機関によって行われます。
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(1)捜索とは?
刑事事件でいう捜索(そうさく)とは、一定の場所やもの、人の身体について、もの・人の発見を目的として実施される強制捜査を指します。俗にいう「ガサ入れ」です。
たとえば窃盗や児童ポルノ所持、薬物事件などでは、被疑者の自宅や持ち物に証拠物が残されている可能性が高いため、自宅や持ち物を対象に捜索が行われるケースが多くあります。業務上横領や社内での盗撮など会社との関わりが強い事件では、会社が捜索の対象になる場合もあるでしょう。 -
(2)差押えとは?
差押えとは、捜索によって発見した証拠物などを強制的に取得する手続きをいいます。刑事訴訟法上の「押収」(差押え・領置・提出命令)の一種です。
差押えは令状にもとづく強制的な処分ですが、領置は所有者などが任意で提出したものを預かる処分を指します。提出命令は裁判段階において、裁判所が命令によってものを取得する処分のことです。
捜索と差押えは別々の手続きですが、捜索して発見した証拠を捜査機関が確保するには差押えが必要なので、通常、捜索と差押えはセットで行われます。令状も1通の「捜索差押許可状」をもとに実施されるケースが多いでしょう。 -
(3)捜索・差押えは突然に行われる
証拠隠滅を防ぐ必要があるため、捜査は秘密裏に行われます。被疑者・関係者が事前に差押えの内容を知ることはできません。
ただし、何を差し押さえられたのかについては、押収品目録交付書が交付されるため、差押えの事後に知ることができます。 -
(4)捜索・差押えには令状が必要
捜索・差押えは対象者の同意を得ずに行われる強制捜査であるため、プライバシー権や財産権などの人権を侵害するおそれの強い手続きです。
日本国憲法第35条では、何人も、その住居・書類・所持品について侵入・捜索・押収(差押え)を受ける際には、正当な理由にもとづいて発せられた令状によらなければならないと定められています。
「正当な理由」とは以下の理由を指します。- 犯罪の嫌疑が存在すること
- 差押えの目的物が捜索場所に存在する蓋然(がいぜん)性があること
- 処分の必要性・相当性があること
令状を請求できるのは、検察官、検察事務官、または司法警察職員です(刑事訴訟法第218条4項)。刑事事件の一次的な捜査を行うのは警察なので、警察官が令状を請求するケースが多いでしょう。
請求する際には裁判官に対し、請求書とともに「正当な理由」が存在する疎明資料も提出します。裁判官が正当な理由があると判断した場合に令状が発付され、捜索・差押えが適法に行われることになります。
捜査機関は捜索・差押えに先立ち、処分を受ける者や立会人に対して令状を提示する必要があります。ただし差押えの対象となるものを短時間のうちに破棄隠匿されるおそれがあるなどの事情のもとでは、執行に着手した後の提示でも許されるとした判例があります(最高裁判所 平成14(あ)413 平成14年10月4日) -
(5)逮捕の際の捜索・差押えは令状が不要
捜索・差押えには原則として令状が必要です。しかし例外的に、被疑者を逮捕する場合において必要があるときに、逮捕の現場で行う捜索・差押えについては、令状が不要とされています(刑事訴訟法第220条1項、3項、日本国憲法第35条)。逮捕は通常逮捕・現行犯逮捕・緊急逮捕のいずれも含まれます。
令状が不要なのは、そもそも「逮捕する場合」には厳格な要件が定められており、捜索・差押えの必要性と逮捕の現場で行うという条件付きなので、不当に人権を侵害するおそれが低いからです。
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2、どのようなものが差押えされるのか?
捜索の対象になったら、どのようなものでも差押えされてしまうのでしょうか?差押えの対象となるものと差押えのタイミングについて解説します。
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(1)差押えされるものの具体例
差押えの対象になるのは、事件に関係があると思われるものすべてです。犯罪の種類に応じて差し押えられるものも異なります。
【差し押えられるものの例】- 業務上横領事件……通帳や領収書、横領した現金など
- 窃盗事件……盗んだ金品、住居などへの侵入の際に使った用具など
- 薬物事件……薬物、注射器、パイプなど
- 児童ポルノ禁止法違反事件……児童ポルノが保存されているパソコンや携帯電話、カメラなど
自宅が捜索された場合は自宅にあるものが対象ですが、対象者の部屋にとどまらず、リビングや風呂場など幅広い範囲で捜索が行われます。業務上横領事件など会社に証拠品があると思われるケースでは、会社に置いてある荷物や会社から支給されたパソコンなども差し押さえられる場合があります。
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(2)令状に記載されているものしか差押えされない
令状(捜索差押許可状)には、被疑者の氏名や罪名などのほか、捜索すべき場所や差し押さえるべきものなどが記載されています(刑事訴訟法第219条1項)。差押えが可能なのは、令状に記載されたものだけです。事件と無関係なものまで何でも差し押さえることはできません。
ただし、令状の最後には「その他本件に関係ありと思料される一切の文書及び物件」との記載があるのが通例なので、差押えできるものには幅が持たされています。令状に列挙されたもの以外も差押えの対象となるおそれは否定できません。 -
(3)差押えはいつされる?
捜索・差押えは、起訴される前の捜査段階、起訴された後の公判段階のいずれのタイミングでも行うことができます。ただし検察官が起訴するには裁判で有罪になるだけの証拠を確保する必要があるため、基本的には捜査段階で行われるケースが多いでしょう。逮捕に先立ち容疑を固めるために行われるケース、逮捕後にさらなる証拠の確保や余罪捜査のために行われるケースなどがあります。
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3、差押えは拒否できるのか?
捜索・差押えを拒否できるケースはあるのか、差押え前に証拠を隠したらどうなるのかについて解説します。
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(1)差押えは拒否できない
捜索・差押えは裁判所の令状にもとづく強制捜査なので、拒否することはできません。
裁判所は令状を発付する前に、その場所に犯罪の証拠が存在するのか、捜索・差押えの必要があるのかなどを厳しく審査します。事前の審査を経て令状が発付された以上は適法な捜査であり、拒否しようと思っても強制的に実施されます。適法な捜索・差押えに抵抗すると、捜査の対象となっている罪名とは別に、公務執行妨害罪に該当してしまうおそれがあります。 -
(2)突然警察が来た場合は?
捜索・差押えは予告なしに行われるため、突然警察が来ても令状にもとづく適法な捜索・差押えである限りは拒否できません。捜索・差押えについては弁護人の立会権がないため、弁護士が来るまで待ってもらうこともできません。また対象者本人の立ち会いが必ず求められるわけではないため、家族などが警察に対応し、突然のことに困惑してしまうケースもあります。
もっとも、拒否できないからといって、捜索・差押えを漫然と放置する必要はありません。まずは本当に令状が出ているのかをしっかり確認することです。令状を提示された場合は、内容をよく確認し、どのような嫌疑で、どのような場所・物が対象になるのか、違法な捜索・差押えが行われないのかを検討するべきでしょう。 -
(3)差押え前に証拠品を隠したら罪に問われるのか?
他人の事件に関する証拠を隠したり捨てたりすると、刑法第104条の証拠隠滅罪に問われます。罰則は3年以下の懲役または30万円以下の罰金と決して軽くない罪です。
罪になるのは「他人の事件」の証拠を隠滅した場合であって、自分が被疑者の場合は対象外です。これは、犯人が自分の事件の証拠を隠そうとするのは無理もないと考えられているためです。
しかし証拠隠滅罪に問われなくても「証拠隠滅の危険性が高い」として逮捕や勾留の判断において不利にはたらくおそれは強まるでしょう。また他人に指示をして証拠を隠滅させた場合は、証拠隠滅罪の教唆犯として、隠滅した人と同様に罰せられます。 -
(4)例外が認められる押収拒絶権
差押えは原則として拒否できませんが、刑事訴訟法第105条では、特定の業種については例外的に押収を拒絶することができる権利を認めています。「押収拒絶権」といいます。
押収拒絶権は医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士、弁理士、公証人、宗教職に従事する場合、または従事していた場合にのみ認められています。これらの業務者に押収拒絶権があるのは、業務の特性上、他人の秘密を扱う機会が多いからです。業務を委託した人や業務に対する社会一般の信頼性を保つために認められていると考えられています。
令和2年1月には大手自動車メーカーの前会長が国外に逃亡した事件に関係して、東京地検が元弁護士人の事務所を捜索した際、パソコンなどについて元弁護人らが押収拒絶権を行使したと報じられました。
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4、差し押さえられたものは返却されるのか?
差押えを受けた人にとって、対象物が返却されるのか、返却されるとしたらいつなのかは重要な問題です。返却の可否やタイミングについて見ていきましょう。
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(1)差し押さえられたものは返却される
差し押さえられたものでも、留置の必要がないものは還付(返却)されなければなりません(刑事訴訟法第123条1項)。たとえば不起訴処分や罰金刑が確定し、事件が終了した場合には、遅くともそのタイミングでは還付されるでしょう。
また、すでに捜査機関の精査が終了しており、証拠として保管しておく必要がなくなった場合は、刑事裁判が始まる前や事件が終了する前でも、所有者や保管者などに還付される場合があります。
還付するかどうかは捜査機関が判断しますが、携帯電話やキャッシュカード、会社に関連する資料など、返してもらわないと困るものもあるでしょう。所有者などから還付するよう求めることは可能です。
とはいえ、捜査機関が犯罪に関係あるとしていったん差し押さえたものをすぐに還付するとは考えにくいでしょう。裁判が行われる場合に、裁判所に証拠品として提出する予定があるものは裁判が終わるまで還付されない場合があります。 -
(2)返却されないものもある
犯罪行為に不可欠だったものや犯罪行為に使用されたもの、犯罪によって生み出されたものなど、刑法第19条の規定により「没収」されたものは還付されません。たとえば児童ポルノ禁止法違反事件の児童ポルノ、薬物事件の薬物、殺人事件で使用された凶器などが該当します。
また、横領した金品や盗品など被害者に返すべきもの、横領した現金で購入したブランド品なども没収の対象です。被疑者・被告人の手元に戻ることはありません。 -
(3)押収品を取り戻す方法
押収品を取り戻す方法には、①差押えの許可の取り消しを求める準抗告、②還付・仮還付請求の2つがあります。
準抗告とは、裁判官や捜査機関のした処分に納得できない場合に、裁判所に対して行う不服申し立ての手続きのことです。令状に記載された差し押さえるべきものに該当しないとして、許可を取り消すよう求めます。
還付請求とは、差し押さえられたものを留置する必要性がなくなったため、返却するよう求める手続きのことです。仮還付は、留置の必要がまったくなくなったわけではないものの、一時的に還付しても問題ないと思われる場合に行われることがあります。
準抗告や還付請求が認められるためには、弁護士のサポートが不可欠です。差押えされたものを返却してほしい場合などはすぐに弁護士へ相談することが大切です。
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5、逮捕前にできること
捜索・差押えを受けて逮捕されるのを避けるためにできることを解説します。
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(1)捜索・差押えには何かしらの予兆がある
捜索・差押えは被疑者や関係者に事前に予告されることはありません。事前に予告すれば証拠隠滅のおそれが大きいからです。しかし、これから捜索・差押えを受けるかもしれないと予測できる場合があります。
逮捕前の捜索・差押えについては令状が必要ですが、裁判所が令状を発付するには相当の嫌疑が求められるため、令状請求に先立ち捜査が行われます。たとえば被疑者や参考人として任意の取り調べを受けている、事件の関係者が事情聴取を受けたといった状況があれば、その後に捜索・差押えが行われる予兆といえるでしょう。 -
(2)警察への適切な対応が重要
捜索・差押えのために捜査員が何人も自宅にやって来ると、近隣住民に捜査対象となっている事実が知られてしまうおそれがあります。場合によっては事件と関係のないものまで押収されたり、無実なのに自宅の中を荒らされてしまったりするかもしれません。このような不利益を避けるためには、警察へ適切に対応することが大切です。
具体的には、警察からの任意同行や任意出頭の求めに素直に応じる、犯罪が事実なら自首をして捜査に協力する、証拠を任意に提出するなどの対応が考えられます。事件が終われば捜索・差押えは行われないため、被害者と示談を成立させて事件を早期に解決させることも重要な対応のひとつでしょう。これらの対応をすることにより、警察の捜索・差押えを回避できる可能性があります。 -
(3)弁護士に相談して対策を立てる
被疑者・参考人として任意同行を求められているなど、捜索・差押えの予兆が見られる場合は、速やかに弁護士に相談して対応を検討しましょう。早い段階で弁護士に相談しておけば、任意の取り調べに対するアドバイスや被害者との示談交渉、自首の同行など、捜索・差押えを回避するための幅広いサポートが受けられます。
捜索・差押えが行われてしまった際にも、弁護士が捜査に違法性がなかったかをチェックし、捜査に違法性があった場合は違法に収集された証拠として証拠能力を争う弁護活動を展開することが可能です。押収品目録交付書をもとに今後の弁護活動の方針を決定することもできます。
また、弁護士が警察に対して逃亡・証拠隠滅のおそれがないことを主張することにより、逮捕が避けられる可能性も生じます。逮捕されずに在宅のまま捜査が進められれば、身柄拘束による心身の負担や日常生活への影響を最小限に抑えることができます。
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6、まとめ
刑事事件における捜索・差押えは、事件の証拠を確保することを目的に行われる処分です。裁判所が発付する令状にもとづき実施される強制処分なので原則として拒否することはできず、証拠品が確保されると逮捕されるおそれも高まります。しかし任意同行・出頭に応じるなどの適切な対応をすれば、捜索・差押えや逮捕を回避できる可能性があります。
もし自分や家族が刑事事件を起こしてしまい、捜索・差押えの予兆がある、逮捕されそうといった状況にあるなら、早急に弁護士へ相談しましょう。刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所が適切にサポートします。
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