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出頭命令(出頭要請)は応じるべき? そのまま逮捕される可能性とは
警察や検察官は、捜査に必要がある場合には、被疑者に対して取り調べを行うため、「出頭命令」を出す場合があります。出頭命令に応じることは義務ではありませんが、拒否したり、無視を続けたりした場合には、通常は逮捕されない軽微な事件であっても逮捕されるおそれがあります。
本記事では、捜査機関からの出頭命令とは何か、出頭命令が出されたあとの流れ、拒否した場合にはどうなるのか、供述調書の確認など取り調べに対する注意点、弁護士に相談するべき理由などについて解説します。
1、出頭命令とは?
出頭命令の定義について解説します。
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(1)出頭命令とは?
出頭命令(出頭要請)とは、「警察や検察などの捜査機関が、刑事事件の捜査に必要があるときに、被疑者に対して、電話や呼び出し状により、出頭を求めること」です。出頭命令に基づいて、捜査機関に出頭することを任意出頭といいます。
刑事訴訟法第198条1項は、「犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる」と定めています。
被疑者だけでなく、事件の被害者や目撃者、被疑者の関係者、鑑定人など、被疑者以外の人が参考人として捜査機関に呼び出される場合もあります。刑事訴訟法第223条1項は「犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取り調べ、又はこれに鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる」と定めています。 -
(2)捜査機関が出頭命令を出す理由
被疑者を通常逮捕するにあたっては、裁判官が発付する逮捕状が必要です(刑事訴訟法第199条1項)。しかし、裁判官が逮捕状を発付するには、「被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当の理由」があり、「証拠隠滅や逃亡のおそれがないこと」が求められます。
また、刑法・暴力行為処罰法などでは30万円以下の罰金(その他の特別法では2万円以下)、拘留または科料に当たる罪については、被疑者の住居が不定であったり、出頭命令に応じなかったりする場合以外には、逮捕状は発付されません。
つまり、嫌疑が不十分だったり、事件が軽微だったりする場合には、捜査機関は逮捕による身柄拘束という強制手段を取ることができません。そのため、被疑者から事情聴取やアリバイ確認などの取り調べを行うために、出頭命令を出すのです。 -
(3)裁判所による「出頭命令」もある
公判のために、裁判所から被告人に対して出頭命令が出されることがあります。刑事訴訟法第68条は、「裁判所は、必要があるときは、指定の場所に被告人の出頭または同行を命ずることができる」とし、「被告人が正当な理由がなくこれに応じないときは、その場所に勾引することができる」と定めています。
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2、出頭命令が出されたあとの流れ
被疑者として出頭命令が出されて、警察へ出頭した場合にはどのような流れになるのでしょうか?
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(1)出頭したら逮捕されるのか?
出頭したら必ず逮捕されるというわけではありません。罪を犯したという事実があっても、軽微な事件の場合には、事情聴取に応じた後に微罪処分となったり、逮捕されずに在宅事件として扱われたりする場合もあります。
微罪処分とは、警察が事件を検察官に送致せずに処理を完結する手続きのことです。微罪処分の対象事件や適用の基準は、犯罪の誘発を防ぐために、明確な基準は明らかにされていません。
しかし、窃盗罪や詐欺罪、暴行罪などにおいて次のような要件を満たす場合には、警察の裁量によって微罪処分となることがあります。- 原則として初犯である
- 被害が軽微または僅少である
- 被害者との示談が成立している、被害届が出ていない
- 弁償など被害回復をしている
- 身元引受人がいる
- 普段の素行が良好である
- 偶発的に起きた犯行である など
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(2)逮捕される場合
殺人や放火、強盗、強制性交等などの重大事件では、逃亡や証拠隠滅を防ぐために、出頭命令を出す前に通常逮捕されるケースが多数です。しかし、事件の内容によっては、出頭した後に通常逮捕されるケースもあります。
出頭後の取り調べによる自白など、犯罪の嫌疑が固まった、容疑を否認しており逃亡や証拠隠滅のおそれがあるなどの場合では、取り調べ中に逮捕状を請求されて、そのまま通常逮捕されることもあります。重大事件のほか、特殊詐欺のような共犯事件、薬物事件、反社会的勢力による組織犯罪事件などでは、出頭後に逮捕されやすいでしょう。 -
(3)在宅事件となる場合
在宅事件とは、被疑者を逮捕・勾留せずに起訴・不起訴が決定するまでの捜査を行う事件です。一方で、被疑者を逮捕・勾留する事件を身柄事件といいます。
在宅事件となった場合は、通常どおりの生活を送りながら、警察や検察官からの出頭命令に応じて取り調べを受けます。
令和2年の「犯罪白書」によると、令和元年に検察庁が既済とした事件(交通事故を除く)のうち、警察・検察官の段階で逮捕された事件は35.7%だけでした。つまり、残りの60%以上は在宅事件です。
次のようなケースでは、在宅事件となる可能性が高くなります。- 前科・前歴がない
- 比較的に軽微な事件である(たとえば万引き・痴漢・暴行など)
- 単独事件である(共犯事件・組織犯罪事件ではない)
- 容疑を認めている
- 住居が定まっている
- 仕事や家族があり、逃亡のおそれがない
- 身元引受人がいる
- 証拠隠滅のおそれがない
- 示談が成立している
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3、出頭命令には応じるべき?
出頭命令に応じることは義務なのでしょうか。もし出頭命令を拒否した場合、被疑者の処遇にどのような影響があるのかについて解説します。
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(1)出頭する義務はない
刑事訴訟法第198条1項のただし書きでは、「被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる」とされています。つまり、出頭命令に応じることは義務ではなく、任意なので拒否することも可能です。
ただし、容疑に心当たりがある場合に「任意だから」と出頭命令を拒否するのは危険です。警察からの嫌疑を深めてしまうことになるので、出頭命令に応じたほうがよいでしょう。 -
(2)出頭命令の拒否が被疑者の処遇に及ぼす影響
被疑者が出頭命令を拒否した場合、捜査機関は「このまま逃走・逃亡してしまうのではないか」「証拠を隠滅するのではないか」と疑うことになります。逮捕状が発付されて、通常逮捕されてしまう危険が高まるでしょう。逮捕されずに在宅事件となる軽微な事件であっても、出頭命令を拒否することは、刑事訴訟法第199条1項により逮捕の要件となります。
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(3)出頭指定日に都合がつかない場合
仕事や病気などが理由で指定日に出頭できない場合でも、日程を調整してもらうことは可能です。都合が悪くなった場合は、前もって捜査機関に相談しましょう。ただし、何回もキャンセルや変更を繰り返していると「出頭命令に応じる意思がない」と判断されて、逮捕される危険が高まります。
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4、出頭命令に応じる場合に気を付けること
出頭命令に応じて取り調べを受ける際には、次の2点について気を付けてください。
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(1)供述調書の内容をよく確認する
警察からの出頭命令に応じて取り調べを受けた場合には、供述調書が作成されます。供述調書とは、取り調べで被疑者から聞き取った詳細な事件内容を捜査官が記載したものです。
被疑者は、作成された供述調書を読み聞かせてもらい閲覧した後に、誤りがあれば訂正を求めることができます(刑事訴訟法第198条4項)。
供述調書に誤りがない場合には署名・押印を求められますが、内容に納得できない場合には、署名・押印を拒否することも可能です(同条5項)。
供述調書は、検察官が起訴・不起訴を判断したり、裁判官が量刑を判断したりする際の証拠となる重要なものです。内容によっては被疑者にとって不利な影響を及ぼすことになりますが、後から「間違いであった」と覆すのは困難です。供述調書の内容はよく確認し、納得がいくまで訂正を求め、誤りがないことを確認したうえで署名・押印をしましょう。 -
(2)黙秘権の内容や注意点を認識しておく
黙秘権とは、「取り調べや裁判において、自分が話したくないことについては、話さなくてもよい権利」です。刑事訴訟法第198条2項は、「取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない」と定めており、逮捕・勾留されているかどうかを問わず、捜査官は被疑者に対して黙秘権があることを告げなくてはなりません。
捜査官の質問に答えたくない場合に答えないことは、被疑者に認められた正当な権利です。黙秘権の行使によって、誘導尋問による不利な供述を避けることもできます。
ただし、黙秘を続けることで取り調べが長くなったり、厳しい追及を受けたりする事態も考えられます。任意の取り調べでは供述が得られないと判断されれば逮捕されてしまう危険もあるので、黙秘権の行使にあたっては事前に弁護士と相談することをおすすめします。
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5、出頭前に弁護士へ相談すべき理由
捜査機関から出頭命令を受けたら、出頭をする前にまず弁護士への相談をおすすめします。
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(1)不利な供述調書の作成を防止できる
弁護士に相談すれば、事件の見通しや刑事事件の流れ、取り調べの注意点について知ることができます。取り調べでどんなことを聞かれるか、どのようなことを供述するべきかについて、あらかじめ弁護士との打ち合わせが可能です。
黙秘権を行使するかどうか、黙秘権や退去権を行使するタイミングなどについてもアドバイスを得られるので、不利な供述調書を作成される事態を防ぐことができます。 -
(2)逮捕・勾留回避などに向けた弁護活動ができる
罪を犯していたとしても、逮捕・勾留の回避や不起訴・刑の軽減に向けた弁護活動が期待できます。たとえば、逃亡や証拠隠滅のおそれがないこと、本人が反省していること、家族によるサポートがあることなどを理由に、警察や検察官に対して在宅事件としての処理を主張できます。
被害者が存在する事件では、代理人として示談交渉を進めて、円満かつすみやかに示談を成立させる可能性を高められます。
出頭後に逮捕されなければ在宅事件となり、普段通りの生活が許されます。示談の成立や情状によっては、不起訴となったり、略式起訴となったりする可能性も高まるでしょう。 -
(3)心理的な負担が軽くなる
弁護士に依頼すれば、任意出頭への同行も可能です。
弁護士が同行すれば、心理的な負担が軽くなるだけでなく、捜査機関による不当な取り調べを抑止する効果もあります。出頭後に逮捕されたとしても、すみやかに接見して不安になっている被疑者を精神的にサポートできます。検察官への送致や勾留請求の阻止といった弁護活動への対応も早まるので、早期の身柄釈放が期待できるでしょう。
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6、まとめ
捜査機関からの出頭命令に応じる義務はありません。ただし、容疑をかけられているのに出頭しなかったり、取り調べに対する対処方法を間違ったりすると、軽微な事件でも逮捕されたり、事実と違う供述調書を作成されたりして、不利な状況を招くおそれもあります。
捜査機関からの出頭命令を受けたら、直ちにベリーベスト法律事務所へご連絡ください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、逮捕・勾留の阻止や不起訴などの有利な処分を目指して全力でサポートします。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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