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自首しても被害届なしなら逮捕されない? 捜査の見通しを解説
罪を犯しても「自首」すれば刑事手続きの上で有利な扱いを受けられる可能性があります。しかし、警察に「自分が犯人だ」と名乗り出ることは、わざわざ逮捕されに出向くことと同じだと感じられるため、なかなかそういった決断ができるものでもないでしょう。
では、被害者がまだ被害届を提出していない事件について自首した場合はどうなるのでしょうか。被害届がなくても直ちに逮捕されるのか、それとも逮捕されず在宅のままで捜査を受けるのか、気になるところです。
本コラムでは、被害届と逮捕の関係や「自首」による効果などを解説します。
1、逮捕の種類・要件
逮捕とは、証拠隠滅や逃亡を防ぐために、被疑者の身柄を拘束して警察署の留置場などで強制的に留め置くことです。
逮捕には、通常逮捕と緊急逮捕、現行犯逮捕の3種類があります。
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(1)通常逮捕
通常逮捕とは、逮捕状を示して被疑者を逮捕することです(刑事訴訟法第199条)。犯行の後日に逮捕されることから「後日逮捕」とも呼ばれています。
逮捕状は、「被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当の理由」があり、証拠隠滅や逃亡のおそれがあるなど「逮捕の必要性」がある場合に限り、検察官や警部以上の階級の司法警察員の請求によって、裁判官が発付します。 -
(2)緊急逮捕
緊急逮捕とは、重大な罪を犯したと疑うに足る十分な理由があるものの、逮捕状請求の時間がなく、証拠隠滅や逃亡のおそれがある場合に限って認められる逮捕です(刑事訴訟法第210条)。
逮捕の理由と緊急逮捕する旨を告げれば、逮捕状の発付を受けていなくても逮捕が認められます。重大な罪とは、殺人罪や強盗罪など、死刑または無期、長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪です。
緊急逮捕をした捜査機関は、直ちに逮捕状を請求しなければなりません。裁判官が逮捕状発付を認めなかった場合、被疑者は釈放されます。 -
(3)現行犯逮捕
現行犯逮捕とは、犯行中や犯行直後に被疑者を逮捕することです(刑事訴訟法第213条)。犯人の取り違いが起きる危険が低いため、逮捕状は必要ありません。
犯行中や犯行直後だけでなく、次のように「罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるとき」も準現行犯として現行犯逮捕することが可能です(刑事訴訟法第212条)。- 「まて!泥棒!」など、犯人として追呼されている
- 盗品や凶器と思われるものを所持している
- 返り血など、身体や被服に犯罪の顕著な証拠がある
- 「そこで何をしている?」など、警察官に呼び止められて逃走しようとしている
現行犯逮捕は、捜査権のない私人でも行うことができます(刑事訴訟法第213条)。たとえば、商業施設で店員や警備員が万引き犯を逮捕するといったケースが典型です。私人が現行犯逮捕した場合には、直ちに被疑者を検察官または司法警察職員に引き渡さなければなりません。
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2、被害届がなくても逮捕される?
被害届とは何か、被害届なしでも逮捕されるケースについて解説します。
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(1)被害届とは
被害届とは、何らかの犯罪の被害にあった被害者が、被害の事実を警察に申告するための書類です。被害届の受理については、警察における捜査のルールを定めた犯罪捜査規範第61条に定められています。
被害届は、犯罪捜査規範第61条と別記様式第6号に従って、次の事項を判明している範囲で、被害者が記入または警察官が代書します。- 被害者の氏名、住居、職業、年齢
- 被害に遭った年月日時、場所
- 被害の模様、被害金品の品名、数量など
- 犯人の住居、氏名、人相、服装、特徴など
- 遺留品などその他の情報
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(2)告訴でも捜査・逮捕され得る
被害届の提出と混同されやすい行為に、告訴があります。告訴とは、被害者(被害者が死亡している場合は、配偶者などの遺族)が捜査機関に犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示のことです。
告訴は、被害届と同様に捜査の端緒となります。被害届が提出されても捜査をする義務は発生しませんが、告訴を受理した場合は捜査義務が発生します。つまり、被害届が提出されなくても、被害者側からの告訴状が受理された場合には、捜査が開始されて逮捕される危険があるということです。 -
(3)被害届が存在しない場合も捜査・逮捕対象となる
公然わいせつ罪や賭博罪、覚醒剤取締法違反など、特定の被害者がいない事件では、被害届がなくても目撃者の証言や防犯カメラの映像、通報などを端緒として警察が事件を認知し、捜査・逮捕される危険があります。
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(4)強制捜査が必要な場合も捜査・逮捕対象となる
被害届が提出されなかったり、取り下げられたりしても、DVやストーカー事件のように被害者の身体・生命に危険が及ぶおそれのある事件では、被害届の有無にかかわらず逮捕されることがあります。
被疑者からの圧力によって取り下げに至った、精神的に支配されており提出に至らなかったといったケースにおける被害を防ぐためです。
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3、被害届がなくても起訴されるケースとは
被疑者を起訴するかどうかは、検察官の判断に委ねられています。通常、特定の被害者がいる事件では、被害届が提出されない限り起訴されないことが多いでしょう。また、過失傷害罪や器物損壊罪、名誉棄損罪、侮辱罪などの親告罪は、被害者からの告訴がなければ検察官は起訴できず、不起訴処分となります。
しかし、オレオレ詐欺・振り込め詐欺といった特殊詐欺事件に代表される組織犯罪や、被害額が大きく社会的な影響も大きい事件では、犯罪を予防・抑止する観点から被害届の有無にかかわらず検察官が起訴に踏み切るおそれが高まります。
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4、被害届がなくても自首すべきケース
被害者がいる事件においては、被害届が提出されなければ捜査・逮捕される危険は低いでしょう。しかし、ここで挙げるケースでは被害届が提出されていなくても逮捕・起訴されるおそれが高いため、自首を検討したほうが賢明です。
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(1)逮捕・起訴のおそれが高い場合
自首とは、捜査機関に事件が発覚する前、または事件が発覚していても犯人として特定される前に、自ら捜査機関に対して罪を申告して処分を求めることです。すでに犯人として特定されている場合には、自ら捜査機関に出向いたとしても、自首ではなく出頭になります。
罪を犯していて、逮捕・起訴されるおそれが高い場合には、自首したほうがよいでしょう。 -
(2)被害者が気づいている
被害者が自分のことを犯人であると気づいている場合には、被害者が被害届を提出して警察の捜査が開始されるおそれがあります。証拠がそろっていれば、自宅や会社などでいきなり逮捕されることもあるでしょう。証拠がそろっていなくても、任意同行を求められて事情聴取を受けた上で逮捕されるかもしれません。
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(3)目撃者がいる
事件の目撃者がいる場合には、目撃証言をもとに犯人として特定されて、逮捕・起訴されるおそれがあります。また、特定の被害者がいない事件でも、目撃者の証言や通報が端緒となって捜査が開始され、逮捕・起訴される危険があります。
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(4)証拠がある
防犯カメラの映像やスマホの通話履歴、SNSやメールでのやり取り、銀行の取引履歴などの証拠に基づき、犯人として特定されれば、逮捕・起訴されるおそれがあります。
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5、自首するメリット
自ら犯人であると名乗り出て処分を求めることは、決して容易なことではありません。そこで、適法に認められた自首については法律上の有利な扱いが用意されています。
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(1)刑の減軽
刑法第42条第1項は、罪を犯しても「捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる」と定めています。つまり、自首が適法に成立すれば、起訴されて裁判となっても裁判官の裁量次第で刑が減軽される可能性があります。
また、検察官が起訴するかどうかを判断する上で、自首したという事実は有利な情状として評価されることが多く、不起訴の可能性を高めます。 -
(2)逮捕や勾留を回避できる可能性
警察は、証拠隠滅や逃亡のおそれがある場合に、逮捕状を請求して被疑者を逮捕します。捜査の必要に応じてさらに勾留による身柄拘束を受ける事態も考えられます。
自首することで、証拠隠滅や逃亡のおそれは低いと判断され、在宅捜査となって逮捕・勾留を回避できる可能性が高まるでしょう。 -
(3)供述の信頼性が高まる
自首をして、改悛(かいしゅん)の状を示して正直に供述すれば、加害者側の供述であっても信頼性を高めることになり、起訴・不起訴や量刑が判断される上で有利に働く可能性があります。
また、被害者に対する誠意や謝罪の気持ちを示しているとも判断されやすくなり、示談交渉がスムーズに進む可能性もあります。
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6、自首するデメリット
自首は被疑者にとって必ず有利ばかりをもたらすわけではありません。当然ながら、一定のデメリットも存在します。
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(1)逮捕されるおそれがある
自首をして正直に供述をしても、証拠隠滅や逃亡のおそれがあると判断されれば、そのまま逮捕されるおそれがあります。特に、殺人などの重大な犯罪の場合には「重責を恐れて逃亡・証拠隠滅を図るおそれがある」と判断されやすくなるため、逮捕は免れられないでしょう。
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(2)時効による免罪はなくなる
刑事事件を起こしても、事件が発覚したり、被疑者として特定されたりせずに一定期間が経過すれば、公訴時効が成立します。公訴時効が成立すれば、検察官が起訴できなくなるので罪を問われることはありません。
自首をすれば、時効によって罪を免れられる可能性がなくなります。なお、殺人罪や強盗殺人罪などの凶悪犯罪については、時効が撤廃されているため時間経過による解決は期待できません。 -
(3)必ず減軽されるわけではない
刑法第42条第1項は「減軽することができる」と明記しています。つまり、裁判官の裁量によっては「減軽しない」という選択肢もあるわけです。
自首したからといって、必ず減軽されるわけではありません。悪質性や被害の状況など犯罪の態様、自首の経緯などによっては、刑が減軽されないおそれがあります。
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7、自首する際の流れ
自首の流れを確認しておきましょう。
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(1)自首前の準備
自首をした場合には、その日のうちに逮捕されるおそれがあります。自首することを家族など周囲の方へ伝えておきましょう。身柄拘束に備えて、着替えなど身の回りのものや、留置生活における食べ物・筆記用具などの購入のためにいくらかの現金を用意しておけば安心です。
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(2)自首をする
管轄の警察署に出向くと、まず任意の取り調べを受けることになります。
自首を受理した警察官は自首調書を作成しなければなりません(刑事訴訟法第241条第2項・第245条、犯罪捜査規範第64条第1項)。任意の取り調べでは、事件の概要や自首した理由などを供述します。また、警察官と事件現場に行って、実況見分に立ち会う場合もあります。 -
(3)逮捕もしくは在宅捜査となる
任意の取り調べや被害者への聞き取り、証拠の確認などにより、犯罪があった事実や犯人であるということが特定できれば、その日のうちに逮捕されることがあります。しかし、逮捕状を請求するには、証拠が不十分であったり別の裏付け捜査が必要だったりする場合もあるので、いったん帰宅となるケースもあるでしょう。このようなケースでは、後日、逮捕の要件がそろえば逮捕されることになります。
また、証拠隠滅や逃亡のおそれがないと判断されたり、軽微な犯罪だったりする場合には、逮捕されずに、そのまま在宅捜査となる可能性もあります。
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8、自首については弁護士に相談を
自首をしようかと悩んでいるなら、まずは弁護士への相談をおすすめします。
弁護士に相談すれば、自首するべき事件なのかどうかを適切に判断することができるとともに、取り調べや逮捕に対する不安を軽減することができるでしょう。捜査や逮捕の見通しについての説明を受けたり、取り調べのアドバイスをしてもらったりといったサポートも期待できます。
また、自首前に自首報告書を作成したり、事前に管轄の警察署と連絡を取った上で同行してもらえたりします。身元引受書の作成や被害者との示談交渉など、逮捕・勾留の回避や不起訴処分、刑の減軽に向けても、さまざまなサポートが得られます。
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9、まとめ
刑事事件を起こすと、被害届が提出されていなくても目撃証言などによって捜査対象となり、逮捕されるおそれがあります。自首をすれば、逮捕・勾留の回避や刑の減軽が期待できますが、適法に自首が成立しなかったり、捜査機関から不当な扱いを受けたりするおそれもあるので、安易な自首は危険です。
自首についてお悩みなら、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください。刑事事件の実績豊富な弁護士が、有利な処分を目指して全力でサポートします。
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