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住居侵入罪は未遂でも逮捕される? 逮捕の可能性と罪について解説
「住居侵入罪」はさまざまな犯罪の手段にもなります。ニュースや新聞の報道に目を向けると、住居侵入罪で検挙された事例のほとんどが、空き巣・わいせつ・ストーカーといった悪質な目的をもって侵入を犯していることがわかります。このような悪質な事例では、被疑者が逮捕されることもままあります。
では、住居侵入を企てたものの、実際にはまだ侵入していなかった場合はどうでしょう? 侵入を果たす前に家人や通行人などに目撃された、自ら思いとどまったなど、住居侵入罪が「未遂」で終わった場合でも、逮捕・処罰されてしまうのでしょうか?
本コラムでは「住居侵入罪」が未遂で終わった場合の逮捕の可能性や刑罰の内容について解説します。
1、住居侵入罪とは?
まずは「住居侵入罪」がどのような犯罪なのかを確認していきましょう。
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(1)いわゆる「不法侵入」を罰する犯罪
住居侵入罪は、いわゆる「不法侵入」と呼ばれる行為を罰する罪のひとつです。
一般的な会話だけでなく、ニュースや新聞などでも不法侵入という用語はたびたび登場しますが、実は刑法をはじめとしてどの法律をみても「不法侵入罪」という犯罪は存在しません。
不法侵入と呼ばれる行為は、刑法第130条に定められている住居侵入罪・邸宅侵入罪・建造物侵入罪等のそれぞれ侵入した場所に合わせた罪名で処罰されます。 -
(2)住居侵入罪が成立する要件
刑法第130条の条文をみると、住居侵入罪は「正当な理由がないのに、人の住居に侵入した者」を罰する犯罪だということがわかります。
住居侵入罪が成立する要件を分解しながら整理してみましょう。
● 正当な理由がない
一般的には不法行為の目的などを指すので、たとえば郵便配達や電気・ガス・水道の検針など業務上の目的などは正当な理由にあたります。なお、家賃滞納などを理由に家主が無断で立ち入る行為などは、正当な理由があるようにみえても違法となる可能性が高いので注意が必要です。
● 人の住居もしくは看守する邸宅
人が日常生活を送る住宅やアパート・マンションなどの部屋のほか、壁や塀で囲まれた庭、ベランダ、マンションの共有部分などが、住居と邸宅に含まれるという考え方が有力です。住居と邸宅の区別は、現に住んでいると住居、今は人がいないけど人が住むための構造物に含まれると邸宅といった区別があります。
● 侵入
住人など権利者の意思に反して立ち入る行為です。「入らないで」と警告したり「立ち入り禁止」の看板やビラで明示していたりしなくても、犯罪目的のように当然許されるはずがない目的をもっていれば侵入と解されます。 -
(3)住居侵入罪で科せられる刑罰
住居侵入罪には、3年以下の懲役または10万円以下の罰金が科せられます。
数ある犯罪のなかでは比較的に軽微な刑罰が予定されている犯罪ですが、目的となった別の犯罪行為とともに罪を問われ、結果として厳しい刑罰を受けるケースが多いでしょう。
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2、まだ侵入していなくても逮捕? 住居侵入罪は未遂でも処罰される
他人の住居などへの侵入を企てたものの、何らかのトラブルが起きたり、自ら思いとどまったりして実際には侵入しなかった「未遂」の場合でも、逮捕される可能性があります。
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(1)住居侵入罪には「未遂」も罰する規定がある
刑法第132条は「第130条の罪の未遂は罰する」と明記しています。第130条とは住居侵入罪を指すので、住居侵入罪は未遂でも処罰の対象です。
刑法の考え方では、犯罪には罪が完成した時点を「既遂(きすい)」としており、既遂に達しない段階を「未遂」と呼びます。本来、具体的な結果が発生した既遂の時点をもって処罰の対象となるので、未遂は処罰されません。
ただし、一部の犯罪には、既遂に達していなくても危険を生じさせたこと自体を問題として未遂を罰する規定が存在します。住居侵入罪も、未遂を罰する犯罪のひとつです。 -
(2)住居侵入が未遂でも逮捕される可能性があるケース
住居侵入罪が未遂でも処罰されるなら、次に考えるのは「どこからが未遂になるのか?」という点です。たとえば、「侵入しよう」と考えただけでも未遂になるのかといえば、そうではありません。
刑法では、犯罪の「着手」があれば、結果が伴わなくても未遂になると考えられています。着手とは、犯罪の実行行為を開始することです。
たとえば、次のようなケースでは、住居侵入未遂として逮捕される可能性があります。
- 侵入のために塀や壁をよじ登った
- 門扉の錠前を壊した
- 敷地に入ろうとしたところを家人に発見された
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(3)住居侵入未遂で後日逮捕される可能性はある?
住居侵入未遂の容疑で逮捕されるケースの多くは、家人や通行人などに発見されて取り押さえられたり、通報を受けて駆けつけた警察官に身柄を押さえられたりして、現行犯逮捕されます。こういった状況を考えると「現行犯で捕まらなければ逮捕されない」と考えるかもしれませんが、それは間違いです。
住居侵入罪をはじめ、犯罪には、未遂を含めて「現行犯でなければ逮捕できない」というルールはありません。客観的な証拠さえあれば、その場で現行犯逮捕されなくても、捜査が進められて逮捕状が発付され、後日に通常逮捕されるおそれがあります。
住宅の玄関や集合住宅の共有スペースに設置された防犯カメラ、駐車中の車のドライブレコーダー映像、現場に残された指紋などの鑑識資料、家人や通行人の目撃情報などから、後日逮捕される可能性があることを覚えておきましょう。
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3、未遂の場合は刑が軽くなる? 未遂減免とは?
前述のとおり、住居侵入罪には未遂を罰する旨の規定があるので、実際に侵入していなくても処罰の対象になる可能性があります。とはいえ、実際に家人・管理者の意思や住居の平穏を侵したという結果は生じていないので、既遂の場合と同じように刑罰が科せられるのは厳しすぎるようにも感じられるかもしれません。
刑法には「未遂減免」の規定があります。未遂の場合は、犯罪を遂げた場合よりも刑罰が軽くなる可能性があるのです。
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(1)未遂減免とは?
刑法第43条には「未遂減免」という規定があります。犯罪が未遂に終わった場合は、状況に応じて刑罰を減じたり、刑罰を免除したりするという考え方です。
犯罪の実行に着手して、これを遂げなかった者を「着手未遂」と呼び、その刑が「減軽」される可能性があります。
自己の意思によって犯罪を中止した者は「中止未遂」です。中止未遂では、その刑が必ず減軽または「免除」されます。 -
(2)減軽・免除とは?
減軽とは、刑事裁判の判決において言い渡される刑罰を減じる処分です。
減軽の方法は刑法第68条に定められており、期限の定めがある有期刑はその上限と下限が、罰金は上限額と下限額が、それぞれ2分の1に減じられます。
住居侵入罪の法定刑は、3年以下の懲役または10万円以下の罰金なので、懲役の上限は1年6か月に、罰金の上限は5万円に減じられ、その範囲内で適当な量刑が言い渡されるという仕組みです。ただし、着手未遂の場合は、刑法の条文で「減軽することができる」と表現されているので、必ず減軽されるわけではありません。裁判官の判断次第では、減軽されないという結果もあり得ます。
免除とは、刑罰を科せられない処分ですが、無罪ではありません。
犯罪そのものは立証されているものの、中止未遂のほか、一部の犯罪における自首などを理由に「有罪だが刑罰を科さない」という処分だと理解しておきましょう。
ここで注意が必要なのが、減軽・免除は、いずれも刑事裁判の判決に影響するものだという点です。刑事裁判を経なければ減軽・免除は受けられないので、たとえ減軽・免除される可能性が高い状況だったとしても警察などの捜査対象から外されるわけではありません。
また、犯罪の既遂・未遂の基準や未遂の種類は法学的にも難しく、いまだに争いがある点も多いので、自分勝手に「ここまでは未遂だ」「これは中止未遂が適用されるはず」などと判断するのは危険です。
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4、警察に逮捕されるとどうなる? 刑事手続きの流れ
住居侵入未遂の容疑で警察に逮捕されると、その後はどうなるのでしょうか?
刑事手続きの流れを確認していきます。
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(1)逮捕・勾留による身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、警察の段階で48時間以内、検察官の段階で24時間以内、合計で72時間を上限として身柄を拘束され、取り調べを受けます。ここで検察官の請求が認められると「勾留」が始まり、初回で10日間、延長されるとさらに10日間以内の身柄拘束を受けるので、逮捕から数えて最長23日間は自宅へ帰ることも許されません。
逮捕・勾留されている期間は、どんな目的で住居侵入を犯そうとしたのか、当時の詳しい状況はどうだったのかなど、厳しい取り調べが実施されます。警察署の留置場に収容され、自由な行動は大幅に制限されるので、心身ともに疲弊する日々が続くでしょう。 -
(2)検察官が起訴すると刑事裁判が開かれる
勾留による身柄拘束が満期を迎える日までに、検察官が「起訴」すると、刑事裁判を受ける被告人となってさらに勾留を受けます。起訴とは、検察官が国を代表して刑事裁判を提起する手続きで、検察官だけに許されている権限です。
被告人として勾留されると、刑事裁判が終わるまで実質無期限で身柄拘束が続きます。起訴された段階からは、一時的な身柄解放である「保釈」の請求も可能ですが、必ず請求が認められるとも限りません。
通常、特に争いがない事件でも起訴から刑事裁判の終了まで早くて3か月程度、無罪を争うなど争点が多く難しい事件では半年以上の時間がかかるので、長期の身柄拘束を覚悟することになるでしょう。
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5、住居侵入未遂の嫌疑をかけられたら弁護士に相談を
住居侵入未遂の嫌疑をかけられてしまうと、自分だけの力で解決するのは困難です。直ちに弁護士に相談して、必要なサポートを受けましょう。
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(1)逮捕を避けるための弁護活動が期待できる
住居侵入罪は、窃盗・わいせつなどの悪質な目的へとつながる危険な犯罪です。発覚すれば、逮捕の可能性は極めて高くなります。
逮捕・勾留による身柄拘束は最長で23日間にわたり、さらに起訴されると刑事裁判が終わるまで釈放されません。社会から隔離された時間が長引くと解雇や退学などの不利益な処分を受けるおそれも高まるので、まずは「逮捕を避けること」に力を注ぐべきです。
まだ警察に発覚していない段階なら、弁護士を通じて被害者に謝罪し、弁済を尽くして示談を成立させることで、逮捕を避けられるでしょう。また、すでに警察が認知している状況でも、弁護士が逃亡や証拠隠滅を図るおそれがないことを主張すれば、逮捕されず在宅事件として処理される可能性も高まります。 -
(2)厳しい刑罰の回避が期待できる
住居侵入が未遂に終わったのなら、被害者には実害がなかったことになります。ただし、精神的に強い不安や不快を与えたという事実に間違いはないので、厳しい刑罰を回避したいと考えるなら、被害者への謝罪と弁済は欠かせません。
被害者との示談が成立して、被害届が取り下げられれば、捜査が終了して検察官が不起訴処分を下す可能性が高まります。また、すでに被害者への謝罪や弁済などが尽くされている、という事実は加害者にとって有利な事情となるため、刑事裁判において未遂減軽が適用される可能性も高まるでしょう。
被害者との示談交渉を進めるには、弁護士のサポートが必須です。犯罪被害者の多くは、加害者に対して強い怒りや嫌悪の感情を抱いているため、加害者側からの示談の申し入れに警戒してしまい、交渉が難航するばかりか、そもそも相手にしてくれないといったケースもめずらしくありません。
代理人として弁護士が間に立つことで、被害者の警戒心を解き、円満な交渉へとつなげます。
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6、まとめ
「住居侵入罪」は、実際には侵入に至っていない「未遂」の場合でも処罰の対象になります。
処罰の対象である以上は、警察に認知されれば逮捕の可能性もあるので「未遂だったから」「誰にもバレていないから」と放置するのではなく、速やかに解決策を講じましょう。
住居侵入未遂にあたる行為があり、逮捕や刑罰を避けたいと望んでいるなら、弁護士のサポートは必須です。住居侵入未遂を含めた刑事事件の解決は、刑事事件の解決実績が豊富な弁護士が多数在籍しているベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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