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懲役〇年・執行猶予〇年とはどういう意味? 実刑との違いとは?
世間の注目度が高い事件では、容疑者の逮捕や検挙だけでなく、その後の刑事裁判の結果まで報じられることが多くあります。
たとえば、公職選挙法違反の罪で起訴された前法務副大臣に関する裁判では、「懲役2年・執行猶予5年」の有罪判決が言い渡されたと報じられました。
こういったニュースをみると、果たして刑務所に収容されるのか、それとも日常生活を送ることが許されるのか、わかりにくく感じる人がいるかもしれません。本コラムでは「懲役」と「執行猶予」の意味、「実刑」との違いなどを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
なお、一部後にも詳述していますが、拘禁刑への統合や執行猶予を付与する条件など、昨今の刑法改正により変更された内容は、令和7年6月1日に施行される予定です。
この記事で分かること
- 「懲役」「執行猶予」とはそれぞれどのような意味なのか
- 執行猶予と実刑は何が違う?
- 刑事事件で逮捕されてから刑罰が科せられるまでの流れ
目次
1、「懲役」とは? 日本の刑罰の種類
ニュースなどでたびたび耳にする「懲役」とはどのような刑罰なのでしょうか?
日本における刑罰の種類に触れながら解説していきます。
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(1)日本の刑罰の種類
刑罰の種類は刑法第9条に定められています。
同条によると、それ単体で独立して科せられる主刑は次の6種類です。
- 死刑 罪を犯した者の生命を絶つ刑です。唯一の生命刑であり、これ以上はない厳しい刑罰であるため極刑とも呼ばれます。
- 懲役 受刑者を刑務所に収容して刑務作業という労働を強いる刑です。国民に保障されている自由が制限されるため自由刑に属します。
- 禁錮 刑務所に収容される自由刑ですが、懲役のように刑務作業への従事は強いられません。刑期の間は、房内で一定の姿勢を保つよう監視されます。有期・無期の区別と上限・下限は懲役と同様です。なお、禁錮受刑者でも、希望すれば刑務作業への従事が認められています。
- 罰金 受刑者に金銭の納付を強いる刑で、財産刑に属します。下限は1万円ですが上限の定めはありません。なお、罰金を納付できない場合は労役場に収容され、罰金相当の労働に代えて納付することになります。
- 拘留 刑務所に収容される刑ですが、禁錮と同じく刑務作業は科せられません。1日以上30日未満の短期に限った自由刑です。
- 科料 1000円以上1万円未満の金銭納付を強いる財産刑です。ごく少額の罰金と同じだと考えればよいでしょう。
懲役には期間を定める「有期懲役」と期間の定めがない「無期懲役」があります。有期懲役の下限は1か月、上限は加重なしで20年、加重された場合は30年です。無期懲役に期間の定めはありませんが、海外の終身刑のように一生涯にわたって刑務所に収容されるわけではなく、有期懲役の上限である30年を超えたあたりを目安に仮出所が許されています。
刑罰の軽重の序列は「死刑 > 懲役 > 禁錮 > 罰金 > 拘留 > 科料」となります。
たとえば、1000万円の罰金よりも1か月の懲役のほうが重くなるという考え方です。
また、主刑と一緒でなければ科すことのできない付加刑として「没収」も存在します。
犯罪に使用された凶器、犯罪によって得た財産や収益などの所有権を強制的に奪う刑ですが、警察などの捜査機関が証拠品を押収する領置や差し押さえとは別のものです。 -
(2)懲役を科せられるとどうなるのか?
懲役を科せられて刑務所に収容されると、刑期を終えて出所が許されるまで刑務所からは出られません。
刑務所内では日課に従って規律正しい生活を送ることになり、刑務作業を通じて職業上有益な知識と技能の習得を目指します。刑務作業は1日8時間・週5日と定められており、作業に対して報奨金も支払われます。 -
(3)懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化される
懲役と禁錮は別の刑ですが、実際には多くの禁錮受刑者が自らの希望で刑務作業に従事しています。令和5年版の犯罪白書によると、令和5年3月末の時点で、禁錮受刑者の86.5%が刑務作業に従事しているという状況です。このような現状に照らすと、懲役と禁錮を区別する意義は実質的に薄いといえるでしょう。
また、同白書によると、刑法犯として検挙された人員に占める再犯者の割合は47.9%という極めて高い水準となっており、再犯防止が政府の命題となっています。
そこで、令和4年6月の刑法改正によって、懲役と禁錮を廃止・一本化するかたちで「拘禁刑」という新たな刑が創設されました。
拘禁刑に処されると刑務所に収容されるという点では懲役・禁錮と同じですが、刑務作業への従事は義務ではなくなり、作業のほか、受刑者の改善・更生に効果的な教育や指導が行われます。
拘禁刑の施行日は、令和7年6月1日です。
本格施行の時点で、各犯罪の法定刑や罰則における懲役・禁錮は拘禁刑へと改められますが、施行の日よりも前に起きた犯罪は従来どおりの刑罰が科せられます。
2、「執行猶予」とは? 「実刑」との違い
「執行猶予」とはどういった処分なのでしょうか?実刑との違いを含めて解説していきます。
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(1)執行猶予・実刑とは?
執行猶予とは、懲役・禁錮・罰金を対象に、期間を定めてその刑の執行を猶予する処分です。
刑罰は、裁判官から言い渡しを受けた後、異議申し立ての期間を経過すると確定し、直ちに執行されるのが基本ですが、懲役・禁錮・罰金の言い渡しに執行猶予が付されると、その執行が猶予されます。
執行猶予の期間は、刑が確定した日から、1年以上5年以下です。
たとえば、判決が「懲役1年・執行猶予3年」の場合、1年の懲役を科されますが、その執行は3年間に限って猶予され、直ちには執行されません。さらに、別の罪を犯すことなく執行猶予の期間が過ぎれば、刑法第27条の規定によって刑の言い渡しの効力がなくなります。つまり、執行猶予の期間中に反省して新たな事件を起こさなければ、懲役になり自由を奪われないという考え方です。
なお、懲役・禁錮の執行猶予には、言い渡された刑期の全てを対象とする「全部執行猶予」と、刑期の一定部分は刑務所へと収容し、残りの部分を執行猶予として一般社会で更生を目指す「一部執行猶予」があります。
もう一方の「実刑」とは、執行猶予がつかないことを意味します。
通常は自由刑である懲役・禁錮のみを対象に「実刑」といい、死刑や罰金の実刑とは呼びません。
たとえば、判決が「懲役1年」の場合は、執行猶予がついていないので実刑となり、1年の懲役が直ちに執行されます。 -
(2)執行猶予の条件
執行猶予が付される刑罰は、懲役・禁錮・罰金に限られます。
ただし、懲役・禁錮の場合は言い渡される刑が3年以下、罰金は50万円以下の場合なので、たとえば5年以上の有期懲役が科せられる強盗罪のように3年以下の懲役が言い渡される可能性のない犯罪は執行猶予の対象外です。
また、以前に禁錮以上の刑を科せられていない者という条件もあります。
ただし、禁錮以上の刑に処せられてその執行を終えた日から5年が経過した者、または執行猶予の期間を満了し刑の執行が免除されて5年が経過した者については、執行を終えた日または執行免除を得た日から、5年以内に禁錮刑以上の刑になっていなければ、執行猶予の対象となります。 -
(3)執行猶予の期間中に新たな罪を犯すとどうなる?
執行猶予の期間中に新たな罪を犯し、その事件について禁錮以上の刑に処せられて再度の執行猶予が得られなかった場合、最初の執行猶予は必ず取り消しになります。
また、罰金に処せられたときは、裁判官の裁量によって執行猶予の取り消しが可能です。
新たな罪を犯した場合ではなくても、執行猶予の期間に保護観察を付されている場合は、保護観察の順守事項について、重大な違反があると執行猶予が取り消されてしまうこともあります。
執行猶予は、社会生活を送りながら反省する機会を与えられた状態なので、その期間中に罪を犯したり、約束を破ったりしたという事実は重く評価されるという点は覚えておきましょう。
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3、逮捕から刑罰が科せられるまでの流れ
罪を犯して警察に逮捕され、刑罰が科せられるまでの流れを確認していきましょう。
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(1)逮捕・勾留による身柄拘束
罪を犯したことが発覚すると、被害者からの申告や警察活動などを通じて管轄の警察が事件を認知し、捜査を始めます。
証拠がそろって裁判官が逮捕状を発付すると、警察に逮捕されます。逮捕に事前の通知はないので、突然警察官が自宅などを訪ねてきて身柄を拘束されることになるでしょう。
警察に逮捕されると最大48時間の身柄拘束を受けたうえで検察官のもとへと送致され、検察官の段階でも24時間以内の身柄拘束を受けます。さらに検察官の請求によって勾留が許可されると、10~20日間にわたって身柄拘束を受けて、自由を大幅に制限されます。
逮捕・勾留中は、自宅へ帰ることも会社や学校へ行くことも許されません。警察署の留置場に収容されて自由を制限されるという点では、懲役や禁錮と同じようにとらえられがちですが、それは間違いです。
逮捕・勾留は、捜査中の逃亡や証拠隠滅を防ぎ、正しい刑事手続きを受けさせるための強制処分であり、懲役や禁錮のような懲罰としての性格はもっていません。 -
(2)起訴・不起訴の判断
勾留による身柄拘束の期限までに、検察官が起訴するか、不起訴にするかを判断します。
日本の法律では、起訴・不起訴を決定できるのは検察官だけです。
検察官が起訴すると、容疑者の身柄は被告人としてさらに勾留されて拘置所に移送され、刑事裁判が終了するまで釈放されません。
一方で、不起訴が決定すると刑事裁判が開かれないので、これ以上は身柄を拘束する必要もなくなり、直ちに釈放されます。 -
(3)刑事裁判で有罪になると刑罰が科せられる
検察官の起訴からおよそ1か月後に刑事裁判が開かれます。
初回の公判が開かれた後は、おおむね1か月に一度公判があり、数回の審理を経たうえで最終回に判決が下されます。
裁判官が有罪と判断した場合は、犯罪ごとに定められた刑罰の範囲内で適切とされる量刑が言い渡されます。ここで裁判官が懲役・禁錮・罰金を選択し、執行猶予が付されると、刑の執行は猶予されます。
反対に、執行猶予が付されなかった場合は、判決に対する異議申し立ての期間を経て刑が確定すると、直ちに執行されます。
4、厳しい刑罰を回避するために弁護士ができること
罪を犯し、裁判官が有罪判決を下すと、法律が定める範囲内で刑罰が科せられます。
懲役や禁錮といった自由刑が選択されれば、家庭・会社・学校といった社会生活からも隔離されてしまうので、甚大なダメージを受けることになるでしょう。
懲役の実刑など厳しい刑罰を回避するためには、弁護士のサポートが欠かせません。
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(1)事件化の回避や不起訴を目指した弁護活動
日本の法律では、公平な刑事裁判を経なければ、刑罰は科せられません。
不当に重い刑罰を回避するには「懲役に執行猶予がつくのか?実刑になるのか?」といった点に悩むよりも、まずは弁護士に相談して不当に重い罪を受けないように行動するほうが、賢明です。
できるだけ早い段階で弁護士に相談すれば、警察の捜査・逮捕といった、刑事的な法的手続きが進む前に、被害者との示談交渉を始めることができます。
また、すでに警察が事件を知っていても、示談が成立し被害届や刑事告訴が取り下げられれば、警察限りで捜査が終結したり、検察官の段階で不起訴になったりすることもあるでしょう。
ただし、被害者との示談交渉は難しいと言わざるを得ません。
犯罪被害者の多くは、加害者に対して強い怒りや嫌悪といった感情を抱いています。警察から「加害者側との接触は避けるように」と念押しされているケースもあるので、直接交渉は拒まれる可能性が高いでしょう。
被害者と安全に示談交渉を進めたいと考えるなら、公平・中立な第三者である弁護士に対応をまかせるべきです。 -
(2)執行猶予や罰金といった有利な処分を目指した弁護活動
罪を犯して刑事裁判になったからといって、必ず刑務所に収容されるとは限りません。
懲役に執行猶予が付されて社会生活を送りながら、更生するチャンスを与えられることもあれば、懲役・禁錮のほかに罰金の規定がある犯罪なら、罰金が選択される展開もあり得ます。
罪を犯したことが事実であり、有罪判決が避けられない状況でも、適切な証拠を裁判官に示せば刑罰が不当に重くならない方向へと傾く可能性もあるでしょう。
とはいえ、一般の個人では、どのような証拠を提出するべきなのか、どうすれば証拠を集められるのかといった知識をもっていないはずです。
不当に重い刑罰を避けるためには、法律や刑事手続きの知識だけでなく刑事事件の解決実績も豊富にもつ弁護士のサポートが欠かせません。
5、まとめ
刑事裁判で「懲役」が言い渡されると、刑務所に収容されて労働をすることになり、刑期を終えるまで釈放されません。
しかし、懲役に「執行猶予」が付されれば、社会生活を送りながら反省することができ、さらにその期間を新たな罪を犯すことなく過ごせれば、言い渡された懲役の効力が消滅します。
罪を犯したことが事実でも、必ず刑務所に収容されるわけではありません。
執行猶予が付されれば社会生活への復帰が許され、罰金が選択されれば金銭納付によって刑が終了します。被害者との示談がまとまれば、刑事裁判に発展しない可能性もあります。
ただし、懲役に執行猶予が付されるには条件があるだけでなく、適切な弁護活動も重要になります。不当に重い罪刑罰を避けるためには、刑事事件の解決に力を入れている弁護士のサポートが必要です。
深刻な事態に発展する前に穏便な解決を図りたいなどの望みがあるなら、刑事事件の解決実績を豊富もつベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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