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弁護士コラム

2024年08月14日
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心神耗弱だと刑事責任はどうなる? 判断方法や医療観察の流れを解説

心神耗弱だと刑事責任はどうなる? 判断方法や医療観察の流れを解説
心神耗弱だと刑事責任はどうなる? 判断方法や医療観察の流れを解説

被疑者・被告人の刑事責任を問うためには、本人に刑事責任能力があることが必要です。

精神の障害によって、事実を把握する能力や、自分の行動を制御する能力を著しく欠いている状態を「心神耗弱」といいますが、心神耗弱にある場合、一応刑事責任能力が認められますが、刑の減軽を受けることができます。

今回は、心神耗弱の判断基準や医療観察について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

この記事で分かること

  • 心神耗弱とはどのような状態か
  • 心神耗弱を判断する流れ
  • 心神耗弱と認められたら、刑は減軽されるのか?

目次

  1. 1、心神耗弱とは、どんな状態なのか?
    1. (1)心神耗弱とは
    2. (2)心神耗弱と心神喪失の違い
    3. (3)心神耗弱と認められた場合の効果
  2. 2、心神耗弱の判断方法
    1. (1)生物学的要素で判断する(精神の障害)
    2. (2)心理学的要素で判断する(事理弁識能力・行動制御能力)
  3. 3、心神耗弱を判断する流れ
    1. (1)心神耗弱の有無を決める方法は、精神鑑定
    2. (2)捜査段階における精神鑑定
    3. (3)公判段階における精神鑑定
  4. 4、心神耗弱により不起訴、罰金、執行猶予になったら、その後はどうなる?
    1. (1)医療観察法による処分とは
    2. (2)医療観察の流れ
  5. 5、まとめ

1、心神耗弱とは、どんな状態なのか?

心神耗弱とはどのような状態なのでしょうか。以下では、心神耗弱の概要と心神喪失との違いなどについて説明します。

  1. (1)心神耗弱とは

    責任能力とは、事柄の善悪を判断し、自らの行動をコントロールできる能力のことです。

    刑法では、14歳未満の人は刑事責任能力がないと定められていますので、罪を犯したとしても処罰されることはありません。他方、14歳以上の人であったとしても、「心神喪失」または「心神耗弱」と判断されれば、責任能力がないまたは制限されていると判断されます。

    このうち、心神耗弱とは、精神障害により、事実を把握する能力(事理弁識能力)や自分の行動を制御する能力(行動制御能力)を著しく減退している状態をいいます。

    心神耗弱や心神喪失と判断される可能性のある例としては、以下のものが挙げられます。


    • 統合失調症、妄想性障害
    • そううつ病、うつ病
    • 覚せい剤による精神障害
    • 酒を飲んで酔っ払っていた
    • パーソナリティー障害
    • 知的障害
    • 発達障害
  2. (2)心神耗弱と心神喪失の違い

    心神喪失とは、精神の障害によって、事実を把握する能力(事理弁識能力)や自分の行動を制御する能力(行動制御能力)が無い状態のことです。

    心神喪失は、責任能力が認められませんので、罪を犯したとしても処罰されることはありません。これに対して、心神耗弱は限定的ではありますが責任能力が認められますので、心神喪失のように処罰を免れることはできません

    このように心神喪失と心神耗弱は、刑事責任能力の有無という点で大きく異なります。

  3. (3)心神耗弱と認められた場合の効果

    心神耗弱は、一応刑事責任能力がありますので罪を犯した場合、刑罰が科されますが、法律上刑を減軽すると定められています(刑法39条2項)。

    自首や未遂などの任意的な刑の減軽事由とは異なり、心神耗弱は必要的な刑の減軽事由とされていますので、心神耗弱が認められれば、必ず刑の減軽を受けることができます。ただし、どの程度の減軽を受けられるかは裁判官の裁量に委ねられています。

2、心神耗弱の判断方法

心神耗弱にあたるかどうかは、主に「生物学的要素」と「心理学的要素」の二つの面から総合的に判断するのが一般的です。

  1. (1)生物学的要素で判断する(精神の障害)

    生物学的要素とは、精神の障害の有無を判断する要素になります。

    なお、被疑者・被告人に通院歴がない場合には病名を特定できないケースもありますが、確定診断が付かなくても、事理弁識能力や行動制御能力に影響が出る精神状態・精神症状が認められる限りは、「精神の障害」にあたることになります。

  2. (2)心理学的要素で判断する(事理弁識能力・行動制御能力)

    心理学的要素とは、精神の障害があることを前提として、それが事理弁識能力や行動制御能力にどんな影響を与えたかを判断する要素になります。

    その際には、主に以下のような要素を踏まえて総合的に判断しています。


    • 統合失調症の種類・程度(病状)
    • 犯行の動機・原因(了解可能性)
    • 犯行の手段態様(計画性、罪証隠滅工作)
    • 犯行前後の行動(行動の異常性)
    • 犯行、およびその前後の状況についての被告人の記憶の有無・程度
    • 被告人の犯行後の態度(反省の有無)
    • 統合失調症発症前の性格(犯罪傾向)

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3、心神耗弱を判断する流れ

刑事事件において心神耗弱はどのような流れで判断されるのでしょうか。以下では、心神耗弱を判断する流れを説明します。

  1. (1)心神耗弱の有無を決める方法は、精神鑑定

    責任能力が争われる事件では、精神鑑定が実施されることになります。

    精神鑑定では、
    ・精神障害
    ・精神障害が犯行に与えた影響の有無および程度
    ・弁識能力、制御能力の有無および程度
    に関する意見が記載されますが、最終的に心神耗弱の有無を決めるのは、裁判所になります。

    ただし、裁判官は、医学の専門家ではありませんので、専門家である精神医学者の意見が鑑定として証拠になっている場合、鑑定人の能力や公正さに疑問があったり、鑑定の前提条件に問題があったりするなど、鑑定結果を採用できない合理的な事情が認められない限り、その意見を十分に尊重して認定することになっています。

  2. (2)捜査段階における精神鑑定

    捜査段階で行われる精神鑑定には、「簡易鑑定」と「起訴前鑑定」の2つがあります。


    ① 簡易鑑定
    簡易鑑定は、主に検察官が起訴または不起訴の判断をするために実施される精神鑑定です。
    簡易鑑定は、被害者の勾留期間中に実施され、鑑定留置を伴わないものですので、医療機関に連行された被疑者と2時間程度面接をした医師がその他の捜査資料を鑑定資料として、鑑定書の作成を行います。

    あくまでも簡易的な鑑定ですが、捜査上の負担や被疑者の負担も小さいことから、精神の障害が疑われる事案では積極的に利用されています。

    ただし、簡易鑑定は、医師との面接時間が短く、判断材料も十分ではないため、内容に問題があることも多いと指摘されています。

    ② 起訴前鑑定
    起訴前鑑定とは、鑑定留置を実施して本格的に行う精神鑑定です。起訴前鑑定は、精神科病院に留置または精神科病院に通院し、被疑者に対する十分な問診、脳検査、複数の心理テストなどを実施して鑑定を行いますので、簡易鑑定とは異なり、より正確に被疑者の精神鑑定を行うことができます。

    なお、鑑定留置の期間には定めはありませんが、一般的には2~3か月程度とされることが多いです。鑑定留置期間中は、勾留の執行は停止され、勾留の日数としてカウントされることもありません。
  3. (3)公判段階における精神鑑定

    公判段階で行われる精神鑑定には、「職権鑑定」と「私的鑑定」の二つがあります。


    ① 職権鑑定
    職権鑑定とは、弁護人からの請求に基づき裁判所が実施を決める精神鑑定のことです。
    検察官は、簡易鑑定または起訴前鑑定に基づいて起訴していますので、被告人の責任能力を争うためには、弁護人としては職権鑑定を請求して対抗していく必要があります。

    職権鑑定は、鑑定資料が豊富でありかつ環境も整っていることから、その意見が信用されやすく、当事者の費用負担がないというメリットがあります。しかし、被告人に不利な鑑定結果が出てしまうと、それが法廷に出るのを避けることができない点がデメリットといえます。

    ② 私的鑑定
    私的鑑定とは、弁護人が私的に精神科医に依頼して精神鑑定を行うことをいいます。職権鑑定だと、被告人に不利な鑑定結果が出るかもしれないというリスクがありますが、私的鑑定では、鑑定結果の取捨選択は弁護側で自由に行うことができますので、そのようなリスクを回避できる点がメリットとして挙げられます。

    ただし、私的鑑定では、医師は被告人の身柄が拘束されている留置施設で面会しなければなりません。さらに、時間の制限があり心理検査のための道具の受け渡しも制限されるため、十分な検査を行うことができないというデメリットもあります。

4、心神耗弱により不起訴、罰金、執行猶予になったら、その後はどうなる?

心神耗弱を理由に不起訴、罰金、執行猶予になったときは、刑事裁判の手続きは終了します。しかし、一定の罪に関してはその後、医療観察法の手続きに移行します。

  1. (1)医療観察法による処分とは

    医療観察法制度は、継続的かつ適切な医療と観察および指導をすることで、犯罪の原因となった症状の改善、同様の行為の再発防止をして、社会復帰を目指す制度です。

    以下の犯罪行為をしたものの、刑務所などに収容されなかった人は、医療観察法による処分の対象となります。


    • 放火系
    • 不同意性犯罪系
    • 殺人系
    • 強盗系
    • 傷害系
  2. (2)医療観察の流れ

    医療観察法による処分は、以下のような流れで行われます。


    ① 医療観察審判申し立て
    医療観察法の入通院の処分をするかどうか決める審判は、検察官による申し立てにより手続きが開始します。

    なお、対象犯罪が傷害罪であった場合には、傷害の程度、対象者が過去他の人を傷つけたことがあるかどうか・内容、生活環境などを考慮し、審判の申し立てをしないこともできるとされています。

    ② 鑑定入院
    検察官による申し立てがなされると、裁判官は、鑑定その他医療的観察のため対象者に入院を命じなければなりません。これを「鑑定入院」といいます。

    鑑定入院の期間は、原則として2か月までとされていますが、裁判所が必要と認めるときは、1か月までであれば延長が可能ですので、最大で3か月までの入院期間となります。

    ③ 審判
    医療観察の審判は、裁判官と、医師でもある精神保健審判官のふたりが判断を行います。
    審判では、
    ・医療観察法による医療が不必要
    ・入院
    ・通院
    のいずれかが判断されます。

5、まとめ

心神耗弱は、限定的ですが責任能力が認められますので、刑事処分の対象になりますが、刑が必要的に減軽されます。また、一定の犯罪行為に該当し、刑務所などに収容されなかった場合には、医療観察法による処分の対象になりえます。

このように精神障害を有する方は、一般の刑事手続きとは違った特殊性がありますので、専門家である弁護士のサポートが不可欠となります。

心神耗弱など刑事責任能力が問題になる事件の当事者となってしまったときは、早めにベリーベスト法律事務所までご相談ください。

本コラムを監修した弁護士
萩原 達也
ベリーベスト法律事務所
代表弁護士
弁護士会:
第一東京弁護士会

ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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