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結婚詐欺で逮捕! 詐欺罪の成立要件と刑罰の内容、示談について説明
令和2年4月、簡易裁判所事務官の男性が逮捕されました。容疑は詐欺罪で、男性側が公務員や医師などに限定された婚活パーティーに参加していた女性に対して、結婚の積み立て金目的で現金をだまし取った疑いです。
結婚を理由に金銭をだまし取る手口は詐欺罪に該当し、結婚詐欺と呼ばれています。
「この人と結婚したい」という明るい未来を思い描く気持ちに乗じて金銭をむしり取るという点では、詐欺行為のなかでも悪質な手口だといえるでしょう。
このコラムでは「結婚詐欺」の成立要件や刑罰の内容、示談の流れや示談金の基準について弁護士が詳しく解説します。
1、詐欺罪の成立要件
「結婚詐欺」という用語そのものは広く知られていますが、実は「結婚詐欺罪」といった犯罪は法律には存在しません。結婚詐欺は詐欺の手口のひとつであり、刑法第246条に規定されている詐欺罪に問われます。つまり、結婚詐欺の成立要件を知るには「詐欺罪の成立要件」に照らし合わせる必要があります。
なお、刑法246条では、第1項で財物(金品等)に関する詐欺、第2項で財産上の利益(財物ではない、サービス等の無形の利益)に関する詐欺について規定されていますが、今回は便宜上、財物に関する詐欺を念頭に置いてご説明します。
また、以下の説明で使用する「結婚詐欺」の用語は、いずれも刑法上の詐欺罪に該当する行為を指します。
詐欺罪が成立する要件は「欺罔・錯誤・処分・移転」の4つです。詐欺罪の成立要件は、ほかの刑法犯罪と比べると非常に難しいといわれています。ここではごく簡単にそれぞれの意味を説明しましょう。
●欺罔(ぎもう)
相手にうそをいってだます行為
●錯誤
うそを聞いた被害者がうそを信じてしまう状態
●処分
うそを信じた被害者が、金品等を相手方に移転させる行為
●財物の移転
被害者が差し出た金品等が移転した状態になること
これらの要件を結婚詐欺に当てはめてみましょう。
まず、結婚するつもりはないのに「結婚しよう」ともちかけて、相手をその気にさせます。
この段階は、まだ準備に過ぎません。そのうえで「結婚資金を準備しよう」「結婚のためには元夫に手切れ金を支払わないといけない」といったうそを伝えます。これが「欺罔(ぎもう)」です。
次に、その欺罔を信じた被害者は「お金を準備すれば結婚できる」と信じ込んでしまいます。
この状態を「錯誤」と呼びます。
さらに、錯誤に陥った被害者は自ら金銭を差し出してしまいます。これが「処分」です。
その後、金品の利益が手元に移った時点が「移転」です。具体的には、預金通帳からお金を引き出すなどの行為が移転に該当します。
詐欺罪はすべての行為がそろっていないと、既遂として成立しません。うそがない、錯誤に陥っていないなどの状態では詐欺罪とはならず、「処分」や「財物の移転」がなければ詐欺未遂です。
結婚を約束したのに、ほごにすると「結婚詐欺だ」ということがありますが、これも財物の交付等の処分行為が存在していなければ、正確には刑法上の詐欺罪に該当する結婚詐欺とは言えないでしょう。
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2、結婚詐欺はだます意思があったかどうかが鍵に
結婚詐欺が成立する要件として特に重要なのが「欺罔(ぎもう)」です。そもそも、結婚のために金銭が必要と伝えた内容がうそで、その目的が、金銭をだまし取ることである必要があります。
たとえば「結婚式を開くために資金が必要だ」と伝えて、相手が蓄えた財産からその資金を用意したとしましょう。用意させた資金を、そもそも結婚する意思も結婚式などを開くつもりもなく、物品の購入や借金の返済などに充てようと考えていたのであれば結婚詐欺です。
一方で、資金を用意してもらったものの、やはり結婚する気がなくなり婚約を破棄したといったケースでは、たとえその資金を別の用途に使ってしまったとしても結婚詐欺は成立しません。
最初からだますつもりだったことを証明しなければ詐欺罪は成立しないので、結婚詐欺の捜査では「だますつもりだった」という自供や、証拠を得ることが重要となります。
そのため、厳しい取り調べが行われることが考えられるでしょう。
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3、詐欺行為での刑罰の内容
詐欺罪の刑罰は、刑法第246条の定めによると「10年以下の懲役」です。
ここで注目すべきは、懲役刑のみが設けられているという点でしょう。結婚詐欺をして有罪判決が下された場合、必ず懲役刑に処されることになります。執行猶予つきの判決にならない限り、刑務所への収監は免れません。罰金刑が規定されている窃盗罪や暴行罪・傷害罪などと比べると重罪だといえます。
執行猶予がついた場合、一定期間刑罰の執行が猶予されるので、さらなる罪を犯すなどしなければ、普通の社会生活を送りながら罪を償うことができます。
ただし、執行猶予が付されるには厳格な条件があります。特に注目すべきは、判決が3年以下の懲役、もしくは禁錮、または50万円以下の罰金刑にのみ執行猶予が可能とされている点です。
詐欺罪は、10年以下の懲役刑のみが規定されています。つまり、判決が「3年以下の懲役」におさまる必要があり、3年を超える懲役刑の判決が下された場合は執行猶予がつきません。
たとえ初犯であっても、悪質な犯行であれば懲役3年を超える判決が下される可能性あることを心得ておくべきでしょう。
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4、量刑の判断では詐欺行為の内容も重要な考慮要素となる
詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」なので、刑事裁判の判決として実際に下される量刑は10年以下の範囲内になります。
1年なのか、3年なのか、10年なのかの違いは大きいため、実際のところ「どの程度の量刑が下されるものなのか」という点には強い疑問を感じる方も多いでしょう。
量刑を決める際の考慮要素には、犯行態様、結果の重大性、動機、反省の程度等、さまざまなものがあります。その中でも、犯行態様や結果の重大性に関して、詐欺事件の量刑を決める要素として重要なのは、次の2点です。
- 行為の悪質性
- 被害の金額
結婚詐欺は、結婚をちらつかせ相手をだまして金銭を奪う悪質な行為です。手口としてそもそも悪質性が高いものですが、そのなかでも次のような状況があれば、悪質性が高いと判断される可能性があります。
- 結婚詐欺の前科・前歴がある
- 婚約の儀礼を開くなど、用意周到で緻密な犯行である
- 実は配偶者が存在しており、結婚するつもりがないことが明らかである
また、詐欺罪は刑法犯罪のなかでも「財産犯」と呼ばれるものに属しており、どの程度の財産被害があったのかという点も量刑に大きく影響します。
被害額が少額であれば量刑は軽く、多額にわたれば量刑が重くなる傾向がありますが、一方で、財産的な被害の回復も量刑に影響するという点は見過ごせません。
量刑を軽減したいと考えるならば、被害額に相当する金額の返済・弁済を果たすことが望ましいです。被害者との示談において、被害額相当の返済・弁済に加えて精神的な損害に対する慰謝料を支払うことができれば、被害届・告訴を取り下げてもらえることや、さらには不起訴処分の獲得も期待できるでしょう。
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5、示談交渉の流れ
結婚詐欺の容疑をかけられてしまっても、被害者との示談が成立すれば検察官が不起訴処分を下す可能性が高まります。不起訴処分となれば刑事裁判には発展せず、刑罰に処されることも前科がついてしまうこともありません。
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(1)示談交渉の流れ
刑事事件における示談とは、裁判外で加害者・被害者の双方が話し合いによって事件を決着させる手続きです。一般的には、加害者が被害者に対して謝罪の意思を示し、示談金を支払うことで許しを得て、示談書を交わすという流れになります。
示談書には「加害者を刑罰に問う意思はありません」という宥恕(ゆうじょ)を示す文言のほか、被害届・告訴は取り下げをするという確認条項を盛り込むことを目指します。 -
(2)示談金が決まる基準
結婚詐欺の示談金は、被害額プラス慰謝料が基本です。だまし取った金額の全額弁済に加えて、結婚をエサにだましたという精神的な損害に対する慰謝料に相当する金額を支払うことになります。
慰謝料の額は行為の悪質性や相手との関係性や犯罪の様態など、さまざまな要素が絡むため一律ではありません。また、最終的には、被害者が納得できる額であるかどうかが重要になります。そのため、示談金の額もケース・バイ・ケースとなるでしょう。 -
(3)弁護士に依頼すべきケース
結婚詐欺は、単に金銭的被害を発生させているだけでなく、結婚という人生の一大イベントをエサにしてだましたという点で、被害者の精神的なダメージは計り知れません。そのため、被害者が示談交渉に応じてくれないケースが少なくありません。このようなケースでは、加害者本人やその家族が交渉の場に立つのではなく、弁護士を代理人として交渉を進めることが望ましいです。
また、被害額が大きく示談交渉がまとまらない、被害者が「処罰が第一」と示談に応じないといった理由で示談が難航している場合も、弁護士への相談をおすすめします。
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6、まとめ
結婚詐欺は詐欺罪の手口のひとつです。詐欺罪の構成要件を満たし、「最初からだますつもりだった」という意思がないと成立しないので、結婚詐欺の立証には難しい部分もあります。ただし、仮に詐欺罪で有罪となれば、厳しい処罰を受ける可能性があります。
また、結婚詐欺における示談交渉では、被害の弁済とともに真摯(しんし)な謝罪と誠意を伝える必要があるため、弁護士のサポートが望ましいと言えます。
結婚詐欺がバレてしまった、結婚詐欺の容疑をかけられている、などのトラブルをかかえている場合は、詐欺事件を始めとした刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にお任せください。
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