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漫画のダウンロードは違法? 著作権法違反で逮捕される可能性はあるのか
音楽・映画・アニメ・漫画など、さまざまな娯楽がインターネット上で公開されています。本来、これらはCD・DVD・書籍・単行本といった媒体を購入することで楽しめるものでしたが、頒布方法の主流が「ダウンロード」へと移行しているのが現状です。
さて、令和元年に海賊版サイトの管理者らが摘発された事件を記憶している方も多いでしょう。この事件を契機に、法整備を求める声がますます高まったことで「著作権法」が改正されて違法ダウンロードが規制対象となりました。
本コラムでは、改正著作権法の概要に触れながら、漫画データを違法にダウンロードした場合の刑事責任や罪に問われた場合の対応について解説します。
1、著作権法の改正による変更点
音楽・映画・漫画などはすべて「著作権法」による保護の対象です。令和3年1月に施行された改正によって、海賊版のダウンロード行為が違反対象となり規制が強化されています。
まずは改正著作権法の概要を確認していきましょう。
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(1)「著作権」とは
著作権法第2条1項は「著作物」について「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」と定義しています。創作者の考えや気持ちを他人の作品の真似ではなく自分自身で創意工夫し、文字・言葉・形・色・音などの形で表現したものであり、作者の地位や権威、作品の価格・価値などでは区別しません。
小説や論文などの書籍、音楽、絵画や版画、写真、映画などのほか、コンピュータプログラムも著作物として著作権が与えられます。 -
(2)「海賊版」とは
「海賊版」とは、著作権者の許諾を得ないまま製作された複製物を指します。
元来は海外の図書を無断で複製した出版物を指す用語でしたが、そもそも法律では定義されていない俗称であり、どのようなものを対象とするのかの定義は曖昧です。
現在では、国内で流通しているものも広く含むほか、図書に限らず映画・音楽などでも違法に複製・流通されているものを海賊版と呼びます。また、海賊版のデータを公開しているサイトは「海賊版サイト」とも呼ばれています。
ただし、著作権者の許諾を受けていないことだけを理由に、すべての複製が違法な海賊版となるわけではありません。
たとえば、好きな漫画のワンシーンを拡大コピーして部屋に飾れば、定義のうえでは海賊版となります。しかし、著作権法第30条には「私的使用のための複製」に関する制限が設けられており、個人的・家庭内などの範囲内で使用する目的であれば著作権者の許諾なしでも複製が可能です。このような場合は、違法性がないため海賊版とは呼ばないのが一般的でしょう。 -
(3)著作権法の改正
平成期にはインターネットを利用してファイル交換が可能な「ファイル共有ソフト」が広く流通したことで、本来は有償で販売されている音楽・映画・漫画などのデータの流通が加速し、ソフトの開発者が著作権法違反で逮捕される事態にも発展します。このような状況から著作権法が改正され、次の行為が規制対象となりました。
- 著作権者の許諾なく著作物をアップロードする行為
- 違法にアップロードされた音楽・映像データについて、違法アップロードであることを知りながらダウンロードする行為
令和3年1月1日施行の改正著作権法では、冒頭で紹介した漫画の静止画データを違法にアップロードした海賊版サイトの横行を受けて、さらに次のとおり規制が強化されています。
- 違法にアップロードされた漫画・書籍・雑誌・新聞・学術論文・コンピュータソフトウェア・イラストなどのデータについて、違法アップロードであることを知りながらダウンロードする行為
- 侵害コンテンツへのリンク情報などを集約した「リーチサイト」などを運営する行為
違法ダウンロードの処罰対象となる範囲の拡大や侵害コンテンツへの誘導を刑事罰の対象として追加したことで、海賊版対策がより強化されたことになります。
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2、漫画のダウンロードで違法にあたる行為
インターネットを利用して漫画データをダウンロードすると、改正著作権法によって罰せられるおそれがあります。
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(1)海賊版をダウンロードする行為は罰せられる
著作権者の許諾を得ないまま違法にアップロードされた海賊版の漫画データは、著作権を侵害する「侵害コンテンツ」となります。改正著作権法では、侵害コンテンツであることを知りながら海賊版の漫画データをダウンロードする行為が刑事罰の対象として追加されました。
著作権法が改正されるまでは、海賊版の漫画データをダウンロードしても規制対象外であったため罪には問われず、さらに私的使用が目的であった場合は同法第30条の規定によって違法とはなりませんでした。ところが、本改正では海賊版の漫画データをダウンロードする行為自体が刑事罰の対象となっているため、たとえ私的使用が目的であっても処罰されます。
正規版が有償で提供されている著作物に関する侵害コンテンツを継続的に反復してダウンロードする行為には、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはこれらが同時に科せられます。 -
(2)違法にアップロードされたデータだと知らなかった場合
今回の著作権法改正では、これまで規制できなかった海賊版の漫画データをダウンロードする行為が処罰の対象に加えられました。日ごろから画像データをダウンロードする機会の多い方にとっては「海賊版だと知らずにダウンロードしてしまい処罰されるのではないか」と不安に感じることでしょう。
改正著作権法によって罰せられるダウンロード行為は、あくまでも違法にアップロードされた「侵害コンテンツである」と認識している場合に限られます。侵害コンテンツであることを知らないままダウンロードしても著作権法違反として刑事罰を科せられることはありません。
ただし「侵害コンテンツだとは知らなかった」と主張すれば簡単に責任を回避できるわけではないので注意が必要です。侵害コンテンツであることが容易に認識できる海賊版サイトからのダウンロードである、何度も同じ海賊版サイトからダウンロードしているといった状況がある場合は「知らなかった」と主張しても、厳しい追及を受けることになるでしょう。
なお、改正著作権法第119条5項には「重大な過失により侵害コンテンツであることを知らないでダウンロードした場合」についても罰しない旨が明記されています。厳しい追及を受けたとしても、実際に「知らなかった」というケースでは罪には問われません。 -
(3)規制対象外となるダウンロード行為
侵害コンテンツであることを知らなかった場合に加えて、次のようなケースでは違法ダウンロードとはなりません。
- 軽微なもの
- 二次創作・パロディのダウンロード
- スクリーンショットへの映り込み
- 研究目的での複製など著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合
ここで注目しておきたいのが、二次創作・パロディのアップロード・ダウンロードです。
著作権法の定めに照らせば、漫画・アニメなどの原作者の許諾を得ていない二次創作・パロディをアップロードする行為は著作権法違反となりえます。アップロードをした時点で、私的利用目的から外れてしまうと考えられるのです。
とはいえ、実際にはファン作品や同人誌といったかたちで、二次創作・パロディが広くおこなわれているのが現状です。原作者は許諾しないまでも黙認というかたちで許容しているケースが多いことから、二次創作・パロディそのものは侵害コンテンツから除外されています。
そして、二次創作・パロディの作者が自ら共有サイトなどにアップロードしている場合、それをダウンロードしても違法ではありません。
ただし、二次創作・パロディの作者にも当然に著作権が生じているため、二次創作・パロディの作者の許諾なしでアップロードされたデータは侵害コンテンツとなります。二次創作・パロディの作者の許諾を得ずに第三者がアップロードしたデータをダウンロードすれば違法となるので注意が必要です。
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3、漫画のダウンロードについて著作権法違法となる判断基準
漫画データのダウンロードについて規制が強化されたことで、思いがけず著作権法違反になってしまうのではないかと強い不安を感じている方は少なくないはずです。改正著作権法の定めに照らして、漫画データのダウンロードが著作権法違反となる判断基準を確認しておきましょう。
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(1)違法アップロードされたデータであることを認識しているのか?
先述のとおり、違法ダウンロードとして処罰されるのは、ダウンロードしたのが「違法にアップロードされたデータ」であることを認識していた場合です。違法ダウンロードは故意犯であり、違法アップロードされた侵害コンテンツであることを知らなかった、正規のサイトからのダウンロードだと信じていたといったケースでは処罰されません。
著作権侵害が発覚した場合は、いきなり刑事事件として立件されて罰せられるのではなく、著作権者からの警告がなされるのが一般的です。著作権者からの警告を受けてもなお侵害コンテンツのダウンロードを続けていれば「違法アップロードであると認識していた」と判断されることになるでしょう。 -
(2)ダウンロード元が違法なサイトであるのか?
ダウンロード元が、違法にアップロードされた漫画データを公開している海賊版サイトであれば、違法ダウンロードと判断される危険が高いでしょう。正規に許諾を受けている配信サイトのほとんどが、業界団体による公認を受けている旨を表示しています。公認の表示がない、無料・無制限で漫画データをダウンロードできるといったサイトは海賊版の危険があるので注意が必要です。
ファンサイト・パロディサイトといった体裁でも、原作者・二次創作者の許諾なしで漫画データが違法にアップロードされている危険があるので注意しましょう。 -
(3)規制から除外される「軽微なもの」の判断基準
改正著作権法第30条1項4号は侵害コンテンツであっても「軽微なもの」のダウンロード行為を規制対象から除外しています。条文では「当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度その他の要素」に照らすと明記されているため、次のようなケースは軽微なものとして除外されると考えられます。
- 複数ページにわたる漫画のうち数コマだけのデータ
- 解像度が低く閲覧に耐えないデータ
反対に、次のような漫画データをダウンロードした場合は軽微なものとはいえないため、処罰の対象となる危険が高いでしょう。
- 漫画の全編など、複数ページにわたるデータ
- 4コマ漫画や1コマの風刺漫画などの全体データ
- 解像度が精細で正規のものと比較しても遜色のないデータ
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4、著作権法違反をしないために気をつけるべきこと
改正著作権法では、侵害コンテンツであることを知りながら漫画などのデータをダウンロードする行為を処罰の対象としています。思いがけず著作権法違反を犯してしまわないために気をつけるべき点を挙げていきましょう。
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(1)非公式のサービスを利用しない
漫画データをダウンロードする際は、非公式の海賊版サイトの利用は避けて正規の許諾を受けたサイトを利用しましょう。
正規の許諾を受けたサイトでは、出版社の認証マークや業界団体の認証を示す「ABJマーク」が表示されています。また、正規の許諾を受けたサイトでは、漫画データのダウンロードが有料または無料であってもポイントなどによる制限が設けられているのが一般的です。
反対に、海賊版サイトでは認証を示すマークの表示がなく、漫画データのダウンロードも無制限であることが多いため、区別は難しくないでしょう。 -
(2)著作権法に関する正しい知識を身につける
著作権法は、著作物を取り巻く環境の変化に対応するために改正が繰り返されている法律です。法改正の情報やニュース・コラム記事などに関心をもち、著作権法の規制内容について正しい知識を身につけることで、思いがけず著作権を侵害してしまう事態を回避できるでしょう。
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(3)著作物を利用する際は引用元を明らかにする
令和3年施行の著作権法改正では、漫画だけでなく小説や学術的な論文なども規制対象として追加されています。研究や論文作成などの目的でこれらのデータを引用する場合は、必ず引用元を明記しましょう。
ただし、引用元さえ明らかであればどのような場合でも適法となるわけではないので注意が必要です。著作権法第32条1項が認める引用は、公正な慣行に合致するものであり、報道・批評・研究など引用の目的上正当な範囲内でおこなわれるものに限られています。引用の必要性がないケースでは、引用という体裁をとっても著作権侵害を免れられないでしょう。 -
(4)著作者から利用許諾を得る
他人の著作物を利用するもっとも安全で原則的な方法は「著作権者から利用許諾を得る」ことです。他人が著作権をもつ漫画データを自身のコンテンツとして安全に発信したいと考えるなら、違法ダウンロードに頼るのではなく、利用許諾を得る方向で検討するのが最善策だといえるでしょう。
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5、著作権法違反をしてしまったら弁護士に相談
漫画データのダウンロードに関して著作権法違反の容疑をかけられてしまった場合は、ただちに弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)法改正によって取り締まりが強化されている
悪質な海賊版サイトの摘発など、漫画データのアップロード・ダウンロードを取り巻く情勢には社会全体が注目しています。改正著作権法が施行されたことで規制対象となる範囲が拡大し、従来は処罰の対象外だった行為でも違法となりました。
改正著作権法の施行後、令和3年7月現在では漫画データの違法ダウンロードによる摘発事例は報じられていないものの、今後は警告を無視してダウンロードを続けるなどの悪質な事例を中心に厳しい取り締まりが展開されるものと予想されます。 -
(2)違法ダウンロードは「親告罪」である
海賊版の漫画データなど、侵害コンテンツにかかる違法ダウンロードの罪は「親告罪」です。親告罪とは、検察官が公訴を提起するための要件として被害者による告訴が求められる犯罪のことで、被害者の告訴がない場合は起訴されません。
漫画の原作者や出版社といった著作権者が告訴に踏み切った場合は刑事事件として立件されますが、捜査の途中段階であっても告訴が取り下げられればその後の処罰はないので、真摯に謝罪したうえで示談交渉を進めれば、厳しい処分を回避できる可能性があります。 -
(3)判断に悩んだときは弁護士に相談する
自身の行為が違法ダウンロードにあたるのか、違法ダウンロードをしてしまったが逮捕や刑罰を受けるおそれがあるのかといった不安を抱えているなら、まずは弁護士に相談して詳しい状況を伝えましょう。
知的財産権に関する知識が深く、著作権法違反事例に詳しい弁護士に相談すれば、著作権法違反にあたるのか、逮捕や刑罰を受ける危険が高い状況なのかを判断できます。状況に応じた適切な行動についてのアドバイスが得られるだけでなく、代理人として著作権者との示談交渉を進めてもらうことも可能です。
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6、まとめ
本来は有償で提供されている漫画データを著作権者の許諾を得ないままアップロードする海賊版サイトの横行が目立っていたため、令和3年1月施行の改正著作権法では、侵害コンテンツのアップロードに加えて新たに違法ダウンロードも処罰の対象に加えられました。
違法の疑いがあるサイトから漫画データをダウンロードしてしまった、正規の許諾を受けているサイトからダウンロードしたつもりが著作権者から侵害の警告を受けてしまったなどトラブルを解決するには、弁護士のサポートが欠かせません。違法ダウンロードに関するお悩みを抱えているなら、著作権法に知見を有し刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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