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脱税行為で逮捕される? 逮捕の基準や逮捕後の流れについて解説
確定申告の時期が近づくと、少しでも税負担を軽減させる方法はないものかと考える方は少なくないでしょう。法律上認められた方法で税負担を軽減させる『節税』は、もちろん問題ありません。
しかし、納税額を減らそうと行き過ぎた行為に走ると『脱税』として処罰されるおそれがあります。脱税犯に対して捜査当局は厳しい姿勢で臨んでいるため、脱税をしたのが事実であれば、逮捕される可能性があるでしょう。
本コラムでは脱税の概要や罰則を確認したうえで、脱税による逮捕の基準や逮捕後の流れ、逮捕を回避するためにとるべき対策などを解説します。
1、脱税の概要
最初に、脱税の意味と構成要件について解説します。
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(1)脱税とは
脱税とは、偽りその他不正の行為によって税金の納付を免れ、または還付を受けることをいいます。
脱税は、国民に課せられた納税義務に反する行為です。脱税を見逃せば正しく納税している人との不公平が生じるだけでなく、国家の租税収入を減少させて国家財源を危うくさせてしまいます。そのため個人や法人が脱税をした場合、所得税法や法人税法、消費税法など各税法によって厳しく処罰されるとともに、重加算税などの行政処分も受けることになります。 -
(2)脱税が成立する要件
脱税が成立するのは、次にあげる要件を満たした場合です。
- 納税義務者であること 納税義務者とは、単なる名義人ではなく、収益を実際に享受する者のことをいいます(所得税法第12条、法人税法第11条)
- 偽りその他不正の行為があること 現金取引による売り上げの除外や経費の水増し請求、二重帳簿などの行為が典型です。
- 納税を免れ、または税の還付を受けたこと 脱税の結果として、納付を免れるか還付を受けることが必要です。法律で定められた納期限を過ぎたときに既遂に達しますが、結果が生じなかった場合は未遂にとどまり、脱税は成立しません。ただし、消費税の脱税は未遂でも処罰されます(消費税法第64条第2項)。
- 偽りその他不正の行為と脱税結果のあいだに因果関係があること 不正行為によって納税を免れたという因果関係が必要です。
- 脱税の故意があること 脱税の故意とは、納税義務の認識、偽りその他不正の行為をしたことの認識、脱税結果に対する認識のすべてをいいます。
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2、脱税の類型
脱税とひとくちにいっても、実はさまざまな種類があります。
主な脱税犯について、『不正行為をともなう脱税』『不正行為がともなわない脱税』『その他の脱税』に分けて見ていきましょう。
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(1)不正行為をともなう脱税
刑事事件として立件されるケースの多くは、次のいずれかに該当します。狭義の脱税犯ともいえるでしょう。
- 虚偽過少申告ほ脱犯 偽り、その他不正の行為により所得を少なく申告をした場合に成立する犯罪です。
- 虚偽無申告ほ脱犯 偽り、その他不正の行為をしたうえで、故意に申告書を提出しない場合に成立する犯罪です。
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(2)不正行為をともなわない脱税
- 単純無申告ほ脱犯(故意の無申告犯) 偽り、その他不正の行為は行われていないものの、故意に申告書を提出しないことによって納税を免れた場合に成立します。
偽りその他不正の行為が行われない無申告の場合、以前は『単純無申告犯』が適用されていました。しかし、平成23年の税制改正にともない『単純無申告ほ脱犯』が創設されたため、現在では、より厳しく処罰されることになります。
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(3)その他の脱税
次のような行為も脱税にあたります。
- 不納付犯 徴収納税義務者が、本来なら徴収して納付するべき税金を納付しない犯罪です。典型的には、雇用主が労働者から源泉徴収した所得税を納めない場合などに成立します。
- 単純無申告犯 正当な理由がないにもかかわらず、確定申告書を期限までに提出しない場合に成立する犯罪です。
なお、同じ「無申告」でも、偽りその他不正の行為があるか、故意があるかで成立する犯罪は異なります。
【無申告犯の区分】成立する犯罪 偽りその他不正の行為 税を免れる故意 虚偽無申告ほ脱犯 ある ある 単純無申告ほ脱犯 ない ある 単純無申告犯 ない 故意はないが正当な理由もない
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3、脱税の罰則
脱税は厳罰化が進んでおり、非常に重い罰則が設けられています。脱税をした場合、どのような刑罰を科されるのでしょうか。
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(1)虚偽過少申告ほ脱犯・虚偽無申告ほ脱犯の罰則
偽りその他不正の行為により税金の納付を免れ、または税金の還付を受けた場合は「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、または併科」に処せられます(所得税法第238条第1項、法人税法第159条第1項など)。
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(2)単純無申告ほ脱犯の罰則
故意に申告書を提出しないことにより納税を免れた場合は「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金または併科」に処されます(所得税法第238条第3項、法人税法第159条第3項など)。
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(3)不納付犯の罰則
源泉徴収義務者が、徴収して納付するべき税額を納付しなかった場合の罰則は「10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金または併科」です(所得税法第240条第1項、地方税法第328条の16第1項など)。
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(4)単純無申告犯の罰則
正当な理由がなくて申告書を提出しなかった場合は「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」に処せられます(所得税法第241条、法人税法第160条など)。ただし、情状により刑が免除される場合があります。
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(5)脱税に関する行政処分
脱税犯は刑罰を受けるのに加え、行政上のペナルティーとして、追加で税金を納める必要が生じます。
- 過少申告加算税 納付するべき税額よりも少なく申告した場合は、新たに納付することとなった税額の10%です。新たに納付することとなった税額が当初の申告納税額または50万円のいずれか多い金額を超えている場合、その超えている部分については15パーセントになります。
- 無申告加算税 正当な理由なく法定の期限内に申告しなかった場合は、納付するべき税額に対して50万円までは15%、50万円を超える部分は20%の率で計算した税額を徴収されます。
- 不納付加算税 源泉徴収するべき税額を正当な理由なく納付しなかった場合は税額に対して10%の率で計算した税額を徴収されます。
- 重加算税 仮装・隠ぺいなどの悪質な脱税行為があった場合は、過少申告加算税、不納付加算税に代えて35%、無申告加算税に代えて40%の割合で重加算税が課せられます。
- 延滞税 法定納期限の翌日から納付する日までの2カ月間は7.3%、その後は14.6%の延滞税がかかります。
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4、脱税で逮捕される条件
逮捕されてしまうと、身柄を拘束されるので、行動は制限され外部との連絡や面会は許されません。どのような処分を受けるのか、仕事・会社への影響はどうなるのかなど不安を抱えながら、たった一人で厳しい取り調べに応じることになるので、精神的な負担も重くなります。
そのため、まずは逮捕されないために適切な行動をとることが大切です。
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(1)逮捕される基準
捜査機関が被疑者を逮捕するには「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(逮捕の理由))と「逃亡または証拠隠滅を図るおそれがあること」(逮捕の必要性)が必要です。
逮捕の理由については、証拠資料に裏付けされた客観的・合理的な嫌疑が求められますが、脱税事件で逮捕されるときはすでに税務調査・査察調査を経て証拠が確保されていることが多いでしょう。
つまり、脱税事件で問題になるのは、逃亡または証拠隠滅のおそれの有無です。
まず、逃亡という点においては、否定されやすいと考えられます。なぜなら、脱税事件の被疑者には定職があり社会的身分も高いケースが多いため、すべてを捨てて逃亡するとは考えにくいからです。
一方、証拠隠滅という点においては、どうでしょうか。
脱税事件の証拠となる証ひょう書類や、脱税によって得た不正資金の多くは被疑者の自宅や会社にあると予想されます。そのため、身柄を拘束しないとそれらを破棄・隠匿などする可能性があると評価されるため、証拠隠滅のおそれは肯定されやすいといえます。 -
(2)逮捕を回避するためにするべきこと
逮捕を回避するためには、まずは修正申告を行い、本来納付するべき税金を納めることが急務です。納税できていない事実がある以上は、誤りを素直に認めて誠実な姿勢を見せることは逮捕の回避につながります。
任意で求められた資料を、迅速に提出するなど捜査に協力する姿勢を示すことも大切です。任意だからと、取り調べに応じないなど非協力的な態度をとると逮捕される可能性が高まります。
また、取引先への接触など裏工作や口止めを疑われるような行動も控えるようにしましょう。
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5、脱税が発覚するタイミング
脱税は、税務調査または犯則調査のいずれかのタイミングで発覚することが多いでしょう。
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(1)税務調査
税務調査とは、所轄の税務署によって行われる行政調査のことです。
任意の調査なので、調査対象者の意思に反して自宅・会社に立ち入ることなどはありません。一般的には、事前に税務署から電話連絡があり、日程を確認したうえで調査されます。
税務調査は刑事訴追を目的としておらず、脱税や申告漏れを発見して正しく納税させるために行われます。そのため税務調査で申告漏れなどが発覚した場合は、追徴課税を含めて本来必要な税金を納付すれば刑罰までは科されません。
ただし、税務署職員の調査に協力しない場合には刑罰を科されるおそれがあるため注意が必要です。
職員の質問に対して答弁せず、偽りの答弁をし、検査を拒むなどした場合は「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」に処せられます(国税通則法第128条第2号)。
税務調査を経て脱税の疑いが浮上した場合は、次の犯則調査に移行します。 -
(2)犯則調査(査察調査)
犯則調査とは、脱税犯の摘発を目的とし、犯罪捜査に準ずる方法で行われる調査のことです。
所轄の税務署ではなく、国税局査察部、いわゆるマルサが行い、国税犯則取締法第1条にもとづく任意調査と、第2条にもとづく強制調査があります。
事前の連絡や調査対象者の同意は必要ないので、突然大勢の捜査員がやってきて、一気に証拠が押収されていきます。
犯則調査の結果、脱税が発覚してもその場で逮捕されるわけではありません。検察庁に告発され、検察官の捜査を経て逮捕に至ります。
なお、国税庁が発表した『令和2年度 査察の概要』 によると、検察庁への告発率は73.5%と非常に高い水準です。犯則調査を受けた場合は、告発される可能性が高いと理解しておくべきでしょう。
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6、脱税事件で逮捕された後の流れ
犯則調査で脱税の証拠が押収されて検察庁への告発が行われると、逮捕の危険が非常に高まります。逮捕された後はどのような流れで刑事手続きが進められるのでしょうか。脱税事件における逮捕後の流れを解説します。
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(1)取り調べ・勾留請求
一般的な刑事事件の場合、捜査・逮捕するのは基本的には警察なので、逮捕から48時間以内に警察の取り調べと検察官送致があり、検察官送致から24時間以内に検察官は裁判官に対して勾留請求を行うかを判断します。
一方、脱税事件では、検察官が捜査・逮捕を行うのが通常です。そのため、検察官は逮捕から48時間以内に取り調べと裁判官へ勾留請求を行うかを判断します。 -
(2)勾留決定
勾留とは、起訴・不起訴を判断するために、引き続き身柄を拘束したうえで、取り調べや捜査を行うことです。
勾留を請求し裁判官が認めた場合、被疑者は原則10日間、延長が認められるとさらに最大で10日間にわたり身柄拘束を受けます。脱税事件では、関係者との口裏合わせや証拠物の改ざんといった証拠隠滅を行うおそれがあると認められると、勾留請求をなされる可能性は高まるでしょう。 -
(3)起訴・不起訴処分の決定
勾留が満期を迎えるまでに、検察官は被疑者を起訴するか、不起訴にするのかを決定します。不起訴になれば身柄は釈放され、刑事裁判を受けることはありません。
ただし、脱税事件の場合、国税局査察部は裁判で有罪にできるだけの証拠がそろった段階で検察官へ告発するのが通常です。そのため、起訴されるおそれが極めて高いといえるでしょう。 -
(4)刑事裁判
起訴されると被告人と呼ばれる立場となり、刑事裁判が始まるまで引き続き身柄を拘束されます。ただし、起訴後は保釈請求を行うことができます。保釈が認められると一時的に身柄を釈放されるので、自宅に戻ることも可能です。釈放された場合、公判期日には自宅などから出頭することになります。
なお、刑事裁判には公開の法廷で審理される通常の裁判と、書面のみで審理される略式裁判があります。略式裁判では罰金の略式命令が言い渡されて早期に身柄を釈放されますが、採用される可能性があるのは100万円以下の罰金に相当する事件です。
脱税事件では罰金額が高額になりやすく、その場合は略式裁判の要件を満たさないため、通常の刑事裁判で審理されるケースが多いでしょう。 -
(5)判決
刑事裁判の審理を経て、最終的に裁判官から有罪か無罪か、有罪の場合は量刑が言い渡されます。
日本の司法における起訴後の有罪率は極めて高いことで知られていますが、脱税事件も同様です。国税庁によると、査察事件の一審判決における有罪率は平成30年と令和元年がともに100%、令和2年は98.9%でした。起訴されると有罪は、ほぼ免れないでしょう。
量刑は脱税額、ほ脱率、脱税の方法・悪質性、組織性、不正に得た資金の使い道、同種の前科・前歴などのさまざまな要素をもとに判断されます。特に脱税額が大きい場合や、ほ脱率(実際の税額に対して脱税した額が占める割合)が高い場合は、重い量刑になることが想定されます。
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7、刑事事件に発展しそうな場合は弁護士に相談を
脱税をしてしまい、国税局から調査を受けている場合は、刑事事件として告訴される可能性が高まっているといえます。長期の身柄拘束や、有罪・実刑判決になった場合の不利益は非常に大きいため、早期に弁護士へ相談し対策を講じることが大切です。
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(1)勾留の回避に向けた活動
脱税事件で逮捕・勾留されると、逮捕段階で48時間、勾留段階では最長20日間もの身柄拘束を受けるため、仕事や家庭といった日常生活への影響が甚大です。
これを回避するため、弁護士は意見書を提出するなどして、勾留を阻止するよう働きかけます。 -
(2)刑の減軽や不起訴に向けた活動
脱税額が大きい場合や、ほ脱率が高い場合など、起訴が免れないというケースでは、刑の減軽を目指して活動を行います。
例えば、有罪判決を受けても執行猶予がつけば、刑務所に収監されずに社会生活を送りながら更生を目指すことができます。執行猶予を得るために、弁護士は本人の深い反省や家族の監督体制が整っていること、会社のコンプライアンス体制を示すなどして再犯のおそれがない旨を主張します。
一方、脱税額が小さい場合や、ほ脱率が低い場合、首謀者ではなく協力者にとどまる場合などは不起訴処分になる可能性があります。弁護士が客観的な証拠をもとに、悪質な脱税ではなかったことを主張するなど、不起訴処分獲得を目指してサポートを行います。
なお、不起訴処分になれば前科はつきません。 -
(3)社会的な信用失墜を防ぐための活動
脱税が公になると、社会的な信用失墜は免れません。取引先や金融機関、消費者などからの信用を失えば今後の会社経営などに大きな影響をおよぼすでしょう。
その点、はやい段階で弁護士に相談すれば、捜査への立ち会いや逮捕・勾留を阻止する活動、報道抑制に向けた働きかけなど、社会的な信用が低下しないように、さまざまな対応を行うことができます。
刑罰はどのくらいになりそうか、逮捕のおそれはあるのかなど自身が置かれている状況や今後の見込みについてもアドバイスを得られるので、できるだけはやく相談することをおすすめします。
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8、まとめ
脱税は、れっきとした犯罪です。脱税をしてしまい、刑事罰に問われてしまえば、社会的な信用失墜も避けられないため、早期に適切な対応をすることが必要です。
脱税が刑事事件に発展しそうな場合は、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。刑事事件の解決実績が豊富な弁護士が、事件の早期解決に向けて力を尽くします。
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