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詐欺の受け子は実刑になる? 執行猶予がつく可能性とは
警察庁が公開している、令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値版)によると、令和5年の特殊詐欺の検挙件数は7219件、検挙人員は2499人でした。そのうち、受け子・出し子とその見張り役における検挙人員は1893人であり、総検挙人員の75.8%を占めています。受け子や出し子といった役割は逮捕される危険性が高いといえます。
では、特殊詐欺の受け子をして逮捕・起訴されて有罪となった場合、判決に執行猶予がつく可能性はあるのでしょうか。必ず実刑判決が言い渡されるのでしょうか。
本コラムでは、特殊詐欺の受け子が逮捕され実刑となる可能性や実行猶予がつく可能性・事情などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、詐欺罪における受け子とは
自分の家族が「受け子をして逮捕された」と聞いても、どんな犯罪なのかピンとこない方がいるかもしれません。そこでまずは、詐欺罪における「受け子」とはどのような役割なのかを解説します。
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(1)「受け子」とは
「受け子」はオレオレ詐欺などの特殊詐欺における役割のひとつです。特殊詐欺は主犯・指示役のほかに、被害者に電話をかける役の「かけ子」、振り込まれた現金を引き出す役の「出し子」、「犯行準備役」や「車の運転役」などの役割分担を決め、組織的に行われるケースが大半です。「受け子」はこのうちのひとつで、被害者と接触して現金やキャッシュカードを直接受け取る役割を担います。
知人や先輩などから「人と会ってお金を受け取るだけでいい小遣い稼ぎになる」などとそそのかされ、アルバイト感覚で犯罪に加担してしまう若年者が後を絶ちません。 -
(2)逮捕される危険性がもっとも高いのが受け子
詐欺組織の目的はもちろん金銭を得ることなので、実際に現金などを受け取る受け子はとりわけ重要な役割を担います。そして組織の中で唯一、被害者と対面する役割であるため、事件が発覚した際には真っ先に逮捕される対象となります。詐欺グループの存在を知らなかったとしても、逮捕されれば詐欺罪の共犯者として厳しい刑事責任を追及されるでしょう。
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(3)未遂でも罰せられる
現金などを受け取る前に逮捕された場合は詐欺未遂罪が成立するにとどまりますが、詐欺罪は未遂も処罰の対象です(刑法第250条)。未遂には未遂減免の規定が適用されますが、警察官が来たり被害者に気づかれたりしたため意図せず未遂に終わっただけのケースでは、裁判官の裁量で刑が減軽される可能性が生じるにすぎません(刑法第43条)。
令和4年2月には、被害者宅の周辺に近づいたところで警察官の尾行に気づいて犯行を断念した受け子について(窃盗罪の)未遂となるのかが争われた裁判で、最高裁が(窃盗罪の)未遂が成立するとの判断を下しました。この判断によって、受け子が罪を問われる可能性はさらに増したといえます。
2、受け子は実刑になる! 刑罰の内容は?
受け子として現金などを受け取る行為は、本人が直接被害者をだましたわけではなくても刑法第246条の詐欺罪にあたる犯罪です。実刑判決が下される危険性や刑罰の内容、初犯の場合の見込みについて確認しましょう。
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(1)刑罰の内容
詐欺罪の刑罰は「10年以下の懲役」です。実刑判決が言い渡されると、加重減軽がない場合、最短でも1か月、最長で10年間も刑務所に収監され、刑務作業に従事しながら刑期の満了まで過ごさなければなりません。社会から隔離された生活を送るうえに出所後は「前科」がついた状態になるため、社会復帰も容易ではないでしょう。
なお、詐欺罪には罰金刑の規定はないため、執行猶予がつくことはあるとしても、有罪になれば必ず懲役刑が言い渡されます。判決に執行猶予がついた場合は、直ちに刑務所に収監されることなく社会内で過ごすことができますが、前科がつくことには変わりありません。 -
(2)初犯の場合はどうなる?
刑事裁判における量刑は、裁判官が犯行様態の悪質性や被害の大きさ、前科の有無などさまざまな事情を総合的に考慮して決定します。初犯であることは被告人にとって有利な事情のひとつであるため、初犯の場合に執行猶予がつくケースは珍しくありません。特殊詐欺の受け子も同様に、初犯の場合には執行猶予がつく可能性があります。
しかし、初犯だからといって必ず執行猶予がつくと考えるのは早計です。とりわけ特殊詐欺は組織的に高齢者を狙うなど悪質性が高いこと、被害額が総じて高額であることなどから、厳しい量刑になることも十分考えられます。たとえ初犯であっても実刑判決が下される可能性は十分にあると考えておくべきでしょう。 -
(3)詐欺罪の公訴時効は何年?
詐欺罪の公訴時効は「7年」です。受け子の場合は被害者から現金などを受け取ったときから7年が経過すると刑事責任を追及されなくなります。
ただし、時効はその進行が一時的にストップする場合が2つあります。ひとつは、公訴の提起(起訴)があったときです(刑事訴訟法第254条第1項)。共犯者のひとりについて公訴提起があると時効は停止するので、共犯者が起訴されていれば時効の進行はストップします(同第2項)。もうひとつは、犯人が国外にいるか逃げ隠れているために起訴状の謄本の送達ができないときです(第255条第1項)。
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3、執行猶予がつく可能性のあるケース
日本の司法における起訴後の有罪率は極めて高いため、受け子をして逮捕・起訴されると刑罰はほぼ免れられないでしょう。しかし判決に執行猶予がつけば社会生活を送りながら更生改善に努めることができるため、執行猶予がつくか否かは大変重要な問題です。受け子をして執行猶予がつく可能性があるのはどのようなケースでしょうか?
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(1)執行猶予の条件を満たしている
まずは、執行猶予がつく条件を満たしている必要があります。前提として以下の要件を満たさなければ執行猶予はつきません(刑法第25条)。
- 判決で3年以下の懲役を言い渡されたこと
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがないこと
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、刑の執行が終わった日または執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがないこと
- 保護観察がついていない執行猶予期間中の犯行の場合で、新たに1年以下の懲役の言い渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあること
もっとも、上記の要件を満たしても、必ず執行猶予がつくわけではありません。次項から述べるような「情状」があり、かつ裁判官が執行猶予をつけるべきと判断した場合に限り、執行猶予がつきます。
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(2)脅迫されたなどの経緯がある
犯行に至った経緯として組織から脅迫を受けてやむを得ずしたなどの事情があると、別の角度から見れば被告人にも被害者の一面があり悪質性は低いとして、執行猶予がつく可能性が生じます。たとえば途中で詐欺だと気づいてやめたいと言ったが、組織の者から「家族がどうなってもいいのか」などと脅され、組織を抜けるに抜けられずに犯行に至ってしまったようなケースです。
令和3年版犯罪白書で特殊詐欺の「犯行の動機・背景事情」を確認すると、全体としては「金ほしさ」「友人などからの勧誘」が多い一方で、受け子や出し子などの末端関与者では「だまされた・脅された」という理由の占める割合がほかの役割よりも多く見られます。 -
(3)構成員としての活動期間が短い
詐欺組織の一員として活動していた期間が数日~数週間と短いことも、量刑判断で考慮される事情のひとつです。活動期間が短いと、自分が関与した事案でまだ被害が発生しておらず報酬も受け取っていない、被害が発生していても被害者数が少なく被害弁済や示談をしやすいなどの事情から、結果的に量刑が軽くなる可能性があります。
反対に、活動期間が長いとすでに多数の被害が発生しており、報酬も受け取っていると考えられるため、関与の度合いが強く、量刑が重く傾くでしょう。 -
(4)被害金額が小さい
被害金額は量刑を判断する際の重要な要素です。被害金額が小さい場合は、悪質性が高くないと判断されやすい、全額の被害弁済がしやすい、被害者の処罰感情が熾烈(しれつ)とまではいえず示談に結びつきやすいなどの理由から、執行猶予がつく可能性も考えられます。
反対に、被害金額が大きい場合は悪質性が高いうえに全額の被害弁済や示談が困難であるため、実刑判決となる可能性が高いといえるでしょう。 -
(5)示談が成立している
被害者と示談が成立していることも、執行猶予となる可能性を高める重要な要素となります。特に被害者から「厳罰は望まない」との宥恕(ゆうじょ)意思を得ていること、示談の中で被害額の全額かそれに近い金額を弁済していることが大切です。被害者が複数人に上るケースでは、それぞれの被害者と示談を成立させる必要があります。
たとえ示談が成立しても、宥恕(ゆうじょ)意思が得られなかった、弁済額が少ない、多数いる被害者の中で数人としか示談にできなかったといったケースでは、量刑への影響は限定的なので実刑判決となる可能性が高いといえるでしょう。 -
(6)犯行が未遂にとどまった
被害者が犯罪だと気づくなどして未遂に終わった場合は被害金額が0円です。一度きりの加担で未遂に終わったといったケースでは、実質的な被害が生じていないことになるので、執行猶予がつく可能性が高まります。また自分の意思で犯罪を中止した場合には必ず刑が減軽または免除となるため(刑法第43条ただし書き)、裁判で的確に主張することで執行猶予がつく可能性が高いでしょう。
4、詐欺の受け子で逮捕された場合に弁護士ができること
自分の家族が特殊詐欺の受け子で逮捕されてしまったら、ご家族はまず弁護士へ相談しましょう。逮捕された本人のために活動してくれる弁護士を、ご家族が自ら選任することが大切です。
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(1)取り調べのアドバイスを与える
弁護士は早急に本人に面会し、取り調べにおける注意点や供述するべき内容をアドバイスし、不利な供述調書が作成されることを防ぎます。
逮捕されると逮捕段階の72時間はご家族との面会が許されません。通常は勾留段階に入るとご家族などとの面会が可能となりますが、特殊詐欺事件では共犯者による証拠隠滅を防止するために「接見禁止」がつく場合が多々あります。しかし、弁護士だけは唯一、逮捕段階や接見禁止がついた場合でも本人との面会が可能です。 -
(2)再犯防止策のアドバイスや裁判での主張
執行猶予を得るには、裁判官に「社会の中での更生に期待できる」と判断される必要があります。そのためには本人が深く反省していることに加え、詐欺組織との関係断絶やご家族による監督体制の整備など具体的な再犯防止策を示すことが大切です。
弁護士は本人やご家族に再犯防止策のアドバイスを与えるとともに裁判官に的確に主張するため、執行猶予つき判決の可能性を高めることができます。 -
(3)被害者との示談交渉を進める
特殊詐欺事件は被害者数が多く、被害金額も高額になりがちなので、ほかの犯罪以上に示談交渉は難しい面があります。逮捕された本人による交渉は物理的に困難なのはもちろんのこと、ご家族が被害者すべての連絡先を入手し、一度だまされたことで強い警戒心を持っている被害者と穏便に交渉を進めるのはほぼ不可能でしょう。
弁護士であれば検察官を通じて被害者の連絡先を入手し、被害者の感情に配慮しながら慎重に交渉を進められます。ひとりでも多くの被害者に対して、少しでも多くの被害弁済を行うことで、執行猶予つき判決の可能性を高めることができます。
5、まとめ
特殊詐欺は主に高齢者を標的にした悪質性が高い犯罪であることなどから、裁判の量刑も厳しいものになると予想されます。受け子などの末端関与者であっても実刑を言い渡されるおそれは大きいでしょう。
しかし判決に執行猶予がつく可能性は残されています。そのためには被害者全員と示談を成立させる、大半の被害弁済を実現させるなど高いハードルを越える必要があるため、弁護士のサポートが不可欠です。またたとえ初犯などの場合でも、適切に弁護活動を行わなければ実刑を言い渡される可能性もあるので、早急に弁護士に相談することが重要です。
特殊詐欺で逮捕された被疑者と逮捕直後から面会できるのは弁護士だけです。勾留段階に入っても接見禁止となれば家族でも面会はできません。そのため、ご家族が刑事事件の経験豊富な弁護士を選任することも非常に重要となります。受け子をしてしまった、家族が受け子で逮捕されてしまったなどでお悩みであれば、早急にベリーベスト法律事務所へご相談ください。詐欺事件の解決実績が豊富な弁護士が全力でサポートします。
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