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弁護士コラム

2022年10月31日
  • 財産事件
  • タクシー強盗

タクシー強盗で逮捕されたら量刑はどうなる? 逮捕後の流れと対処法

タクシー強盗で逮捕されたら量刑はどうなる? 逮捕後の流れと対処法
タクシー強盗で逮捕されたら量刑はどうなる? 逮捕後の流れと対処法

タクシーは、運転手と乗客が一対一の密室空間に置かれること、売上金や釣り銭などで常に現金があることから「強盗」が発生しやすいと場所のひとつといえます。

平成31年には警察庁が「タクシーの防犯基準」について業界への指導や連携について全国警察に通達し、タクシー事業者も防犯マニュアルの携帯や防犯仕切り板・緊急通報システムの設置などに力を入れています。

しかし、依然としてなくなることがないタクシー強盗は強く問題視されており、警察も警戒を強めているところです。

いわゆる「タクシー強盗」とはどのような犯罪なのでしょうか? 本コラムでは、タクシー強盗で問われる罪や実際に科せられている刑罰の状況、逮捕後の流れや解決策などを解説します。

1、「タクシー強盗」で問われる罪とは?

どのような行為がどの犯罪にあたるのかは、すべて法律に定められています。ただし「タクシー強盗」という名称の犯罪は、刑法をはじめとしてどの法律をみても明記されていません。

タクシー強盗とは、刑法に定められている「強盗罪」のひとつの態様です。一言でタクシー強盗と呼ばれる行為でも、状況に応じて適用される罪名が変わります。

  1. (1)暴行や脅迫を用いて売上金を奪えば「強盗罪」

    もっとも典型的な罪名が刑法第236条1項の「強盗罪」です。強盗罪は、「暴行または脅迫を用いて他人の財物を強取した」場合に成立します。
    運転手を殴ったり、刃物を見せて「金を出せ」と脅したりして売上金などを奪うといった行為が、本罪の処罰対象です

  2. (2)暴行・脅迫によって運賃支払いを免れれば「強盗利得罪」

    刑法第236条には、1項に加えて2項にも、同様の方法で財産上不法の利益を得たり、他人に得させたりした者も強盗罪とするという規定があります。

    タクシー強盗における「財産上不法の利益」とは、運賃の支払いを免れる行為だと考えればよいでしょう。殴る・蹴るなどの暴行や危害を加える旨を告げて脅したうえで、乗車料金を支払わずに逃走すれば、本罪が成立する可能性があります。

    通常の強盗罪のように売上金などを奪っていなくても成立するので、酔った勢いや運転手とのトラブルから発展しやすい犯罪です。本罪は「強盗利得罪」と呼ばれたり、刑法第236条2項に定められていることから「二項強盗」と呼ばれたりしますが、適用される罪名としては「強盗罪」です。

    自分では「強盗なんて大それた罪は犯していない」と思っていても、行為を法律に照らせば強盗になってしまうといったケースは決して少なくありません。

  3. (3)盗みがバレて逃れるために暴行・脅迫をすれば「事後強盗罪」

    運転手が運転に集中していたり、よそ見をしていたりするすきをついて売上金などを盗めば、刑法第235条の窃盗罪が成立しますが、盗んだ売上金などを運転手に取り返されまいと暴力をふるったり脅したりすると窃盗罪に問われるだけでは済まない事態になります

    窃盗犯が、盗んだ財物を取り返されることを防ぎ、逮捕を免れる、または罪跡を隠滅する目的で暴行・脅迫をはたらくと、刑法第238条の「事後強盗罪」が成立してしまうのです。

    本罪は、条文において「強盗として論ずる」と明記されているので、法律上は強盗と同じように扱われてしまいます。強盗としての罪を問われる事態になるので、窃盗罪の場合と比べると厳しい処分は避けられません。

  4. (4)薬剤などで昏睡(こんすい)させて売上金を奪えば「昏睡(こんすい)強盗罪」

    暴力や脅しを用いなくても、人が昏睡(こんすい)するような薬剤などを運転手に吸わせて売上金などを奪えば、刑法第239条の「昏睡(こんすい)強盗罪」が成立します
    暴力的な手段ではないように感じられるかもしれませんが、相手を抵抗不能にしたうえで金銭を奪うという点に着目すればほかの強盗行為と同様に悪質だという評価は避けられないでしょう。

  5. (5)運転手を死傷させると「強盗致死傷罪」

    売上金などを奪う目的で運転手に暴行を加えた結果、運転手にケガを負わせたり、運転手を死亡させたりすると、刑法第240条の「強盗致死傷罪」が成立します。負傷させた場合を「強盗致傷罪」、死亡させた場合を「強盗致死罪」として区別しており、強盗に関する罪のなかでも特に厳しく罰せられる行為です。

    強盗致傷罪は、ケガの程度を問いません。軽傷でも強盗致傷罪が成立するので、運転手に暴力をふるってしまった場合は強盗罪ではなく本罪が適用されてしまう可能性があるでしょう。

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2、タクシー強盗に科せられる刑罰と実際の量刑

特に法律のことを詳しく学んでいなくても「強盗は重罪」というイメージはあるはずです。事実、刑法の定めによると、強盗に関する罪には数ある犯罪のなかでも特に重い刑罰が予定されています。

  1. (1)強盗に関する罪の法定刑

    法律において定められている刑罰の種類や上限・下限を「法定刑」といいます。罪の重さをあらわすのは法定刑だと考えればよいでしょう。

    強盗に関する罪の法定刑は次のとおりです。


    • 強盗罪・強盗利得罪・事後強盗罪・昏睡(こんすい)強盗罪……5年以上の有期懲役
    • 強盗致死傷罪……致傷なら無期または6年以上の有期懲役、致死なら死刑または無期懲役


    「有期懲役」とは、1か月以上20年以下にわたって刑務所に収監され、刑務作業という強制労働を課せられる刑罰です。強盗罪や強盗利得罪などは最低5年、強盗致傷罪なら最低でも6年の懲役が科せられるので、長期にわたって社会から隔離されてしまうことになるでしょう。
    3年を超える懲役には「執行猶予」がつかないので、有罪になれば基本的に刑務所への収監は免れられないと評価されている重罪です。

  2. (2)強盗事件で言い渡された実際の量刑

    令和2年の司法統計によると、全国の裁判所で開かれた刑事裁判の通常一審において、強盗罪で有罪判決を受けたのは229人、強盗致死傷罪は204人でした。

    強盗罪の科刑状況は次のとおりです。


    • 10年以下……2人
    • 7年以下……17人
    • 5年以下……71人
    • 3年……実刑28人・執行猶予74人


    強盗致死傷罪の科刑状況もあわせて確認しておきましょう。


    • 無期……8人
    • 30年以下……1人
    • 20年以下……5人
    • 15年以下……13人
    • 10年以下……44人
    • 7年以下……57人
    • 5年以下……43人
    • 3年以下……実刑6人・執行猶予26人


    実際の科刑状況をみれば、強盗に関する罪には厳しい量刑の言い渡しがおこなわれているのは明らかです。やはり、タクシー強盗をはたらけば法律の定めに従って厳しく処断される事態は避けられません。

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3、タクシー強盗は必ず逮捕・起訴される?

タクシー強盗には厳しい刑罰が科せられますが、発覚すれば必ず逮捕され、起訴されて刑事裁判に発展するのでしょうか?

  1. (1)強盗に関する罪で逮捕される割合

    「逮捕」とは、犯罪の疑いがある人物について、取り調べなどの捜査の実効性を高めたうえで正しい刑事手続きを受けさせる目的で身柄を拘束する強制処分のひとつです。そして、犯罪の現場で直ちに確保される「現行犯逮捕」の場合を除いては、裁判官が「逃亡や証拠隠滅を図るおそれがある」と認めて発付した逮捕状によらなければ、逮捕されません。

    令和3年版犯罪白書によると、令和2年中に全国の検察庁で処理された強盗に関する罪について、逮捕が絡んだ事件の割合は56.5%でした。半数以上は逮捕されている計算になりますが、それでも「発覚しても逮捕されないこともある」という事実には驚く方も多いでしょう。

    ただし「逮捕されない」というのは「身柄拘束を必要としなかった」というだけで、罪が不問になるわけではありません。任意の在宅事件として、逮捕されないまま取り調べなどの捜査を受けることになり、検察官の判断次第では起訴されて刑事裁判で責任を問われることにもなります。

  2. (2)強盗に関する罪の起訴率

    タクシー強盗をはたらいても、検察官が「刑事責任を問うべきだ」と判断して起訴しなければ刑事裁判は開かれず、刑罰も受けません。

    令和3年の検察統計年報によると、令和2年中の起訴率は強盗罪で30.2%、強盗致死傷罪では64.7%でした。全刑法犯の起訴率の平均が22.4%であることを考えると、強盗罪、強盗致死傷罪の起訴率は決して低くない数字だといえるでしょう。

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4、逮捕されるとどうなるのか? 刑事事件の流れ

タクシー強盗の疑いで警察に逮捕されると、その後はどうなってしまうのでしょうか?
刑事事件の流れを確認していきます。

  1. (1)逮捕・勾留による最大23日間の身柄拘束を受ける

    警察に逮捕されると、直ちに身柄拘束を受けるので自由な行動が制限されます。警察署へと連行され、留置場に収容されたのちに警察官による取り調べが続くので、自宅へ帰ることも、仕事へ行くことも許されません。

    逮捕から48時間が経過するまでに警察の捜査はいったん終了し、検察官へと引き継がれます。これが報道などでは「送検」と呼ばれている「送致」という手続きです。送致を受理した検察官は、自らも取り調べを実施したうえで、釈放するか、それとも身柄拘束を継続するべきかを24時間以内に判断します。ここまでが「逮捕」による身柄拘束です。

    ここで「さらに身柄拘束を続ける必要がある」と判断した検察官は、裁判官に対して「勾留」の許可を求めます。裁判官が許可すると勾留による身柄拘束の開始です。
    初回の勾留は10日間で、勾留期間中は再び警察の留置場へと収容され、検察官による指揮の下で警察が捜査を進めます。10日間で捜査が遂げられなかった場合は一度に限り10日以内の延長が可能なので、勾留期間は10~20日間以内です。

    令和3年版の犯罪白書によると、強盗に関する罪の勾留請求率は99.7%なので、ほぼ確実に勾留されると考えておかなくてはなりません。逮捕による身柄拘束が72時間、勾留による身柄拘束が最大20日間、合計で最大23日間にわたって社会から隔離されてしまう事態になります

  2. (2)起訴されると刑事裁判が開かれる

    勾留が満期を迎える日までに、捜査結果を踏まえて検察官が起訴・不起訴を判断します。起訴されると、それまでは「被疑者」と呼ばれていた立場から刑事裁判を受ける「被告人」へと変わり、被告人としてさらに勾留を受けることになります。

    刑事裁判は、起訴からおよそ1~2か月後に開かれますが、一度の審理だけでは判決には至りません。通常、3回前後の審理を経たうえで判決が下されますが、公判はおおむね1か月に一度のペースで開かれるので、逮捕から数えると半年近く身柄拘束を受けたままになってしまうでしょう。なお、強盗致死傷の場合、裁判員裁判になることでスケジュールが大きく変わり、1年ぐらいかけて裁判になることもあります。

  3. (3)刑事裁判で有罪になると刑罰が科せられる

    刑事裁判の最終回となる日には、裁判官が有罪・無罪のいずれかを告げます。有罪の場合は、さらに法定刑の範囲内で適切な量刑が言い渡され、期限内に不服を申し立てなかった場合は刑が確定します。

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5、タクシー強盗をしてしまったら弁護士に相談を

タクシー強盗は、逮捕・勾留されてしまうおそれが強いだけでなく、懲役しか予定されていないうえに実刑判決を受ける危険も高い犯罪です。長期にわたって身柄拘束を受けると家庭崩壊や仕事を失うといった不利益が生じるかもしれません。刑務所へと収監されてしまえば、社会復帰も難しくなるでしょう。

できる限り厳しい処分を避けるためには、弁護士のサポートが必須です。

  1. (1)逮捕を避けるための弁護活動が期待できる

    ごく早い段階で弁護士に相談すれば、逮捕を避けるための弁護活動が期待できます。発生から間もない状況なら、運転手やタクシー会社が警察に届け出をする前に謝罪・弁済を尽くして事件化を防ぐことができるかもしれません。

    また、すでに少し時間が経過している状況でも、弁護士が自首や任意出頭に同行すれば逃亡・証拠隠滅を図るおそれを否定したうえで警察の不当捜査へのけん制にもなるので、身柄を拘束されず在宅捜査で処理されることもあります。

    この段階で弁護士に相談すれば、自首や任意の取り調べの際にどのような供述に徹すればよいのかなどのアドバイスも得られるので、逮捕を回避できる可能性があるでしょう

  2. (2)示談交渉による処分の軽減が期待できる

    タクシー強盗に対する処分をできるだけ軽くしたいと望むなら、優先すべきは被害者との示談交渉です。運転手やタクシー会社に対して真摯(しんし)に謝罪したうえで、奪った売上金や捜査への対応で休業せざるを得なかった期間の補償、運転手の精神的苦痛に対する慰謝料などを含めた示談金を支払い、許しを請います。

    被害者との示談が成立して和解できれば、被害届の取り下げによる事件の終結や不起訴の決定といった有利な処分がありえます。

    検察官の起訴が避けられない状況でも、被害者との示談は推奨します。
    酌量減軽をあわせて考えると、強盗罪の刑の下限は執行猶予可能なラインにはいってきます。示談などあらゆる手段を尽くすことで、執行猶予が付されることもあるでしょう。実際に、強盗罪・強盗致死傷罪に対する科刑状況をみると、3年以下の懲役に対して執行猶予が付されたケースも少なからず存在します。

    ただし、被害者との示談交渉は容易ではありません。タクシー強盗は、運転手やタクシー会社にとって「許されざる悪質な犯罪」であり、謝罪・弁済を尽くしても許しを得るのは難しいでしょう。個人での対応は困難なので、示談交渉は弁護士に一任することが賢明です。

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6、まとめ

タクシー強盗は、刑法の定めに照らすと強盗罪や強盗利得罪、強盗致死傷罪などに該当する犯罪です。非常に厳しい刑罰が予定されており、逮捕・勾留・起訴される可能性も高まりますが、一方で「必ず逮捕される」「必ず起訴される」というわけでもありません。事件後に正しく対応すれば、大きな不利益を回避できる可能性は残されています。

もし、現時点で逮捕されていなくても、安心するのは間違いです。車内にカメラやマイクを設置しているタクシーが増えているので、すでに捜査が着々と進んでいるかもしれません。

大きな不利益を回避するためには、解決に向けた積極的なアクションが必須です。直ちに刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にご相談ください。逮捕や厳しい刑罰の回避に向けて、経験豊富な弁護士が全力でサポートします。

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本コラムを監修した弁護士
萩原 達也
ベリーベスト法律事務所
代表弁護士
弁護士会:
第一東京弁護士会

ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
当事務所では、元検事を中心とした刑事専門チームを組成しております。財産事件、性犯罪事件、暴力事件、少年事件など、刑事事件でお困りの場合はぜひご相談ください。

※本コラムは公開日当時の内容です。
刑事事件問題でお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所へお気軽にお問い合わせください。

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