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強盗が未遂だった場合の罪とは? 何も盗らなくても逮捕される?
令和5年10月、男が店員に対し包丁を突きつけ「金を出せ」と脅したという事件が起きました。しかし、店員がすぐに110番通報したので男は何も盗らずに逃げ、駆け付けた警察官によって付近の路上で身柄を確保されたと報道されています。
この事件で、男は「強盗」を企てて店員を脅したとみられていますが、実際には金銭を盗ることもできず失敗に終わりました。このように、強盗が失敗に終わったケースでは、どのような罪に問われるのでしょうか?
本コラムでは、強盗が未遂で終わったときに問われる罪や刑罰、逮捕の可能性などを、ベリーベスト法律事務所 刑事事件専門チームの弁護士が解説します。
この記事で分かること
- 強盗未遂とは、どこまでが「未遂」として処罰されるのか
- 強盗未遂の罪で科せられる刑罰
- 逮捕された場合の刑事手続きの流れとは
1、「強盗」で問われる罪とは?
「強盗」と呼ばれる行為といえば、店員を脅して売上金を奪ったり、銀行で職員に刃物を突きつけて現金を出させたり、民家に押し入って家人をロープで縛り金目の物を盗んだりといった行為が典型でしょう。
このような行為がどのような罪に問われるのかを確認していきます。
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(1)強盗は「強盗罪」に問われる
強盗行為は、刑法第236条の「強盗罪」に問われます。刑法の条文によると、強盗罪は「暴行または脅迫を用いて他人の財物を強取した者」を罰する犯罪です。
令和4年版の犯罪白書によると、令和3年中に全国の警察が認知した強盗事件は1138件でした。うち、検挙に至ったのは1130件、検挙率は99.3%です。
警察庁が指定している重要犯罪は殺人罪など全6種ですが、強盗罪もこれに含まれます。強盗事件を認知した警察は重要犯罪を解決しようと徹底的に捜査を尽くすので、検挙を逃れるのはほぼ不可能だと心得ておきましょう。 -
(2)強盗罪が成立する要件
強盗罪が成立するのは、次に挙げる5つの要件を満たす場合です。
- 暴行または脅迫を用いて他人の財物を強取する「実行行為」があること
- 財物が持ち主から犯人の手に渡ったという「結果」が生じたこと
- 実行行為によって結果が生じたという「因果関係」があること
- 犯罪の実行が「故意」によるものであること
- 強取した財物を自分のものにしようという「不法領得の意思」があること
なお、本罪における「暴行または脅迫」とは「相手の反抗を抑圧するに足りる程度のもの」と解釈されています。
殴る・蹴るなどの暴力行為、「お金を出さないと痛い目に遭うぞ」などと脅す行為のほか、たとえば財物を奪われまいと抵抗する被害者を引きずり回すといった行為も、強盗罪に問われる可能性があります。 -
(3)強盗罪で科せられる刑罰
強盗罪の法定刑は「5年以上の有期懲役」です。
法定刑に従えば最低でも5年、最長では20年にわたって刑務所に収容され、刑務作業という強制労働に従事しなければなりません。
懲役には、裁判官の判断によって一定期間に限り刑の執行を猶予し、期間が満了すれば刑の言い渡しの効力が消滅する「執行猶予」を付することができます。
ただし、執行猶予の対象となるのは3年以下の懲役なので、最低でも5年の懲役が科せられる強盗罪は、法定刑どおりだと執行猶予の対象外です。実際には、酌量減軽により懲役22年6月が下限となって執行猶予となる事例もそれなりにあるのですが、それでもギリギリの年数であり、執行猶予の機会を得にくいのは事実です。
2、未遂でも罪に問われる可能性がある
強盗は暴行・脅迫を用いて他人の財物を強取する犯罪です。そのため、暴行や脅迫にあたる行為があったとしても、相手の抵抗にあって金品を奪えなかったり、相手が金品を持っていなかったために何も盗れなかったりした場合、強盗罪は完成せず「未遂」となります。
では、強盗罪は未遂でも処罰されるのでしょうか? たとえば「金を出せ」と脅しただけでも強盗罪として罪に問われることがあるのかについて解説します。
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(1)強盗罪は「未遂」でも処罰される
強盗罪は刑法第36章の「窃盗及び強盗の罪」に含まれています。そして、同第243条には、第236条の強盗罪を含めて第36章に掲載されているほとんどの犯罪について「未遂は罰する」と明記されています。
したがって、強盗罪は犯罪が成立する要件のすべてを満たして既遂に達していなくても処罰の対象です。 -
(2)どこまでが未遂なのか?
前述の通り、強盗は「未遂」でも罰するという規定があります。では、どの段階で強盗行為をやめていれば未遂で済まされるのでしょうか。
刑法の考え方では「着手」があった時点で犯罪を実行したことになります。強盗罪における着手は「財物奪取に向けた・脅迫を開始したとき」です。
冒頭の事例でたとえると、店舗で店員に包丁を突きつけたうえで「金を出せ」と脅した時点で強盗に着手したことになります。したがって、店員から財物を奪うという結果が生じなかったとしても強盗未遂として処罰の対象になるでしょう。
なお、金品等を強奪して自分のものにしたいと考え(不法領得の意思)、強盗の故意をもっていても、実際に暴行・脅迫という行為に至っていなければ犯罪に着手していないので、強盗罪の処罰の対象にはなりません。もっとも、強盗予備罪という犯罪もありますので(刑法237条)、道具などを持って物色している状態でも犯罪にはなります。 -
(3)未遂の場合の刑罰
未遂を罰する規定がある犯罪は、たとえ犯罪が未遂で終わっても既遂の場合と同じ刑罰が科せられます。つまり、強盗未遂の法定刑は「5年以上の有期懲役」です。
ただし、刑法第43条には「未遂減免」の規定が存在し、状況によっては法定刑が減じられるか免除される可能性があります。
犯罪の実行に着手したものの、相手が抵抗したなど外部的な要因で犯罪を遂げられなかった場合を「障害未遂」といい、裁判官の判断で「減軽」することが可能です。障害未遂の場合、必ず減軽されるわけではないので、裁判官が「厳しく罰するべきだ」と判断すれば減軽されません。
犯罪の実行に着手したものの、自分の意思で犯罪を中止したときは「中止未遂」です。中止未遂では、必ず刑が減軽されるか、免除されます。
3、強盗未遂の容疑で逮捕されるとどうなる? 刑事手続きの流れ
前述の通り、強盗は、着手があれば結果が生じていなくても強盗未遂として処罰の対象となります。お金を盗っていなくても、暴行・脅迫によって相手の抵抗を抑圧する行為があった時点で強盗に着手しているので、警察が認知すれば逮捕される可能性が高いでしょう。
では、強盗未遂の容疑で警察に逮捕された後に行われる、刑事手続きの流れを解説します。
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(1)逮捕・勾留による最大72時間の身柄拘束を受ける
強盗未遂の容疑者として警察に逮捕されると、逮捕を告げられた時点で直ちに身柄を拘束されます。
警察の持ち時間は最大48時間です。この期間は警察署の留置場に収容され、取り調べなどの捜査を受けることになります。
逮捕から48時間が経過するまでに、警察は逮捕した容疑者の身柄と捜査書類を検察官へと引き継ぎます。これが、ニュースなどでは「送検」と呼ばれている「送致」という手続きです。
送致を受理した検察官の持ち時間は最大24時間で、その間に検察官は自らも取り調べを行い、容疑者を釈放するか、さらに身柄を拘束する「勾留」を請求しなければなりません。
検察官の請求によって勾留が許可されると、10日間にわたる身柄拘束を受けます。勾留中の容疑者の身柄は警察へと戻され、検察官の指揮を受けながら警察が取り調べなどの捜査を進めます。
10日間で捜査を遂げられなかった場合は一度に限りさらに10日間以内の延長が可能です。したがって、逮捕・勾留による身柄拘束は、48時間+24時間+10日間+10日間=最長で23日間となります。 -
(2)検察官が起訴・不起訴を判断する
勾留が満期を迎える日までに、検察官が「起訴」または「不起訴」を決定します。起訴とは刑事裁判を提起すること、不起訴とは起訴を見送る処分です。
日本の法律では、起訴・不起訴を決定できるのは検察官だけで、検察官が起訴しなければ刑事裁判は開かれません。刑事裁判を経なければ刑罰も科せられないので、検察官が起訴に踏み切るか、不起訴とするかが厳しい刑罰を科せられるかどうかの瀬戸際となるでしょう。
起訴された容疑者は「被告人」という立場に変わり、さらに勾留を受けて拘置所へと移送されます。
被告人としての勾留にも1か月の期限がありますが、刑事裁判が継続されている以上は延長が可能なので、実質的に刑事裁判が終了するまで釈放されません。 -
(3)刑事裁判が開かれる
起訴からおよそ1か月後に刑事裁判が開かれます。罰金刑が適用される事件では非公開の略式手続が取られる可能性がありますが、強盗未遂は基本的に懲役の実刑判決が科せられる重罪なので、公開裁判は避けられません。
初回の公判が開かれると、以後1か月に一度のペースで公判が開かれ、数回の審理を経て判決が言い渡されます。
有罪判決を受けると最低5年の懲役が言い渡されるので、異議申立てが許される期間を経て刑務所に収容される流れになるでしょう。 - お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- 警察が未介入の事件のご相談は来所が必要です。
- 被害者からのご相談は有料となる場合があります。
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4、強盗未遂で逮捕されるかもしれないなら弁護士に相談を
強盗未遂事件を起こしてしまい、逮捕や厳しい刑罰に不安を感じているなら、弁護士への相談を急いでください。
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(1)被害者との示談成立を実現できる可能性が高まる
強盗未遂事件を起こしてしまったときは、被害者との示談交渉を急ぐべきです。
被害者に謝罪し、暴行によるケガの治療費や恐ろしい思いをさせてしまった精神的苦痛に対する慰謝料などを含めた示談金を支払って、許しを得られるようはたらきかけます。
これに応えた加害者は、正式な被害届の提出を見送ったり、すでに提出済みの被害届を取り下げたりするのが一般的な流れです。また、示談が成立しているか否かは、科される刑罰の内容に影響します。
ただし、未遂で終わったとしても、被害者の心からは、強盗という凶悪な罪を犯した加害者に対する恐怖が消えないでしょう。加害者から示談の申し入れを受けても、恐怖心からこれに応じられず拒まれてしまったり、「脅された」と勘違いされて事態が悪化してしまったりするかもしれません。
被害者との示談交渉を進めるには、公平・中立な第三者である弁護士を代理人としたほうが安全です。 -
(2)早期釈放に向けた弁護活動が期待できる
強盗未遂容疑で逮捕されると、逮捕・勾留によって最長23日間の身柄拘束を受けます。さらに、検察官に起訴されると、刑事裁判が終了するまで釈放されません。
身柄拘束の期間が長引いてしまうと、検察官が不起訴を決定して刑事裁判を回避できたとしても、社会復帰が難しくなってしまうでしょう。
素早い社会復帰を望むなら、身柄拘束を受けている状態からの早期釈放を目指さなくてはなりません。弁護士にサポートを依頼することで、早期釈放に向けた弁護活動が期待できます。
被害者との示談交渉を進める、再犯防止対策や社会復帰に向けた準備を進めて示すなどの弁護活動を尽くすことで、早期釈放を実現できる可能性が高まるでしょう。 -
(3)重すぎる処罰が科されるリスクを軽減できる
強盗罪は、原則として懲役の実刑が科せられる重罪ですが、未遂で終わった場合は減軽を受けられる可能性が生じます。ただし、強盗未遂事件で減軽を得るためには、加害者にとって有利な事情を集めて法廷で裁判官に示さなくてはなりません。そのためには、どのような態様で犯行が行われたのかなど、犯罪の成立を認める場合でも事実関係に関して細かい立証と、可能な形での反論などが必要となります。
高度な法律の知識と豊富な経験が求められるので、強盗未遂事件の解決実績をもつ弁護士のサポートが必須です。
5、まとめ
強盗は未遂でも厳しく処罰される犯罪です。基本的に懲役の実刑を避けられない重罪ですが、弁護士のサポートがあれば減軽される可能性が高まるでしょう。
強盗未遂事件を起こしてしまったときは、弁護士に相談すべきです。刑事事件についての知見が豊富な弁護士に対応を依頼することで、逮捕・勾留からの早期釈放、減軽による執行猶予などを実現できる可能性を挙げることができます。
ベリーベスト法律事務所では、刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士を中心とした刑事事件専門チームが、厳しすぎる処分の回避を目指して全力でサポートします。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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