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淫行勧誘罪とは? 成立する条件や逮捕後の流れを弁護士が解説
アダルトビデオへの出演強制が大きな問題として社会的にも注目される中、平成30年1月にAV制作会社の社長と芸能プロダクションの元営業部長が逮捕される事件が報道されました。
適用されたのは刑法の「淫行勧誘罪」という耳慣れない罪名です。
淫行勧誘罪とは、いったいどのような犯罪なのでしょうか?
どんな場合に成立して、どの程度の刑罰を受けるのでしょう?
逮捕されたAV制作会社の社長らのように、思いがけず淫行勧誘罪で逮捕される可能性があるのかを心配する方もいるでしょう。
あるいは、すでに相手方から訴えられており、今後の対応にお困りの方がいるかもしれません。
ここでは、淫行勧誘罪の概要や罰則、逮捕された場合の流れについて解説します。
令和5年7月13日に強制性交罪は「不同意性交等罪」へ改正されました。
1、淫行勧誘罪とは
淫行勧誘罪とはどのような犯罪なのでしょうか?
法的根拠や罰則について解説します。
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(1)淫行勧誘罪の法的根拠
淫行勧誘罪は、刑法第182条に規定されている犯罪です。
「営利の目的で、淫行の常習のない女子を勧誘して姦淫させた者」が処罰の対象となります。
実は、平成30年に淫行勧誘罪が適用された事件が発生するまで、71年間にもわたって本罪が適用された例はありませんでした。
淫行勧誘罪で処罰される行為は、主に売春防止法・児童福祉法・児童ポルノ禁止法によって処罰されていたのです。
たしかに「営利目的で淫行させる」という行為は売春そのものであり、売春を規制することに焦点を絞った新法である売春防止法が台頭したのも当然の流れです。
また、淫行の対象年齢が低年齢化していった流れから、児童福祉法や児童ポルノ禁止法が適用されてきたのも、適切な法令を駆使した結果でしょう。
犯行ケースが社会の流れにそって変化し、淫行勧誘罪はほとんど機能しないまま、半世紀以上の時間が過ぎていました。
そのため、冒頭で紹介した淫行勧誘罪を適用した事件は、社会の耳目を集めるニュースとなったのです。 -
(2)淫行勧誘罪の罰則
淫行勧誘罪で逮捕され有罪になった場合、3年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
ただし、淫行の対象となった女子が18歳未満である場合、児童福祉法違反として10年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金またはその両方が科されます。
18歳未満の女子に淫行を勧誘した場合、淫行勧誘罪よりも厳しい処罰が科されます。
2、淫行勧誘罪はどのように成立するか
淫行勧誘罪は「営利の目的で、淫行の常習のない女子を勧誘して姦淫させた」場合に成立します。
営利の目的とは、自らが財産上の利益を得るだけでなく、第三者に得させる場合も該当します。
具体例としては、ソープランドなどの性風俗店で働かせたり、アダルトビデオに出演させたりといった行為によって金銭を得るケースが挙げられます。
「淫行の常習のない女子」とは、不特定を相手に性的な交渉をもつ習慣のない女性であるとされています。
この点は、現行の刑法が制定された明治40年当時の性秩序から「品行の良くない女子まであえて保護する必要はない」という考えのもとに決定されています。
現代社会の性秩序や倫理観からかけ離れた考え方なので、遠くない未来に改正される可能性が高い部分だといえるでしょう。
「勧誘して」とは、対象となる女子に姦淫を思い至らせることを指します。
よって、女子自らの意思で姦淫をした場合には、本罪は成立しません。
また、勧誘行為が処罰の対象となるため、姦淫をした女子やその相手は本罪による逮捕、処罰の対象とはなりません。
「姦淫」とは、一般的に性交渉の本番行為に限定するという考え方が基礎となっています。しかし、これに対して、道徳的に非難されるべき性交のうち、社会通念上刑罰をもって防止すべき違法性があるものと解する見解もあります。
平成29年7月に旧強姦罪が強制性交等罪に改正され、口腔・肛門性交も規制対象となったため、今後、口腔・肛門性交についても淫行勧誘罪の規制対象となる判決が下される可能性もあるかもしれません。
3、社会問題となっているアダルトビデオ出演強要
冒頭で紹介した、71年ぶりの適用となる淫行勧誘事件は、大きな社会問題となっている「アダルトビデオの出演強要」にかかる事件でした。
では、アダルトビデオへの出演を勧誘する行為は、すべて淫行勧誘罪が適用されるのでしょうか?
まず、アダルトビデオへの出演を勧誘する行為そのものが直ちに違法となるわけではありません。
相互に正しい理解のもとで契約を交わした出演契約は、適法なものとして効力を持ちます。
ただし、芸能プロダクションなどが、所属女優をアダルトビデオ出演のために制作会社などに派遣する行為は、労働者派遣事業の適正な運営の確保および派遣労働者の保護等に関する法律、通称「労働者派遣法」に違反します。
また、アダルトビデオの制作会社などにAV女優として紹介・雇用させる行為は、職業安定法における「有害業務の紹介」にあたるとして違法となります。
ところが、アダルトビデオ出演の勧誘が労働者派遣法や職業安定法に違反するとされて以後、AV関連業者はさまざまな手口で摘発や逮捕を免れるようになりました。
AV女優との契約を「タレント契約」や「業務委託契約」などにすることで「労働者と雇用主の関係ではない」と主張する手口へと変化したのです。
AV女優らが、詐欺的な手口でアダルトビデオへの出演を強要された、出演を拒否すると法外ともいえる違約金を請求されたなど、涙ながらの告白をするケースも増えています。
国会質問でもアダルトビデオへの出演強要が取り上げられ、警察庁が全国警察に取り締まりを強化するよう通達しました。
その結果、労働者と雇用主との関係を曖昧にした巧妙な手口でも規制できるように、旧来から存在する淫行勧誘罪が適用される運びとなったわけです。
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4、淫行勧誘罪による逮捕後の流れ
淫行勧誘罪の容疑で逮捕された場合、その後の刑事手続きはどのような流れになるのでしょうか?
まず、警察に逮捕されると取り調べを受けて48時間以内に検察庁へと送致されます。
送致を受けた検察官は、被疑者の取り調べ結果や警察の捜査書類を精査し、24時間以内に起訴または釈放を判断します。
多くの事件ではこの期間に捜査が終結しないため、引き続き身柄を拘束するために裁判所に勾留請求をおこないます。
勾留が認められると、原則10日間、延長を含めて最長20日間の身柄拘束を受け、勾留満期までに起訴・釈放が判断されます。
逮捕されると、逮捕から数えて最長で23日間の身柄拘束を受けるうえに、起訴されて刑事裁判に発展すれば、裁判の終結までさらに身柄拘束が続きます。
その間、社会生活から隔離されるだけでなく、実名報道を受ければ社会復帰は困難になります。
このように説明すると、淫行勧誘罪に該当する行為があれば必ず逮捕されてしまい、大きな不利益を被ることは確実のように思えるかもしれません。
しかし、日本国憲法は誰もが不当に逮捕されない権利を保障しています。
逃走・証拠隠滅のおそれがない場合、裁判所が逮捕状の請求を却下するため、警察は逮捕ができません。
逮捕されない場合、身柄を拘束せず取り調べをおこなう「在宅捜査」や「任意捜査」を受けることになり、逮捕されないまま検察庁へと送致される「書類送検」を受けます。
逮捕を避けるには、逃走・証拠隠滅のおそれがないことを捜査機関にアピールすることが大切です。
- 明らかな事実に対して虚偽の供述をしない
- 重要だと思われる証拠品を処分しない
- 正当な理由なく出頭の要請を拒絶しない
これらの対応があれば、逃走・証拠隠滅のおそれはないと判断されやすくなります。
判断が難しい対応になるので、早期に弁護士に相談することが重要といえます。
5、まとめ
最近になって話題に挙がることが多くなった淫行勧誘罪ですが、警察はアダルトビデオ出演強要に関する問題の解決などに向けて、本罪を積極的に適用する動きをみせています。
アダルトビデオ出演強要などの問題の多くは、報酬額などの契約に関するトラブルや、嫌悪する内容の強要などに起因するトラブルなどが背景にあるため、相手方との関係が悪化しないように努めることが最善策となるでしょう。
もし、刑事事件に発展しそうな状態になれば、早急に相手方との和解に向けて示談を進めるのが賢明です。
ベリーベスト法律事務所には、淫行勧誘罪をはじめ性犯罪の解決実績が豊富な弁護士が在籍しています。
速やかな示談による和解で刑事事件化や逮捕を防ぎ、万が一逮捕されてしまう事態に発展しても、早期釈放に向けたサポートが可能です。
淫行勧誘罪の適用が心配である、淫行勧誘罪による逮捕に不安を感じているなどのお悩みがある方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。
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