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強制わいせつで逮捕されたときの刑罰や保釈について解説
強制わいせつ罪とは、暴行や脅迫によりわいせつな行為をした場合に問われる罪です。被害者が13歳未満の場合は暴行や脅迫がなくても成立します。
痴漢も状況によっては強制わいせつ罪に問われる可能性があります。強制わいせつ罪は、強姦(強制性交等罪)と同じく懲役刑しか設けられていない重大な犯罪です。刑法改正により親告罪から非親告罪へと変更されたことで、被害者からの告訴がなくても起訴される可能性が高まっています。
今回は、強制わいせつ罪の刑罰や保釈の条件、執行猶予の可能性、量刑の判断基準などについて、弁護士がわかりやすく解説します。
1、強制わいせつではどのように逮捕される?
一般的に逮捕とは、被疑者の逃亡や証拠隠滅等を防ぐために身柄を強制的に拘束して、警察の留置場などに連行して留置することと定義されています。逮捕には、犯行現場において警察官や私人により逮捕される現行犯逮捕、逮捕令状を示して逮捕される後日逮捕(通常逮捕)、殺人など重大な罪を犯した被疑者を逮捕令状なしで逮捕する緊急逮捕の3種類があります。
強制わいせつ罪の逮捕で多いのは後日逮捕です。被害者からの届け出をもとに捜査を開始し、被害者や第三者の証言、防犯カメラの映像などの証拠をもとに被疑者を特定する作業が行われるからです。通常は警察から事情聴取を受けた後に逮捕されますが、事情聴取前に逮捕令状が請求されて逮捕される場合もあります。
また、逃亡や証拠隠滅の恐れがない場合には、逮捕されずに在宅捜査となる可能性もあります。
2、強制わいせつで保釈されるケースはあるのか?
保釈とは、保釈金の納付などを条件に判決が言い渡されるまでの間、一時的に被告人の身柄拘束を解く制度です。裁判所への保釈請求を行うことが認められているのは、勾留されている被告人、弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹などの請求権者のみです(恋人、友人、職場の同僚は保釈の請求ができません)。
保釈の条件については、刑事訴訟法第89条から91条に定められています。刑事訴訟法第89条で保釈不許可事由が定められており、これに該当しない場合には保釈が認められます。不許可事由に該当する場合でも、刑事訴訟法第90条により、裁判所の裁量で保釈が認められる可能性もあります。
保釈不許可事由は、次の6つです。
- 被告人が、死刑または無期、短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯している
- 被告人が、前に死刑または無期、長期10年を超える懲役・禁錮に当たる罪で有罪判決を受けたことがある
- 被告人が、常習として長期3年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯している
- 被告人が証拠隠滅をする恐れがある
- 被告人が、被害者や事件の証人など事件関係者やその親族の身体・財産に危害を加えたり、畏怖させたりする恐れがある
- 被告人の氏名や住所がわからない
ただ、たとえ裁判所から保釈を認められても、保釈金を納付しなければ保釈されません。保釈金の金額は、事件の性質や情状(行為の悪質性、示談の成立、再犯の可能性など)、被告人の性格や経済状況などを勘案して、裁判所が決定します。裁判所の出頭命令に従い、判決が確定すれば、保釈金は全額返還されます。
しかし、正当な理由なく出頭しなかった場合や、逃亡する、証拠隠滅を行うなど、裁判所が規定した条件に違反した場合には保釈が取り消されて再び身柄を拘束され、保釈金の一部または全部が没収されます。
3、強制わいせつの刑罰
強制わいせつ罪(刑法第176条)は、暴行または脅迫によりわいせつな行為を働くことで成立します。被害者が13歳未満の場合は、暴行または脅迫がなくても成立します。
また、相手が泥酔しているなど、心神喪失または抗拒不能の状態であることを利用したり、酒や薬などでそのような状態にさせたりしてわいせつ行為を働いた場合には、準強制わいせつ罪(刑法第178条1項)が成立します。18歳未満の者に対して監護権者(子どもの身のまわりの世話や、しつけ、教育をする立場にある者)の立場を利用してわいせつ行為を働いた場合は、監護者わいせつ罪(刑法第179条1項)に当たります。
強制わいせつ罪および準強制わいせつ罪、監護者わいせつ罪は、刑法第180条により未遂でも罰せられます。
わいせつな行為とは「性欲を刺激、興奮または満足させ、人の性的な羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為」をいいます。具体的には「キスをする」「胸を揉む」「陰部をさわる」「自分の陰部を押し当てる、さわらせる」行為などです。改正前の刑法では「肛門や口腔での性交」は強制わいせつ罪でしたが、現行刑法では強制性交等罪となります。
では、強制わいせつ罪で逮捕・起訴されたら、どんな刑罰に処せられるのでしょうか。刑法第176条では、わいせつな行為をした者は「6月以上10年以下の懲役」に処するとしています。強制わいせつ罪には罰金刑がないため有罪判決は必ず懲役刑となり、実刑判決を受ければ刑務所に服役しなければなりません。わいせつ行為により被害者が死亡したり負傷したりした場合には、強制わいせつ致死傷罪(刑法第181条1項)が成立し「無期または3年以上の懲役」に処せられます。
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4、執行猶予つき判決が出る場合とは?
強制わいせつ罪で有罪判決となっても、情状により刑の執行が猶予される可能性があります。執行猶予とは、裁判で刑の言い渡しをする際に、情状(犯人の性格・年齢・境遇なども含めて考慮される事情)によってその執行を一定期間猶予する制度のことです。その期間が終わるまでに、刑事事件を起こして処罰されることなく無事に経過した場合には、刑の言い渡しは効力を失います。
執行猶予が認められるためには、まず次の条件を満たす必要があります。
- 判決が3年以下の懲役刑もしくは禁錮または50万円以下の罰金
- 禁錮以上の刑に処せられたことがない(前科がない)、または禁錮以上の刑に処せられたことがあるが、刑の終了・免除から5年以内に禁錮刑以上の刑に処せられていない
さらに執行猶予がつくかどうかは、次のような要素を基準に裁判官が総合的に判断します。たとえ初犯であったり示談が成立していたりしても、犯行の悪質性や被害者の精神的・肉体的な苦痛の大きさなどにより、執行猶予がつかない可能性があるのです。
- 計画性の有無、犯行の動機
- 行為の悪質性(行為の態様、時間の長さ、凶器の有無、撮影の有無など)
- 前科・前歴、余罪の有無
- 自首しているか、反省の態度を示しているか
- 被告人の年齢
- 懲戒処分や退学処分など、すでに被告人が社会的制裁を受けているか
- 医師の診察やカウンセリングを受けるなど、再犯の防止策を講じているか
- 家族の監督・サポート体制が十分に整っているか
- 被害者の年齢、精神的・肉体的な被害の状況
- 被害者に示談金を支払い、示談が成立しているか
5、強制わいせつにおける示談の重要性
性犯罪の厳罰化が進むなかで、強制わいせつ罪は刑法改正(平成29年7月13日施行)により、親告罪から非親告罪となりました。たとえ被害者が被害届を取り下げたとしても、逮捕されて起訴されることがあるのです。起訴されればかなりの確率で有罪となり、執行猶予のつかない実刑判決となる可能性もあります。
逮捕を防ぐ、あるいは起訴猶予処分や執行猶予つき判決を受けるには、反省の態度を示し、被害者に対して真摯(しんし)に謝罪することが大切です。その姿勢によって結果的に示談の成立へと結びつく可能性が高まります。示談の成立の有無は、検察官の処分決定や裁判官の量刑判断に影響をおよぼしますが、逮捕から起訴が決定するまでには最長で23日間という期限があります。この間に一刻も早く示談を成立させる必要があるのです。
しかし、加害者や加害者の家族が直接、示談を提案しようにも、事件により大きなショックを受けている被害者や被害者家族は拒否する場合が多いでしょう。示談は法律の知識だけでなく、被害者側の心情に対する細やかな配慮も必要です。示談交渉に関して経験豊富な弁護士なら、被害者も交渉に応じやすくなるでしょう。強制わいせつ罪に問われて示談が必要な場合は、すみやかに弁護士に依頼することが重要です。
6、まとめ
強制わいせつ罪は受刑施設に拘置される懲役刑しか設けられていない重大な罪です。しかし被害者との間で示談が成立していれば、逮捕の回避や起訴猶予の獲得が期待でき、有罪になっても執行猶予となる可能性があります。
強制わいせつ罪で逮捕されたときや逮捕されそうなときは、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。刑事事件で実績のある弁護士が適切に示談交渉を進め、早期釈放や不起訴処分、執行猶予をめざして全力でサポートします。
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