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強制わいせつ等致死傷の成立要件とは? 逮捕後の流れも解説
強制わいせつ行為をする際に被害者を死傷させると、強制わいせつ等致死傷罪に問われる可能性があります。
令和2年6月には、仙台市の路上で女性の下半身をさわりすり傷を負わせたとして、音楽ユニットのメンバーが逮捕される事件が発生しました。
強制わいせつ等致死傷罪は、最長で無期懲役が規定された非常に重い罪です。このコラムでは、強制わいせつ等致死傷罪の成立要件や、逮捕後の流れを中心に解説します。
1、強制わいせつ等致死傷罪の成立要件
強制わいせつ等致死傷罪は、刑法第181条1項に定められた犯罪です。強制わいせつ行為をはたらき、結果として人を死傷させた場合に成立します。
なお、強制わいせつ等致死傷罪の「等」には、以下で説明する「わいせつ」に関する罪だけでなく、強制性交などの「性交」に関する罪も含まれています。(「性交」に関する罪によって死傷の結果を生じさせた場合の規定は、刑法第181条の2項でされています)しかし、今回の記事では、「わいせつ」行為から死傷の結果を生じさせた場合(181条1項に該当する場合)に絞って解説していきます。
そのため、本記事で用いている「強制わいせつ等致死傷罪」という言葉は、刑法第181条1項の規定する「わいせつ」行為から死傷結果を生じた場合のみを指すものです。
ここでは、犯罪が成立するための要件として、基本となる犯罪の概要や死傷の定義について解説します。
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(1)基本となる犯罪
刑法第181条1項は、次のように規定しています。
【刑法第181条1項】
第176条、第178条第1項もしくは第179条第1項の罪またはこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期または3年以上の懲役に処する
条文にある「第176条、第178条第1項もしくは第179条第1項の罪」は、強制わいせつ等致死傷罪が成立する際の基本となる犯罪です。
そのため、まずは以下の犯罪が成立するかどうかを確認する必要があります。
【強制わいせつ罪:第176条】
13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をする犯罪です。13歳未満の者に対しては、暴行または脅迫の有無を問わず、わいせつな行為をすれば同罪が適用されます。
暴行または脅迫とは、殴る・蹴る、凶器で脅すなどの行為を指します。なお、このときの暴行または脅迫は、被害者の反抗を著しく困難にする程度のものである必要があります。
わいせつな行為は胸や陰部をさわる、下着を脱がせるなど、性的な意味を有し、被害者の性的羞恥心を害する行為が該当します。
【準強制わいせつ罪:第178条1項】
人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、またはその状態にさせて、わいせつな行為をする犯罪です。
ここでいう心神喪失とは、自己に対してわいせつな行為が行われていることの認識を欠いている状態を指します。
なお、刑法では第39条1項でも「心神喪失」という用語が出てきますが、これとは意味が異なります。抗拒不能とは、物理的または心理的に、わいせつな行為に対する抵抗が著しく困難な状態であることを指します。
たとえば、被害者を酩酊(めいてい)状態にさせてわいせつ行為に及んだ場合、「心神喪失」に乗じたことになる可能性があり、医師が医療行為と称してわいせつ行為に及んだ場合、「抗拒不能」に乗じたことになる可能性があります。
【監護者わいせつ罪:第179条1項】
18歳未満の者に対し、監護者としての影響力に乗じてわいせつな行為をする犯罪です。
監護者とは被害者の生活全般に関して継続的に世話をする者を指し、実親や養親などが該当します。影響力に乗じてとは、被害者が経済的・精神的に監護者を頼らざるを得ない状況をつくりだしたり、家族関係をこわしたくないという被害者の心情につけこんだりする場合をいいます。 -
(2)死傷の定義
上記の罪または未遂罪を犯した結果、被害者が負傷もしくは死亡した場合に強制わいせつ等致死傷罪が適用されます。
強制わいせつ行為と死傷の結果には、因果関係が必要です。
ここでいう因果関係は、わいせつ行為によって直接的に死傷させた場合に限りません。わいせつ行為におよぶための手段として暴行したことにより死傷させたケースや、被害者が逃げようとしたときに転んでケガをしたようなケースも該当します。
すり傷などの軽度なケガや、パニック障害などの精神疾患であっても本罪が成立する可能性があります。 -
(3)強制わいせつ行為が未遂でも成立する
強制わいせつ行為が未遂だった場合でも、被害者に死傷の結果が生じていれば強制わいせつ等致死傷罪は成立します。
被害者の抵抗によってわいせつ行為にはいたらなかったものの、被害者が抵抗する際にケガをしたケースなどが考えられるでしょう。 -
(4)被害者が13歳未満の場合
被害者が13歳未満の児童である場合、わいせつ行為をする際に暴行や脅迫がなくても、また仮に同意とみられる言動があったとしても、強制わいせつ罪が成立します。
したがって、13歳未満の児童にわいせつ行為をはたらき死傷させたケースでは、暴行・脅迫、同意の有無は関係なく強制わいせつ等致死傷罪に問われます。 -
(5)刑罰の内容
強制わいせつ等致死傷罪で有罪になると「無期または3年以上の懲役」に処せられます。
事件の悪質性や被害者にあたえた損害の大きさなど、複数の要素をもとに量刑が判断されます。
2、告訴がなくても逮捕・起訴される可能性がある
強制わいせつ等致死傷罪は、被害者が告訴しなくても逮捕・起訴される可能性がある犯罪です。
もともと、強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪などの性犯罪は、被害者の告訴がなければ検察官が起訴できない「親告罪」と呼ばれる犯罪でした。
性犯罪の被害にあった被害者の中には、被害時の状況などが裁判の場で公開されることを望まない人もいることや、裁判の場に立つことで、つらかった被害を思い出してしまうことを避けたいと考える被害者もいることを考慮し、親告罪となっていたのです。
しかし平成29年に、性犯罪の厳罰化を望む社会の声を受けて刑法改正がおこなわれ、これにともない、性犯罪は親告罪から「非親告罪」へと変更されました。
非親告罪となったのは、告訴の判断を被害者に委ねることがかえって被害者の精神的な負担となってしまう可能性があることや、告訴という判断をすることによって加害者からの報復を受けるおそれが生じる(または報復を受けるのではないかと委縮してしまう可能性がある)などの状況が認められたためです。
3、強制わいせつ等致死傷罪で逮捕された場合の流れ
強制わいせつ等致死傷罪の疑いで逮捕されると、その後どのような流れで起訴、裁判へと進むのでしょうか。
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(1)逮捕から72時間
逮捕から48時間以内を期限に警察官から取り調べを受け、その後、原則として事件は検察官へ送致されます。
送致されると、検察官から取り調べを受けます。検察官は24時間以内に、引き続き身柄を拘束して捜査する必要があるか否かを判断し、必要と判断した場合には裁判官に勾留を請求します。 -
(2)最長20日間の勾留
裁判官が勾留を認めると10日間の勾留がされることになりますが、その後もさらに勾留を継続すべきやむを得ない事由がある場合には、検察官の請求により、裁判官はさらに最大10日間の勾留延長を認めることができます。そのため、最長で20日間、勾留される可能性があります。
勾留期間が満了するまでに、検察官は起訴または不起訴を決定します。不起訴になれば身柄の拘束を解かれますが、起訴されると刑事裁判を待つ身となります。 -
(3)裁判で判決を受けるまで
起訴後は、裁判所または裁判官が引き続き被告人を勾留しておく必要があると判断した場合は、保釈請求が認められない限り、引き続き身柄が拘束されます。起訴されてから、刑事裁判が開かれるまで、おおよそ2か月程度、またはそれ以上の時間がかかる可能性があります。
裁判では審理を経て、判決が言い渡されます。事件によっては、判決までに1年以上かかるケースも少なくありません。
なお、強制わいせつ等致死傷事件は、一般市民である裁判員が参加する裁判員裁判の対象事件です。 -
(4)家族との面会について
逮捕から72時間の間は、本人は外部と面会や連絡はできません。たとえ家族であっても同様です。ただし、弁護士とは制限なく面会できます。弁護士はできるだけ早期に本人と面会し、取り調べに関するアドバイスや精神的なサポートをおこないます。
弁護士との電話相談が無料でできる
刑事事件緊急相談ダイヤル
- お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- 警察が未介入の事件のご相談は来所が必要です。
- 被害者からのご相談は有料となる場合があります。
4、強制わいせつ等致死傷罪で逮捕された場合に弁護士へ相談すべき理由
強制わいせつ等致死傷事件を起こしたのであれば、すみやかに弁護士へ相談することが大切です。
逮捕された場合は、弁護活動がその後の流れを変える可能性があります。また、示談交渉も必要となりますが、これらの活動は弁護士でなければ難しいでしょう。
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(1)示談交渉の代理
強制わいせつ等致死傷事件では、被害者や遺族との示談交渉が重要です。心の底から謝罪し、あたえた損害に対する賠償を尽くすことで被害者・遺族の処罰感情がやわらげば、示談が成立する可能性があります。示談が成立すれば、起訴・不起訴の判断や裁判の判決に際して考慮されることも期待できます。
しかし、強制わいせつ等致死傷罪は被害者の意に反してわいせつ行為をし、かつ死傷という重大な結果を生じさせる重罪です。
事件の性質上、加害者や加害者の家族などからの直接的な接触は、被害者・遺族の処罰感情を高めてしまい、交渉が困難になる可能性もあります。また、被害者の連絡先を入手すること自体が難しいですが、弁護士であれば捜査機関にはたきかけることによって、被害者の情報を入手できる可能性があります。
示談交渉は、弁護士へ一任するほうが良いといえるでしょう。 -
(2)減刑を目指すための弁護活動
強制わいせつ等致死傷罪は、有罪になれば必ず懲役刑が適用されます。弁護士は示談交渉と並行して、被告人が深く反省している点や、強制わいせつ等致死傷罪が成立しない点などを主張するといった弁護活動をおこない、減刑を目指します。
なお、懲役3年以下の言い渡しを受ければ、執行猶予がつく可能性も期待できます。執行猶予がつけば、直ちに刑務所へ収監されることはなく、日常を送りながら社会生活の中での更生を目指すことが可能です。
5、まとめ
強制わいせつ等致死傷罪は、社会的に厳しい目を向けられる犯罪であり、有罪になれば重い量刑になる可能性もあります。
加害者としては被害者・遺族への謝罪と賠償を尽くすことが重要ですが、事件の性質から考えると弁護士のサポートが不可欠です。できるだけ早期に、弁護士へ相談しましょう。
性犯罪における加害者弁護の実績が豊富なベリーベスト法律事務所で、ご相談をお受けしますので、まずはご連絡ください。
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