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弁護士コラム

2024年05月27日
  • 暴力事件
  • 傷害
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傷害事件は示談なしでも不起訴になる? 示談をすべきケースについて

傷害事件は示談なしでも不起訴になる? 示談をすべきケースについて
傷害事件は示談なしでも不起訴になる? 示談をすべきケースについて

令和5年3月、酒に酔った男が交際相手の女性に暴行し、軽傷を負わせたとして傷害の疑いで逮捕された事件がありました。この事件では、被害者との間で「示談」が成立し、検察庁が「不起訴」としています。

傷害事件を穏便に解決する方法のひとつが示談です。被害者との示談が成立すれば、この事例のように不起訴となって刑事処分を免れられる可能性が高まります。では、被害者が示談交渉に応じてくれない、条件面などで交渉が難航して示談がまとまらないといった状況があると「起訴」されてしまうのでしょうか?

本コラムでは、傷害事件で不起訴を得るには必ず示談が必要なのか、不起訴となる条件とは何か、示談交渉を弁護士に依頼するべき理由といったことをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。

目次

  1. 1、傷害罪で逮捕されたら、必ず起訴される?
    1. (1)傷害事件の起訴率は30%
    2. (2)刑罰が科せられてしまう
    3. (3)前科がついてしまう
    4. (4)軽微な傷害事件なら「略式起訴」される可能性も高い
  2. 2、傷害事件で「不起訴」になる条件とは?
    1. (1)不起訴の種類
    2. (2)起訴猶予の判断基準
    3. (3)示談交渉
  3. 3、不起訴になるには被害者との示談は必須?
    1. (1)示談をしなかった場合はどうなる?
    2. (2)被害者に示談を拒否された場合
    3. (3)被害者との示談なしでも不起訴になる?
  4. 4、示談交渉を弁護士に依頼するべき理由
    1. (1)示談成立に向けて粘り強い交渉が期待できる
    2. (2)適正な金額での示談交渉ができる
    3. (3)示談がまとまらない場合の対策も尽くせる
    4. (4)起訴を回避できない場合の刑事弁護も可能
  5. 5、まとめ

1、傷害罪で逮捕されたら、必ず起訴される?

これまでに刑事事件を起こしてしまったり、刑事事件に巻き込まれた人に関わったりした経験がある人は、決して多くはないでしょう。

「事件を起こした」という事実があれば、必ず起訴されて刑事裁判の場で裁かれるのだと想像してしまうかもしれませんが、それは間違いです。刑事事件を起こしても、必ず起訴されるわけではありません。当然、傷害事件を起こして逮捕されたとしても「起訴されなかった」というケースは多々存在します。

  1. (1)傷害事件の起訴率は30%

    検察庁が公表している検察統計年報によると、令和4年中に全国の検察庁で処理された傷害事件のうち、起訴されたのは9349件でした。一方で、起訴されず「不起訴」になったのは21679件です。起訴率は30.1%になります。

    ほかの犯罪にも目を向けると、全刑法犯の起訴率の平均は21.9%でした。平均値に照らせば、傷害事件の起訴率は比較的に「起訴されやすい」といえるでしょう

    ここで覚えておきたいのが「起訴率」の考え方です。起訴率は、全国で処理された事件のうち「起訴された事件の割合」であって、起訴される確率を示すものではありません。くじ引きのように運悪く起訴されたり、運がよければ起訴されなかったりするのではなく、事件の内容や事件後の対応によって結果が変わるものだと認識しておきましょう。

  2. (2)刑罰が科せられてしまう

    傷害事件を起こして起訴されると、刑事裁判が開かれます。傷害罪の法定刑は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」なので、有罪判決を受けると懲役・罰金のいずれかの刑罰が科せられます。

    裁判所が公表している令和4年の司法統計によると、全国の地方裁判所で開かれた通常第一審で懲役を言い渡されたのは1796人、罰金を言い渡されたのは341人、簡易裁判所で罰金を言い渡されたのは68人でした。
    なお、この統計では、簡易裁判所における略式罰金の決定を受けた人数が明らかになっていません。

  3. (3)前科がついてしまう

    刑罰の言い渡しを受けた経歴を「前科」といいます。刑務所に収容された経験があるかどうかではなく、刑罰の種類を問わないので、罰金で済まされたとしても前科がついたことに変わりはありません。また、懲役に執行猶予がついた場合も同様です。執行猶予は「刑の執行を一定期間に限って猶予する」という制度なので、刑の言い渡しを受けた経歴に含まれます。

    前科は極めて重要な個人情報なので、公的な権限をもつ機関でなければ調べられません。ただし、前科がついてしまうと、公的な資格が制限されたり、海外渡航を制限されたりするおそれがあります。また、会社や学校に事件を起こしたことを把握されている場合は、規定に従って不利益な処分を受けるかもしれません。

    なお、刑罰は科せられず前科がつかなくても被疑者として警察の捜査対象になった場合は「前歴」として記録されます。前歴は捜査機関の内部だけで扱われる情報なので公開されませんが、ほかの事件やトラブルを起こしたときに参照されることを覚えておきましょう。

  4. (4)軽微な傷害事件なら「略式起訴」される可能性も高い

    相手のケガの程度が軽く、犯行の動機や手段の悪質性が低い傷害事件では「略式起訴」される可能性があります。略式起訴とは、簡易裁判所が管轄する事件のうち、100万円以下の罰金または科料に相当する事件について、書面のみで審査する「略式手続」の一部です。略式手続による起訴を略式起訴といいます

    略式起訴されると、刑事裁判が開かれないまま迅速に処分されるうえに、必ず罰金の支払いを命じられるので懲役を回避できます。この点に注目すれば、略式手続は加害者にとって有利な処分です。

    一方で、必ず有罪となって刑罰を受けるので、事実を争いたいと考えているなら略式起訴を受け入れてはいけません。事実を争い自分の主張をしたい場合には、略式手続に同意する前に弁護士に相談したうえで、しっかりと方針を決めることが大切です。

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2、傷害事件で「不起訴」になる条件とは?

令和2年の検察統計年報によると、傷害事件を起こしても、およそ70%の人は起訴されずに「不起訴」となっています。不起訴になれば刑事裁判が開かれないので、刑罰を受けることも、前科がつくこともありません。起訴・不起訴の判断は検察官に委ねられていますが、どういった基準で判断されているのでしょうか?

  1. (1)不起訴の種類

    「不起訴」には、理由に応じていくつかの種類があります。

    完全に疑いが晴れた場合の「嫌疑なし」、刑事裁判で争うためには証拠が足りない状況の「嫌疑不十分」、加害者が事理善悪を判断できない精神状況にある場合の「心神喪失」などです。
    そのなかでも圧倒的に多いのが「起訴猶予」で、全体のおよそ7割を占めています。

  2. (2)起訴猶予の判断基準

    起訴猶予とは、刑事裁判を起こせばほぼ確実に有罪判決が下されるだけの証拠がそろっている状況であるものの、本人の性格・年齢・境遇、犯罪の軽重・情状、犯罪後の状況から「訴追を必要としない」と判断される場合の処分です

    傷害事件では、次のような点が起訴猶予の判断基準となるでしょう。


    • 被害者の負傷程度や暴力の方法
    • 本人に粗暴犯の前科・前歴はあるか
    • 乱暴な組織やグループとの関わりはないか
    • 反省の有無
    など


    検察官は、捜査を通じてこれらの点を総合的に評価したうえで、起訴猶予が適切かどうかを判断します。

  3. (3)示談交渉

    起訴猶予の可否を決めるうえで極めて重要なのが「示談」の有無や経過です

    示談とは、トラブルの当事者同士が裁判外の場で話し合って解決する手続きで、諸条件にお互いが合意すると「示談成立」となります。傷害事件のケースでは、加害者は被害者に対して謝罪の意思を示したうえで、病院に通った際の治療費の負担や仕事を休んだ日数に応じた休業損害の補償、精神的苦痛に対する慰謝料などを含めた示談金を支払うことになるでしょう。

    一方で、被害者は警察への届け出をしない、あるいはすでに提出した被害届を取り下げるなど、加害者と和解したので厳しい処分は求めないといった意思を示すのが一般的です。当事者間で示談が成立していれば、すでに被害者には「犯人を罰してほしい」という意向がないと評価されるため、起訴猶予となる可能性が高まります。

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3、不起訴になるには被害者との示談は必須?

傷害事件に限らず、刑事事件を起こしてしまったもののできるだけ穏便に解決したいと望むなら、不起訴を目指すのが最善です。そして、前述のとおり検察官が起訴・不起訴を判断する際は、当事者間の示談の有無や経過が大きく影響します。

では、不起訴を得るためには、必ず被害者との示談交渉を進めなくてはならないのでしょうか?
示談が決裂し、失敗に終わった場合は、不起訴を期待できないのでしょうか?

  1. (1)示談をしなかった場合はどうなる?

    示談は、あくまでも加害者と被害者の間でおこなわれる民事的な交渉です。つまり、示談をするも、示談をしないも、双方の自由に委ねられています。自分には一切非がない、謝罪や賠償をするつもりもないと考えるなら、示談をしないという選択をするのも自由です。

    ただし、示談交渉を通じて被害者に対し謝罪の意思を示したのか、治療費などの賠償を尽くしたのかといった点は、検察官が起訴・不起訴を判断する際に大きく影響し、裁判においても刑務所に行くかギリギリの判断をわけることがあります

    そのため、「示談をしない」という選択をすることによって、回避できたはずの前科がついてしまったり、刑罰が重たくなったりすれば、事件後の社会生活も大きく変わってしまうでしょう。また、刑罰は「刑事」としての処分であり、たとえ刑罰を受けて罪を償ったとしても「民事」の責任を果たしたとはいえません。

    示談において治療費や慰謝料などを支払っておけば民事責任を果たしたかたちになりますが、放置していると損害賠償請求の民事訴訟を起こされてしまい、対応に大きな労力がかかってしまうおそれがあります。

  2. (2)被害者に示談を拒否された場合

    示談をするもしないも自由なら、被害者が示談を受け入れるか、断るかも自由です。被害者に対して示談を申し入れても、かたくなに拒否されてしまうケースは決して少なくありません。
    個人的なトラブルが根底にあるため被害者が「許さない」という姿勢を示している、突然のいわれない暴力に怒っていて示談に応じてくれないといった状況も考えられるでしょう。

    被害者に示談を拒否されてしまったら、何が問題になっているのかを検討する必要があります。まだ被害者が怒り心頭の状態であれば、少し時間をおくことで冷静になってもらえるかもしれません。示談金の額など、示談の条件に問題がある場合はできる限りの譲歩を尽くすべきです。

    いずれにしても、個人で問題点を見いだして解決するのは難しいので、弁護士に対応を任せたほうがよいです。被害者から示談を拒否されている場合なども、弁護士が間に入って交渉を試みることで、話し合いを進められる可能性も高まるでしょう。

  3. (3)被害者との示談なしでも不起訴になる?

    示談は「謝罪と賠償に向けた話し合い」という民事的な解決方法なので、検察官が不起訴を決定する際の絶対条件ではありません。暴行や負傷程度がごく軽微である、示談以外の方法で深い反省を示しているといった状況があれば、不起訴を得られる可能性は残されています。

    とはいえ、傷害罪は略式起訴も可能な犯罪であることを考えれば、他人に暴行を加えてケガを負わせたという事実がある限り、不起訴ではなく略式起訴が選択されてしまうかもしれません。略式起訴を受け入れるかどうかは加害者に委ねられますが、拒否すれば正式な刑事裁判へと移行してしまいます。
    できるだけ軽い処分を望むなら、示談交渉を尽くして不起訴を目指すのが賢明でしょう

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4、示談交渉を弁護士に依頼するべき理由

傷害事件を穏便に解決したいと考えるなら、被害者との示談交渉は欠かせません。ただし、個人での交渉は期待どおりの結果が得られないかもしれず、罪証隠滅のおそれを生じさせて逮捕のリスクもあり、新たなトラブルの原因にもなるので、弁護士に対応を任せたほうがよいでしょう。

  1. (1)示談成立に向けて粘り強い交渉が期待できる

    個人による示談では、被害者が交渉に応じてくれない、示談金などの条件面で折り合いがつかないなど、さまざまな困難が生じます。示談が難航している間に検察官が起訴に踏み切ってしまい、刑罰を科せられてしまう危険もあるので、スピード感をもった対応が重要です

    弁護士に依頼すれば、粘り強い交渉によって最善の結果を期待できる可能性が高まります。捜査の状況に応じて効率的なタイミングをはかった交渉が可能なので、できるだけ早く弁護士に相談・依頼しましょう。

    また、そもそも被害者の連絡先を知らない場合、捜査機関が加害者やその家族に被害者の連絡先を教えてくれることはありません。この点、弁護士から捜査機関に問い合わせることで被害者の連絡先などを教えてもらえる可能性が高まるため、示談交渉を進めることにつながります。

  2. (2)適正な金額での示談交渉ができる

    示談金は、ケガの治療費や被害者の精神的苦痛に対する慰謝料などが含まれますが、加害者が自ら示談を行うと、被害者から必要以上に高額な示談金を請求されてしまう可能性もあります。

    弁護士に依頼することで、被害者のケガの程度や処罰感情の強さなどから適正な金額を検討したうえで交渉を進めることができます。

  3. (3)示談がまとまらない場合の対策も尽くせる

    示談による解決を望んでいるのに被害者が応じてくれない、条件面で膠着(こうちゃく)してしまい示談がまとまらないといった状況だと「どうすればよいのかわからない」と悩むことになるでしょう。

    弁護士に依頼すれば、示談成立に向けた努力を尽くした事実や深い反省を、捜査機関や裁判所に示すためのサポートが得られます。示談申し入れの経過記録の作成や提出、治療費や慰謝料などの供託、慈善団体への贖罪(しょくざい)寄付といった方法があるので、弁護士に相談のうえで最善の方法を選択しましょう。

  4. (4)起訴を回避できない場合の刑事弁護も可能

    検察官による起訴を回避できない状況でも、弁護士への依頼は有益です。

    事実が明らかで争うべき部分がないなら、略式起訴に向けたはたらきかけによって懲役や公開の裁判を回避できる可能性があります。正式な刑事裁判が開かれる場合でも、保釈請求による早期の身柄解放を目指す、処分が軽減されるように有利な証拠を集めるなど、法的なサポートが欠かせません。

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5、まとめ

傷害事件を穏便に解決するひとつの方法が、被害者との「示談」です。
示談が成立すれば、事件化の回避や不起訴といった有利な処分が期待できます。「示談をしなければ不起訴にならない」というわけではありませんが、示談によって不起訴の可能性が高まるので、示談成立を目指して積極的にアクションを起こすべきです

ただし、傷害事件の被害者の多くは、加害者に対して強い怒りや恐怖の感情をもっています。加害者やその家族などによる交渉では、条件面などで折り合いがつかず難航してしまったり、まったく相手にしてもらえなかったりするおそれもあるので、弁護士に依頼することが賢明です。

傷害事件における被害者との示談交渉は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。刑事事件の解決実績が豊富な弁護士が、事件解決に向けて全力でサポートします。

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本コラムを監修した弁護士
萩原 達也
ベリーベスト法律事務所
代表弁護士
弁護士会:
第一東京弁護士会

ベリーベスト法律事務所は、北海道から沖縄まで展開する大規模法律事務所です。
当事務所では、元検事を中心とした刑事専門チームを組成しております。財産事件、性犯罪事件、暴力事件、少年事件など、刑事事件でお困りの場合はぜひご相談ください。

※本コラムは公開日当時の内容です。
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