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傷害罪で有罪だと執行猶予は付く? 執行猶予獲得のポイントを解説
他人に怪我をさせてしまうと傷害罪が成立します。傷害罪の法定刑や15年以下の懲役または50万円以下の罰金と規定されていますので、悪質な傷害事件だと起訴されて、実刑判決となる可能性もあります。
しかし、被害者との示談を成立させることができれば、執行猶予を獲得し、直ちに刑務所に収容される事態を回避することができます。傷害事件を犯してしまったという方は、執行猶予を獲得するためのポイントをしっかりと押さえておきましょう。
今回は、傷害罪で執行猶予が付く可能性と執行猶予獲得のポイントについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
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1、傷害罪とは? 有罪になる可能性がある行為
傷害罪とはどのような犯罪なのでしょうか。以下では、傷害罪の構成要件と傷害罪に問われる可能性のある具体的なケースについて説明します。
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(1)傷害罪の定義と構成要件
傷害罪とは、他人を故意に傷つけた場合に成立する犯罪です(刑法204条)。傷害罪の成立には、以下の要件を満たす必要があります。
① 傷害の実行行為があること
傷害罪の実行行為とは、人の生理機能に障害を与える行為をいいます。
他人を殴る蹴るなどの暴行が典型ですが、性交渉により性病をうつす行為や、無言電話を繰り返す無形的な方法も傷害罪の実行行為に含まれます。
② 傷害結果が発生したこと
人の生理的機能に実際に障害が生じることで傷害罪が適用できるようになります。
打撲、捻挫、骨折などの外傷を与えることはもちろん、PTSDなどの精神的な障害を発症することも「傷害」の結果に含まれます。
③ 実行行為と結果との間に因果関係があること
傷害罪が成立するためには、傷害の実行行為と傷害結果との間に因果関係が必要です。
他人を殴って怪我をさせたのであれば当然因果関係が認められますが、他人を追いかけまわした際に被害者が転倒して怪我をした場合も因果関係が認められます。
④ 故意があること
傷害罪における故意は、傷害結果が発生することを認識・認容して行為に及ぶことをいい、傷害の故意だけではなく暴行の故意も含むと考えられています。
すなわち、相手を怪我させるつもりで殴った場合だけでなく、単に相手を殴ることしか考えていなかったとしても傷害罪の故意が認められます。 -
(2)暴行罪との違い
暴行罪とは、他人に暴行を加えたものの傷害するに至らなかったときに成立する犯罪です(刑法208条)。
暴行罪と傷害罪は、「傷害」という結果が発生したかどうかにより区別されます。他人を殴ったもののアザなどが残らなかった場合は暴行罪が成立し、打撲などの怪我を負ってしまった場合は傷害罪が成立します。 -
(3)傷害罪に問われうる具体的なケース
傷害罪に問われ得る具体的なケースとしては、以下のものが挙げられます。
- かっとなって人を殴って怪我をさせた
- ナイフで腕を切りつけて怪我をさせた
- 性行為により性病に感染させた
- 相手に精神的なストレスを与えてPTSDを発症させた
- 連日連夜にわたり大音量でラジオを鳴らして慢性頭痛症を発症させる
2、傷害罪で執行猶予は付く? 傷害罪の量刑相場
傷害罪で有罪になった場合、執行猶予は付くのでしょうか。以下では、傷害罪の量刑相場などについて説明します。
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(1)傷害罪で有罪になったら科される刑罰
傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金と規定されています。
傷害罪で有罪になった場合、懲役または罰金刑が選択され、法定刑の範囲内で刑罰が科されます。
なお、罰金刑が相当な事案については、公判請求という正式な裁判ではなく、略式請求という正式な裁判を経ずに書面審理のみで罰金刑を科す手続きが選択されるケースが多いです。 -
(2)執行猶予とは?
執行猶予とは、有罪判決を受けた場合に、刑の執行を一定期間猶予することができる制度です。
刑事裁判により有罪の実刑判決が言い渡された場合、懲役刑であればそのまま刑務所に収容されることになります。しかし、有罪判決であっても執行猶予が付けば、直ちに刑務所に収容されることはありませんので、有罪判決後も通常の社会生活を送ることができます。
そのため、刑事裁判にかけられた被告人としては、執行猶予を獲得できるかどうかが重要なポイントになります。
なお、執行猶予は、以下の条件を満たした場合にのみ付けられます。
- 3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金を言い渡す場合
- 過去に禁錮以上の刑を受けたことがない
- 過去に禁錮以上の刑を受けたことがあってもそれが5年よりも前である
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(3)傷害罪の量刑相場
法務省が公表している「令和5年犯罪白書」によると傷害罪の終局処理人員は、以下のとおりです。
- 起訴:5429件(うち公判請求が2042件、略式命令請求が3387件)
- 不起訴:1万1535件
- 家庭裁判所送致:1654件
- 終局処理総数:1万8618件
このことから、傷害罪の不起訴率は、約62%であることがわかります。
また、起訴された事件のうち、懲役刑が言い渡された事件が1796件、罰金刑が言い渡された事件が3728件(公判請求による罰金:341件、略式命令請求による罰金:3387件)でしたので、起訴された事件全体からみた懲役刑の割合は約32%ということになります。
また、公判請求により懲役刑が言い渡された事件の量刑は、以下のようになっています。
6か月未満 28 6か月以上1年未満 343 1年以上2年未満 806 2年以上3年以下 495 3年を超え5年以下 67 5年を超え7年以下 33 7年を超え10年以下 18 10年を超え15年以下 10
これによると傷害罪の懲役刑は6か月~3年の範囲に集中していますので、これが傷害罪の量刑相場といえます。
なお、懲役刑が言い渡された事件は、合計で1800件ありますが、そのうち執行猶予が付いたのは1115件でした。そのため、懲役刑が言い渡された事件全体からみて、約62%の事件で執行猶予が付けられています。
- ※お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- ※警察が未介入の事件のご相談は来所が必要です。
- ※被害者からのご相談は有料となる場合があります。
3、傷害罪で執行猶予を獲得するためのポイント
傷害罪で執行猶予を獲得するためのポイントとしては、以下の2つがあります。
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(1)逮捕前であれば自首をする
自首とは、捜査機関に犯罪事実が発覚する前に、自主的に捜査機関に対して犯罪事実の申告をすることをいいます。自首をすることにより、刑の任意的減軽が受けられる可能性があり、量刑上の有利な事情として考慮してもらうこともできます。
ただし、自首は、捜査機関に発覚する前に行わなければ、法的効果を享受することはできませんので、傷害事件を起こしてしまったときは、早めに自首を検討するようにしましょう。 -
(2)被害者との示談を成立させる
傷害罪で執行猶予を獲得するには、被害者との示談が重要なポイントになります。
被害者との示談が成立していれば、不起訴処分を獲得できる可能性がありますし、起訴されたとしても、執行猶予を獲得できる可能性が高くなります。
傷害事件では、被害者は加害者から怪我を負わされており、加害者と接触したくないと考えるのが通常です。加害者側から示談交渉の申し入れをしても、簡単には応じてくれない可能性もありますので、被害者との示談交渉は、後述するように弁護士に任せるべきでしょう。
4、傷害罪で執行猶予を目指すなら弁護士に相談を
傷害罪で執行猶予を目指すなら早期に弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)自首する際もサポートできる
自首をすることにより執行猶予を獲得できる可能性を高めることができますが、反対に自首をしたことで事件化されてしまい、逮捕されるリスクが生じることもあります。このように自首にはメリットだけでなく、デメリットもありますので自首をすべきかどうかについては、一度弁護士に相談することをおすすめします。
実際に自首をすることになった場合には、弁護士が警察署に同行してくれますので、不安なく自首の手続きを進めることができます。 -
(2)被害者との示談交渉を任せられる
傷害事件では、加害者と被害者とが面識がなく示談交渉をしたくても相手の連絡先がわからないというケースがあります。また、連絡先がわかったとしても被害者が加害者に対して強い処罰感情を有しており、示談交渉が難航するケースも少なくありません。
このような場合には、弁護士に示談交渉をお任せください。
被害者の連絡先がわからないケースであっても弁護士なら捜査機関を通じて被害者側に示談の意向を伝えることができます。また、弁護士は、示談交渉のノウハウを熟知していますので、示談交渉が難航するケースであっても被害者側の処罰感情にも配慮しながら適切に示談交渉を進めていくことができます。 -
(3)早期の身柄解放を実現できる
傷害事件により逮捕・勾留されてしまうと、被疑者は、最長で23日間にも及ぶ長期間の身柄拘束を受けることになります。その間は、外部との連絡が一切できず、家族との面会も限られた時間しかできません。
身柄拘束期間が長くなればなるほど解雇などの不利益が生じるリスクが高くなりますので、早期の身柄解放を実現することが重要です。弁護士であれば、迅速に被害者との示談交渉をまとめることにより、早期の身柄解放を実現することができます。大切な家族が逮捕されてしまったときは、すぐに弁護士に相談するようにしてください。 -
(4)執行猶予の獲得に向けて弁護活動ができる
執行猶予を獲得するためには、刑事裁判において被告人に有利な情状を立証していかなければなりません。被害者との示談成立もその事情の一つになりますが、それ以外にも以下のような事情も有利な情状として考慮されます。
- 被告人の反省
- 再犯防止に向けた取り組み(例:アルコールが原因なら依存症の治療など)
- 家族による監督
刑事事件の豊富な経験と実績を有する弁護士であれば、執行猶予獲得に向けた効果的な弁護活動を行ってくれます。
5、まとめ
令和5年犯罪白書によると傷害罪で起訴され懲役刑が言い渡された事件は、合計で1800件あり、そのうち執行猶予が付いたのは1115件(約62%)でした。事件後の自首や被害者との示談などにより執行猶予を獲得できる可能性を高めることができますので、傷害事件を起こしてしまったという場合は、すぐに弁護士に相談することが大切です。
傷害事件を起こしてしまったという方は、刑事事件に関する豊富な経験と実績のあるベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
※本コラムは公開日当時の内容です。
刑事事件問題でお困りの場合は、ベリーベスト法律事務所へお気軽にお問い合わせください。