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微罪処分の判断基準とは? 処分後の流れについても分かりやすく解説
警察が検挙した事件は、原則として検察官へと送致されます。ただし「微罪処分」となった場合は検察官へと送致されず、警察限りで処理が終了します。
令和2年版の犯罪白書によると、令和元(平成31)年中に微罪処分を受けた刑法犯の人員は5万5754人でした。この数字は、全検挙人員の28.9%にあたるため、刑事事件を起こした被疑者のおよそ3割が微罪処分を受けていることになります。決して少なくない割合だといえますが、どのようなケースで微罪処分が適用されるのでしょうか?
本コラムでは「微罪処分」が適用される基準を中心に、微罪処分による社会的な影響や処分後の流れ、微罪処分となるために取るべき行動について解説します。
1、微罪処分とは
まずは「微罪処分」がどのような手続きなのかを確認しておきましょう。
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(1)微罪処分とはどのような手続きなのか?
「微罪処分」とは、警察が検挙した刑事事件について、被疑者の身柄や事件の関係書類を検察庁に送致せず、警察限りで処理して事件を終結する手続きです。
刑事訴訟法第246条には、警察が犯罪の捜査をしたときは「速やかに書類および証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない」と定めています。
ただし例外として「検察官が指定した事件についてはこの限りではない」と規定しており、この「検察官が指定した事件」という部分が微罪処分にあたります。
さらに、警察捜査の基本を定める犯罪捜査規範の第198条には「犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続きをとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる」と定められています。
刑事訴訟法と犯罪捜査規範の規定から、微罪処分が「検察官へと送致しない」という手続きであることがわかるでしょう。 -
(2)微罪処分が設けられている目的
わが国の司法制度では、日本全国にくまなく配置されている警察に第一次捜査権を与えたうえで、さらに上級の捜査機関として検察官が捜査を進めて、被疑者の起訴・不起訴を判断しています。
検察官が起訴すれば刑事裁判が始まり、裁判官が証拠をもとに審理したうえで、初めて犯人に刑罰が下されるわけです。
令和2年版の犯罪白書によると、令和元(平成31)年中に警察が検挙した刑法犯は29万4206件です。これだけ膨大な数の事件をすべて検察官に送致して、検察官に起訴・不起訴の判断をさせることは、検察庁にとって大きな負担となります。
微罪処分は、一定の基準に合致した事件について検察官への送致義務を課さないことで、検察庁や裁判所の負担を軽減し、円滑な刑事事件の処理を実現するために設けられた制度です。
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2、微罪処分になる基準
実は、微罪処分の適用基準を明確に定めた法律はありません。微罪処分の適用基準は検察庁から各都道府県警察に通達されているに過ぎず、しかも公開されていません。
具体的な基準は捜査機関の内々で秘密とされていますが、おおむねここで挙げる点が基準とされています。
なお、検察庁と各都道府県警察の間で協議されたうえで適用基準が設けられているため、地域によって若干の差があることを理解しておきましょう。
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(1)微罪処分の対象となる事件
微罪処分の対象となる事件は、検察庁から各都道府県警察へと具体的な罪名が指定されています。
地域によって差がありますが、窃盗・詐欺・横領・暴行・賭博といった罪名が指定されているケースが多いようです。軽微だと思われがちな「痴漢などの性犯罪」には、微罪処分が適用されません。
また、告訴・告発・自首のほか、逮捕状に基づいて逮捕された事件については、厳格な刑事手続きであるため微罪処分の対象外とされています。
検察官が起訴するには被害者の告訴を要する親告罪に規定されている犯罪は微罪処分の対象外なので、比較的に軽微ととらえられがちな「器物損壊や侮辱」にも微罪処分は適用されないことになります。 -
(2)犯情が軽微であること
微罪処分を適用する重要な基準として「犯情(はんじょう)が軽微であること」が挙げられます。
犯情とは犯罪に至った事情を指しており、たとえば同じ窃盗罪でも、「スーパーで商品を万引きする」のと、「留守宅に侵入して金品を盗む空き巣」とでは、空き巣の悪質性のほうが高いため犯情が重いとされます。 -
(3)被害が軽微であること
「被害が軽微であること」も重要な基準です。
どの程度であれば軽微であるのかの具体的な基準は存在しませんが、窃盗・詐欺・横領などの財産犯では被害額がおおむね2万円以下、暴行のような身体犯では相手に負傷がないことが求められます。 -
(4)被害の回復または謝罪がなされていること
すでに被害の回復がなされている、または被害の回復を約束している、あるいは謝罪の意思を示していることも重要となります。
被害回復によって実質的な損害が解消されていれば、厳しい刑罰を科す必要はないため微罪処分の適用になじむわけです。 -
(5)素行不良者の犯行ではないこと
「素行不良者」とは、これまでに事件の犯人として刑罰を受けたり、警察に検挙されたりした経歴がある者を指します。
そのため、はじめて万引きをしたケース、高額ではない自転車を盗んでしまったケース、知人同士のケンカでカッとなって暴力を振るってしまったといったケースなどでは、これまでに犯罪の経歴がなければ、素行不良者ではない人が起こした偶発的犯行として、微罪処分が適用される傾向があります。 -
(6)被害者が加害者の処罰を望んでいないこと
ここまでの各基準を満たしている場合でも、被害者が加害者の処罰を強く望んでいる場合は微罪処分が適用されません。
この点に注目すれば、微罪処分の適用を期待するには被害者との示談成立が極めて重要であることがわかります。
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3、微罪処分にならないこともある
微罪処分が適用される基準におおむね合致していたとしても、微罪処分が適用されないケースがあります。
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(1)被害者が強い処罰意志をもっている場合
微罪処分の適用にあたっては、被害者が加害者に対して処罰意志をもっていないことが求められます。
ほかの基準におおむね合致している場合でも、被害者が強い処罰意志をもって被害届を提出し、取り下げも拒んでいれば、微罪処分にはなじみません。
被害者の感情を考えれば通常どおりの刑事手続きによって厳しく犯人を罰するべきであり、検察官への送致を見送ってしまうわけにはいかないでしょう。 -
(2)同種の前科・前歴がある場合
警察が検挙した事件は、すべて検察官に送致されるのが原則です。
微罪処分はその例外として認められている寛大な処分であって、以前に同種の犯罪を繰り返しているといった常習性の高い被疑者であれば、微罪処分は適用されません。
たとえ被害額が僅少な万引きや無銭飲食などでも、何度も同様の事件を起こしていれば「反省していない」「厳しく罰しなければ犯行は止まらない」と評価され、正式な刑事手続きによって罪を問われることになります。
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4、微罪処分による社会的影響は?
刑事事件を起こして微罪処分を受けた場合、その後はどのような社会的影響が生じるのでしょうか?
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(1)身柄拘束を受けずに済む
微罪処分が適用された場合は、その後に身柄拘束を受けることがありません。ほとんどのケースでは逮捕されず、当日限りで任意の取り調べを受けて捜査が終結します。
また、万引きが発覚してその場で店員に現行犯逮捕されてしまったなどのケースでも、微罪処分となった場合は直ちに釈放されます。
刑事事件の被疑者として逮捕されると、警察の段階で48時間以内、送致を受けた検察官の段階で24時間以内の身柄拘束を受けたうえで、検察官からの請求によって10日間の勾留、さらに、延長されれば最大10日間にわたる勾留を受けることになります。
長期の身柄拘束を受けてしまえば、会社や学校といった社会生活への悪影響は計り知れません。このような不利益を被る危険を回避できるため、微罪処分が適用されることは被疑者にとって非常に有利です。 -
(2)「前科」はつかないが「前歴」は残る
微罪処分は、事件を検察官へと送致せず警察限りで処理して捜査を終結する手続きです。
検察官へと送致しないので、刑事裁判が開かれることはなく、刑罰が下されることもありません。刑罰が下されないので、前科がつくこともありません。
国家資格のなかには前科がつくことで資格が剝奪・停止されてしまうものも存在するので、前科がついてしまう事態を回避できることは被疑者にとって大きな利益になります。
ただし、前科がつかなかったとしても、警察には刑事事件を起こして検挙されたという「前歴」が記録されます。前歴がついたとしても警察が外部に公開することはないので、資格制限などの不利益は受けません。
表立って社会生活への悪影響は生じませんが、今後は同様の事件を起こせば微罪処分が適用されず、検察官へと送致されて正式な裁判によって裁かれるおそれが高いでしょう。 -
(3)被害を回復する民事責任は消えない
微罪処分によって解消されるのは刑事責任だけです。被害金品を弁償する、慰謝料を支払うといった民事責任は消えません。
犯罪捜査規範第200条3号には、微罪処分の際の処置として「被疑者に対し、被害者に対する被害の回復、謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すこと」と明記しています。
微罪処分の要件としても被害を回復すること、あるいは被害回復を約束することは重要なので、積極的に被害回復を尽くすべきです。
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5、微罪処分となるために家族ができること
刑事事件の被疑者にとって、微罪処分が適用されることは大きな利益になります。ただし、容疑をかけられている本人が微罪処分を望んでも、警察が希望に沿ってくれるわけではないので、家族が微罪処分の適用に向けて積極的にアクションを起こす必要があります。
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(1)身元引受人として本人の監督を誓約する
犯罪捜査規範第200条2号には、微罪処分の際の処置として「親権者、雇い主その他被疑者を監督する地位にある者またはこれらに代わるべき者を呼び出し、将来の監督につき必要な注意を与えて、その請書を徴すること」と定めています。
身元引受人の存在は警察が微罪処分を適用するにあたって重要な要件となるため、警察からの連絡を受けたら、進んで身元引受人になることを伝えましょう。 -
(2)弁護士に相談して被害者との示談交渉を進めてもらう
微罪処分の可否を検討するにあたっては、被害者の処罰感情が何よりも重要です。被害者との示談交渉を進めて、被害届の取り下げや提出の見送りを求めることで、微罪処分が適用される可能性が高まるでしょう。
ただし、被害者のなかには被疑者本人やその家族による謝罪や示談交渉を快く受け入れない人も少なからず存在します。
被害者との示談交渉は、公平中立な立場の弁護士に依頼するのが最善です。弁護士が代理人として交渉の場に立つことで、被害者の警戒心が和らぎ、円滑な示談交渉が期待できます。 -
(3)弁護士から警察に微罪処分の適用をはたらきかけてもらう
微罪処分の適用を決定するのは事件を担当している警察です。弁護士に依頼すれば、被疑者本人が素行不良者ではなく真面目な人柄であることや、偶発的な犯行であって犯情も軽微であることを警察にはたらきかけて、微罪処分が適用される可能性を高めることができます。
また、犯行が明らかであるのに被疑者本人が否認している状況があれば、弁護士が説得して反省を促すことも可能です。
否認のままでは微罪処分が適用されないので、まずは弁護士が被疑者本人に深い反省を促したうえで「微罪処分が適当である」とはたらきかけることになります。
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6、まとめ
微罪処分が適用された場合は、警察限りで事件処理が完結します。検察庁へ送致されないので、起訴されて刑事裁判が開かれることも、刑罰が下され前科がついてしまうこともありません。
被疑者にとって大変有利な処分ですが、微罪処分の可否を決めるのは警察であり、しかも適用の要件が明確ではないので、微罪処分を目指すには刑事事件を解決するための知識と経験が不可欠です。
比較的軽微な事件について容疑をかけられており、微罪処分によって重い処分を回避したいと考えるなら、刑事事件の対応実績が豊富なベリーベスト法律事務所までお気軽にご連絡ください。
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