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通常逮捕とは? 緊急逮捕や現行犯逮捕との違いや逮捕後の流れを解説
逮捕には、通常逮捕のほかにも状況に応じて可能な緊急逮捕、現行犯逮捕といった逮捕の種類があります。いずれかの方法で逮捕された後に、検察官が勾留請求してこれが認められれば、最長で20日の身柄拘束を受けるだけでなく、検察官に起訴される可能性もあります。
本コラムでは、逮捕の種類のひとつである「通常逮捕」に注目しながら、各逮捕種別との違いや弁護士に相談すべき理由を解説します。
1、通常逮捕とは
通常逮捕とは、警察官などが事前に裁判所から発付された逮捕状を示して被疑者を逮捕する手続きです。「通常」と付くのは、日本国憲法において令状に基づく逮捕を原則としているためです(日本国憲法第33条)。
なお、令状による逮捕権限は、検察官、検察事務官、司法警察職員の3者だけに与えられており、誰でも許されているわけではありません(刑事訴訟法第199条)。
司法警察職員には、一般司法警察職員と特別司法警察職員の2種類があります。一般司法警察職員は警察官を意味し、特別司法警察職員には麻薬取締官や海上保安官などが含まれます。
逮捕は人の自由を制限する強制処分であるため、不当な人権侵害が起きないよう慎重に行われる必要があります。被疑者に「逃亡や証拠隠滅のおそれ」がないなど、明らかに逮捕の必要がない場合、裁判官は捜査機関からの逮捕状請求を却下しなければなりません。
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2、通常逮捕の要件
刑事訴訟法第199条において、令状によって被疑者を逮捕できるのは、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるとき」としています。
漠然と何らかの罪を犯した可能性があるといった程度では、逮捕状は発付されません。どういった罪を犯したのかを特定する必要があります。被疑者についても、漫然と疑わしいというだけでは不十分で、相当程度の確度が求められます。
一方、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があっても、裁判所が逮捕状を発付しない場合があります。刑事訴訟法の下位規範とされる刑事訴訟規則は、裁判官は被疑者の年齢、境遇、犯罪の軽重などを考慮し、明らかに逮捕の必要がないときは、逮捕状の請求を却下しなければならないと定めています。
たとえば、被疑者が高齢で重い病気を抱えている場合、逃亡は困難で証拠隠滅のおそれもないと判断され、請求が却下される可能性があります。
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3、逮捕状の形式と発付手順
逮捕状には、一定の形式と発付手順があります。
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(1)逮捕状の形式
逮捕状には、被疑者の氏名、住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき官公署その他の場所などが必要です(刑事訴訟法第200条)。引致すべき官公署その他の場所とは、被疑者が留め置かれる場所のことで、警察署が指定されるケースが多いといえます。
そのほか、逮捕状の有効期間や発付の年月日などが記され、裁判官が記名、押印します。
刑事訴訟規則によると、被疑者の氏名が不明でも、人相や体格など被疑者を特定できる他の情報が示されていれば、逮捕状を発付できます。住居についても、不明のときは「その旨を記載すれば足りる」と定められています。 -
(2)逮捕状の発付手順
逮捕状の発付手続きは、警察官などが裁判所に逮捕状を請求するところから始まります。
逮捕状の請求は誰でもできるわけではなく、検察官か司法警察員に限られています(刑事訴訟法第199条)。警察官の場合、階級が警部以上でなければなりません。
捜査機関が逮捕状を請求すれば、必ず発付されるというものでもなく、裁判所は「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があるか、客観的に判断します。
そのため、捜査機関は逮捕状の請求時、被害届や防犯カメラ映像といった資料もあわせて提出し、請求に裏付けがあることを示します。
裁判所は必要な場合、警察官ら請求者に出頭を求め、逮捕の必要性について陳述を聞くことも可能です。
このような手順を経るため、逮捕状の請求から発付までに時間を要するケースもあります。
また、発付された逮捕状には有効期間があり、期間を過ぎた逮捕状は執行できません。有効期間は、「令状発付の日から7日」(刑事訴訟規則300条)とされていますが、7日を超える期間が認められる場合もあります。期間内に被疑者を逮捕できなければ、捜査機関は逮捕状を取り直さなければなりません。
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4、緊急逮捕と通常逮捕との違い
日本国憲法は令状による逮捕を原則としており、通常逮捕時は「逮捕状を被疑者に示さなければならない」(刑事訴訟法第201条)という規定もあります。
ただし、逮捕状の発付を待っていては、重罪を犯した被疑者を取り逃がしてしまうおそれがある場合、逮捕状がなくても被疑者を逮捕できる「緊急逮捕」という例外的な規定があります。
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(1)緊急逮捕とは
緊急逮捕とは、逮捕に関する緊急の必要性がある場合に、一定以上の法定刑の罪を犯した被疑者を、逮捕状がない状態で逮捕する手続きです。
刑事訴訟法210条は、一定以上の法定刑の罪について、死刑、無期または長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪と定めています。たとえば、法定刑のうち懲役刑が2年以下の暴行罪では、緊急逮捕できません。
逮捕権限は通常逮捕と同様、検察官、検察事務官、司法警察職員のみに与えられています。警察官らは緊急逮捕時、犯罪の嫌疑がかかっていることと、急速を要し逮捕状の発付を待てない理由を、被疑者に告げなければなりません。
逮捕時に逮捕状が不要といっても、逮捕した後に逮捕状の発付は別途必要となります。 -
(2)通常逮捕と異なる点
通常逮捕との違いは、令状発付と逮捕の順序が逆になっていることです。通常逮捕は事前に捜査機関が裁判所に逮捕状を請求し、発付を得て逮捕状を執行する手続きです。
緊急逮捕はこれとは逆で、逮捕状の発付を待っていては、重罪を犯した被疑者が逃亡や証拠隠滅を図るおそれが高いと認められるときに、先に被疑者を逮捕して後から逮捕状を請求する手続きです。
どちらも逮捕状の発付が必要であることには変わりありません。被疑者を緊急逮捕した後に、裁判所が逮捕状の請求を却下した場合は、捜査機関は直ちに被疑者を釈放しなければなりません。
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5、現行犯逮捕と通常逮捕の違い
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(1)現行犯逮捕とは
刑事訴訟法第212条は現行犯を「現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者」と定義しています。現行犯については、「何人でも、逮捕状なくして逮捕することができる」(同法第213条)のが特徴です。
「現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者」とは、犯罪を実行中の者、または犯罪を実行し終えた直後の者を指します。犯行後に被疑者が現場から移動し、一定の時間が経過しているときは、現行犯には該当しない可能性が高いといえます。
一方で、刑事訴訟法第212条は、「罪を行い終わってから間がない」場合で、条件にあてはまる者を「現行犯とみなす」という規定を設けています。この条件に該当する現行犯の逮捕を準現行犯逮捕といいます。 -
(2)通常逮捕との違い
通常逮捕とは異なり、現行犯逮捕は逮捕状の発付を要しません。準現行犯逮捕も逮捕状は不要です。緊急逮捕のように、逮捕後に令状を請求する必要もありません。
また、私人逮捕が可能な点も通常逮捕との大きな違いです。通常逮捕、緊急逮捕の権限は検察官、検察事務官、司法警察職員に付与され、3者以外の私人には認められていませんが、現行犯逮捕(準現行犯逮捕を含む)に限り、私人逮捕を認めています(刑事訴訟法第213条)。
私人が現行犯を逮捕したときは、直ちに捜査機関に身柄を引き渡さなければなりません。 -
(3)準現行犯逮捕とは
現行犯を逮捕できるのは原則、その時その場限りであるため、犯行の目撃者や被害者によって行われるケースは少なくありません。
現行犯は「現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者」ですが、「罪を行い終わってから間がない」場合も、特定の条件にあてはまれば現行犯とみなされます。刑事訴訟法第212条は以下の4条件を示し、いずれかひとつに該当すれば、現行犯逮捕できるとしています。- 犯人として呼称され、追いかけられているとき
- 血のついたナイフなど、犯行に使ったと思われる凶器や盗んだ物などを所持しているとき
- 身体や服に返り血などが付着し、犯罪の痕跡があるとき
- 警察官などに呼びとめられて、逃げようとするとき
このような状況下での現行犯逮捕が、準現行犯逮捕にあたります
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6、逮捕後の流れ
逮捕後は、通常逮捕、緊急逮捕、現行犯逮捕のいずれでも、同じように手続きがとられます。
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(1)検察への送致
被疑者を逮捕した警察は、48時間以内に身柄を検察に送致しなければなりません。
また48時間以内に被疑者を送致しないときは、ただちに釈放されます。犯行態様が悪質でないなど、犯罪事実が極めて軽微で、検察官が送致の必要はないと指定する場合は、被疑者を送致せずに釈放することもあります。こうした手続きを微罪処分といいます。
警察官は送致までの間、取り調べや実況見分などを行い、犯行を裏付けるための捜査を進めます。逮捕から送致までの48時間は、弁護士以外はたとえ家族であっても面会できません。 -
(2)勾留
警察官から被疑者を送致された検察官は、勾留手続きをとるかどうか、判断しなければなりません。勾留とは、被疑者の逃亡、証拠隠滅を防ぐため、身柄を警察署の留置施設などに拘束しておくことです。
検察官は被疑者を勾留する場合、裁判所に勾留請求する必要があります。この手続きは、被疑者の送致から24時間以内に行わなければならず、請求しなければ被疑者は釈放となります。
弁護士以外、被疑者に面会できない期間は、勾留が決定するまでです。接見禁止にならなければ、勾留が決まった後は面会できるようになります。 -
(3)起訴・不起訴の決定
勾留が決まっても、無制限に被疑者の身柄拘束が続くわけではありません。刑事訴訟法第208条は、勾留が決定した日から10日以内に被疑者を起訴しない場合、ただちに釈放しなければならないと定めています。
ただし、検察官が延長申請すれば、10日を超えない範囲で裁判官が延長を認めることは可能としており、勾留期間は最長で20日になる可能性があります。逮捕時から数えると、最も長い場合の身体拘束期間は23日ということになります。
検察官はこの間に、被疑者を起訴するか、不起訴にするかを決定しなければなりません。
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7、通常逮捕された際に弁護士に相談すべき理由
警察官などの捜査機関に通常逮捕されたときは、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)勾留が決まるまでは弁護士のみが接見可能
捜査機関に逮捕されると、勾留が決まるまでは家族でも被疑者に面会できず、接見可能なのは弁護士しかいません。
警察官は、逮捕後48時間以内に被疑者の身柄を検察に送致しなければならず、その間に取り調べを徹底して行います。被疑者には黙秘権があり、自身に不利な供述は拒否できます。しかし取り調べに圧倒されて、やっていないことまでやったと言ってしまうケースもあります。弁護士であれば、家族や知人が面会できない間、被疑者に取り調べのアドバイスなどを伝えることが可能です。
また、弁護士は検察官や裁判官に対し、被疑者が勾留されるべきでない旨を主張することができます。検察官に勾留請求すべきでないという内容の意見書を送ったり、裁判官に勾留請求を却下すべきであると意見書を提出したりすることにより、勾留を防ぐ手だてを講じることが可能です。 -
(2)被害者と示談交渉できる
犯罪の種類や被害の程度によっては、検察官の請求により、簡易裁判所が通常の公判手続きを経ないで100万円以下の罰金または科料を科す略式手続きがとられることがあります。
略式手続きには被疑者の同意が必要ですが、その前に弁護士が被疑者と被害者との間で示談を成立させるなどして不起訴の決定を受ければ、略式手続きを回避することは可能です。
弁護士による早めの対応が重要なポイントといえます。
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8、まとめ
逮捕には、通常逮捕、緊急逮捕、現行犯逮捕の3種類があり、事前に裁判所から逮捕状の発付を受けて執行する通常逮捕が原則とされていますが、状況によっては緊急逮捕や現行犯逮捕も認められています。
いずれかの方法で逮捕され、逮捕後に勾留が決まった場合、被疑者の身柄拘束期間は最長で23日間に及ぶおそれがあります。早期の釈放を求めたり、略式手続きを回避したりするためには、弁護士が早めに対策を講じることが重要です。ご家族や周囲の方が逮捕されるなど、逮捕をめぐってお悩みのことがあれば、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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