窃盗罪の容疑で家族が緊急逮捕されたらどうする？ 緊急逮捕の要件とポイント

逮捕には3種類あり、それぞれ要件が異なります。逮捕の要件を満たさない、すなわち違法逮捕の場合、逮捕された者は逮捕が違法であるとして釈放を求めることができます。そこで、まずは逮捕の種類と要件を確認しておきましょう。

1. （1）逮捕の種類

   ① 現行犯逮捕
   第一に、事件現場での逮捕を現行犯逮捕といいます。この逮捕の場合、別人と誤認する可能性が極めて少ないため、警察官だけではなく一般人でもできます。現認ができているため、逮捕状も要りません。
   なお、現行犯人とは現に犯罪を行っているか、犯行を終えたばかりの者をいいますが、一定の条件を満たす場合、この条件を満たしていなくても犯行からの時間や距離などの要素も考慮したうえで現行犯人と扱うことがあります。具体的には、次のような例が該当する場合があります。

   
   
   • 犯人として呼ばれながら追いかけられている
   • 血のりの付着した凶器を持ち歩いている
   • 身体や服に返り血がべったり付いている
   • 呼びかけられただけで逃げようとする
   など

   
   このような状況での逮捕を、準現行犯逮捕といいます。
   
   ② 通常逮捕
   第二に、証言や証拠などから犯行の後日に行われる逮捕を通常逮捕といいます。この逮捕は、別人を犯人と取り違える可能性もあるため、警察官や捜査権を与えられた限られた職種の方にしかできません。また、相手の身体的自由を制限する以上、適式な手続きとして裁判官から発する逮捕状（令状）が必要とされます。
   
   ③ 緊急逮捕
   第三に、現行犯ではないものの、一定の重大犯罪について、逮捕状の請求をしている時間がない場合に逮捕状なしに逮捕できるものが緊急逮捕です。あくまでも緊急的な措置であるため、逮捕した後に警察官は速やかに裁判官へ逮捕状を請求しなければならないとされています。

2. （2）緊急逮捕の要件

   緊急逮捕は特殊な状況で行われるため、要件を具体的に見ていきましょう。要件は刑事訴訟法に規定されています（第210条第2項）。

   
   
   • 死刑、無期、3年以上の懲役、禁錮にあたる重大な犯罪であること
   • 罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由があるこ
   • 急速を要し、逮捕状を求めるいとまがないこと
   • 理由を告げてから逮捕すること

   
   本来は裁判官の発付する逮捕状という適式な手続きを経なければ逮捕できないところ、緊急性が高いために例外として認められるものであるため、このような要件を満たす必要があるのです。通常逮捕のときよりも強い嫌疑（充分な理由）が求められるほか、逮捕後直ちに逮捕状を発付してもらうことができなければ、逮捕された人を釈放しなければなりません。
   

具体的なケースとして、窃盗の容疑で緊急逮捕される場合を考えてみましょう。

1. （1）窃盗罪とは

   窃盗罪は、他人の財物を窃取したときに成立します（刑法第235条）。占有者の意思を排除して自分の物として経済的用法に従い利用処分するという不法領得の意思も必要とされています。
   法定刑は10年以下の懲役か50万円以下の罰金なので、3年以上の懲役という緊急逮捕の前提条件は満たしています。

2. （2）窃盗罪で緊急逮捕されるケース

   窃盗罪の場合、まさに物を盗んだ現場での現行犯逮捕や、盗んだ証拠が残っていて後日警察がやってくる通常逮捕はイメージしやすいところでしょう。では、どのような状況であれば緊急逮捕となると考えられるでしょうか。

   
   
   • 空き巣に入ったところを目撃されており、自動車のナンバーや犯行を撮影した動画などの証拠を押さえられたうえで、通報されてしまったケース
   • 警察官が巡回をしていた際に職務質問をしたら、窃盗品の証拠が見つかったケース
   など

   
   こうした状況では、犯行現場から逃げ去っているために現行犯逮捕とはなりません。また、逃亡中だったり証拠品を所持していたりするため、悠長に逮捕状を請求している時間はないと考えられる余地があります。
   
   もちろん、誤認逮捕となる可能性もゼロではありません。現行犯は犯行のタイミングから時間的にあまり離れていないため、取り違える可能性は低いですが、緊急逮捕は場合によっては通報者が見間違えたり、真犯人とよく似た格好をしていたりして逮捕されてしまうおそれがあると考えられています。

関連記事
窃盗の時効は何年？ 過去の窃盗で逮捕される可能性があるのはいつまでか

窃盗をはたらいて逃亡し、うまく逃げ切ったと安心していても、犯行現場や車のナンバーなどを記録されていて通報される可能性はあります。現在ではスマートフォンなどで誰にでも証拠となる写真や動画を撮ることができるので、緊急逮捕される可能性は高まっているといえるでしょう。
そこで、緊急逮捕された後の流れも押さえておく必要があります。

1. （1）緊急逮捕された後の流れ

   緊急逮捕されたときも、基本的には現行犯逮捕や通常逮捕をされた場合と変わりません。警察での48時間を上限とする取り調べ、検察での24時間を上限とする取り調べが行われます。その後においても、身体拘束をした上で取調べが必要と判断されれば、検察官は勾留請求を行います。勾留請求が認められると最長で20日もの間、身柄が拘束される可能性があります。
   ただ、緊急逮捕では、逮捕後直ちに逮捕状の発付を受ける必要があるため、それが示されなかった場合は、違法もしくは不当逮捕である可能性があります。

2. （2）逮捕されたときの対処法

   窃盗罪で起訴されたら、有罪となって懲役刑が科される可能性も生じてきます。窃盗罪の場合、常習犯や窃盗の対象物がよほど高額だったなどの事情がない限り、不起訴や罰金刑となることも考えられます。それだけに、迅速かつ適切な対応が重要となるのです。
   不安を覚えた場合、弁護士に依頼することをおすすめします。弁護士であれば、取り調べを受ける際のアドバイスや、有利な証拠の収集を行うことができますし、被害者との示談を行うことで不起訴に向けたはたらきかけも可能です。
   また、緊急逮捕そのものが要件を欠いていた場合、違法もしくは不当逮捕として直ちに釈放するように求めることもできます。いずれも法的知識や実務経験を要するので、実績豊富な弁護士に任せるとよいでしょう。

今回は逮捕の種類と緊急逮捕の要件、窃盗罪の容疑で緊急逮捕される場合の事例などについてご説明しました。
窃盗を行い、誰にも見咎められずに現場から逃げられたと思ったとしても、誰かに見られていて通報されている可能性はあります。犯行から時間が経っておらず、証拠も手元にあるような状況では、緊急逮捕されることも考えられるのです。

ただ、逮捕による身柄拘束は対象者の身体的自由を制限するものであるため、要件も厳格に定められています。緊急逮捕の要件を満たしていなければ、違法逮捕となり、釈放を要求できます。
もしご家族やご本人が窃盗の罪を犯してしまい、逮捕されないかと心配になるのであれば、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。加害者弁護の経験豊富な弁護士が親身に対応いたします。