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監護者わいせつ罪・監護者性交等罪とは? 逮捕後の流れや成立する条件は


自分の子どもや交際相手の子どもなど、生活の面倒をみている18歳未満の者に対してわいせつ行為や性交等をした場合、監護者わいせつ罪や監護者性交等罪に問われます。
監護者わいせつ罪や監護者性交等罪は、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪と同様に厳しい罰則が設けられている重罪です。
本コラムでは、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪の刑罰(法定刑)や犯罪が成立する条件(構成要件)と裁判例、逮捕された後の流れなどについて弁護士が解説します。
1、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪とは?
- 監護者わいせつ罪:監護者がその立場に乗じて18歳未満の子どもに対してわいせつ行為をした場合に成立する犯罪です(刑法179条第1項)。
- 監護者性交等罪:監護者がその立場に乗じて18歳未満の子どもに性交等をした場合に成立する犯罪です(同条第2項)。
以下では、それぞれの罪の刑罰(法定刑)や導入された経緯、「不同意わいせつ罪・不同意性交等罪」との違いについて解説していきます。
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(1)監護者わいせつ罪の刑罰(法定刑)
監護者わいせつ罪の刑罰(法定刑)は、「6か月以上10年以下の拘禁刑」です。
監護者わいせつ罪には罰金刑は定められておらず、起訴され、裁判の判決で執行猶予が付かなければ刑務所に収容されることになります。
なお、具体的な刑期は犯行の悪質性や被害の程度・被害児童の年齢・人数など、さまざまな要素によって裁判所が判断します。 -
(2)監護者性交等罪の刑罰(法定刑)
監護者性交等罪の刑罰(法定刑)は、「5年以上の有期拘禁刑」です。
執行猶予が付くのは、拘禁刑3年までの判決に限られます。
したがって、監護者性交等罪で有罪となった場合は原則として実刑が避けられません。
有期拘禁刑の期間は、犯行の悪質性などが考慮され、上限が20年と定められております。 -
(3)監護者わいせつ罪・監護者性交等罪が定められた経緯
監護者わいせつ罪および監護者性交等罪は、平成29年の刑法改正によって導入されました。その背景には、家庭内での性犯罪の深刻化や、被害児童が自ら訴えることが困難な状況に置かれているという問題があります。
従来の強制わいせつ罪や強制性交等罪を適用するには、加害者による「暴行」や「脅迫」の存在が必要とされていました。
しかし、監護者と子どもという関係では、明確な暴力を使わずとも心理的支配が成立しているケースが多くあります。
暴行や脅迫の事実が認められない場合は、児童福祉法違反などのより軽い罪によって処罰されることになります。こうした現実を受け、被害児童の保護を優先した法律の整備が進められました。
結果として監護者わいせつ罪および監護者性交等罪が新設され、監護者による性犯罪に対する処罰が強化されることになったのです。 -
(4)不同意わいせつ罪・不同意性交等罪との違い
令和5年の刑法改正では、性的自己決定権を守る観点から「不同意わいせつ罪」および「不同意性交等罪」が新設されました。
【どんな犯罪か?】
これらは、暴行・脅迫を受けた場合や、酩酊状態や心身の障害により抵抗が困難な場合など、同意を形成することが困難な状況でわいせつ行為・性交等をした場合に成立する犯罪です。
【不同意わいせつ罪・不同意性交等罪との違いまとめ】罪名 監護者わいせつ罪
監護者性交等罪不同意わいせつ罪
不同意性交等罪立場 加害者が監護する 加害者が監護しない 成立条件 被害児童の同意の有無に関係なく成立 拒絶の意思を示すことが困難な状況にあった場合に成立
【違いのポイント】
監護者わいせつ罪や監護者性交等罪との大きな違いは、「加害者が監護する立場であるか否か」です。
監護者わいせつ罪や監護者性交等罪は、加害者が親や保護者などの特定の立場にあることが要件となります。
また、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪は、被害者が「拒絶の意思を示すことが困難な状況」にあった場合に成立します。
一方で、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は、被害児童の同意の有無に関係なく成立するのが特徴です。
2、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪が成立する条件(構成要件)
監護者わいせつ罪・監護者性交等罪が成立するには、いくつかの法律上の要件を満たしている必要があります。
単に性的な行為をしただけではなく、被害児童の年齢や加害者の立場、立場の利用の有無などによって判断されます。
以下では、構成要件として問われる4つのポイントについて確認していきましょう。
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(1)わいせつ行為・性交等の行為をしたこと
監護者わいせつ罪・監護者性交等罪の構成要件として、まず「わいせつ行為や性交等の行為をしたこと」が挙げられます。
どのような行為が対象となるのか、以下で具体的に解説します。
①「監護者わいせつ罪」にあたる行為とは?
監護者わいせつ罪にあたるのは、以下のようなわいせつ行為です。
- 胸部や陰部などを触る
- 衣服を脱がせる
- 裸にして撮影をする
- キスをする
- 自分の陰部を触らせる
これらの行為は、被害児童が同意していたとしても、監護者の立場を利用して行われた場合には犯罪として成立します。
②「監護者性交等罪」にあたる行為とは?
監護者性交等罪における「性交等」とは、以下のような行為です。
- 性交
- 肛門性交
- 口腔性交
- 膣または肛門に身体の一部や物を挿入する行為
- その他これらに類する行為
上記の行為は監護者わいせつ罪ではなく、より重い犯罪である監護者性交等罪に該当します。
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(2)被害児童が18歳未満であること
監護者わいせつ罪および監護者性交等罪が成立する構成要件のひとつは、被害児童が18歳未満であることです。
監護者が子どもに対してわいせつ行為や性交等をした場合であっても、被害児童が18歳を超えていれば成立しません。(ただし、子どもが18歳以上であれば犯罪にならないわけではなく、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪が成立する可能性はあります。)
なお、被害児童が現在18歳以上になっていても、18歳未満であった過去に犯罪が行われていた場合は、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪が成立します。
犯罪の成否は行為時の年齢によって判断されるためです。
監護者わいせつ罪・監護者性交等罪の時効
監護者わいせつ罪の公訴時効は「12年」、監護者性交等罪の公訴時効は「15年」と定められています(刑事訴訟法250条第3項2号、3号)。
さらに、被害児童が、犯罪行為が終わった時に18歳未満の場合は、犯罪行為が終わった時から上記公訴時効の期間が経過したとしても、加えて犯罪行為が終わった時から被害児童が18歳に達する日までの期間に相当する期間が経過しないと時効は完成しません(刑事訴訟法250条第4項)。
つまり、実際には被害児童が30歳(監護者わいせつ罪の場合)または33歳(監護者性交等罪の場合)になるまで起訴される可能性があるということになります。 -
(3)加害者が被害児童を「現に監護する者」であること
加害者が「現に監護する者(実際に子どもを見守り、養育する立場にある人)」であったかどうかも、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪の構成要件です。
現に監護する者かどうかは、以下のような要素によって総合的に判断されます。
- 同居しているかどうか
- 日常的な教育、指導状況
- 食事や身の回りの世話などの生活状況
- 生活費や教育費などの経済状況
つまり、現に監護する者に該当するのは、単に「法的な保護者」に限られず、広い意味で「事実上の監護を行っている立場の人」も含まれるのです。
以下のような具体例が挙げられます。
- 親権者や未成年後見人:法的に監護権を有する者として該当します。
- 里親や養育里親:一定期間、児童相談所などの指導のもとで監護しているため含まれます。
- 祖父母や親族:実質的に日常的な世話や生活指導を行っている場合、「現に監護する者」とされます。
- 保育士や学童保育指導員、教師:子どもと一時的でも継続的な関係にあり、影響力が及ぶ状況であれば該当する可能性があります。
- 同居している恋人や内縁の配偶者:子どもとの関係が日常的で、食事・生活の世話などを通じて監護的立場にあるとされる場合、該当する可能性があります。
- 「一時的な預かり」でも影響力が強い者:たとえば、親が仕事の間だけ預けるシッターや家庭教師など、子どもが依存的に接している相手は「影響力」に着目して判断されます。
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(4)「監護者としての影響力」を利用したこと
監護者わいせつ罪・監護者性交等罪では、加害者が「監護者としての影響力」を利用したかどうかも要件に含まれます。
影響力の利用とは、以下のように、支配・依存関係に基づく影響力を背景に、子どもの性的自己決定権を侵害したことを意味します。
- 被害児童が監護者に逆らえない心理状態にあること
- 監護者がその立場を利用して性的行為を強要または同意を装わせること
- 明示的な強制(脅迫・暴行)がなくても、立場の強さを使って行為に及ぶこと
影響力の利用に該当するかどうかは、監護者による実際の行為や発言だけを評価するものではありません。
児童との日常的な関係性や態度、沈黙や無言の圧力などを通じて、黙示的に影響力を行使していたと評価される場合も含まれます。
- ※お電話は事務員が弁護士にお取次ぎいたします。
- ※被害者からのご相談は有料となる場合があります。
3、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪による逮捕後の流れ

逮捕されると警察の施設に留置され、逮捕から48時間以内に警察官から取り調べを受けます。
続いて身柄は検察庁へ移され、今度は検察官から取り調べを受けます(検察官送致)。
検察官は送致から24時間以内に留置の必要性の判断をしますが、さらに身柄を拘束して捜査する必要がある場合には、裁判官に対して勾留請求が行われます。
裁判官が勾留を認めると、最長で20日間、身柄拘束が延長されます。
監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は加害者と被害児童が極めて近い立場にいることから、証拠隠滅のおそれが高いとの判断にいたりやすく、長期の勾留におよぶ可能性が高いでしょう。
勾留段階に入ると家族などと面会できるようになるのが通例ですが、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪では接見禁止がつく可能性もあります。
通常、勾留期間が満了するまでに、起訴となるか、不起訴となるのかの判断がなされます。初犯だから不起訴となるという決まりはありません。犯罪の悪質性をみれば起訴される可能性は十分にあるでしょう。
監護者わいせつ罪・監護者性交等罪の法定刑は拘禁刑のみです。
略式起訴の制度は適用されず、起訴されると必ず刑事裁判が開かれます。
日本の司法における起訴後の有罪率は99%といわれているため、起訴された場合にはほぼ有罪を免れません。執行猶予がつかない限りは刑務所へ収監され、たとえ執行猶予がついても前科になります。
4、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪の裁判例
監護者わいせつ罪や監護者性交等罪の裁判では、行為の内容だけでなく、さまざまな要素をもとに判決が下されます。
以下では、実際に裁判所で有罪判決が下された事例を紹介していきます。
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(1)実子へのわいせつ行為で懲役3年の有罪となった事例
令和3年3月、徳島地方裁判所において、実子に対してわいせつ行為をした被告人に対して懲役3年の実刑判決が下されました(検察側の求刑は懲役4年)。
被告人は、当時11歳と13歳の実子に対し、家庭内で繰り返しわいせつ行為をしていたとされています。具体的には、性的部位を触る・裸にするといった行為のほか、後ろ手に手錠をするといった暴行も含まれていました。
裁判所は、以下のような事情を重く評価しています。
- 性的行為のわいせつ性が高く、複数回にわたる反復性があったこと
- 手錠を使うなど軽くはない暴行の度合いも認められたこと
- 被害児童は長期間母親にも打ち明けられず、精神的ダメージが大きいと推認されたこと
一方で、被告人に前科がなく反省の姿勢を示していることや、長年うつ病を患っていたことなどが酌むべき事情とされました。
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(2)養女への監護者性交未遂・監護者わいせつ罪で懲役6年の有罪となった事例
令和5年7月、那覇地方裁判所は、養女に対してわいせつ行為および性交未遂行為をした被告人に対し懲役6年の実刑判決を下しました(検察側の求刑は懲役8年)。
さらにそれらの様子を撮影した児童ポルノを所持していたとして、パソコン1台を没収する処分も下しています。
被告人は、当時14〜16歳の養女に対し、性的部位をなめる・陰部に指を挿入するなどを行い、その様子を撮影していました。また、被害児童の下着を脱がせて性交未遂を行ったとされています。
裁判所は、以下の点を重く評価しました。
- 被害児童が小学生高学年の頃から、長期間にわたり性的虐待を受けていたこと
- 行為の内容が極めて悪質で、被害児童の性的自由を侵害していること
- 犯行の様子を撮影し、児童ポルノ所持の犯行にもおよんでいること
- 被害児童は、別居後も被告人と遭遇することへの恐怖を抱くなどの重大な精神的苦痛を受けていること
一方で、被告人に前科がなく反省の態度を示していること、被告人の父が出廷し更生支援すると述べたことが情状として考慮されました。
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(3)妻の連れ子への監護者性交等罪で懲役6年の有罪となった事例
令和4年4月、津地方裁判所は、妻の連れ子に対し性交を繰り返していた被告人に対し、懲役6年の実刑判決を下しました(検察側の求刑は懲役8年)。
被告人は、被害児童が幼少期の頃からわいせつ行為を開始し、2年間にわたって性交を繰り返していたとされています。被害児童の証言とともに、使用していた寝具から被告人の精液が検出されたことが物証となりました。
被告人は無罪を主張しましたが、裁判所はこれを退け、監護者性交等罪が成立するとして有罪を認定しています。
本件の量刑判断において、裁判所は以下のような点を重視しました。
- 監護者の影響力を利用した性交が繰り返されていたこと
- 長期にわたって常習的な性的虐待が行われていたこと
- 妊娠や中絶といった結果はなかったものの、被害児童の性的自己決定権が重大に侵害されていたこと
重大な外的被害が伴わなかった点が一部考慮されたものの、長期間の虐待の悪質性から、懲役6年の実刑判決が相当とされました。
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(4)判例から分かる、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪のポイント
これらの裁判例から、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪が成立する際は、以下のような傾向が見られます。
- 実親に限らず、養親や継親でも「現に監護する者」に該当する
- 行為が継続していた場合、悪質性が高いと判断され重い刑が科されやすくなる
- 初犯であることや反省の態度が考慮されたとしても実刑が科される傾向が強い
罪に問われた場合は、立場と行為の性質を厳しく問われることを念頭に、早期に弁護士への相談を検討しましょう。
5、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪で逮捕された場合に弁護士ができること

監護者わいせつ罪・監護者性交等罪の疑いで逮捕された場合、できるだけ早く弁護士のサポートを受けることが重要です。
犯行を認める場合と否認する場合にわけて、弁護士ができることを解説します。
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(1)犯行を認める場合
犯行を認める場合は、起訴猶予(不起訴処分)や、刑の減軽を目指した対応を行います。
加害者本人が心から反省していることを示す反省文の提出に加え、家族の監視体制の整備や、被害児童との接触を避けることを誓約するなどの再犯防止策の構築も重要な活動のひとつです。
また、被害児童との直接的な接触は避けた上で、関係者を通じて被害の影響を軽減する取り組み(第三者による心理的支援の検討や生活環境の調整等)を行うことも検討されます。
親族や職場の人などの協力を得て、普段は誠実な人柄であることを示す、刑の減軽を求める嘆願書を書いてもらうなどの活動もあります。 -
(2)犯行を否認する場合
犯行を否認する場合は勾留が長引くおそれが高く、社会生活への影響が懸念されます。
しかし、弁護士が迅速に対応することで、早期の身柄解放を目指すことが可能です。
冤罪であると主張するのであれば、一貫して否認を続けることが重要です。
特に取り調べにおける対応が重要となるため、弁護士が早い段階で面会し、取り調べで何を供述し、どのような態度でいるべきかのアドバイスを行います。
また、被害者側の証言の信用性に疑義がある場合、新たな証拠や目撃証言を収集し、証言の矛盾点や不合理性を客観的に指摘することで、嫌疑の払拭を目指します。 -
(3)監護者わいせつ罪・監護者性交等罪における示談について
性犯罪の加害者となった場合、被害者との示談が今後の刑事手続きに影響を与えることがあります。しかし監護者わいせつ罪・監護者性交等罪の性質上、示談による解決は難しい面があります。
未成年者に対する性犯罪では、示談交渉の相手方は通常、保護者や法定代理人が務めます。ところが監護者わいせつ罪・監護者性交等罪では監護者自身が加害者であるため、他人が被害者である犯罪と比べて示談の方法をとりにくいという事情があるのです。
そのため、示談以外の形で反省や再発防止の意思を示し、検察官や裁判所に刑の減軽を求める必要があるケースが多くなります。
6、監護者わいせつ罪・監護者性交等罪は重罪! 早期の弁護活動が重要
監護者わいせつ罪は「6か月以上10年以下の拘禁刑」、監護者性交等罪は「5年以上の有期拘禁刑」と刑罰が定められており、いずれも罰金刑の規定がない重罪です。
そのため、起訴されると実刑判決となるリスクが非常に高くなります。
また、これらは刑法が定める非親告罪であり、被害児童の告訴がなくても起訴される可能性があります。
犯罪の性質上、加害者と被害児童の間に監護関係があることから、示談による解決が難しく、通常の性犯罪とは異なる対応が求められます。
事件への対応方針を誤らないためにも、早期に刑事事件の経験豊富な弁護士に相談し、適切な助言とサポートを受けることが極めて重要です。
監護者によるわいせつ事件でお困りの方は、お一人で抱え込まず、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。

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