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監護者わいせつ罪で逮捕されたら? 法定刑や逮捕後の流れを解説
自分の子どもや交際相手の子どもなど、生活の面倒をみている18歳未満の者に対してわいせつな行為をすると、監護者わいせつ罪に問われます。
聞き慣れない犯罪だと感じる方もいるかもしれませんが、近年の刑法改正によって新設された罪であり、強制わいせつ罪などと同様に厳しい罰則が設けられている重罪です。
今回は監護者わいせつ罪に着目し、法定刑や犯罪が成立するための要件(構成要件)、逮捕された後の流れや今後とるべき行動について弁護士が解説します。
1、監護者わいせつ罪の刑罰
平成29年7月13日、性犯罪に関する刑法改正が施行され、制定以来110年ぶりの抜本改正として注目を集めました。監護者わいせつ罪は本改正に際し、刑法第179条1項に新設された犯罪です。18歳未満の者を監護する者が、その影響力に乗じてわいせつな行為をすると罪に問われます。法定刑は「6か月以上10年以下の懲役」です。
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(1)監護者わいせつ罪が新設された経緯
改正前、合意のないわいせつ行為は次のように分類されていました。
- 暴行や脅迫を手段として行為におよんだ場合:強制わいせつ罪
- 被害者の心神喪失・抗拒不能に乗じ、あるいはその状態にさせて行為におよんだ場合:準強制わいせつ罪
一方で、監護者によるわいせつ行為は、被害者が精神的・経済的に監護者に依存せざるを得ないという背景があり、暴行・脅迫などの手段がなくても成し得るため、刑法で処罰することができませんでした。ほかの性犯罪と同様に悪質であるにもかかわらず、より罰則の軽い児童福祉法違反などで処罰するしかなかったのです。
こうした問題を受けて監護者わいせつ罪が新設され、ほかの性犯罪と同じく厳しく処罰できるようになりました。 -
(2)類似犯罪との違い
監護者わいせつ罪に類似する犯罪として「強制性交等罪」「監護者性交等罪」があります。違いは、処罰対象となる行為です。
監護者わいせつ罪で処罰されるのはわいせつな行為で、「いたずらに性欲を興奮・刺激させ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為」と定義されています。具体的には胸や陰部を触る、自分の性器を触らせるなどの行為を指します。
これに対し、強制性交等罪や監護者性交等罪で処罰されるのは、性交(姦淫)、口腔性交、肛門性交の3つの行為です。
2、監護者わいせつ罪の構成要件
監護者わいせつ罪が成立するための要件(構成要件)は次の4つです。
- 被害者が18歳未満であること
- 加害者が被害者を現に監護する者であること
- 監護者としての影響力を利用したこと
- わいせつな行為をしたこと
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(1)「現に監護する者」の意味
現に監護する者とは、18歳未満の者を継続して保護・監督する立場にある人を指します。典型的には同居する親や養親、親の交際相手などが該当するでしょう。ただし、民法第820条が定める監護権者と同じである必要はないため、状況によっては児童養護施設の職員なども該当し得ることになります。
この点は同居の有無や生活状況、生活費の負担の有無など、さまざまな事実関係を総合的に勘案して判断されます。たとえば教師や部活動のコーチなどは、通常はこれらの事実関係が生じないため、現に監護する者にはあたらないケースが多いでしょう。 -
(2)監護者としての影響力とは
何をすれば「影響力を利用した」といえるか否かについて、明確な定義はありません。18歳未満の者は精神面・経済面ともに監護者に頼らざるを得ないことから、そのような事情に乗じてわいせつ行為を拒否できない状況をつくりだせば、影響力を利用したといえるでしょう。
少なくとも、わいせつな行為について被監護者である18歳未満の者の同意があっても、監護者わいせつ罪は成立します。
たとえば「言うとおりにしろ」などという具体的な言葉や態度がなかったとしても、被害者は「言うことを聞かないと食事を与えられないだろう」「拒否すればあとで暴力をふるわれるだろう」などと考え、拒否できない状態におかれることもあります。このようなケースでは、18歳未満の者の同意はもはや意味をもたないため、同意の有無は関係がないのです。
3、監護者わいせつ罪による逮捕後の流れ
逮捕されると警察の施設に留置され、逮捕から48時間以内に警察官から取り調べを受けます。続いて身柄は検察庁へ移され、今度は検察官から取り調べを受けます(検察官送致)。検察官は送致から24時間以内に起訴・不起訴の判断をしますが、さらに身柄を拘束して捜査する必要がある場合には、裁判官に対して勾留請求がおこなわれます。
裁判官が勾留を認めると、最長で20日間、身柄拘束が延長されます。監護者わいせつ罪は加害者と被害者が極めて近い立場にいることから、証拠隠滅のおそれが高いとの判断にいたりやすく、長期の勾留におよぶ可能性が高いでしょう。
勾留段階に入ると家族などと面会できるようになるのが通例ですが、監護者わいせつ罪では接見禁止がつく可能性もあります。
通常、勾留期間が満了するまでに、起訴となるか、不起訴となるのかの判断がなされます。初犯だから不起訴となるという決まりはありません。犯罪の悪質性をみれば起訴される可能性は十分にあるでしょう。
監護者わいせつ罪の法定刑は懲役刑のみです。略式起訴の制度は適用されず、起訴されると必ず刑事裁判が開かれます。
日本の司法における起訴後の有罪率は99%といわれているため、起訴された場合にはほぼ有罪を免れません。執行猶予がつかない限りは刑務所へ収監され、たとえ執行猶予がついても前科になります。
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4、監護者わいせつ罪で逮捕された場合弁護士ができること
監護者わいせつ罪の疑いで逮捕されたのであれば、早急に弁護士のサポートを受ける必要があります。犯行を認める場合と否認する場合にわけて、弁護士ができることを解説します。
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(1)犯行を認める場合
犯行を認める場合は、起訴猶予(不起訴処分)や、刑の減軽を求めた活動を中心におこないます。本人が心から反省している証拠として反省文を提出するほか、家族の監視体制を築く、被害者と会わないことを誓うなどの再犯防止策の構築も重要な活動のひとつです。
被害者の心のケアをおこない、別の監護者を探すなどして被害回復に努めることも大切です。親族や職場の人などの協力を得て、普段は誠実な人柄であることを示す、刑の減軽を求める嘆願書を書いてもらうなどの活動もあります。 -
(2)犯行を否認する場合
犯行を否認する場合は勾留が長引くおそれが高く、社会生活への影響が懸念されますが、弁護士の迅速な活動により早期に身柄拘束から解かれる可能性を高めます。
冤罪である以上は、しっかりと否認することが大切です。特に取り調べにおける対応が重要となるため、弁護士が早い段階で面会し、取り調べで何を供述し、どのような態度でいるべきかのアドバイスをおこないます。
同時に、被害者の証言に信ぴょう性がないことを主張するため、弁護士が新たな証拠や目撃者の証言などを集めることもあります。証拠をもとに被害者の証言における矛盾点をつくという活動です。 -
(3)監護者わいせつ罪における示談について
性犯罪の加害者となった場合、被害者との示談が今後の刑事手続きに影響をおよぼすケースが多々あります。しかし監護者わいせつ罪の性質上、示談による解決は難しい面があります。
未成年者に対する性犯罪では、本人にはまだ意思決定の能力が備わっておらず、通常は親などの監護者が示談の相手方となります。ところが監護者わいせつ罪では監護者自身が加害者であるため、他人が被害者である犯罪と比べて示談の方法をとりにくいという事情があるのです。示談以外の方法が求められるケースが多い犯罪といえるでしょう。
5、まとめ
監護者わいせつ罪は、刑法が定めるほかの性犯罪と同様に、被害者の告訴がなくても起訴される可能性がある犯罪です。犯罪の性質上、示談による解決が難しいといえます。事件解決のためにどのような方法をとり得るのか、適切な助言が不可欠でしょう。できるだけ早いタイミングで弁護士へ相談するべきです。
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