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判例から読み解く! 強制わいせつ事件の成立に性的意図は不要?
強制わいせつ罪の成立には、長らく行為者の「性的意図が必要」とされてきましたが、近年はこの要件を満たさない場合でも成立が認められた事例があります。
性犯罪は、時代や社会の要請に応じて法律の見直しがおこなわれているので、最新の判例から判断基準を読み解く必要があるでしょう。
このコラムでは、強制わいせつ罪の成立要件について、最新の判例をもとに弁護士が解説します。従来の考え方とは違う点もあるので、しっかりと確認しておきましょう。
1、強制わいせつとはどのような犯罪か?
「強制わいせつ罪」とは、刑法に定められたわいせつ犯罪のひとつです。まずは刑罰の内容や成立要件について、確認していきましょう。
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(1)強制わいせつ罪の定義と刑罰
強制わいせつ罪は、刑法第176条に定められている犯罪です。
法定刑は6か月以上10年以下の懲役で、罰金刑の規定はありません。有罪判決が下された場合の刑の選択肢は懲役刑のみであり、厳しい判断が下された場合は実刑判決を受けて刑務所に収監されてしまうおそれのある重罪です。 -
(2)被害者の年齢によって成立する条件が異なる
強制わいせつ罪の成立要件においては「被害者の年齢」が重要です。
被害者が13歳以上であれば、暴行または脅迫を用いたわいせつ行為が処罰の対象となります。一方で、被害者が13歳未満の場合は、単に「わいせつな行為をした者」が処罰の対象となる旨が明記されています。
なお、わいせつ犯罪といえば「加害者が男性・被害者は女性」という構図を思い描きがちですが、強制わいせつ罪の条文をみると被害者について「13歳以上の者」「13歳未満の者」とされています。つまり、被害者の年齢は犯罪の成立要件に含まれていますが、性別は問われません。 -
(3)非親告罪への改正
強制わいせつ罪は、従来は検察官の起訴にあたって被害者等の告訴権者の告訴を要する「親告罪」とされてきましたが、平成29年の法改正によって「非親告罪」へと変更されています。非親告罪化したことによって、告訴権者の告訴がなくても検察官の判断のみで起訴できるようになりました。
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2、強制わいせつ罪の成立要件
強制わいせつ罪が成立する要件について、さらに詳しくみていきましょう。
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(1)強制わいせつ罪における保護法益
法律が保護の目的とするものを「保護法益」といいますが、強制わいせつ罪では「個人の性的な自由」あるいは「性的羞恥心」が保護法益であると考えられています。
人は誰もが性的に自由であり、性的な自由や性的羞恥心を害することは許されないので、強制的な手段によって性的自由ないし性的羞恥心を害する行為は犯罪として厳しく処断されるのです。 -
(2)強制わいせつ罪が成立する行為
強制わいせつ罪においては、過去の判例から「普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反すること」が、わいせつな行為とされています。
具体的には次のような行為が、わいせつ行為とみなされるでしょう。
- 陰部に直接触れる
- 衣服の下に手をさし入れて胸・尻・陰部を触る
- 衣服の上から陰部や女性の乳房を弄ぶ
- 無理やりキスをする
また、無理やりに抱きつく行為についても、態様によってはそれだけでわいせつ行為とみなされる可能性があります。
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(3)故意の判断基準
強制わいせつ罪の成立には「故意」が必要です。ここでいう故意とは、その行為が強制わいせつ行為にあたるものである、という認識を指しています。
たとえば、混雑している状況下において、群衆に押されて目の前の人の胸に触れてしまったといったケースでは、同じ「胸を触る」という行為の結果があっても故意が存在しないので、強制わいせつ罪は成立しないと考えられます。 -
(4)暴行・脅迫の判断基準
強制わいせつ罪は「暴行・脅迫」を用いてわいせつな行為をはたらく犯罪です。
ここでいう暴行・脅迫とは、殴る・蹴るといった具体的な暴力行為や「抵抗したら痛い目にあわせる」といった脅迫文言に限られません。暴行の程度は、被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに足りる程度の暴行であれば足り、反抗を抑圧するに足りる程度に達する必要も、反抗を著しく困難にする程度に達する必要もありません。
また、その態様は、暴行自体がわいせつ行為に該当する場合でもよいとされています。
脅迫の程度は、反抗を著しく困難にする程度のものを要するとの見解もありますが、暴行と同様に被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに足りる程度で足りるとする見解もあります。
そのため、次のようなケースでも暴行・脅迫があったものとみなされるおそれがあります。
- 無理やりに抱きついて被害者が抵抗できない状態にする
- ふいに股間に手を差し入れる
- 被害者の裸体を撮影し「公開されるかもしれない」と暗示させる
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3、強制わいせつの成立における判例
強制わいせつ罪の成否を判断する基準としては、実際にこれまでに争われてきた裁判の結果が影響しています。ここでは、強制わいせつ罪の成否について重視される新旧の判例を紹介しましょう。
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(1)報復目的は強制わいせつ罪が成立しないとする古い判例
【最高裁判所 昭和45年1月29日判決(昭和43年(あ)第95号)】
この事件は、被告人の男が自身の内縁の妻をかくまった女性に対する報復を目的に、女性に対して「あんたに仕返しに来た、硫酸もある」などと脅したうえで、女性を裸にして写真撮影した行為について、強制わいせつ罪の成否が争われたものです。
この事件では、被害者の女性を裸にした行為の目的が大きな争点となりました。被告人の男が被害者の女性を裸にした行為の目的は報復であり、自身の性欲を刺激・興奮させるという性的意図が存在しない以上、強制わいせつ罪は成立しないと判示されています。
この判例は、被害者の性的自由を強く侵害する行為であっても「性的意図がない」と認められる場合は強制わいせつ罪が成立しないとする根拠として、以後の強制わいせつ事件にも大きな影響を与えてきました。 -
(2)性的意図を要しないとした新しい判例
【最高裁判所 平成29年11月29日判決(平成28年(あ)第1731号)】
この事件は、借金を申し込んだところ女児とのわいせつ行為を撮影してデータを送信するよう求められたため、当時7歳の女児に陰茎を触らせる、口にくわえさせる、女児の陰部を触るなどの行為をはたらいたものです。
借金の申し込みが目的であるため、昭和45年判例によれば性的意図が否定され強制わいせつ罪は成立しないことになりそうです。
しかし、この事件では、昭和45年当時と現代では、性犯罪や被害の実態に対する社会の受け止め方が変化している点が指摘され、「性的意図を一律に成立要件とするのは相当ではない」として、昭和45年判例の解釈が変更(いわゆる判例変更)されました。
また判決においては、被害者が受けた性的被害の有無や内容、程度にこそ目を向けるべきと指摘しており、性犯罪の被害者保護が強化されている時勢が顕著にあらわれた判例だといえます。
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4、強制わいせつで逮捕された場合の対応方法
強制わいせつ事件を起こし逮捕されるおそれがある場合は、直ちに弁護士に相談してサポートを求めましょう。
警察に逮捕されると、逮捕直後の48時間と検察官に送致された後の24時間、合計72時間以内はたとえ家族であっても原則として面会が認められません。弁護士であれば、この72時間の間であっても逮捕された本人との面会が認められています。
弁護士に依頼すれば、取り調べに際してのアドバイスが得られるだけでなく、捜査状況の確認、逮捕された本人と家族との連絡役として尽力してくれます。
また、強制わいせつ事件では最新の判例が示すとおり「被害者が受けた性的被害の内容・程度」も重視されるため、被害者との示談が成立しているのかも大きなポイントになるでしょう。性犯罪にあたる事件では、被害者の処罰感情が強く示談交渉が難航しがちです。しかし、弁護士に依頼することによって被害者が交渉に応じてくれる可能性が高まります。
示談が成立していれば、不起訴処分の獲得や執行猶予付きの判決、減軽も期待できるので、弁護士に一任して示談交渉を進めてもらいましょう。
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5、まとめ
性犯罪の厳罰化を求める社会の声は依然として高まる一方です。強制わいせつ罪の成立を判断するにあたって重視される判例も、約半世紀ぶりに変更されました。強制わいせつ罪は懲役刑しか規定されていない重罪なので、容疑をかけられて逮捕されるおそれがある場合や、逮捕されてしまった場合は、直ちに弁護士にサポートを求めましょう。
強制わいせつ事件の刑事弁護は、刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所にお任せください。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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