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当て逃げ事件の示談交渉とは? 加害者になったときにするべきこと
自動車を運転中に物損事故を起こした場合、交通上の危険を防止するための措置・警察への報告を怠ると「当て逃げ」に該当します。人の死傷結果が生じていないとはいえ、刑罰を受けて前科が付いてしまうこともある犯罪行為です。
そのため当て逃げをした後に示談交渉をして事件を解決できないかと模索する方がいるかもしれません。当て逃げで示談をすることは可能なのでしょうか?
本コラムでは当て逃げで成立する犯罪や刑罰の内容、示談交渉による事件解決の可能性について解説します。
1、当て逃げとひき逃げの違い
「当て逃げ」とはどんな行為を指すのでしょうか?間違えやすい「ひき逃げ」との違いを含めて解説します。
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(1)当て逃げとは
当て逃げとは、自動車を運転中にほかの車両や建物などに接触して物的損害を生じさせたにもかかわらず、危険防止措置と警察への報告を怠りその場から立ち去ることです。
路肩に停めてあった無人の車両や建物などに接触したケースのほかに、自動車やバイク同士の接触事故で人の死傷が発生せず車両の損壊だけで済んだケースも、その場から立ち去れば当て逃げに該当します。 -
(2)ひき逃げとは
ひき逃げとは、自動車を運転中に人的被害を発生させたにもかかわらず、被害者を救護せず、危険防止措置と警察への報告もせずにその場を立ち去ることです。
歩行者や自転車をはねて怪我をさせたケースに限らず、相手が自動車であっても救護義務などに違反して現場から立ち去れば、ひき逃げに該当します。 -
(3)当て逃げとひき逃げの違い
当て逃げとひき逃げの違いは、人的被害の有無です。当て逃げは人的被害が生じていない物損事故を、ひき逃げは人の死傷がともなう人身事故を指します。
また、成立する犯罪も異なります。当て逃げでは危険防止措置義務違反、報告義務違反が成立するのに対し、ひき逃げはこれに加えて救護義務違反という重罪が成立します。ひき逃げは事故現場から離れることで負傷している人の命が助からなくなるおそれがあるため、当て逃げ以上に悪質であり、刑事上重い処罰を受けることになります。
当て逃げかひき逃げかを簡単に判断することはできません。事故の相手に怪我がないと思ってその場から立ち去っても、実は怪我をしていた場合にはひき逃げに該当してしまいます。
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2、当て逃げの要件
当て逃げが成立する要件を解説します。
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(1)当て逃げの成立要件
当て逃げは、人の死傷がともなわない物損事故を発生させ、危険防止措置と警察への報告を怠ることで成立します。
自動車の運転者が交通事故を起こしたときには、ただちに車両の運転を停止し、道路における危険を防止するため、措置を行わなければなりません(道路交通法第72条1項前段)。これは、危険防止措置義務と呼ばれています。
具体的には、車両を交通の邪魔にならない場所に移動させる、発煙筒や三角表示板を使って後続の車に事故の発生を知らせる、道路上に飛び散ったミラーの破片を片付けるなどして二次事故を防ぐ措置をする必要があります。
事故の発生日時や場所、損壊した物や事故に関して講じた措置などについて警察に報告する義務もあります(同条1項後段)。
危険防止措置と警察への報告は、死傷者のいない物損事故であっても課せられる義務です。したがって、これらをせずに現場から立ち去った場合は、たとえすぐ後に現場に戻ってきても当て逃げが成立します。 -
(2)当て逃げの対象となる「物」の定義
当て逃げの対象となるのは人以外の物すべてです。車両や建物、ガードレール、街路樹などが該当するでしょう。また他人のペットをひいてしまった場合も当て逃げが成立します。
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3、当て逃げの刑罰
当て逃げで科せられる刑罰や行政罰、同乗者の責任について解説します。
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(1)危険防止措置義務違反、報告義務違反の刑罰
当て逃げで科せられる刑罰は以下のとおりです。
- 危険防止措置義務違反……1年以下の懲役または10万円以下の罰金(道路交通法第117条の5第1号)
- 報告義務違反……3か月以下の懲役または5万円以下の罰金(同第119条1項10号)
ただし2つの違反は観念的競合にあたるため、重いほうの罪に問われます。観念的競合とは、1つの行為によって2つ以上の犯罪に該当する場合をいいます。2つの違反で重いのは危険防止措置義務違反です。したがって、当て逃げでは「1年以下の懲役または10万円以下の罰金」に処せられます。
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(2)器物損壊罪には該当しない
物の損壊が生じるという点で、「当て逃げは器物損壊罪にあたるのではないか?」と考える方もいるでしょう。しかし器物損壊罪は物を損壊することについて、「故意があったこと」が必要な犯罪なので、運転ミスや不注意によって物を損壊する当て逃げは、器物損壊罪にはあたりません。
もっとも、目的物を壊してやろうなど意図的に接触したようなケースでは、器物損壊罪が成立する余地があるでしょう。 -
(3)当て逃げの行政罰
行政罰とは運転免許の違反点数が加算されて行政処分が下されることです。刑罰を受ける刑事責任や、損害賠償金を支払う民事責任とは別に生じる行政上の責任です。
当て逃げをすると、物損事故の場合の危険防止措置義務違反として5点が加算されます。また物損事故を起こした原因として安全運転義務に違反したと認められるケースが多いため、安全運転義務違反の2点も加算されるでしょう。違反点数は7点となり、前歴がなくても30日間の免許停止処分を受けます。
しかし、物損事故を起こしても、危険防止措置と警察への報告をしていれば行政罰を受けることはありません。 -
(4)同乗者も罪になるのか
道路交通法第72条では、危険防止措置および警察への報告義務がある者を「交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員」としています。「その他の乗務員」とは、乗合自動車の車掌や、ハイヤーやタクシーの助手などを指すと解されており、単に家族や友人の車に同乗していただけのケースは含まれません。
ただし、「その他の乗務員」に該当しなくても、車両の同乗者は運転者が危険防止措置および報告することを妨げてはなりません(同第73条)。
また仮に犯罪が成立しなくても、運転者の当て逃げに協力すれば共同不法行為者として、同乗者も民事上の損害賠償責任を負う場合があります(民法第719条1項)。
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4、当て逃げ事件の発生理由
当て逃げ事件でよくある発生理由を見ていきましょう。
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(1)気づかなかったから
当て逃げは、物損事故を起こしたことについてはミスや不注意が原因ですが、危険防止措置および報告をせずにその場から立ち去ることについては故意に行われる必要があります。ですから、ごく軽い接触で運転者が全く気づいていないまま現場から立ち去ったならば、故意がないため当て逃げは成立しません。
しかし、この故意は「物が壊れたかもしれない」という程度の認識であれば足りるため、多少なりとも何かにぶつかったと気づいていれば、当て逃げに該当するおそれがあります。捜査機関も気づかなかった旨の主張を簡単には信用しません。 -
(2)怖くなってしまったから
突然のことで気持ちが動転する、頭が真っ白になるなどして逃げてしまうケースも考えられます。たとえば仕事中に起こした事故であれば、会社から処分を受けることをおそれて逃げてしまうケースがあるでしょう。相手方から高額の賠償金を請求されるのが怖い・請求されても支払えないなどの理由も考えられます。
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(3)ほかの交通違反をしていたから
ほかの交通違反が重なると罪が重くなるため、これをおそれて逃げるケースも考えられます。よくあるのは以下の違反の発覚を逃れようとするケースです。
- 酒気帯び運転
呼気中のアルコール濃度が1リットル中0.15ミリグラム以上の状態で運転する行為です。刑罰は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です(道路交通法第117条の2の2第3号)。 - 酒酔い運転
アルコールの影響により正常な運転ができない状態で車両を運転する行為です。刑罰は5年以下の懲役または100万円以下の罰金です(同第117条の2第1号)。 - 無免許運転
運転免許を取得せず、あるいは免停中や有効期限が切れた後に自動車を運転する行為です。刑罰は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です(同第117条の2の2第2号)。 - スピード違反
道路標識・標示で指定された最高速度や法定速度を超えて運転すると、6か月以下の懲役または10万円以下の罰金に処せられます(同第118条第1号)。
- 酒気帯び運転
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(4)逮捕されたくないから
逮捕されると会社や家庭など日常生活へ影響を与えるため、逮捕をおそれて逃げるケースもあります。
しかし物損事故の場合、その場から逃走せず危険防止措置および警察への報告をしていれば、本来なら逮捕されたり罰金や懲役などの刑罰を受けたりすることはありません。
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5、当て逃げの逮捕前後の流れ
当て逃げはその場を離れているため、現行犯逮捕されるケースはほとんどありません。しかし後になって事件が発覚し、逮捕されるおそれがあります。警察が被疑者を逮捕するには「逃亡または証拠隠滅のおそれ」という要件を満たす必要がありますが、当て逃げでは一度逃げているため、逮捕要件を満たしやすいでしょう。
当て逃げ事件の発覚から逮捕前後の流れ、時効について解説します。
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(1)当て逃げ事件が発覚する理由
当て逃げ事件が発覚する理由はさまざまですが、たとえば当て逃げされた物の所有者や目撃者が通報するケースが考えられます。車両ナンバーを覚えていて、それをもとに逮捕されるという流れが一般的です。
また物の所有者などが物の損壊に気づき、警察に被害届を提出したため捜査が開始されるケースもあります。街中に設置された防犯カメラやドライブレコーダーの映像から被疑者として特定されるケースが考えられるでしょう。 -
(2)逮捕後の流れ
当て逃げで逮捕されると、48時間以内に警察の取り調べを受け、検察官へ送致されます。送致後は24時間以内に検察官の取り調べを受け、身柄を釈放されるか、勾留請求されるかが決まります。ここまでの72時間、たとえ家族であっても外部の人との面会は許可されません。
釈放されると自宅に帰され在宅捜査に切り替わります。一方、勾留が認められると原則10日間、延長も含めると最長で20日間の身柄拘束が続きます。
当て逃げ事件の場合、人的被害が生じていないことから、素直に捜査協力している限り逮捕後72時間以内に釈放される可能性は十分にあるといえます。しかし証拠があるのに否認するなどの行動を取れば、勾留される危険が生じてしまいます。 -
(3)当て逃げの時効
時効には刑事上の時効と民事上の時効があります。
刑事上の時効とは一般に公訴時効のことを指します。犯罪があってから一定期間が経過すると検察官が起訴できなくなります。当て逃げの法定刑は「1年以下の懲役または10万円以下の罰金」なので、刑事訴訟法第250条2項6号が定める「長期5年未満の懲役もしくは禁錮または罰金に当たる罪については3年」にあたります。すなわち当て逃げから3年が経過すると刑事責任を問われません。
当て逃げ事件における民事上の時効とは、不法行為にもとづく損害賠償請求権の消滅時効を指します。被害者が損害および加害者を知ってから3年が経過するか、不法行為(当て逃げ)のときから20年が経過すると、被害者は加害者に対して損害賠償を請求できなくなります。
令和2年4月1日施行の改正民法では、生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効は3年から5年に延長されました。しかし当て逃げは生命・身体の侵害がないため、改正前と同様に3年の消滅時効にかかります。この点、当て逃げではなくひき逃げだった場合は時効が5年になるため注意が必要です。
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6、当て逃げで示談はできるのか
当て逃げをしてしまい、示談によって解決を図りたいと考える場合もあるでしょう。当て逃げと示談の関係について解説します。
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(1)刑事上の示談はできない
被害者が存在する刑事事件では、検察官や裁判官が「示談によって被害者への謝罪や被害回復がなされた」と評価し、不起訴や処分の軽減につながる場合があります。前科がついたり重い罰を受けたりするのを避けるために、犯罪の加害者が被害者と示談を行うケースは多々あります。
ところが道路交通法は道路における交通の安全と円滑を図るという社会的な法益を守るために存在する法律であって、刑事上の被害者という概念がありません。物を壊したことを責められているのではなく、危険防止措置と警察への報告を行わなかったことを責められているのです。ですから、道路交通法違反という刑事事件には被害者はいません。そして、被害者がいないので、刑事上の示談はできません。 -
(2)民事上の示談はできる
一方、当て逃げをして損壊した物の所有者などに対しては、民事上の損害賠償義務が生じるため、その人を相手方として民事上の示談交渉をすることができます。トラブルの蒸し返しを防ぐための条項(清算条項)を含めて示談が成立すると、当事者間での損害賠償問題が解決したとみなされ、今後新たに損害賠償を請求されるおそれがなくなります。そして、物に対する金銭的損害の回復がなされていることは、刑事上でも情状として有利な証拠になりますので、民事上の示談交渉には大きな意味があります。
当て逃げで支払うべき示談金は基本的に実損分です。たとえば物の修理費用、レッカー代、事故により市場価格が減少した場合の減少額などが該当します。
原則として、人身事故のように慰謝料(精神的苦痛に対する損害賠償金)は生じません。
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7、当て逃げをしてしまったときにするべきこと
当て逃げをしてしまったら、まずは弁護士に相談してサポートを求めること、警察に届け出ることが大切です。
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(1)弁護士に相談する
当て逃げは人的被害こそ生じていませんが、刑罰の対象になる犯罪行為です。刑罰を受けると、たとえ罰金であっても前科が付き、職業や資格の制限を受けるなどの不利益が生じます。一度逃げているため逮捕の要件を満たすとして逮捕される危険もあります。逮捕されれば日常生活への影響も避けられないでしょう。
これらの不利益を避けるためには早急に弁護士に相談し、今後の対応についてアドバイスやサポートを依頼するべきです。弁護士が検察官や裁判官に対して、本人の深い反省や車両を手放すなどの再犯防止策を示すことで、不起訴や処分の軽減につながる可能性があります。
また損壊した物の所有者との示談交渉をする場合、保険会社が示談交渉を行うのが一般的ですが、警察に届け出ない当て逃げでは「交通事故証明書」を発行してもらえず、保険が使えない場合があります。
保険が使えないと物損の賠償金を自らの資産で支払う必要があり、示談交渉も自分でしなければならないため、示談金の額などで折り合いがつかずに交渉が難航するおそれが大きいでしょう。そのため弁護士に示談交渉などの対応も依頼するべきです。 -
(2)警察に届け出る
当て逃げをしてしまった後でも、警察に届け出ることが大切です。警察が犯人を認知していない状態で届け出れば、法律上の自首が成立し、刑が軽減される可能性が生じます。
もっとも、自首したからといって必ず刑が減軽されるわけではなく、すでに警察が認知しており自首が成立しない場合もあります。しかし自ら出頭して処罰を求めた事実は「反省」と評価され、処分が軽くなる可能性があります。
また自発的に出頭すれば、逃亡・証拠隠滅のおそれが否定されるため、逮捕されずに在宅のまま捜査が進められる可能性も高まるでしょう。
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8、まとめ
当て逃げは物損事故を起こした人が必要な措置を行わずに現場から立ち去る行為です。物を壊しただけと軽く考えていると、突然逮捕されて刑罰を受けることもあります。自分や家族が当て逃げをしてしまったら早急に弁護士へサポートを依頼しましょう。
交通事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所が力を尽くします。ご家族だけで悩まずに、まずはご相談ください。
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