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正当防衛による殺人は無罪? 問われる罪と成立要件を弁護士が解説
暴力や恐喝、脅迫など、トラブルや相手方からの行為に対抗した結果、人を死なせてしまった事件では、正当防衛の成立が問題になる場合があります。
正当防衛は刑事ドラマや小説などでは定番のシーンですが、「相手が先に仕掛けたけんかだから」「相手が脅してきたから」などの単純な理由で認められるわけではありません。また自分の身を守るためにした行為でも、いき過ぎた行為であれば正当防衛は成立せず、過剰防衛となる可能性があります。
本コラムでは、殺人罪の概要を説明したうえで、正当防衛が成立する要件や過剰防衛となるケースについて解説します。
1、殺人罪の定義や成立要件
刑法第199条には「人を殺した者は、死刑又は無期もしくは5年以上の懲役に処する」とあります。これが「殺人罪」の規定です。
殺人罪における「人」とは、出生から死亡までの生きている人間のことをいいます。すなわち、胎児が母体から一部露出した状態(出生)からはじまり、自発的な呼吸と心臓が完全に停止し、瞳孔反射が消滅する(死亡)までを指します。
「殺す」とは、人の生命が自然に終わるよりも前に、殺意をもって死亡させる行為をいいます。その方法は特に問われませんので、刺殺や絞殺、撲殺や毒殺などあらゆる方法が殺人に該当し得ます。
殺意とは「相手を殺そう」という意思や「相手が死んでしまうかもしれないが、それでもかまわない(未必の殺意)」という意思のことです。殺意はなく人を死亡させた場合は傷害致死(刑法第205条)や保護責任者遺棄致死(刑法第219条、第218条)など、別の犯罪の成否が問題になるでしょう。
殺人罪は人の生命という、もっとも重要な法益を侵害する重大犯罪です。そのため公訴時効はなく、行為から何年が経過しても刑罰を科されます。
また、殺人罪に関する事件は、裁判員裁判の対象となり得る事件です。
殺人罪の刑罰は以下のいずれかです。
- 死刑
- 無期懲役
- 5年以上の有期懲役
裁判で実際に言い渡される刑(量刑)は、犯行の内容、結果の内容、殺害の動機や前科の有無、遺族の処罰感情などさまざまな事情を考慮したうえで、裁判官・裁判員が決定します。
ただし、人を死亡させた行為が「正当防衛」だと認められた場合には犯罪が成立せず、上記の刑罰を受けることはありません。正当防衛とは何か、定義などについて次章で解説します。
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2、正当防衛の定義
正当防衛とは、差し迫った危険がある場合に自分や他人を守るためにしたやむを得ない行為をいいます。
刑法第36条1項で「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」と定められています。
正当防衛が認められると、本来であれば犯罪にあたる行為であっても、違法性が否定されます。つまり人を死なせても殺人罪や傷害致死罪などが成立しません。
正当防衛という言葉自体は一般にも広く知られているため、成立するケースは多いようにも思えるかもしれません。しかし、実際の正当防衛の成立には厳格な要件があり、そう簡単に認められるわけではありません。本来は有罪として刑罰を科すところを無罪にする以上、ごく限られた場合にしか認められないのです。
正当防衛が認められる要件は刑法第36条1項の条文に記載のとおりですが、整理すると次のようになります。
- 「急迫不正の侵害に対して」の反撃であること(侵害の急迫性、侵害の不正性)
- 「自己又は他人の権利を防衛するため」に反撃をおこなったこと(防衛の意思があったこと)
- 「やむを得ずにした」行為であること(防衛行為の相当性が認められること)
それぞれの要件について、次章から詳しく説明します。
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3、正当防衛が認められるための4つの成立要件
正当防衛が成立するには、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。
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(1)急迫性
急迫性とは、今まさに侵害を受けているか、あるいは侵害が差し迫っている状態を指します。たとえば子どもや女性が暴漢に襲われそうになっているような場面では急迫性があるといえるでしょう。
これに対して、「過去に受けた暴力行為に対する仕返しで攻撃した」「先に殴ってきた相手が背を向けて帰ろうとしているところを殴りかかった」などの場合は、急迫性があるとはいえません。 -
(2)不正の侵害
正当防衛が認められるのは、相手から不正の侵害を受けている場合に限られます。不正の侵害とは、相手の行為が違法な侵害行為だった場合、すなわち生命や身体、財産など法的に保護される権利に対して加害行為を受けた場合をいいます。
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(3)防衛の意思
防衛の意思とは、自分や他人の権利を守ろうとする意思をいいます。
たとえば道ばたで刃物を持って襲いかかってきた相手の腕を、自分が持っていた傘で押しのける行為は、自分の身体を守ろうという意思にもとづくものなので、防衛の意思があるといえるでしょう。
一方、普段から気に入らないと思っていた相手が殴りかかってきたのに乗じて、積極的に暴力をふるったような場合には、攻撃の意思のみが認められ、防衛の意思はなかったとみなされ、正当防衛が成立しない可能性があります。
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(4)防衛行為の相当性
防衛行為の相当性とは、危険を回避するためにやむを得ずした、必要最小限度の行為かどうかということです。正当防衛は、防衛が必要な状況下でのみ認められるものですが、必要だからといってどんな行為でも認められるわけではありません。すなわち、「罰しない」とまでされていることとのバランスを考えると、権利の内容や権利侵害の程度などの必要性の高さに見合った相当な範囲でしか認められないということです。
相当性を欠いた反撃行為がなされた場合は、正当防衛とはなりませんが、過剰防衛と判断される可能性があります。
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4、過剰防衛と判断されるケースは?
刑法第36条2項は「防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる」と述べています。「防衛の程度の超えた行為」というのが過剰防衛です。
過剰防衛は急迫不正の侵害に対してした防衛行為が、いき過ぎた行為だった場合に成立します。
先の正当防衛の要件に照らすと、「防衛行為の相当性」を満たさない場合、つまりやむを得ずにした行為とまではいえない場合には正当防衛が成立せず、過剰防衛となる可能性があります。
過剰防衛には、相手の攻撃に対して必要以上の反撃を加えたという「質的過剰」のケースと、相手の攻撃が止んでいるのに反撃を加え続けたという「量的過剰」のケースがあります。
人を死亡させる事件で過剰防衛に当たり得るのは、たとえば次のようなケースです。
- 素手で殴りかかってきた相手に対してナイフで対抗して死亡させた
- すでに攻撃を止めている相手の頭に石をぶつけ、死亡させた
- 暴行をはたらいてきた相手を押さえつけた後になおも追撃し、死亡させた
正当防衛が成立した場合は無罪が言い渡されますが、過剰防衛とされた場合は有罪となります。
ただし、情状により、刑が減軽または免除される場合があります(刑法第36条2項)。これは過剰防衛が成立する行為というのは、もともとは急迫不正の侵害行為に対抗するためになされた、違法な行動に対する反撃であるというのが一つの理由です。また、違法な侵害行為がなされた状況では、反撃者に、精神の動揺により、多少行き過ぎた行為に出たとしても強く非難できない側面があるからです。
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5、家族ができる対応は「状況の整理」と「弁護士への相談」
自分の家族が人を死なせてしまった場合、まずは状況を整理し、落ち着いて対応することが大切です。
家族がすでに逮捕されたのであれば、連絡をしてきた警察官に、何の罪で逮捕されたのか、誰が被害者なのかなどの情報を確認しましょう。詳細は教えてもらえないでしょうが、少しでも多くの情報を入手することが必要です。
逮捕前で本人に確認できるのであれば、事件がいつどこで、どのような状況で起きたのかなどを整理しましょう。
いずれのケースでも、ご家族は早急に弁護士へ相談し、知り得る限りの情報を伝えることが大切です。
刑事事件では、逮捕後の72時間以内に取り調べがあり、その後最長20日間の勾留を経て起訴、裁判へと移行します。刑事手続きは限られた時間の中で粛々と進められ、時間との勝負となります。弁護士が詳細の状況を早期に把握すればできることが多くなり、結果的に事態の悪化を回避できる可能性が高まります。
人が亡くなってしまった事件において弁護士のサポートは不可欠ですので、必ず弁護士へ相談し、適切な対応をしてもらいましょう。
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6、まとめ
殺人罪で正当防衛が成立するかどうかは非常に難しい判断を要する問題であり、いくら本人やご家族が主張したところで簡単には認められないでしょう。正当防衛があったと考えられる場合でも、その主張には高度な法的知識と経験が求められるため弁護士のサポートは不可欠です。
自分の家族が殺人罪の疑いをかけられた場合は一刻も早くベリーベスト法律事務所へご連絡ください。刑事事件の解決実績が豊富な弁護士が力を尽くします。
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