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脅迫の基準は? 脅迫罪が成立した判例や強要罪との違いは何か
対面や電話、SNSなどを通じて相手とやり取りする中でつい感情的になり、相手に「ぶっ殺すぞ」「家に火をつけてやるぞ」などの乱暴な言葉を投げかけてしまうと、脅迫罪が成立する可能性があります。
脅迫罪は人を脅して怖がらせる犯罪です。相手に危害を加えるつもりはなく、また実際に危害を加えていなくても処罰の対象となります。
本コラムでは、どのようなケースで脅迫罪に問われるのかについて、脅迫罪の成立要件や判例をもとに解説します。類似の犯罪である強要罪との違いも確認しましょう。
1、脅迫罪の成立要件
まずは脅迫罪が成立する要件や刑罰の内容、時効について解説します。
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(1)脅迫罪が成立する要件
脅迫罪は刑法第222条に定められた犯罪です。同罪が成立するには「実行行為」「結果」「因果関係」「故意」という条件を満たす必要があります。
「実行行為」は、相手または親族の生命、身体、自由、名誉、財産のいずれかに対し害を加える旨を告知することです(害悪の告知)。告知の方法は対面で直接伝える以外に電話やメール、態度で示すことなども含まれます。対象となるのは相手またはその親族に限られます。友人や知人などに対する害悪の告知は、脅迫罪における実行行為にはあたらないと考えられています。
以下は脅迫罪にあたり得る言葉の例です。
- 生命……「ぶっ殺すぞ」「命はないと思え」
- 身体……「殴るぞ」「痛い目に遭わせるぞ」
- 自由……「ここから出ていけなくさせるぞ」「娘を誘拐してやるぞ」
- 名誉……「不倫を会社にばらすぞ」「子どもの写真をネットに晒してやる」
- 財産……「家に火をつけてやる」「飼い犬を殺してやる」
次に「結果」とは、被害者が自分または親族の生命、身体、自由、名誉、財産に対し害を加える旨を告知されたことです。告知の内容は客観的に見て恐怖を抱くもので足りるため、仮に被害者が怖がらなかったとしても結果が生じたことになります。
さらに実行行為と結果が原因と結果の関係(因果関係)にあり、行為者に害悪を告知することの認識(故意)があれば脅迫罪は成立します。 -
(2)刑罰の内容
刑罰は「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」です。初犯で結果も重大ではなく、被害弁済もなされている場合などには罰金刑となる可能性がありますが、必ず罰金刑になるわけではありません。
犯行様態が悪質で加害者に反省の色も見られない場合には、懲役の実刑判決となる可能性があります。 -
(3)時効の年数
犯罪行為が終わってから一定年数の経過をもって検察官が起訴できなくなる制度を公訴時効といいます。
脅迫罪の公訴時効は3年です(刑事訴訟法第250条2項)。脅迫行為をしてから3年が経過すると検察官は起訴できないため、同罪で逮捕されることもないでしょう。
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2、脅迫罪として認められた判例
脅迫罪として認められた判例を紹介します。
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(1)ビラの記載内容が脅迫にあたるとした判例
佐賀県本部警察部隊長の官舎付近に備え付けられたごみ箱に「○○に告ぐ、三月貴様は勤労者、農民を仮装敵として演習を行つたが勝つ自信があるか、独立を欲する国民の敵となり身を滅ぼすより民族と己のために即時現職を退陣せよ」と記載したビラを貼り付けた事例です。
害悪を告知する方法は口頭や書面など特に制限がなく、また明白に現在の危険を示す必要もありません。判決では、本件のビラの内容は相手方の生命や身体に危害を加えるかもしれないと思わせるものであり、その内容が相手方に到達したときには脅迫罪が成立するとしました。(最高裁判所 昭和32(あ)68 昭和34年7月24日判決) -
(2)暗示による害悪の告知が脅迫罪にあたるとした判例
ふたつの派閥の対立が激しくなっているときに、一方の派閥の中心人物宅に、実際には出火していないのに「出火御見舞申上げます、火の元に御用心」という内容のはがきを送付した事例です。
脅迫とは客観的に見て人を怖がらせる内容のもので足り、その方法は「火をつけてやる」などの直接的な言葉によるものに限らず、暗示によるものでもよいとされています。
判決では、抗争が激しくなっている時期に抗争相手から出火見舞いのはがきが送られてこれば、火をつけられるのではないかと恐怖心を抱くのが通常であるとして、脅迫罪の成立を認めました。(最高裁判所 昭和34(あ)1812 昭和35年3月18日判決) -
(3)第三者を介してする害悪の告知が脅迫罪にあたるとした判例
村の青年団が小学校で映画を上映しようとするのをやめないため「今晩若い者30名ほど連れて小学校にフィルムを没収に行く」といった趣旨を警察に伝え、警察を介して青年団に害悪を告知した事例です。
判決では、被告はフィルムを没収しに行く旨の通知をした事実が警察から青年団に告げられるであろうことを十分に認識しており(故意があり)、また害悪の告知は行為者から相手方に対して直接的にする必要はないとして、第三者を介した害悪の告知が脅迫罪にあたるとしました。(最高裁判所 昭和25(れ)981 昭和26年7月24日判決)
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3、脅迫罪と強要罪の違い
脅迫罪とよく似た犯罪である「強要罪」との違いを解説します。
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(1)強要罪が成立する要件
強要罪は刑法第223条に規定された犯罪です。
相手または親族の生命、身体、自由、名誉、財産に対して害悪の告知をして脅迫するか暴行を用いて、人に義務のないことをさせ、または権利の行使を妨害すると成立する犯罪です。
「義務のないこと」とは、たとえば謝罪や飲酒、契約や購入などの行為を指します。「権利の行使を妨害する」は、退職を認めない、株主総会に出席させないなどの行為が該当します。 -
(2)脅迫罪との違い
脅迫罪は害悪の告知をして相手を脅す犯罪です。これに対して強要罪は害悪の告知をして相手を脅したうえで、義務のないことをさせ、または権利の行使を妨害する点が大きく異なります。
たとえとして、店員に対する脅迫行為で見てみましょう。
- 「お前の悪評をネットに書き込むぞ」と脅した場合……脅迫罪
- 「今すぐ土下座をしないとお前の悪評をネットに書き込むぞ」と脅し、土下座をさせた場合……強要罪
刑罰にも違いがあります。
脅迫罪が「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」と懲役または罰金の選択肢があるのに対し、強要罪は「3年以下の懲役」と刑期の上限が長くなるうえに、刑罰そのものも懲役のみしか規定されていません。強要罪で有罪になれば執行猶予が付かない限り、必ず刑務所へ収監されるということです。
また脅迫罪は脅した時点で犯罪が成立するため未遂という概念がありませんが、強要罪には未遂罪の規定があります(刑法第223条3項)。脅したものの、要求した行為を相手がしなかった場合が該当しますが、未遂であっても「3年以下の懲役」の範囲で処罰されます。
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4、脅迫罪に問われた場合に弁護士に相談できること
脅迫行為をして警察へ通報されそうな場合や、すでに通報されて逮捕の可能性があるなどの場合には、早急に弁護士へ相談しましょう。
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(1)被害者との示談交渉を依頼する
まずは被害者へ丁寧に謝罪をし、示談による解決を目指すことが重要です。示談が成立すると、検察官の起訴・不起訴の判断や裁判官の量刑判断に際して有利な事情として扱われるため、不起訴処分で済む可能性や、起訴されても罰金刑や執行猶予付き判決となる可能性があります。
事件化されてしまう前であれば警察への被害申告を回避し、被害者との間だけで穏便に解決できる可能性も生じるでしょう。
しかし加害者本人が被害者に接触して示談を迫るのは困難です。被害者をさらに怖がらせて事態が深刻化するおそれが高いため、弁護士を介した示談交渉が賢明でしょう。公正中立の立場の弁護士であれば、被害者が安心して示談交渉に応じてくれる可能性が高まります。 -
(2)取り調べのアドバイスをもらう
すでに被害届や告訴状が提出されている場合には逮捕される可能性があるため、取り調べ対応のアドバイスをもらうことが大切です。取り調べでは厳しい追及を受け、精神的にも追い込まれることがあるため、自身に不利な発言や態度をしてしまうおそれがあります。
いったん不利な供述調書にサインをしてしまえば、あとでその内容を覆すのは困難です。取り調べ前に弁護士のアドバイスを受けることで適切な対応が可能です。また、依頼を受けた弁護士は、早期の釈放や不起訴を目指して弁護活動を行います。不当に重すぎる罪を科されないよう、できるだけ早いタイミングで相談することをおすすめします。
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5、まとめ
脅迫罪は相手または親族の生命や身体、自由などへの加害を告知して脅す犯罪です。加害の告知の方法は特に問われず、暗示や第三者を介したものでも罪になります。実際に加害していなくてもただ脅すだけで成立する犯罪なので、脅迫行為をしてしまったのであれば速やかに被害者への謝罪と示談交渉を進める必要があるでしょう。
ベリーベスト法律事務所が事件解決に向けて力を尽くします。脅迫罪に問われそうなときは、お気軽にご相談ください。
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