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暴行罪の時効は何年? 刑事と民事の時効、逮捕された場合の対処法
暴行罪の公訴時効期間(=検察官が被疑者に対して起訴できる期間)は、犯罪行為が終わった時から3年です。
また、暴行の被害者に対する損害賠償には、民法上の不法行為に関する消滅時効が適用されるため、刑法・民法上それぞれに時効が存在する点にも注意が必要です。
本記事では、暴行罪について適用される刑事・民事上の時効や、暴行罪で逮捕された後の刑事手続きの流れなどを、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
1、暴行罪の時効とは?
他人に対して暴行をした場合には、暴行罪や不法行為の責任を問われることがあります。
暴行罪については「公訴時効」が成立するまで、不法行為に基づく損害賠償責任は「消滅時効」が完成するまで、それぞれ責任を追及される可能性があります。
- 公訴時効:一定期間経過すると、検察官が被疑者に対して起訴できなくなる刑事手続の制度
- 消滅時効:一定期間経過しても、権利が行使されない場合に、権利を消滅させる民事手続の制度
ここでは、他人を暴行した場合に問われる可能性のある、暴行罪や不法行為責任の概要について解説します。
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(1)暴行罪とは
「暴行罪」とは、他人に対して暴行を加えたものの、被害者が傷害を負わなかった場合に成立する犯罪です(刑法第208条)。
「暴行」とは、他人に対する不法な有形力の行使をいいます。殴る、蹴る、物を投げつける、刃物を振るうなどのわかりやすい危険な行為だけでなく、ナンパで同意を得ずに肩などに触れるような行為も暴行に該当します。同意なき物理的接触はだいたい該当しうる広い概念です。
暴行の結果として被害者が傷害を負った場合は、「傷害罪」が成立します(刑法第204条)。
傷害罪の法定刑は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」であるのに対して、暴行罪の法定刑は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」です。
被害者が傷害を負っていない分、暴行罪の法定刑は傷害罪よりも軽くなっています。 -
(2)不法行為とは
「不法行為」とは、故意または過失により、他人に対して違法に損害を与える行為です(民法第709条)。
暴行は正当防衛などに当たらない限り違法であり、被害者に対する不法行為に該当します。暴行をした者は、不法行為に基づき、被害者に生じた損害(慰謝料など)を賠償しなければなりません。 -
(3)暴行について主に問題となる2種類の時効
他人に対して暴行をした者は、刑法上の暴行罪と民法上の不法行為の責任を負います。
暴行罪と不法行為については、加害者の責任を追及できる期間(=時効)が設けられています。暴行罪については「公訴時効」、不法行為については「消滅時効」が主に問題となります。
暴行に関する公訴時効と不法行為について、次の項目から詳しく解説します。
2、【刑事】暴行罪の公訴時効
「公訴時効」とは、犯罪の時から一定の期間が経過すると、罪を犯した疑いのある被疑者を検察官が起訴できなくなる制度です。
暴行罪についても公訴時効が適用され、一定の期間が過ぎると被疑者を起訴できなくなります。
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(1)暴行罪の公訴時効期間は「犯罪行為が終わった時から3年」
犯罪の公訴時効期間は、法定刑などに応じて決まっています。
暴行罪の公訴時効期間は、犯罪行為が終わった時から3年です(刑事訴訟法第250条第2項第6号)。したがって、暴行が終わった時から3年が経過すれば、被疑者が暴行罪で起訴されることはなくなります。
ただし傷害罪の公訴時効期間は、犯罪行為が終わった時から10年とされています(同項第3号)。
暴行の結果として、被害者が傷害を負っていたことが判明した場合には、暴行罪の公訴時効期間が経過しても、傷害罪で起訴される可能性があるので注意が必要です。 -
(2)暴行罪の公訴時効の進行が停止するケース
暴行罪の公訴時効の進行は、以下のいずれかに該当した場合に停止します。
① 検察官が被疑者を起訴した場合(刑事訴訟法第254条第1項)
管轄違いまたは公訴棄却の裁判が確定したときは、その時点から公訴時効期間が再度進行します。
② 検察官が共犯者を起訴した場合(同条第2項)
共犯者に対する判決が確定したときは、その時点から公訴時効期間が再度進行します。
③ 犯人が国外にいる場合(同法第255条第1項前段)
犯人が日本に帰国したときは、その時点から公訴時効期間が再度進行します。
④ 犯人が逃げ隠れているため、有効に起訴状の謄本の送達または略式命令の告知ができなかった場合(同項後段)
犯人に対して送達または告知ができる状態になったときは、その時点から公訴時効期間が再度進行します。弁護士との電話相談が無料でできる
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3、【民事】暴行に関する損害賠償請求権の消滅時効
「消滅時効」とは、行使されずに一定の期間が経過した権利を消滅させる制度です。
暴行に関する損害賠償請求権にも消滅時効が適用され、一定の期間が経過すると損害賠償を請求できなくなります。
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(1)損害賠償請求権の時効期間は「3年」または「20年」
暴行に関する損害賠償請求権は、以下のいずれかの期間が経過した場合に完成するのが原則です(民法第724条)。
- ① 被害者または法定代理人が、損害および加害者を知った時から3年
- ② 不法行為の時から20年
もっとも、暴行のうち生命や身体を侵害する損害賠償請求権と評価されれば、「知った時から5年」に期間が延長される規定も存在します(民法第724条の2)。
次の項目で解説する「完成猶予」または「更新」がなされずに時効期間が経過した場合には、暴行に関する損害賠償を請求することはできなくなります。 -
(2)損害賠償請求権の時効完成を阻止する方法
暴行(不法行為)による損害賠償請求権の消滅時効の完成を阻止する場合、時効の「完成猶予」または「更新」の効果を生じさせる必要があります。
① 時効の完成猶予
消滅時効の完成が一時的に猶予されます。
<完成猶予事由の例>
- 訴訟の提起
- 支払督促の申し立て
- 調停の申し立て
- 強制執行
- 仮差し押さえ
- 仮処分
- 内容証明郵便等による催告
- 協議の合意
② 時効の更新
消滅時効期間がリセットされ、ゼロからカウントし直されます。
<更新事由の例>
- 訴訟の判決等による権利の確定
- 調停成立
- 強制執行の終了
- 権利の承認
消滅時効の完成を阻止するためのもっとも手軽な方法は、内容証明郵便の送付です。内容証明郵便が被害者から加害者に送付されると、損害賠償請求権の消滅時効の完成が猶予されることになります(民法第150条第1項)。
ただし、内容証明郵便の送付による消滅時効の完成猶予の効果は、到達時から6か月間限定です。また、再度内容証明郵便を送付しても、2度目の完成猶予は認められません(同条第2項)。
被害者がさらに消滅時効の完成を先延ばしにしたい場合は、猶予期間中に訴訟の提起などを行う必要があります。
4、暴行罪で逮捕されたらどうなる?
暴行罪で逮捕されると、起訴されて刑事裁判で有罪判決を受ける可能性があります。
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(1)逮捕後の刑事手続きの流れ
暴行罪で逮捕された後の刑事手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。
① 逮捕~起訴前勾留
逮捕と起訴前勾留を合わせて、最長23日間身柄が拘束されます。その間、警察官や検察官による取り調べを受けることになります。
逮捕の期間は最長で当初72時間(3日間)までで、起訴前勾留に移行すると、原則として家族との面会も認められます。弁護人または弁護人になろうとする者に限り、逮捕期間中から制限なく面会することができます。
② 起訴・不起訴
起訴前勾留期間が満了するまでに、検察官が被疑者を起訴するかどうか判断します。
犯罪の嫌疑がないか、または嫌疑不十分であれば不起訴となります。また、犯罪の嫌疑が確実であっても、検察官の判断によって不起訴(起訴猶予)となることもあります。
暴行罪については、略式起訴が選択されることもあります。被疑者が略式起訴に同意すると、簡易的な手続きによって罰金または科料の刑罰が科されます。
③ 起訴後勾留~公判手続き
被疑者が正式起訴された場合は、公判手続き(刑事裁判)によって有罪・無罪および量刑が審理されます。また、呼称が「被告人」へと変わります。
起訴された被告人の身柄は引き続き拘束されますが、裁判所に請求すれば保釈が認められることもあります。
公判手続きでは、検察官がすべての犯罪要件を立証する責任を負います。被告人としては、罪を認めて情状酌量を求めるか、または罪を否認して争うことになります。
④ 判決~刑の執行
公判手続きの審理が熟した段階で、裁判所が被告人に判決を言い渡します。無罪であれば、被告人は直ちに釈放されます。
判決に対しては控訴・上告による不服申し立てが認められています。控訴・上告の手続きを経て判決が確定し、有罪であれば刑が執行されます。
ただし、執行猶予が付されている場合には、一定の期間刑の執行が猶予されます。 -
(2)暴行罪の量刑の目安
暴行罪の法定刑は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」とされています。
初犯であれば、罰金刑または執行猶予付きの懲役刑となるケースが多いですが、実刑判決となる可能性も否定できません。
再犯の場合は、1年から2年程度の実刑判決となる可能性があるでしょう。
5、暴行事件で逮捕されそうなときは弁護士へ相談を
暴行事件を起こしてしまった場合は、被害者との示談を成立することや、速やかに自首することなどが大切になります。
示談成立や自首の事実は、刑事手続きにおいて被疑者・被告人に有利な事情として考慮され、不起訴や執行猶予の可能性が高まるためです。
弁護士にご相談いただければ、被害者との示談交渉を代行するほか、自首やその後の取り調べへの対応についてもサポートいたします。
暴行事件を起こしてしまった方の弁護人・代理人として、過度な刑事責任や損害賠償責任を負わないようにできる限り尽力いたします。
暴行事件を起こしてしまい、逮捕されるのではないかと不安に感じている方は、速やかに弁護士へご相談ください。
6、まとめ
暴行罪の公訴時効は犯罪行為が終わった時から3年で成立し、それ以降暴行罪で起訴されることはなくなります。
また、暴行に関する不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は5年です。被害者または法定代理人が、損害および加害者を知った時から消滅時効期間が進行します。
上記の時効期間が経過するまでは、暴行について刑事・民事上の責任を問われる可能性があるので、なるべく早く弁護士へ相談されることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、刑事事件に関するご相談を随時受け付けております。暴行事件や傷害事件を起こしてしまった方は、お早めにベリーベスト法律事務所にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所の刑事事件チームマネージャーを務めております。
刑事事件チームには無罪判決を獲得した弁護士や、検察官出身の弁護士が複数在籍しております。チーム内では日々何が最善の弁護活動であるかを議論し、追及しています。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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