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刑事弁護の用語集

未必の故意とは

読み方 みひつのこい

未必の故意(みひつのこい)とは、犯罪事実に対する確定的な認識・認容はないものの、その蓋然性を認識・認容している状態を指す法律用語です。
よりかみ砕いて言えば、「犯罪行為による被害を意図し、または確実に発生するとは考えていないが、被害が発生する可能性はあると思っていて、それでも構わないと考えている心理状態」をいいます。

犯罪が成立するためには、原則として「犯罪の故意」が必要です。(なお、法律上明文の定めがある場合には、例外的に過失のみでも処罰される場合があります(過失犯)。)

故意とは、犯罪が実現することについての認識および認容をいいます。

たとえば、犯人がナイフで被害者を刺して殺してしまう殺人罪のケースを考えます。
被害者を刺したら「被害者の死」という結果が発生することについて、犯人がそれを認識し、かつ「それでもいい」(認容)と考えていた場合に、はじめて殺人罪としての責任を問うことができるというのが「故意」の考え方です。

しかし、ひと口に「故意」といっても、犯人がどの程度の確実性をもって犯罪事実を認識・認容していたかは、ケースバイケースで幅があります。
そのため、「故意があった」と認定するためのボーダーラインが問題になるのです。

犯罪事実の認識・認容の程度は、大きく3つに分かれます。

一つ目は、犯人が犯罪結果の発生を意図していた場合です。
たとえば被害者を殺そうと思って、心臓付近の胸部にナイフを突き立てる場合などがこれに該当します。
犯人が犯罪結果の発生を意図していた場合は、確定的故意犯の典型的なケースであって、問題なく故意が認定されます。

二つ目は、犯人は犯罪結果の発生を意図していたとまではいえないものの、ほぼ確実に発生するだろうと考えていた場合です。
たとえば、被害者を殺すことを意図していなかったとしても、心臓付近の胸部にナイフを突き立てれば被害者は確実に死んでしまうであろうことは、一般的な常識に照らせばわかるでしょう。
この場合には、犯罪結果の発生を意図していた場合と同様に、確定的故意が認められます。

三つめは、犯罪結果が発生するかどうかはわからなかったものの、発生する可能性はあると思っていて、それでも仕方がない・構わないと考えていた場合です。これが「未必の故意」のケースです。
たとえば、被害者と口論の末にかっとなった犯人が、鈍器で被害者の頭部を強く打ち付け、結果として被害者が死んでしまったとします。
この場合、犯人は「被害者を殺してやろう」とまでは思っていなかったかも知れません。
実際、鈍器で被害者の頭部を殴ったとしても、被害者が一命を取り留めるケースは相応に存在します。
しかし、鈍器で被害者の頭部を殴った時点で、「被害者が死んでしまっても構わない」と考えていたならば、犯人には犯罪事実への認識・認容があったといえます。
この場合には、「未必の故意」が認められ、故意犯が成立します。

未必の故意があるケースは、確定的故意があるケースに比べると、犯人の犯罪実現に対する意思が弱い場合といえます。
そのため、刑事裁判における量刑の判断においては、未必の故意しかないことは、被告人にとって有利な情状の一つとして斟酌される傾向にあります。

未必の故意は、交通事故の場面でも時折問題になります。

通常、交通事故によって被害者が死傷した場合には、加害者は過失犯(過失運転致死傷罪など)によって処罰されます。
しかし、加害者があおり運転などで交通事故を引き起こした場合や、被害者を撥ねた後も来るまで引きずった場合などにおいて、加害者が「被害者がケガをしたり、死んだりしても構わない」と考えていたとすれば、未必の故意による殺人罪・傷害罪が成立します。

実際に、大阪地裁平成22年10月15日判決では、会社員を車で撥ねた後、約3キロメートルにわたって車で引きずって死亡させた事案において、未必の故意による殺人罪が認定され、懲役15年の判決が言い渡されました。

過失運転致死傷罪などの過失犯よりも、未必の故意による殺人罪・傷害罪・傷害致死罪が認定される場合の方が、法定刑が非常に重くなります。
現行法上、各犯罪の法定刑は以下のとおりです。
過失運転致死傷罪 7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金(自動車運転処罰法第5条)
殺人罪 死刑または無期もしくは5年以上の懲役(刑法第199条)
傷害罪 15年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑法第204条)
傷害致死罪 傷害致死罪 3年以上の有期懲役(刑法第205条)

また、交通事故のケースでは、加害者が故意により事故を起こした場合、加害者が保険契約者となっている任意保険の保険者から、保険金が支払われない可能性があります(故意免責)。
そのため、もし加害者の行為について、未必の故意による故意犯が認定されると、加害者は被害者に対する損害賠償を自分の資金だけで行わなければならなくなることもあるのです。

この場合、加害者にとっての賠償負担が非常に大きくなる一方で、被害者としても加害者が資力不足だと支払いを受けられないため、損害賠償を請求する際に注意する必要があります。
監修者
萩原 達也
弁護士会:
第一東京弁護士会
登録番号:
29985

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