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その行為「職権乱用」の罪に該当する? 職権濫用罪の成立要件と処罰
一般的に職権乱用という言葉は、地位や権限を悪用し、自分に都合よく物事を進めたり利益を得たりする意味で使われます。 たとえば民間企業で働く役職者が、そりが合わない部下に不利益な扱いをすることを、職権乱用だということがあります。
しかし、国語辞典によれば、職権乱用の本来の意味は、公務員が職務についての権限を越えたり、悪用したりして国民の権利を侵すことを指すとされています。同様に、職権乱用が犯罪として成立するのは、公務員のケースに限られます。
本コラムでは、公務員が職権乱用行為をした場合に成立する犯罪やその要件、罰則などについて、事例を踏まえて解説します。あわせて、公務員以外の方が職権を利用した場合にどのような犯罪にあたるのかも解説していきます。
1、職権乱用とはどのような犯罪なのか
公務員としての立場や権限を利用して犯罪を起こした場合は、職権乱用(法律上は「濫用」という漢字が用いられます)の罪に問われる可能性があります。では、どういった行為が職権乱用の罪に該当するのでしょうか。詳しくみていきましょう。
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(1)公務員職権濫用罪
「公務員がその職権を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害したとき」は、公務員職権濫用罪にあたります。違反した場合の罰則は2年以下の懲役または禁錮です(刑法193条)。
刑法193条の「職権」とは、公務員の一般的な職務権限のうち、職権行使の相手方に対し法律上、事実上の負担や不利益を生じさせるものを指し、必ずしも法律上の強制力をともなう必要はありません。「濫用」とは権限があることを利用し、違法、不当な行為をすることです。「義務のないこと」とは、法律で定められた義務がないことを指します。
たとえば、警察官が電話会社に対して事件の捜査だとうそをつき、気に入った相手の個人情報を調べさせるといった行為が該当すると考えられます。
「権利の行使を妨害」したとは、法律上正当な権利があるのにその権利の行使を妨げる行為をいいます。
たとえば、すでに決定している補助金の交付を虚偽の理由を用いて取りやめにする行為や、誰でも利用できる公共施設への入場を正当な理由なく拒む行為などが該当します。 -
(2)特別公務員職権濫用罪
「裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したとき」は、特別公務員職権濫用罪にあたります。罰則は6か月以上10年以下の懲役または禁錮です(刑法194条)。
公務員職権濫用罪と比較すると、対象になる公務員(職種)の範囲が狭くなります。具体的には、裁判官、検察官、警察官、裁判所書記官、検察事務官などが該当します。
また、職権を乱用して罪になる行為は、逮捕または監禁行為に限定されます。
たとえば、検察官が証拠を捏造し、逮捕するような行為が考えられるでしょう。
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2、職権乱用で刑事事件となった具体例
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(1)職権乱用が認められたケース
ひとつめのケースは、裁判官が刑務所長らに対し、司法研究や調査などと偽って過去の受刑者に関する身分帳簿の閲覧、写しの交付を求めて応じさせた事案です。
判決では、裁判官は職責の遂行上、正当な目的があれば身分帳簿の閲覧などが許され得る立場にあるため、裁判官からの要求は刑務所長らに対して、これに応じる事実上の負担を生じさせる効果があるとしました。
したがって正当な目的もなく調査行為を装って応じさせる行為は、職権を乱用して義務のないことを行わせたとして、職権乱用が認められました(最高裁判所判決 昭和57年1月28日)。
ふたつめのケースは、裁判官が担当している事件の被告人(女性)に対して、交際を求める意図で、午後8時40分頃、「これから弁償のことでちょっと会えないかな」などと電話をかけて喫茶店に呼び出し同席させた事案です。
判決では、裁判官が刑事事件の被告人に出頭を求める行為は一般的な職務権限であり、このケースでは時間や場所が異常ではあったものの、女性に対して事件に関する出頭を求められたと信じさせる行為であったことから、職権を乱用して義務のないことをさせたと認めました(最高裁判所判決 昭和60年7月16日)。 -
(2)職権乱用が認められなかったケース
警察官ふたりが、職務として日本共産党の幹部に関する警備情報を得るために、幹部宅の電話を盗聴した事案です。
警察官らは盗聴行為全体を通じて、警察官による行為でないことを装う行動をとっていました。そのため判決では盗聴が電気通信事業法に触れる違法な行為であるとは認めながらも、当該行為は職権を乱用したものとはいえず、公務員職権濫用罪にはあたらないとしました(最高裁判所判決 平成元年3月14日)。
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3、職権を乱用し暴力行為などに及んだ場合に成立する犯罪
公務員が職権を乱用し、暴力行為などに及んだ場合は厳しい罰則が設けられています。
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(1)特別公務員暴行陵虐罪
裁判官、検察官、警察官、刑務所の看守、護送する者などが、職務にあたり被疑者や被告人などに「暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたとき」は、特別公務員暴行陵虐罪に問われます。罰則は7年以下の懲役又は禁錮です(刑法195条)。
「暴行」とは、殴る、蹴る、押さえつけるなどの行為が典型的です。
「陵辱若しくは加虐の行為」とは、暴行以外の方法で精神的・肉体的に苦痛を与える行為を指します。
たとえば、警察官が現行犯逮捕の際に被疑者を激しく押さえつける、取調室やパトカー内で被疑者にわいせつな行為をする、刑務所の看守が受刑者に暴力をふるうなどの行為が挙げられます。
具体的なケースとしては、拘禁中の少年に対して、シーツを頸部に巻き付け自ら締め付けて死ぬように迫る、遺書を作成させて読み上げさせるなどの行為をしたとして、少年院に勤務する法務教官に有罪判決が言い渡されたものがあります(広島高裁判決 平成23年6月30日)。 -
(2)特別公務員職権濫用等致死傷罪
公務員が職権を乱用した結果、人を死傷させた場合、特別公務員職権濫用等致死傷罪に問われます。
人を死傷させるという結果は、一般人がおこす事件と変わりありませんが、通常の傷害(致死)罪などよりも重い刑を科すと規定しています(刑法196条)。
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4、公務員でなければ職権乱用の罪は適用されない?
職権乱用と名のつく犯罪は公務員のみに適用されますが、一般の会社員や団体職員などであっても、職権を利用した行為が職権乱用の罪とは別の犯罪になり得るケースがあります。
たとえば、他人のために事務を処理する者が、自己または第三者の利益のため、あるいは会社などに損害を与える目的で、任務に背き財産上の損害を与えると「背任罪」にあたります。
背任罪の主体は財産と関係のある事務処理を任されている人なので、その立場を利用し、職権を利用しているといえるでしょう。典型的なのは不正融資や不良貸し付けです。取締役や監査役など、会社法で定める人が背任の罪を犯した場合は「特別背任罪」にあたります。
罰則は、背任罪が5年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑法247条)、特別背任罪が10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金または併科です(会社法960条)。
また、生命、身体、自由、名誉、財産に対し害を加える旨を告知しての脅迫や暴行を用いて義務のないことをさせたり、権利の行使を妨害したりすると「強要罪」に問われます。
たとえば、上司が部下に対して恫喝し土下座で謝罪をさせるといった行為は、上司という立場を利用した行為だといえるでしょう。強要罪の罰則は3年以下の懲役です(刑法223条)。
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5、まとめ
職権乱用の罪は公務員に対して適用されるものであり、刑法では収賄などと同じ「汚職の罪」として規定されています。公務員が職務上の立場や権限を利用して該当する行為をした場合は、逮捕される可能性もあるといえるでしょう。
公務員ではない場合は職権乱用の罪に問われることはないものの、職権を利用した行為の内容によっては背任罪、強要罪などの罪に問われる可能性はあります。
いずれのケースでも、任意で取り調べを受けている場合や、逮捕されてしまった場合は弁護士へ相談しましょう。早期の弁護活動が、逮捕や勾留の回避につながります。
ベリーベスト法律事務所では、刑事事件を起こしてしまった方や、そのご家族からのご相談をお受けしています。まずはご連絡ください。
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