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脱税の指摘から横領が発覚! 自分が経営者の場合でも罪に問われるの?
令和2年6月に国税庁は、「令和元年度 査察の概要」にて、税務当局による査察で令和元年中に脱税が発覚し、当局が検察庁に告発した件数が116件であり、脱税総額(告発分)は93億円であったと公表しました。また、同公表によれば、令和元年中の判決状況は、一審判決はすべての事件において有罪判決が下され、そのうち5人には実刑判決が下されたとのことです。
税務調査では経理の不正などが発覚しやすく、脱税を指摘されれば刑罰が下されてしまう事態に発展します。さらに、脱税が発覚して全容が解明される過程で横領が発覚するケースも少なくありません。たとえ自らが経営者であっても横領の容疑で罪に問われることがあるのです。
このコラムでは、脱税の指摘から横領が発覚した場合に、自分が経営者でも罪に問われる可能性があるのかを紹介しながら、刑事事件の流れや解決策について弁護士が解説します。
1、脱税や横領が発覚したらどのような犯罪に問われる?
税務調査で不正経理などが発覚すると「脱税」や「横領」が問題となることがあります。まずは「脱税」や「横領」がどのような犯罪になるのかをみていきましょう。
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(1)脱税とは
脱税とは、納税の義務があるのに、故意に所得を申告しない、または少なく偽装する等の方法で納税を免れることをいいます。
たとえば、以下のようなケースが脱税行為にあたるでしょう。- 課税を逃れるため、収入があったことを故意に隠している
- 税額を抑える目的で実際よりも少ない収入額を申告する
いわゆる「所得隠し」や「課税逃れ」は脱税と同義です。脱税は所得税法や法人税法といった各種の税法によって禁止されている行為です。発覚すれば加算税や延滞税といった付帯税の納付が課せられるほか、悪質な事案は税務当局の告発によって刑事罰が科せられるおそれがあります。
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(2)横領とは
横領とは刑法に定められた犯罪です。横領行為の態様や対象となった財物の所有権などによって、次の3つの罪名に分類されます。
●横領罪:刑法第252条
自己の占有する他人の財物を横領した場合に成立する犯罪で、ほかの横領と区別するために「単純横領罪」とも呼ばれます。
法定刑は5年以下の懲役です。
●業務上横領罪:刑法第253条
業務上自己の占有する他人の財物を横領した場合に成立します。不正経理などのように企業の会計に絡んだ横領は業務上横領罪に問われるケースが多いでしょう。
法定刑は10年以下の懲役で、単純横領罪と比べるとより重い刑罰が規定されています。
●遺失物等横領罪:刑法第254条
遺失物や漂流物など、占有を離れた他人の財物を横領した場合に成立する犯罪です。
「占有離脱物横領罪」とも呼ばれ、1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料が科せられます。
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2、自分が経営者でも告訴・告発されるのか
会社の経営者であれば、会社のお金を横領しても特に問題がないように感じるかもしれません。ところが、たとえ経営者であっても会社の財物を横領すれば告訴・告発を受けて罪に問われるおそれがあります。
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(1)経営者でも告訴・告発が避けられないおそれがある
会社は経営者個人の所有物ではありません。法人として別人格をもつため、会社のお金を着服すれば、たとえ経営者であっても業務上横領罪の成立は避けられなくなります。
会社の株主や債権者がこれに気付き、告訴・告発をすれば刑事事件として立件されるおそれもあるため、自らが経営者であれば罪に問われないというわけではありません。 -
(2)脱税について告発を受ける可能性も高い
横領を目的に不正な経理をしていたケースでは、同時に脱税をはたらいていたという事案が多く報告されています。売り上げを計上せず着服する、架空の経費を計上して確定申告の課税所得を下げるといった行為は脱税につながるため、税務調査によって判明した場合、税務当局からの告発を受ける可能性が高いでしょう。
また、これらの行為を知る社員が税務署に密告し、税務調査を受けて脱税が発覚するケースも少なくないようです。さらには、重加算税の納付がなければ刑事事件として立件されて逮捕されるというおそれも十分にあります。
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3、経営者が問われる可能性がある横領罪以外の罪
経営者が主導となる不正経理は、横領以外の罪に問われる可能性もあります。
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(1)背任罪・特別背任罪
自己または第三者の利益や会社に損害を与える目的で任務に背く行為をはたらいて会社に損害を与えた場合は、刑法第247条の「背任罪」が成立します。
さらに、背任罪にあたる行為を会社の取締役などがはたらいた場合は、会社法第960条の「特別背任罪」が成立します。
背任罪の法定刑が5年以下の懲役または50万円以下の罰金であるのに対し、特別背任罪の法定刑は10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはこれらが併科されるという点で、大きな違いがあるといえるでしょう。 -
(2)贈賄罪
不正な経理処理によって作った資金、いわゆる「裏金」を使って便宜を得る目的で公務員に賄賂を贈った場合は刑法第198条の「贈賄罪」が成立する可能性があります。
相手が公務員ではなく一般企業の取締役に対しても、不正の請託を行い、利益を供与し、またはその申し込みもしくは約束をした場合には、会社法第967条2項の定めによって贈賄罪が成立します。相手の立場にかかわらず贈賄罪に問われてしまう可能性があるといえるでしょう。 -
(3)詐欺罪
不正経理によってお金を得る過程で、不正な申請書類を示して経理担当者をだますなどの行為があるケースは、横領罪・業務上横領罪ではなく別の罪に問われる可能性があります。
具体的には、刑法第246条の「詐欺罪」が成立することがあり得ます。
詐欺罪として有罪になった場合は、10年以下の懲役に処されます。
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4、横領の発覚から逮捕に至るまでの流れ
税務調査で不正経理が発覚して横領が明らかになった場合は、刑事事件の容疑者として逮捕される可能性があります。横領の発覚から逮捕に至る流れをみていきましょう。
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(1)被害届、告訴・告発状の受理
会社側から被害届や告訴・告発状が提出されると、警察・検察庁の捜査が始まります。捜査機関から「被害届が提出された」「告訴を受理した」といった情報を知らされるわけではありません。端緒をつかんだ捜査機関は、秘密裏に裏付け捜査を進めます。
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(2)捜査機関による逮捕状の請求
裏付け捜査を進めている段階では、容疑をかけられているとしても直ちに逮捕されるわけではありません。裏付け捜査によって容疑が固まれば、捜査機関は裁判所に逮捕状を請求します。
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(3)逮捕
逮捕状が発付されると、令状に基づいた通常逮捕が執行されます。一般的には突然逮捕されることになりますが、逮捕直前にまで捜査が進んでいれば、逮捕に先立ち任意での取り調べが行われることもあります。
逮捕されると、警察段階で48時間、検察官の段階で24時間を上限とした身柄拘束を受けたうえで、勾留が認められればさらに最長20日間の身柄拘束を受けてしまうので、社会生活への影響は甚大です。
さらに検察官が起訴すれば被告人として勾留されることになり、判決次第では刑罰が下されます。
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5、脱税・横領の罪に問われたら速やかに弁護士に相談を
税務調査から不正経理が発覚し、脱税や横領などの犯罪を疑われてしまう事態に発展した場合は、直ちに弁護士への相談を検討してください。
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(1)会社との示談交渉を進める
会社のお金を横領してしまった場合は、会社との示談交渉を進めて許しを得るのが最善策となるでしょう。
横領事件は、着服した金銭を回復させることで実質的な損害の解消が可能です。実害の解消を重視する告訴・告発人も多いので、まずは真摯な謝罪と着服金の返還により許しが得られるよう、弁護士を代理人として示談交渉を進めることをおすすめします。 -
(2)告発人と交渉の場をもつ
脱税・横領が事件に発展するケースでは、直接の被害者にはなり得ない人物が告発人となって糾弾を求める事例も少なくありません。単なる正義感が原因となることもありますが、会社や経営者に対して批判的な心情をもつ告発人のほうが多数となるケースも考えられます。
弁護士に依頼して告発人との交渉の場をもち、相手が告発に至った理由や背景を理解したうえで取り下げを求めることで、捜査が終結する可能性があります。 -
(3)逮捕後の早期釈放・刑罰の軽減が期待できる
逮捕されてしまった場合でも、弁護士に依頼すれば早期釈放や刑罰の軽減を目指した弁護活動が期待できます。長期の身柄拘束を防ぐには、弁護士による勾留請求の阻止や逃亡・証拠隠滅のおそれがないことの主張も有効です。
検察官が起訴に踏み切った場合でも、保釈請求による身柄解放や、刑事裁判において有利となる証拠の収集によって刑罰が軽減できる可能性があるので、直ちに弁護士に相談してサポートを依頼しましょう。
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6、まとめ
たとえ自分が経営する会社であっても、脱税・横領をはたらけば厳しい刑事罰が科せられるおそれがあります。追徴課税の納付や会社との示談交渉によって身柄拘束や厳しい刑罰を回避できる可能性があるのです。
脱税や横領の容疑をかけられてしまった場合は直ちに弁護士に相談してください。刑事事件に対応した実績が豊富なベリーベスト法律事務所であれば、過剰に重すぎる処罰を受けることがないよう、適切な弁護活動を行います。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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