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準備をしたら犯罪? 強盗予備罪はどのような行為で成立するのか
刑法犯の中でも一定の重大犯罪については、犯罪の準備行為をしただけで処罰の対象となるものがあります。刑法第237条が定める「強盗予備罪」もそのひとつです。
「強盗の実行に必要な指揮を調達した」「強盗するために凶器を購入した」などの行為が該当する犯罪ですが、実際には強盗行為におよんでいないのに逮捕されてしまう可能性はあるのでしょうか?
本コラムでは強盗罪とは何かを解説したうえで、強盗予備罪にあたるケースや強盗未遂罪との違いなどについて解説します。
1、強盗予備罪の成立要件
強盗予備罪は簡単にいうと強盗の準備をする犯罪ですが、聞き慣れない犯罪だと感じる方も多いでしょう。そこでまずは強盗罪がどのような犯罪なのかを解説したうえで、強盗予備罪が成立するケースについて見ていきます。
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(1)強盗罪とは
強盗罪とは、暴行や脅迫を用いて他人の財物を強取する犯罪です(刑法第236条)。強盗罪が成立するには以下の要件を満たす必要があります。
- 実行行為:相手方の反抗を抑圧する程度の暴行や脅迫を用いて「人の財物を強取すること(刑法第236条1項)」または「財産上不法の利益を得るか、他人に得させること(刑法第236条2項)」
- 結果:財物が自己または他人の占有に移ること。または財産上の利益を得るか、第三者に得させること
- 因果関係:強盗の実行行為と結果が論理的に結びつく関係
- 故意:強盗をする認識・認容があること
- 不法領得の意思:強取または不法に得た利益を自分の自由に扱おうとする意思があること
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(2)強盗予備罪とは
強盗予備罪は、強盗の罪を犯す目的で、強盗の予備をする犯罪です(刑法第237条)。予備とは次のような行為を指します。
- 強盗に用いる凶器を携帯して被害者宅に行き、表戸を叩いて家人を起こす行為
- 被害者方や強盗先の店舗の下見に行く行為
- 凶器や金を入れる鞄を準備する
単なる計画や謀議だけでは足らず、強盗の決意を外部的に表現するような行為がなされていることを要すると解されています。
「強盗の罪を犯す目的で」とあるように、強盗をする明確な意思があることが求められます。その意思は「もしかしたら強盗をするかもしれない」といった程度では足りず、確定的なものでなければなりません。
また自らが強盗をする目的を持つ必要があるため、たとえば知人が強盗をする手助けをするために計画や準備をした場合は、強盗予備罪が成立しないとの見解があります。
ただし、このように解した場合でも、このケースで知人が実際に強盗をしたときには、手助けをした本人は強盗の幇助罪(刑法第62条)に問われるでしょう。 -
(3)刑罰の内容
強盗罪の刑罰は「5年以上の有期懲役」です。有期懲役とは1か月以上20年以下の懲役を指す(刑法第12条)ので、有罪になると最長で20年の懲役に処せられます。
強盗予備罪の刑罰は「2年以下の懲役」です。罰金刑などはありませんので、実際には強盗をせず、準備をしただけで刑務所へ収監される可能性があります。
2、窃盗行為から強盗予備罪に問われる場合もある
窃盗行為をしたつもりでも、事後強盗罪や強盗予備罪に問われるケースがあります。
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(1)窃盗が結果的に強盗になるケース
窃盗罪(刑法第235条)は「他人の財物を自分の物にしてしまう」という意味で強盗罪と共通する犯罪ですが、強盗罪とは異なり財物奪取に向けた暴行・脅迫が要件とされていません。
しかし窃盗行為をしたが、財物の取り返しを防ぎ、逮捕を免れ、または証拠を隠滅するために暴行・脅迫を用いたときは、強盗罪として扱われます。これを事後強盗罪といいます(刑法第238条)。
具体的には、以下のようなケースが該当するでしょう。- 万引きをしている様子を店員にとがめられたため、店員を強く押し倒して逃亡した
- スリに気づいて追跡してくる被害者に対して暴行を加えた
- 空き巣に入ったが帰宅した住人と鉢合わせしたため殴って逃亡した
窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。これに対して事後強盗罪は強盗罪として扱われるため、法定刑は「5年以上の有期懲役」と非常に重くなっています。
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(2)事後強盗罪から強盗予備罪が成立するケース
強盗予備罪には「強盗の目的」が必要なので、当初の目的が窃盗である事後強盗罪において強盗予備罪が成立するかどうかについては争いがあります。
ただし事後強盗罪において強盗予備罪の成立が認められたケースもあるため、個別の事件に関しては慎重な判断を要するため、注意が必要です。
たとえば住人の留守中を狙って窃盗をしたものの、住人が帰宅したときに備えて凶器を準備しておくなど暴行・脅迫をする意思が強固なものだったケースなどには、強盗予備罪が成立する可能性があります。
3、強盗予備罪と未遂罪の違い
犯罪行為の実行を開始したが、完全な実行にはいたらなかった場合を「未遂」といいます。
強盗予備罪と強盗の未遂罪は、「結果的に強盗の目的が達成されていない」という点で共通していますが、次の違いがあります。
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(1)実行行為に着手したかどうか
強盗の未遂罪(刑法第243条)は、強盗の実行行為に着手したが、金品などを奪うという目的を達成できなかった場合に成立します。強盗罪では被害者の反抗を抑圧する程度に暴行・脅迫を加えた時点で「実行行為に着手した」とみなされます。
たとえばコンビニの店員にナイフを突きつけて「レジの中の金を全部出せ」と脅したが、店員が速やかに警察へ通報したため何も奪わずに逃走したようなケースが考えられるでしょう。
これに対して強盗予備罪は、強盗の目的で準備行為をしたが、まだ強盗の実行行為には着手していない場合に成立します。
つまり両者の大きな違いは強盗行為に着手したかどうかであって、強盗予備罪は強盗の未遂罪よりも前の段階にあるといえるでしょう。 -
(2)刑罰の違い
強盗の未遂罪の法定刑は強盗罪と同じ「5年以上の有期懲役」が適用されます。刑法第43条の未遂減免の規定により刑が減軽された結果、執行猶予が付く可能性もありますが、原則として執行猶予が付きません。執行猶予が付く前提条件として、3年以下の懲役の言い渡しを受ける必要があるからです。
一方、強盗予備罪の法定刑は2年以下の懲役です。刑の長期が強盗の未遂罪よりも大幅に短いのはもちろん、執行猶予が付く可能性もあります。
4、強盗予備罪に問われたときに弁護士に相談すべき理由
強盗予備罪に問われたら速やかに弁護士へ相談しましょう。
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(1)早期の身柄解放を目指す
逮捕されると72時間以内に警察・検察官の取り調べがあり、引き続き捜査の必要があれば検察官が裁判官に対して勾留請求します。勾留されると最長で20日間もの身柄拘束が続くため、日常生活へ与える影響が甚大です。
場合によっては会社から懲戒処分などの不利益な扱いを受けるおそれがあるでしょう。
これを回避するため、弁護士は検察官が勾留請求しないように、逃亡や証拠隠滅のおそれがないこと、家族の監督に期待できることなどを主張します。
もし勾留されてしまった場合でも、裁判官に対する準抗告や勾留の取り消し要求など、1日でも早い身柄解放に向けて活動します。 -
(2)執行猶予付き判決を目指す
強盗罪は強度な暴行・脅迫を加えて財物を奪う重大犯罪なので、予備罪にも懲役刑しか規定されていません。ただし法定刑の上限が2年であるため、執行猶予が付く可能性は残されています。
弁護士が初犯であることや深く反省しており再犯のおそれがないこと、仲間との関係性を断つなどして更生に向けた具体的活動をしていることなど、よい事情を積み上げて裁判官へ主張することにより、判決に執行猶予が付く可能性が生じます。 -
(3)強盗予備罪の成立を争う
強盗の目的はなかった場合や、暴行・脅迫がなく、窃盗罪が成立するにとどまる場合など、そもそも強盗予備罪の成否が問題となるケースも考えられます。
弁護士が法的観点から主張することで不起訴処分となる可能性や、窃盗罪となり罰金刑で済む可能性もでてくるでしょう。
5、まとめ
実際には強盗行為をしていなくても、強盗をするという明確な意思のもと計画を立てて、凶器を準備するなどした場合には強盗予備罪に問われる可能性があります。
未遂罪との境界線や事後強盗罪にあたるかどうかなど難しい判断を要する問題なので、逮捕の有無や今後の見通しは個別の事件によって大きく変わります。自分ひとりで対応するのは困難なので、強盗予備罪の疑いをかけられた場合は早急に弁護士へ相談しましょう。
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