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虐待に時効はあるの? 過去の虐待で訴えられた場合に問われる罪とは
厚生労働省によれば、平成30年度における児童相談所での児童虐待相談対応件数は15万9850件と、過去最多を記録しています。相談にいたらなかった児童虐待や、児童以外への虐待を含めれば、全国で数え切れないほどの虐待が起きているといっていいでしょう。
もしも自身が過去にした虐待で、被害者から「刑事事件として訴える」といわれた場合、虐待がどのような犯罪にあたるのか、時効は成立しないのかといったことを知りたい方もいらっしゃるでしょう。
本コラムでは虐待によって成立する可能性のある犯罪と刑罰、公訴時効について解説します。
1、虐待における時効の起算日
まずは虐待事件の時効の起算日について解説します。「時効」には刑事上の時効と民事上の時効がありますが、ここでは刑事上の時効について確認しましょう。
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(1)時効とは
刑事上の時効とは、「公訴時効」と言われているものです。公訴時効とは、一定の期間が経過することにより、検察官が起訴できなくなる制度のことです。つまり公訴時効が成立すると裁判にかけられず、処罰もされません。
公訴時効は犯罪の法定刑ごとに年数が定められています(刑事訴訟法第250条)。虐待がどの犯罪にあたるのかにより公訴時効の成立時期が変わるわけですが、具体的な年数は次章で解説しましょう。 -
(2)時効の起算日
公訴時効は犯罪行為が終わったときから進行します(刑事訴訟法第253条)。犯罪行為というのは、犯罪にあたる行為があってから、それによる結果が発生したときまでを含むと解されています。
たとえば子どもに殴る、蹴るなどの暴力的な虐待をして暴行罪となった場合、公訴時効の起算日は暴力をふるったときです。一方、同様の虐待が原因で子どもが数日後に死亡して傷害致死罪となった場合、暴力をふるったときではなく死亡したときが起算日となります。
このように公訴時効の起算日はケースによって異なり、難しい判断を要する問題です。とりわけ虐待の場合は、どの行為が犯罪なのか、いつまで虐待があったのか、行為から後日に心身の障害が生じた場合にはいつを結果発生日とするのかなど、複数の要素が関係します。個別のケースについては弁護士へ相談することをおすすめします。
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2、虐待に該当する可能性のある犯罪と時効
虐待は行為の内容によって、刑法に規定された犯罪に該当する可能性があります。それぞれの犯罪が成立する要件と刑罰、公訴時効について見ていきましょう。
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(1)暴行罪
暴行を加えたが人を傷害するに至らなかった場合は暴行罪が成立し「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」に処せられます。(刑法第208条)。暴行罪の公訴時効は「3年」です。
暴行とは人の身体に向けた有形力の行使をいいます。蹴る、たたく、踏みつけるなどの直接的な暴力行為だけでなく、水をかける、身体の近くへ物を投げつけるなどの行為も暴行になりえます。
暴行罪は「人を傷害するに至らなかった場合」、つまり暴行をしたがけがなどの結果が生じなかった場合に問われる罪です。暴行によりけがなどを負わせた場合は次の傷害罪が成立します。 -
(2)傷害罪
人の身体を傷害した場合には傷害罪が成立し、「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」を科されます(刑法第204条)。公訴時効は「10年」です。
「傷害」とは人の生理的機能に障害を与えることをいいます。暴力をふるって外傷を与えるのが典型的ですが、真冬に子どもを薄着にさせて風邪をひかせた、嫌がらせをしてPTSD(心的外傷後ストレス障害)を生じさせた場合なども傷害罪にあたる可能性があります。 -
(3)強要罪
生命、身体、自由、財産、名誉に害悪を加える旨を告知して脅迫し、または暴行を用いて、義務のないことをさせ、または権利の行使を妨害すると、強要罪が成立します(刑法第223条)。刑罰は「3年以下の懲役」、公訴時刻は「3年」です。
虐待の場合は、「しつけ」と称してベランダに立たせる、排せつ物を持たせるなどの行為が強要罪にあたる可能性があります。 -
(4)強制わいせつ罪
13歳以上の者に対して、暴行・脅迫を用いてわいせつな行為をすると、強制わいせつ罪が成立し、「6か月以上10年以下の懲役」を科されます(刑法第176条)。公訴時効は「7年」です。13歳未満の者へのわいせつ行為は、暴行・脅迫がなくても同罪にあたります。
わいせつ行為とは、被害者の性的羞恥心を害する行為をいい、胸や陰部を触る、自分の陰部を触らせるなどの行為が該当します。 -
(5)監護者わいせつ罪
子どもへの性的虐待は監護者わいせつ罪が成立する場合もあります。18歳未満の者に対し、監護者であることの影響力を用いてわいせつな行為をする犯罪です(刑法第179条1項)。刑罰は「6か月以上10年以下の懲役」、公訴時効は「7年」です。
監護者とは18歳未満の者を現に保護・監督している者をいい、典型的には親や養親が該当します。
強制わいせつ罪との違いとして、被害者が13歳以上であっても暴行や脅迫が不要とされる点があります。18歳未満の者にとって監護者は経済的・心理的に依存せざるを得ない相手であり、暴行や脅迫がなくてもわいせつ行為を拒否できないことなどが理由です。
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3、そもそも虐待とは?
子どもへの虐待は「しつけ」との境目が難しいといわれる場合がありますが、そもそも虐待とはどのような行為を指すのでしょうか。
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(1)虐待の定義
法的に何が虐待にあたるのかは、「児童虐待の防止等に関する法律」(略称:児童虐待防止法)の第2条に示されています。
児童虐待とは、保護者(親など児童を現に監護する者)が、その監護する18歳未満の児童に対して、次の行為をすることです。- 身体的虐待:児童の身体に外傷をつける、またはそのおそれがある暴行を加えること
- 性的虐待:わいせつな行為をすること、または、わいせつな行為を強制させること
- 育児放棄(ネグレクト):食事を十分に与えない、自動車内に長時間放置するなど、保護者としての監護を著しく怠ること
- 心理的虐待:暴言や無視、外部との交流を妨害するなど、児童の心身に有害な影響を与える行為をすること
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(2)児童虐待防止法の罰則
児童虐待防止法では、児童虐待自体の罰則は設けられていませんが、前章でお伝えした刑法の規定により処罰されます。
児童虐待防止法で処罰されるのは、第12条の4が定める接近禁止命令に違反した場合です。虐待を受けた児童が児童相談所などに一時保護されると、保護者は児童の住居や学校などの付近をうろつかないよう、行政から接近禁止命令が下される場合があります。
これに不服があるときは行政事件訴訟法の取消訴訟を提起する必要があり、勝手に児童に接近することはできません。違反した場合の罰則は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」です。
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4、虐待事件における弁護活動の内容
弁護士は、「虐待事件を起こしてしまった」「過去の虐待について自分の子どもから訴えるといわれている」と相談を受けた場合や逮捕された場合には、以下を行うことができます。
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(1)示談の交渉
被害者との示談が成立は、一定の被害回復が図られ被害者の処罰感情が緩和されたと、裁判所から判断されることが多いため、不起訴処分、刑の減軽につながる可能性があります。
ただし虐待事件では、親子などごく近しい者同士で示談交渉をすること、被害者が加害者に対して強い恐怖心を抱いており接触を拒むケースがあるなどの難しさがあります。弁護士を介し、被害者が安心して話し合いに臨める環境をつくることが大切です。 -
(2)時効になるかどうかの判断
過去にした虐待で公訴時効が成立するのかどうかはケース・バイ・ケースであり、一般の方が判断できるものではありません。高度な法的知識を要しますので、「もう時効だから」と安易に判断せず、弁護士にアドバイスを仰ぐのがよいでしょう。
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(3)再発防止策のアドバイスを行い、検察官・裁判官へ示す(逮捕された場合)
罪を認めて反省をすることは、再犯を防止し、更生を目指すうえで非常に重要です。
ただし、口先だけでの反省では意味がありませんので、専門家のカウンセリングを受ける、児童相談所と密に連絡をとるようにする、家族に監督してもらい生活環境を整えるなど、具体的な再犯防止策を講じることが大切です。
もし逮捕された場合には、弁護士が検察官・裁判官へ再発防止策を示せば、再犯のおそれが低いとされ、不起訴処分や刑の減軽につながる可能性があります。
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5、まとめ
虐待事件では、加害者が「しつけだから虐待ではない」「悪さをする子どもに非がある」などと、自身の罪を認識できないケースがしばしば見られます。
しかし、いき過ぎた「しつけ」は刑法の犯罪に該当し、処罰される可能性があるのです。
自分の行った行為が虐待にあたるのか、虐待ならばどの犯罪にあたるのか、公訴時効はいつを起算点とするのかなどは、法的知識と照らし合わせて、判断する必要があります。
虐待事件を起こした場合や、過去にした虐待について家族との和解を望む場合は、弁護士へ相談しましょう。刑事問題の解決実績が豊富な、ベリーベスト法律事務所でご相談をお受けします。おひとりで悩まず、まずはご連絡ください。
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※本コラムは公開日当時の内容です。
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