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無期懲役とは? 終身刑との違いは何? 仮釈放の可能性や実態は?
無期懲役という言葉を聞いたことはあっても、終身刑や禁錮刑とは何が違うのか、仮釈放される可能性はあるのかなど、詳しい情報までは知らない方も多いでしょう。
本コラムでは、日本の無期懲役とはどのような刑罰なのかをテーマに、死刑との分岐点や無期懲役となる可能性がある犯罪、仮釈放の内容などについて解説します。
1、無期懲役とは
無期懲役とは、刑法が定める自由刑の一種で、無期限の懲役刑のことです。とはいえ、これだけではどのような刑か分かりにくいでしょう。懲役の意味やほかの自由刑との違いを踏まえて以下で詳しく解説します。
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(1)懲役とは何か
刑法第9条では刑の種類として、主刑を「死刑」「懲役」「禁錮」「罰金」「拘留」「科料」と定めています。
このうち人の生命を奪う「生命刑」が死刑、身体の自由を奪う「自由刑」が懲役・禁錮・拘留、金銭を徴収する「財産刑」が罰金・科料です。
自由刑の中でもっとも重く、刑の中で2番目に重いとされるのが、懲役です。懲役の目的は、罪を犯した者を刑務所に拘置して社会の安全性を保つこと、刑罰を科して犯罪を抑止すること、矯正によって更生させることだとされています。
懲役には、無期懲役と有期懲役があります。
「無期」とは「無期限」の意味で、期間の定めはありません。平たくいえば、生涯にわたり刑務所へ収監される刑、それが無期懲役です。
「有期」の期間は1か月以上20年以下と定められており(刑法第12条1項)、実際に何年になるのかは法定刑と事件の内容によって異なります。
また併合罪(確定裁判を経ていない2個以上の罪)の場合は刑法第14条の規定により最長30年にまで引き上げることができます。 -
(2)懲役と禁錮の違い
自由刑のうち、禁錮(きんこ)も懲役と同じく刑務所に拘置される刑で、無期禁錮および有期禁錮があります。無期禁錮は期間の定めのない禁錮のこと、有期禁錮は1か月以上20年以下の期間を定めた禁錮のことです(刑法第13条)。
禁錮にも生活や移動の制限はありますが、懲役と異なり刑務作業がなく、日中は運動や読書などをして過ごします。
刑務作業を課されないという意味では懲役よりも軽い刑と考える方もいるかもしれませんが、長期にわたり何も作業がないことが逆に苦痛となる場合もあります。そのため自ら希望して刑務作業をする受刑者も多いようです。 -
(3)懲役と拘留の違い
拘留(こうりゅう)とは、1日以上30日未満の間刑務所に拘置される刑のことです(刑法第16条)。自由刑の中でもっとも軽い刑にあたりますが、公然わいせつ罪(刑法第174条)、暴行罪(同208条)、侮辱罪(同231条)、軽犯罪法違反などの限られた犯罪にしか適用されません。
拘留も禁錮と同じく刑務作業は課せられませんが、執行猶予がつかないという点で懲役や禁錮と異なります。執行猶予とは、一定の間刑の執行が猶予され、社会の中で更生を目指すことができる制度です。したがって拘留は期間が短いとはいえ、必ず実刑になります。
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2、無期懲役と終身刑の違い
無期懲役と似た刑に「終身刑」がありますが、違いがよく分からないと感じる方は多いのではないでしょうか?
終身刑は日本に存在しない刑です。まずはこの点を押さえたうえで、諸外国に存在する終身刑と日本で採用されている無期懲役にどのような違いがあるのかを見ていきましょう。
日本の無期懲役には仮釈放制度があります。そのことをもって「いつか仮釈放されるのが無期懲役、仮釈放されないのが終身刑」といわれることがありますが、これは正しくありません。
無期懲役も終身刑も呼び方が違うだけで、基本的には亡くなるまで刑務所に収監される刑という点で同じ意味をもっています。諸外国に存在する無期懲役にも、仮釈放制度がある場合と、仮釈放制度がない場合の2種類があるので、「無期懲役=仮釈放がある刑」というわけではありません。
終身刑にも相対的終身刑と絶対的終身刑の2種類があります。相対的終身刑とは仮釈放が認められる終身刑を、絶対的終身刑とは仮釈放が認められない終身刑を指します。
日本の無期懲役は法律上、10年を経過すると仮釈放が認められることから、相対的終身刑に分類されます。日本に絶対的終身刑は存在しません。もっとも、日本の無期懲役は現実に仮釈放が認められる可能性が極めて低いため、絶対的終身刑に近いとの見方があります。
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3、無期懲役と死刑の判断基準
犯罪の中には、無期懲役だけでなく、死刑となる可能性がある犯罪も存在します。「殺人罪」はその代表的な犯罪でしょう。
無期懲役か死刑かを判断するにあたり、法律上の明確な基準はありません。ただし死刑は究極の刑罰です。さまざまな事情を総合的に判断して、やむをえないといえるかどうかが慎重に判断されます。
最高裁も死刑選択の許される基準として「その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許される」と示しています。(最判昭和58年7月8日「永山基準」)
具体的には以下のような複数の事情から総合的に判断されます(ここでは殺人罪を想定)。
●殺害された人数
殺害された人数が多いほど、結果が重大で社会的影響も大きいと考えられます。したがって殺害された人数がひとりの場合よりも、複数人だった場合のほうが死刑の可能性が高まります。ただし、被害者の数がひとりだからといって死刑にならないということではありません。被害者の人数がひとりであっても死刑が認められたケースはあります。
●犯行の内容や被告人の状況
犯罪の性質や犯行手段・方法の残虐性、犯行後の行動の異常性、犯行におよんだ経緯や動機なども死刑と無期懲役を分ける要素となります。
●更生の可能性
前科前歴の有無、被告人の年齢、被害者遺族への謝罪や反省の有無などから、更生の可能性があるかどうかが判断されます。
無期懲役の場合にはわずかながらも仮釈放となるケースがあるため、更生の可能性がまったくなく、仮釈放後に再び殺人を犯すおそれが強い場合には死刑となる可能性が高まるでしょう。
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4、無期懲役になる可能性のある犯罪
どのような犯罪を行ったら無期懲役を科されてしまうのか、ここでは法定刑に無期懲役がある犯罪の種類を紹介します。
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(1)殺人罪
人を殺す意思(殺意)をもって人を殺すと、死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役に処せられます(刑法第199条)。
殺人罪が成立するかどうかは、殺意の有無が争点となるケースが多くあります。殺意がなく人を死亡させた場合は、殺人罪ではなく傷害致死罪(刑法第205条)などが成立します。 -
(2)強盗致死傷罪
強盗の犯人が、人を負傷させ、または死亡させる犯罪です(刑法第240条)。法定刑は、人を負傷させた場合が無期懲役または6年以上の懲役、人を死亡させた場合が死刑または無期懲役です。
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(3)強制わいせつ致死傷・強制性交等致死傷罪
強制わいせつ罪・強制性交等罪またはこれらの未遂罪を犯し、それによって人を死傷させた場合も無期懲役の可能性があります(刑法第181条)。
法定刑は、強制わいせつ致死傷罪が無期懲役または3年以上の懲役、強制性交等致死傷罪が無期懲役または6年以上の懲役です。 -
(4)身代金目的略取・誘拐・身代金要求罪
近親者や略取・誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じて、財物を交付させる目的で略取・誘拐し、または財物を交付させ、あるいは要求する犯罪をいいます(刑法第225条の2)。
身代金目的の誘拐や身代金の要求行為にも、無期懲役または3年以上の懲役という重い刑が規定されています。 -
(5)現住建造物等放火
人が現に住んでおり、または人がいる建造物、汽車、電車などに放火する犯罪です(刑法第108条)。同罪は人の死傷がともなわなくても成立しますが、法定刑は死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役と、殺人罪とまったく同じです。
人が住む建物に火をつける行為は、人を死亡させる可能性が極めて高く、延焼により大勢の生命を危険にさらすおそれも高いことから、殺人罪と同等の重罪として位置づけられています。 -
(6)現住建造物等浸害罪(げんじゅうけんぞうぶつとうしんがいざい)
出水させて、人が現に住んでおり、または人がいる建造物、汽車、電車などを浸害する犯罪です(刑法第119条)。
出水というのは堤防を決壊する、水門を破壊するといった行為によって水力を氾濫させることをいいます。法定刑は死刑または無期懲役もしくは3年以上の懲役です。 -
(7)汽車転覆等及び同致死罪
現に人がいる汽車・電車・艦船を転覆させ、または破壊する犯罪です(刑法第126条1項、2項)。
法定刑は無期懲役または3年以上の懲役ですが、これらの罪を犯して人を死亡させた場合には死刑または無期懲役に加重されます(同条3項)。 -
(8)往来危険による汽車転覆等の罪
往来危険の罪を犯し、汽車や電車、艦船を転覆、破壊した場合などに成立する犯罪です(刑法第127条)。
往来危険の罪とは、線路の上に障害物を置く、標識を壊すなどの行為によって汽車・電車の転覆や脱線などの危険が生じるおそれがある状態をつくりだす犯罪をいいます(刑法第125条)。
往来危険の罪には無期懲役が定められていませんが、これによって実際に汽車や電車などの転覆被害を生じさせると、無期懲役または3年以上の懲役に処せられます。 -
(9)外患援助罪
日本に対し外国から武力の行使があった場合に、これに加担して軍事上の利益を与える犯罪です(刑法第82条)。
軍事上の利益を与えるというのは、外国が日本に武力行使する際に有利になる手段を提供することをいいます。国家に対する反逆行為であることから、法定刑は死刑または無期懲役もしくは2年以上の懲役と重く定められています。
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5、無期懲役期間中の生活とは
無期懲役中の生活やルールについて説明します。
無期懲役中の生活は、6時45分に起床して、8時から16時40分まで刑務作業に従事し、21時に就寝と、細かく定められたスケジュールに従います(平日の場合・刑務所によって異なる)。刑務作業は、施設内の工場で物品を製作する、施設での生活に必要な炊事・清掃をするといったものです。
ここまで聞くと通常の社会生活と大差ないように思えるかもしれませんが、ほとんどの受刑者が共同室で過ごすためプライバシーはないに等しく、施設内での人間関係に苦労することも少なくありません。
入浴も1週間に2回です。3食提供される食事も、これまで好きな物を食べてきた人にとっては質素に感じるかもしれません。
また受刑者は親族や雇用主などと面会することができますが、面会できる回数や時間、時刻などに制限が設けられています。面会できる回数は、受刑態度の評価にもとづく優遇区分に応じて月2回~7回以上と幅があります。
面会時間は15分~30分前後、面会時刻も平日のおおむね午前8時30分から午後4時まで(昼休みの時間帯を除く)と、決められたルールの中で面会しなければなりません。
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6、無期懲役の仮釈放の実態とは
仮釈放とは、刑務所に収監されてから一定期間の経過をもって、刑期が満了する前に仮に釈放される制度をいいます。刑法第28条では、無期懲役について「10年を経過した後」に仮釈放できると定めています。しかし実際には10年程度で仮釈放される可能性はないといってよいでしょう。
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(1)仮釈放されるのは入所から30年以上経過後
仮釈放される可能性が生じるのは、入所から30年以上が経過した後です。
30年以上の根拠としては、有期懲役との関係が挙げられるでしょう。有期懲役は最長で30年なので、有期懲役よりも重い無期懲役で30年よりも前に出所するのは不合理であると考えられているのです。 -
(2)データから見る仮釈放の実態
入所から30年を経過すれば必ず仮釈放となるのかといえば、そうではありません。
法務省が公開している「無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について」によれば、平成22年~令和元年の10年間における年末在所無期刑者数は、1765人~1843人の間で推移しています。
このうち、仮釈放された人は10年間の合計で100人です。令和元年は1765人の無期刑受刑者のうち、仮釈放されたのは17人でした。割合にするとわずか0.9%です。また10年間で獄中死した受刑者は合計で217人と、仮釈放されないまま亡くなる人が多いことも分かっています。
さらに、初めて仮釈放された人の平均受刑在所期間を見ると、31年2か月~36年の間で推移しています。このデータからも、仮釈放までには少なくとも30年以上は経過していることが見てとれるでしょう。 -
(3)仮釈放後の生活と課題
仮釈放はあくまでも仮の釈放なので、出所後も受刑者であるという立場に変わりはありません。原則として亡くなるまで保護観察所による指導・監督を受け、指示違反があれば再度刑務所へ収監されます。
また仮釈放後の課題として、社会復帰が難しいという点が挙げられます。
仮釈放時点では、受刑者が生活を立て直すために十分な現金を持っているとはいえず、かつ高齢になっている場合もあります。たとえば30歳で入所すると、仮釈放の頃には少なくとも60歳を超えており、加えて社会生活から長く隔離されていたとなれば働き口を見つけるのは容易ではないでしょう。
人によっては支えてくれる家族が誰もいないという事態も十分にあり得ることです。
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7、仮釈放審理の流れ
最後に、仮釈放審理の流れや仮釈放の基準について解説します。
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(1)手続きの流れ
仮釈放の審理は、刑事施設の長からの申し出または地方更生保護委員会の職権により開始され、地方更生保護委員会がおこないます。無期懲役の受刑者の審理が開始されるのは、刑の執行開始から30年以上が経過したときです。法務省も「刑の執行が開始された日から30年が経過したときは、1年以内に仮釈放審理を開始」すると示しています。
地方更生保護委員会は、受刑者と面会する、保護観察所に出所後の環境調整を依頼する、必要に応じて被害者・遺族、検察官などからの意見を聞くなどし、仮釈放の基準と照らして仮釈放の許可・不許可を判断します。
不許可になった場合、次の審査がおこなわれるのは10年後となり、審査が実施されるのは基本的に3回までです。
たとえば25歳で入所したケースでは、審査開始がはやくても30年後の55歳、2回目が65歳、3回目は75歳になります。この頃には年齢的に社会復帰が困難であるケースが多いため、3回までという制限があるのです。 -
(2)仮釈放の判断に影響を与える事情
刑法第28条には、無期刑受刑者が仮釈放される条件として「改悛(かいしゅん)の情があるとき」とあります。具体的にどのような場合に改悛の状が認められるのかは「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」の第28条および通達で次のように示されています。
- 悔悟の情があること……悔悟(かいご)の情とは、自らの悪事を悔い改める気持ちをいいます。受刑者自身の発言や文章のみで判断しないこととされています。
- 改善更生の意欲があること……刑務所での生活態度や出所後の生活計画の有無、被害者遺族への謝罪や賠償金の支払いの有無などから判断されます。
- 再び犯罪をするおそれがないこと……受刑者の性格や年齢、犯行の動機、出所後の生活環境などから判断されます。
- 保護観察に付することが改善更生のために相当であること……悔悟の情および改善更生の意欲があり、再犯のおそれがない者について、総合的かつ最終的に相当であるかどうかが判断されます。
- 社会の感情が仮釈放を許すこと……被害者遺族の感情や検察官の意見、収容期間などから判断されます。
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8、まとめ
無期懲役とは期間の定めのない懲役刑のことです。日本では仮釈放制度により釈放されるケースがありますが、その可能性は極めて低いといってよいでしょう。また殺人罪のように無期懲役が定められた犯罪は、同時に死刑についても定められている場合があります。
事件の内容と照らし、無期懲役や死刑などが重すぎる場合、これを回避するには弁護士の力が不可欠です。刑事事件の解決実績が豊富なベリーベスト法律事務所が徹底的にサポートするので、できるだけはやくご相談ください。
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